アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -062-
子ども達の姿と共に思い出したこと一つ。船で消毒する際、一人ひとり顔写真を撮影、行方不明者データベースに画像検索を掛けたのだ。その結果をメールでパソコンに送ってくれる手はずになっている。EFMMサイドで当該国の組織につながりがあれば、自分が付き添って帰すことが出来るからだ。
やはり夢ではないのだ。そして、だから、この部屋は、昨日までと同じだが違う。
ノートパソコンをベッドの下から持ち出して電源を入れ、ネットワークのケーブルを繋ぐ。
システムの起動の間にテーブルに載せ、メールチェック。スパムを切ると発信ドメイン名コルキスが一つ。件のメール。
開くと、データベースが添付されており、子ども達22人の国籍がズラリとリストされていた。いぬかい・ちありちゃんはサイタマ・プリフェクチュア。後は位置的に東南アジア系の子が多い。タイ、マレーシア、フィリピン、台湾、ベトナム、インドネシア。
〝彼らはその後摘発されたようです。国際ニュースサイトに現代の奴隷商人摘発とあります〟
字面から受けるイメージはセレネの言葉である。リンク先のサイトを覗くと、確かに船から見たのと同じ〝犯人〟の写真が載っている。当局の逮捕に抵抗もせずおとなしく従ったという。その理由に曰く、
『海の中から神が船に乗って現れた。だから我々は観念した』
すなわち彼らは、突如現れた船に対し、神による奇蹟の顕現、悪の処罰を見た。
そこに自分が関わっているという現実。
影響力の大きさに戦慄する。今の自分の素直な感想。見えざる手による大きな采配。
そこへ組み込まれた。
変わった。動いた。
新たな世界が動き始めた。
過去を振り返るタチでも歳でもないが、〝変化〟の認識は、過去と現在を比較している裏返し。
レムリアが故郷に背を向け、〝世界一自由で移民に寛容〟とされるこの街へ来て1年。
しかしそれは〝逃げた〟という後ろめたさと、居場所無しの根無し草な不安定感を彼女に与えていた。なまじっか心身に関する知識もあるから、それが思春期の自分には良くないことだとも判っていた。ただでさえ心が不安定になる年頃である。身の方まで不安定でいい影響があるわけない。
事実、中途半端に日々を過ごしていたように思う。リモートの授業と、メールによるレポート提出。かまけて〝それだけこなしていた〟充足感のない毎日。
そして今、肩書き増えて戻った真の意味を知る。自分は多分、自分のフルパワーで動ける居場所を見つけた。
多分それは、飢えるように欲しかったもの。やりたいことと、出来ることと、やれと言われたことの一致。
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