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【理絵子の夜話】空き教室の理由 -78-

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「私があなたから離れたのは、あなたの子を堕胎してまで離れたのは、あなたが所詮自分のことしか考えてない人間だと判ったからよ。でもあなた自身はそのことに全然気付いていない。自分の生徒を“当てつけに自殺した”なんて言い放つ人間を信用出来ると思って?」
「それは……オレが教頭になれば君を幸せに」
「良く言う。教員である以上大事なのは生徒の幸せでしょう。なのに……そんなあんたを一時であれ仮初めであれ愛情を持ったなんて、あんたの子を孕んだなんて……おぞましい。虫酸が走る」
 担任が再び発作の徴候を示し、それは桜井優子が理絵子の流儀で抱きしめて抑える。理絵子は、担任の一人芝居の空白は、そうした過去を思い出すからだと判断した。
 教頭内川某をかばっていたのではない。思い出したくないのだ。
 二宮あゆみの記憶を思い出すと、必ず連想で思い出されてしまう消したい過去。
“恐怖”の正体は、二宮あゆみそのものもあろうが、より強い要因としては、むしろ分かちがたく結びついているそれ。及び、それさえなければ、内川に相談することも無かったし、彼女らを死を持って引き裂くこともなかった、という慚愧悔恨もあろう。辿ったような生い立ちの持ち主である。この男に優しい声をかけられ、母親言うところの“のぼせ上がって”しまったということであろうか。なるほど担任の人格根幹に関わる内容であろう。
 その時。
「だから私、あなたに手紙を出したわ。あなたのゆえに死にますと。私を死に追いやったのはあなたですと。その全てをこの部屋に隠しましたと。あなたは私のゆえに身の破滅を招きますと」
 担任の口調が“一人芝居”のそれに変わった。
 但し、喋っているのは担任の記憶ではない。
 担任を抱きしめていた桜井優子がギョッとした表情で担任を見、“変容”に気付いてあわてて担任と距離を取る。
 理絵子は、ピアノの下から出てきた。
 担任を喋らせているもの……二宮あゆみちゃん本人。
 憑依(Possessed)。
 あゆみちゃんは担任の身体を借りて喋っている。担任自身が内部に亡霊として抱えていたのだ。そこを借りたのだろう。まぁ方法論はどうでも良い。
「それで、秘密を暴かれまいと、この人はここを封鎖したのね」
 理絵子は尋ねた。ついにあゆみ本人と接触する。あゆみに今のところ、このコンタクト・セッションを閉じる気はない。

(つづく)

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