アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -068-
ここに団長が自分を呼びつけるはずがないのだ。年端も行かぬ女の子にはあまりにも危険すぎると許可してくれなかったのだ。
なのに発呼され、あまつさえは切れた。
「団長さんの故意、という事は考えられませんか?」
セレネが訊いた。
わざと、故意に自分に電話した。
あり得ないことをした。
あり得ないことが起こっているというメッセージとして。
「EFMMはどうやってここへ来ている。レムリア」
シュレーターが尋ねる。
「ヘリコプターと聞いています。大きくEFMMのロゴとURL、注射器をデフォルメしたマークが描いてあるはずです……」
レムリアの声をかき消すように船からアラーム。画面に赤ランプを模した点滅が現れ、放射能標識と物質名。
レムリアは一呼吸置いて、読み上げる。
「ベータ線検出。セシウム137有意と推定」
「船を止めろ。検出される放射性物質、継続性、強度、射出方向を探査」
「了解」
レムリアは赤文字で表示された放射線探査システムに起動を命じると、自身もヘリコプターを探しに船底カメラの絵を覗き込んだ。
ただ、この位置ではジャングルばかり。
「解析急げ。テレパス。意思人格の感はないか」
アルフォンススの声を背中に感じる。テレパシーは。
「何も」
レムリアは唇を噛む。動揺が超感覚への集中を妨げる。
対しセレネ。
「ただ命に関わる……待って下さい。途切れた。強制した。断った……」
セレネは感じたままにであろうか、語の羅列を口にし、同時にレムリアにイメージが飛んできた。
構成し直せということのようだ。レムリアは動画のように再生されるそれをつなぎ合わせ、文にする。
「重大なことが起こり、解決を要請されたが拒絶。強制されたがなお拒絶したところ……そこからは薄れています」
目を閉じてイメージを追うが、霞の向こうに消えて行くよう。
それは距離が遠くなったことを意味するのか。
それとも。
再度アラーム。
「ストロンチウム90検出。船長、ウランの核反応が起こった可能性が高いぞ」
その時。
「魔女っ子。あれは違うか」
「えっ」
アリスタルコスが割り込みで探査システムを動かし、船底カメラ画像にカーソル「+」記号が表示される。
ヘリコプターと横たわる人体。
15
超感覚が即座に返して寄越す。人体はEFMMメンバーではない。迷彩服を着ており自動小銃を手にしている。及び、
絶命している。一目でそれと判り、〝死体〟に驚きもしない自分は恐らく異常なのだろう。これまでの活動でもう、慣れてしまっている。
船はアラームを継続している。「+」記号に赤文字表示が重なる。人体と放射線源が一致している。
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