アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -065-
「よろしい。アルゴ発進する。機関正常。船体制御系正常。定常ルーチン起動シーケンス。探知システム状態報告」
「映像装置、探知装置共に正常です」
レムリアは答えた。
「フォトンハイドロクローラ始動。浮上せよ」
「了解、アルゴ浮上」
アルフォンススが宣言し、シュレーターが操縦桿を手前に引く。
あの加速……レムリアは思い出す。文字通り瞬く間に数千キロ彼方に達したあの加速。
光子ロケット……相対性理論……原理や理屈は良く判らない。
ただ、判っているのは、科学雑誌に書かれた概念、いや、SF映画そのものの世界に、自分は来ている。
船が水面を離れる。
「浮上しました」
「INS始動」
操舵室を包む静寂。空間的に切り離すとあった。よく判らないがそのためだろうことは判る。
「INS動作正常」
「透過シールド」
「透過シールド作動。フォトンチューブ確立確認。リフレクションプレート展開固定」
船尾カメラが捉える〝光のくす玉〟。
「起動シーケンス全完了。副長復唱せよ。アルゴ発進」
「発進します」
セレネが答え、船が動く。
街の光が正面スクリーンで幾重もの直線光跡と化した。
からの文字通り刹那、まばたきするとスクリーンに映るのはオリオン座。
聞けばオリオン座の方向に常に飛び立つようである。当然、満月ごとに見える位置は変わってくるので、いつも少しずつ方角がずれる。こうすることによって同じコースばかりを飛んでしまう問題を避けている。なお、オリオン座は、北半球では冬の星座であるが、南半球においては一年を通じて見えているので、夏期の出発方向は、コルキスから見て赤道を越えた向こう側の位置に基づき、ということになる。
そして、今回は、セレネが〝電気カチューシャ〟を装着して横になる前に、レムリアの衛星携帯電話がEFMMからの着信を告げた。
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EFMMの団長である。
「すいません。私の……」
レムリアが断って出ようとしたら、電話は切れた。
衛星携帯電話は、名の通り、電話端末と通信用の人工衛星とが、直接通信する。
従って、衛星との間に建物などが入って電波が遮られれば、通話は切れることもある。
呼び出す途中で切れる。それ自体は珍しいことではない。
だが、これは何か違う。
何か引っかかる。言うなれば〝運命の導き〟の逆。
「君の電話の通信システムは本船コンピュータに記憶させた。そのまま発呼して使えるはずだ」
アルフォンススが言ってくれた。それは先回、ありがたく利用した。
それだ、とレムリアは思った。この船は高い空を飛んでいる。電波が途切れることは通常無い。
確かに、使う衛星を切り替える際に、一時的に途切れたりすることはあると聞いた。だが、技術の進歩(シームレス・ハンドオーバ)で会話が切れる心配は無いとも聞いている。
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