魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -099-
【第2部】
1
全てに共通するか判らないが、相原学の大学において、4年次に行う卒業研究・論文の作成は、師事する教授を決め、10人程度でその研究室に入って取り組むスタイル。概ね前期で研究内容を決めて必要な知識を学習し(必要な単位はこの間に取得を終え)、後期以降に実際の研究を進めて行く。その間随時アピールやディベートの機会を設け〝企業戦士〟に必要なスキルを獲得して行く。
今日はゼミ室の暗幕カーテンを引いて室内を暗くし、大スクリーンにプレゼンテーション。
「ここでL18直交表を用いて……」
「あのなぁ相原」
苛立った口調の教授。老眼鏡で大きく見える目玉がぎょろり。
「はい?」
見返す相原も眼鏡の男。プロジェクタの放つ強い光が反射してギラリと光る。
「お前本当に18回も実験やるつもりか。しかもそんなあり得ないトンデモ条件並べて。HALT装置1回動かすのに幾ら掛かると思ってるんだ……」
「いやですからこれは極端な条件の方が内在しているばらつきや……」
「企業活動ではムダなことは許されないと言っとるんだ。ティピカル値をシミュレータに放り込んでモンテカルロで振った方が余程短時間で有益だ」
「しかしそれでは設計変更が起きた場合に……」
「口答えするなやり直せ……なんだその顔は」
と、そこで相原学のポケットで盛大に着信音。昔々の魔法少女アニメのオープニング曲。
相原学は文字通り目を見開いてジーンズのポケットに手を伸ばした。
「聞いてるのかキサマ!」
「すいません実家の叔母から緊急です」
相原学は適当を言ってゼミ室から逃げるように外へ出た。
傾いた日射しが廊下を黄色っぽくしている。2010年であるから折りたたみ式の携帯電話〝セルラーフォン〟である。雑な液晶にアイハラ・ヒメコと発信者が表示され、番号は008816……となっている。発信元は衛星携帯電話。
もちろん、身内が衛星携帯なんか使うはずがない。見られた場合に備え、身内を偽装したもの。
「はい」
『相原学さん?』
タイムラグを持って女の子の声。衛星携帯は電波がその名の通り宇宙へ飛んで一旦米国へ集約し、そこからは海底ケーブルで各国へ信号が流れる。都度万キロを馳せるため〝電話〟なみの同時性を前提に使うと苛立つことになる。
「そうです。お元気ですかい天使さん。いや魔女さんだっけか。満月にはまだ早いと思うが招集ですか?どうぞ」
相原学は話しながらタイムラグを思い出したようで、トランシーバー通話に倣って〝どうぞ〟を付けた。
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