アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -093-
ただしそれは正確ではない。たまに聞く、奇跡体験を経た人の人格変化だ、とレムリアは気付いた。生死の境目から帰還した、など、形而上を感じた人が〝覚醒〟するという現象だ。
「ああ、神様……」
シスターも同様な変化を感じ取ったと思われる。ため息のように声を漏らし、両の手で口元を覆う。
「大丈夫、だよ」
輝きを背負った少女はまず言った。
「思うんだ。私がこの魔法のお姉ちゃんに見つけてもらえて、そう、家に帰れたのは、ちゃんと神様は見て下さっていると、みんなに伝えるためだって。だって奇蹟にしか思えないから。陸も見えない海の上で、このお姉ちゃんに見つけてもらえたなんて」
ちありちゃんの言葉を、レムリアは慎重に訳した。
ただ、既に日本語の段階で、彼女の言葉は子ども達に伝わっているように思われた。
「お母さんにも言われたんだ。そういう経験をしたからには、その経験を伝えなさい。その経験を生かしなさい。そして、次は自分の力で、そういう経験が必要な人に届けなさいって」
レムリアは彼女の言葉を置き換えながら、自分の母親の言葉を思い出した。
この魔法は、自分だけの特別な力は、その意図を成就させるように働く。ならば、自分にしかできないことをするために使いなさい。
期せずして、シスターと目を合わせていることに気付く。
「私は家に帰ることが出来た。それは幸せなこと。そしてきっと、みんなにも同じくらいの幸せが待ってる。自信を持って言えるよ」
「すぐ幸せになりたい」
小さくて真剣な声。レムリアは声の主と、ちありちゃんを交互に見る。それは自分自身、どんな答えを用意しようかと悩むものであったが。
「私と友達になるんじゃ、だめ?地球の裏にお友達がいる子なんて、世界中探しても簡単には見つからないと思うよ」
間髪入れず、ちありちゃんはそう言った。
その言葉にレムリアは舌を巻いた。そして、心理学にいう代償行為の提供だと気付くと共に、そんな分析をしている自分をちょっといやだと思った。
シスターが微笑みながら何度も頷く。ちありちゃんの言葉はキリスト教の概念に合致する内容を含むが、レムリアの知る限り日本はキリスト教国ではなく、それ以前に、無宗教に近いと認識している。道徳的概念を宗教の戒律で根拠化する必要がないからだ、と、どこかで聞いた。
「すばらしいお母様だと思いますわ」
シスターがそっと言った。
「恐縮です。どこかの受け売りだと思うんですけどね」
ちありちゃんは苦笑い。
「いいえ。きっと、神様がお気持ちをあなたに託されたのでしょう。えーと、わたくしもあなたのお友達になってよろしいかしら?」
「あ、シスターずるい」
「私が一番になる!」
「こらこら、みんな一緒だから。一番も最後もないのよ。お友達カードを作って交換しましょう」
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