アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -075-
アルゴ号の形成する光圧シールドチューブである。光子の噴射によって白銀となる、その領域が上方から降りてきたのである。
「(意図したこと形をなさず)」
光の筒から、少女の声がした。
軍人達にとっては、未知なる言語であった。
彼らはその職ならではの反射で発砲した。
パンパンという乾いた音が鋭いインパルスとしてコンクリートの空間に反響し、鼓膜を貫く。
同期して、激痛の絶叫が聞こえるか、絶命して昏倒する音が聞こえる……はずであったろう。
しかし、彼らが見たのは、天地貫通する光筒をかすめて飛び去る銃弾の光跡と、
光筒の中で揺れる、短い髪の毛のシルエット。
「状況201」
少女の声が、そう言った。
軍人達は、少女の存在に目を奪われ、恐らくは彼女が言葉を発したことに、そこに意味があることに、思いが至らなかった。
対して、EFMMの団員は、団員としての見識に基づき反射的に姿勢を低くした。レムリアの意図した刹那の躊躇に比して、実際得られた時間は、充分に長いと言えた。
201……暗号コード〝爆発警戒〟。
猛然たる風が地下室内に吹き付けた。
その風は光の色をし、渦を巻いていた。
横たわって形成された竜巻、すなわち、風のドリル。
それは天地貫く光の筒が、そのまま横倒しになって襲いかかってきたと書けば、状況の説明として適切になろうか。
光圧で加速生成された風のドリルは、軍人達を振り払うように突き飛ばし、それぞれ床や什器、壁面でしたたか頭を打つ。
しゃがみ込んだメンバー達は難を逃れる。
そして団員と、軍人達の間に距離が出来たところで、強靱なレーザビームが軍人達の火器を溶かす。
少女は手を上げ、光の風を制した。
「姫か……」
「こちらへ。今のうちに」
長い会話は不要。レムリアは何か言いたげな団長の声を遮り、腕を伸ばした。天へ掲げたその手には、
手鏡。
船の発する光を弾き、白く輝く。
彼女は鏡を動かし、その強靱な光を軍人に差し向ける。軍人は一般に肉体的な痛みに対する訓練を受けるが、網膜細胞だけはどうにもならぬ。単に肉体限界を超えて視界を白く奪うのみならず、光線に目を射られる痛みと恐怖は、生命として根源的、反射的なものだからだ。軍服や軍靴に忍ばせた予備の銃器を探すどころか、目を背け、しまいに腕で目を庇うことを余儀なくされる。
光を掲げ、それを印として彼女は導く。行く手には船が尾部を下方に向け直立し、左舷昇降口を開いて彼らを待つ。但し、船体そのものは見えない。
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