【理絵子の夜話】空き教室の理由 -81-
この態度の急変ぶり。卑怯に根ざした犬、という表現が丁度良い。
マスターがニタッと笑った。
「それはあんたが自身が一番知りたいんじゃないか?内村。お前が封鎖したのは隠すためだろ?自分が見つけらないものを、他人が先に見つけられないように。だけどまぁ、お前には無理だな」
マスターは少し見渡した後、手にした懐中電灯のスイッチを、カチッと切り替えた。
その状態で、マスターは天井を照らした。
浮かび上がる文字。
私、3年6組41番二宮あゆみは、友人で恋人である岩村正樹のトラブルに際し、学年主任内村満作先生に相談を致しましたが、
「教頭試験を控え、不祥事は困る。受験を目指す君の成績にも差し支える。もみ消して欲しければ裸の写真を撮らせろ」
と言われたため拒否しました。その結果、岩村正樹は逮捕されました。私は、これから死を持って抗議すると共に、このような経過により死を選んだことをここに記録し、この内村満作が教頭はおろか人間のクズに等しい存在であると告発します。西暦…
スプレーで落書きというのは、不良グループがよくやる犬のマーキング放尿と同じ行為。
二宮あゆみに落書きを咎められた岩村正樹は、それ以降、通常は見えないがブラックライト(紫外線ライト)を当てると反応する蛍光塗料を用いることにしたのだ。
「何だその落書きは」
内川が強がる。まぶたの腫れはひどくなっており、左目は恐らく見えていないのではあるまいか。
「だから真実は自ら姿を現すと申しましたでしょ?内村満作さん」
理絵子は言った。
「先程来、携帯電話でここの会話が父に筒抜けなのをお忘れですか?」
「証拠がねぇじゃねぇか」
内川は理絵子の声をかき消すように大声を上げ、強がった。そのガラガラ声はまるで勢いに任せて絡んでくる酔漢を思わせる。
その強がりが少々妙であることに理絵子は気付く。何か強がっていられる背景がある?
「どこにあるってんだ。オレがやったっていう証拠がよ。物証がなければ容疑は成立しないはずだろ?ザマーミロ」
内川は言い、大笑いした。
ポケットから何か取り出す。
ライターとスプレー式殺虫剤。
「……消えるものを証拠とは言わねんだよ」
内川がニタッと笑う。強がりの背景を理絵子は理解した。殺虫剤の一部には噴射剤がそのまま燃え上がり、一種の火炎放射器になるものがある。父親から聞いた話。
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