アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -094-
お茶を頂き、日暮れて真っ暗になってから、総出で見送られて孤児院を辞する。一夜をみんなと、と引き留められたが、ちありちゃんは本来寝ている時間だ。いい加減に家に帰さないとならない。
「日本時間だと?」
「午前4時」
ちありちゃんは「わお」と目を丸くして。
「夢?」
「あなたが目覚めた時、そのカードが残っているかどうか、じゃないかな?」
レムリアはウィンク。
「また、あの船で飛んで行くの?」
「ええ、数分」
運河の堤防を離れた船は、夜闇の一瞬を突き、人々の視界をくぐって天空へ躍り上がる。
星の宝石箱を進むこと少々。
もうすぐ夜明けという時刻。雪雲の去った星空は、先んじて春の様相を呈し、されど大地は一面の白銀。
そこに船は影を落とし、少し雪煙を立てて降下した。構体が大地に接すれば音を立てようが、積雪は音を吸収する。
昇降口を開くとビクターが尻尾を振ってこちらを見ている。命に応じて吠えはしない。主人の帰宅に、主人の変化に、嬉しくて声に出したいのをじっと我慢している。
レムリアは少女の着衣を元に戻し、庭先に下ろした。
「行っちゃうんだよね……」
少し寂しげ。〝眠れない〟という日常へ戻る事への、不安と怖さ。
「今は、ね。でも大丈夫。何かあったらまたこうして飛んでくる。あ、私の携帯電話の番号を教えましょうか?」
レムリアは言った。別に構わない。本当に飛んで来られる。
すると。
「ううん、いい」
ちありちゃんは首を左右に振った。
「あなたを頼っちゃう気がして怖い。それに、あの施設の子ども達はみんな一人だけで頑張ってるんだ」
「判った」
レムリアはまず応じた。
「でも、本当にどうにもならないと思ったら、心の声で私を呼んで。多分、判る……判らせる」
こう言い足した。確信がある。1万キロテレパシー使えるとは思わない。ただ、何かあれば今日のように偶然が積み重なって……否否、魔法が働いて、シグナルをキャッチできる。
「天使の権限で?」
パジャマにガウンの少女は小首を傾げて尋ねた。
「ええ、天使の権限で」
レムリアは笑顔で答えた。
イヤホンに声。相原青年が目覚めた。
次は彼を返しに行かねば。
「では、次の任務に向かいます」
「うん。頑張って。私祈ってるから」
いっぱいいっぱい、子ども達を救って。
祈りを背中で受け止めながら、レムリアは船に戻った。
保持ユニットに入ると、相原学は毛布の上に置いておいた患者用ガウンに袖を通しており、居並ぶ機器類を見回している。〝デンキとキカイに囲まれて幸せ〟という印象。
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