アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -092-
「あ~みんな助けて~」
シスターも心得ている。
すると。
「あれ?ヴァルキューレゴールドは?」
子どものひとりが指摘した。
正義の味方ヴァルキューレはゴールドとシルバーの女の子コンビである。
「シルバーだけ?」
「ねぇ、ゴールドは」
「予算の都合でシルバーだけなんだよ。オランダは遠いねえ」
レムリアは取り繕った。ちありちゃんにオランダ語は無理。
「なんでドラキュラ魔女がそんなこと知ってんだよ」
「細かいこと気にするな。みんながゴールドの代わりになってやってよ」
シスターがアドリブ会話に身体を震わせて笑う。
「よーし。オレ達でシスターを助けるぞ!」
子ども達が寄ってたかって魔女を襲撃。
放っておけば、特に男の子は本気で殴りかかってくるので。
魔女としてはシスターを残して逃げ出す。この後アニメでは派手な立ち回りになり、敵が一発逆転を狙ったところで必殺技炸裂、がパターン。
「逃がすか魔族!闇の手先は闇へ帰れ!チェックメイト!」
ちありちゃんがパターン通りに動いて、日本語そのままでポーズを決め、ドラキュラ魔女レムリアと対峙。一方で男の子達がシスターの身の安全を確保。
必殺ビームを喰らって爆発するわけにも行かないので、可愛くて勇敢な追っ手が中庭にみんな集まったところで種明かし。
「あ~参った。これで勘弁してくれ~」
魔女のとんがり帽子を脱ぎ、くるりと裏返すとお菓子山盛り。
キバも外す。
「あ、魔法とお菓子のお姉ちゃんだ」
「なーんだ。え?」
正体のバレたレムリアに対して、俄然注目が集まるちありちゃん。
「こっちのお姉ちゃんは?」
「でも、ヴァルキューレはマンガだぞ」
理性的な分析有り。
すると。
「このお姉さんは、当院に一度来たことがあるのです。元気になりました、と私たちにご挨拶に来てくれたんですよ」
シスターが種明かし。
「なーんだ」
その時。
「お姉ちゃん、ママの所へ帰れたの?」
その場が静まりかえる。過冷却の水が、軽い衝撃でさぁっと一気に凍りつき、結晶が走る有様に似て。
ちありちゃんは突然の変化にハッと驚き、戸惑いからか、目を泳がせた。次いで、幼くストレートな質問の翻訳を聞き、顔色を変えた。
ここは孤児院である。
ママ、母親という言葉の重さ。
「うん」
ちありちゃんは慎重と言える間合いを持って頷き、ゆっくりと、まばたきしながら少し考え、そして。
再び目を開いたその姿に、今度はレムリアが衝撃を覚えた。この150センチの身体がビシッと音を立てたかと思うほど。
ちありちゃんの、黒く輝く双眸と、その身の周りに放たれる光。
満ちあふれて包む光。
オーラライト(霊光・後光)が自分の能力で視覚化されているのだ、ということはすぐに判った。無論、それは自分に見えても不思議ではない。
超感覚は言う。今、この目の前の日本の少女には、降臨と称するに等しい、強い何かが宿った。
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