【魔法少女レムリアシリーズ】虫愛づる姫と姫君 -11-
授業プリントで説明しながら遊歩道を歩いていると、立ち塞がるようにしている森宮のばらのお下げ髪。
「来ないで!」
彼女のばらは二人に向け両腕を広げて制した。その向こうには耳を伏せた非常体勢、俗に〝イカ耳〟で何かと対峙している黒猫ヒロス。
「毒ヘビがいます」
「毒ヘビ」
なら、ヒロスが危険ではないか。ヒロスに目をやると、こちらに気付いたようでチラリと一瞥があり、そのまま動かない。猫は遺伝子的にヘビを恐れると聞くが。
ヒロスの視線の先。赤と黒のどぎつい模様のヒモが絡み合っているように見える。しかしよく見るとヌメヌメテラテラしていて、時々、クネクネ動く。
「ヤマカガシ、って奴です」
森宮のばらの説明と共に、姫子はのばらの思い描いた図鑑の画像を直接意識で捕らえた。
(前出の図鑑より)
その筋の用語で超常感覚的知覚の一種・テレパシー。
「猫を逃がしたい?」
姫子は訊いた。
「え、あ、うん」
「進君、バット」
「え?おう」
その自主練の一環、素振り用にと持ち歩いているバットを出してもらう。
「え?ちょっとあんた何して……」
バットでヘビをぶん殴るのかと危惧する森宮のばらの傍ら、遊歩道脇の土の上で姫子はバットを持ち上げると、古代の杵で臼を突く要領で、地面にどん突きをかました。
地面を伝わる振動でヘビは驚いたようで、ただちに絡んだ縄が解けるようにシュルシュルと動き出し、応じてびっくりしたのかヒロスが飛び上がり、その足で一散に彼女らの方へ駆けて来た。
しゃがみ込んで腕を広げた姫子に駆け込み、訴えるようににゃぁにゃぁ。
「バット大活躍。はいはい怖かったね」
「お、おう」
平沢にバットを返すと、腕の中のヒロスには手品の要領で“猫用鰹節削り”のパッケージを取り出し、中身を与える。
「あなたの……猫?」
森宮のばらは丸い目で訊いてきた。誰にも懐かないとウワサの猫が自ら手の中に飛び込んだ。自分が異色の存在に映ったのは想像に難くない。
「いいえ、良く通るので仲良し。あなたも上げる?」
小袋残りを手渡す。のばらは近くにしゃがんで自らの手のひらに載せ、猫に差し出した。
「あ、食べた……私が呼んでも来なかったのに……この子誰も近寄せないって有名なのにあなたは頼ってるみたい。こんなに人に懐くの見たことない。魔法でも使った?」
姫子は小さく笑うと。
「魔法は使ってないよ。むしろ何もしてないかな。積極的に寄りつかれるのはイヤなんだよ。猫ってそうじゃん」
すると。
「私と一緒だ」
森宮のばらは言った。自分達に好感触を持ったようだ。敵意緊張一転安心。
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