【魔法少女レムリアシリーズ】虫愛づる姫と姫君 -09-
昇降口より校舎の北側に出る。校舎はコンクリ3階建てで東西方向に伸びており、その西端に昇降口と正門がある。正門前の道はアルファベットの「L」字の角になっており、右手・東側と、正面・北側に街路が延びる。その北側に真っ直ぐ行くと、十字路を挟んで丘があり公園になっている。そこは住宅街造成時に元の丘をそのまま残して生かしたもので、四阿があり、遊歩道が整備されている。ただ、その先は同様に存置した雑木林に繋がり昼でも暗く、夜間は危険と言うこともあり、通学路には指定されていない。前述の別ルート、である。が、緑の中を行くので呼吸器には良い。
その遊歩道の途中で、諏訪が固まったように立ち止まっている。目線を追うと……丘の草むらに見え隠れするブレザー制服スカートの尻。
同じ中学の娘と思しき、しかし年齢の割に頓狂な所作。
件の彼女、森宮のばらであるらしいことはすぐに判った。
「こういう場合、そそくさと通り過ぎた方がいいのか……」
追いつくと、諏訪は困り顔で姫子に言った。尻はこちら側に向いており、らしき少女は膝立で俯せに寝そべっている状態。風が吹けばスカートが捲れて中が見えよう。男の子としては通るタイミングに困る、と。そして、らしき少女の寝そべっている先には黒猫が一匹。野良なのかあまり人には懐かない猫で、姫子はヒロスと呼んでいる。ラテン語で“ヒーロー”の意。
「あの猫、ヒロスだよね」
諏訪の言葉にらしき少女が反応し、こちらを振り向いた。ぼさぼさのお下げ髪に少し不健康な顔色。やはり森宮のばらである。強く結ばれた唇にキッとした目線。それは少し刺してくるような、敵視しているような、守勢に入ったハリネズミのような。自分達は設定された防空識別圏の中に入ったか。
“コミュニケーションお断り”
「スカート、見えちゃうよ」
姫子はとりあえずそれだけ言い、先にスタスタ歩き出した。男達が後を追いかけるように付いてくる。遊歩道は丘を越えて下り勾配に入れば、のばらは視界に入らない。
「彼女も、姫ですね。虫愛づる姫」
言ったのは諏訪。
「あーあれが」
対して平沢はそんな言い方をした。
「姫?」
あっちも姫かと彼女は首を傾げた。
「そう。悪口だから話半分でいいと思うけど……」
諏訪はその“姫”は、古典に出てくる虫好きなお姫様で、頓狂な扱いで描かれている。森宮のばらは似たようなエキセントリックな子で有名、と説明した。
「知らない?」
「知らない」
そう呼ばれていることは。
「ふーん。相原さん顔広そうだから知ってると思ったけど」
「むしろ男の間で有名だろ。この姫褐色美少女で知らない男子いないだろ。同じだよ」
「たはは……」
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