【魔法少女レムリアシリーズ】虫愛づる姫と姫君 -22-
傍らでは振るった網の中にかなりのハチ。ぶんぶんと凄い羽音だ。畑のそば背の高い茅の葉っぱを引っこ抜いてヒモ代わりに縛り、網の口からハチが逃げるのを阻止する。なお攻撃態勢のハチはフェロモンで他のハチを呼ぶので、こうして森宮のばらが生かしておくとどんどんとハチは寄ってくる。退治が最善であるが。
イヤホンにピン。
『ハチはその小屋の脇にある土の玉のようなモノから出てくる。それが巣じゃないのか?』
アリスタルコス。船のカメラが撮った画像を寄越す。耳の無線機PSCはこれを視神経に被せてヴァーチャルリアリティの要領で見せてくれる機能を持つ。バス待合所の外壁に茶色の濃淡で縞模様を描くラグビーボール状の大きな塊。
「のばらちゃん。巣は待合所だ」
「判った」
すると森宮のばらは逡巡するように少しの間網を見た後、そのまま側溝水路に持って行って網を水に浸けた。
昆虫類は腹部に吸排気システムがあってそこから呼吸する。従って水に浸ければ窒息する。また温度で運動能力が変化する。冷たい水で動作を鈍らせる意向もあろう。羽音が水に飲まれて泡立つような音に変わり、更に水中に没して全く聞こえなくなる。水中で暴れもがき、文字通り上を下へと動き回る多数のハチ。
「代わろうか?」
「いい。私がやる。責任を持って見届ける」
殺す、ことに大きな躊躇があったに相違ない。でも、それが今は最適解。
中途で止めたりするまい。
「アリス、それは巣です。火の玉」
『プラズマ準備ヨシ』
「のばらちゃん、それはそのまま放っておけばいいよ。持ち上げて見届ける必要はない。ヘタに持ち上げてわっと出てきたら大変。これからブラスターで巣を破壊する。残ったハチがまた出てくる可能性があるから船へ戻って」
「判った」
森宮のばらは茅の先っぽを引っ張って網の棒に結び付けると、意を決したように網から手を離した。網が流され、茅に引っ張られて止まり、ハチが蠕くネットの部分が水底へ沈んで行く。
「殺しちゃった……」
「あなたはその勇気で子供達を助けた。ちゃんと神様が罪を贖って下さいます。さあ」
幾らか残っているハチをシャベルでひっぱたきながら、レムリアは二人を船へ急がせる。全員が待合所に背を向ければ次のステップに進める。ブラスター(Blaster)、熱線銃と表現したが。
「アリス火の玉。ターゲットはハチの巣」
『おうよ照準よし。見るなよ』
「カウントダウン3秒、2、1、0」
パンと破裂音がし、目を閉じて程なく、まぶたを通してすらそれと判る白銀の火の玉が甲板から一閃し、待合所で小さなキノコ雲を作った。プラズマ銃。大電流でアルミの塊を溶かして文字通り火の玉を生成し、その大電流の発揮する電気力で射出する。
「次、レーザーをマルチターゲット連射。準備良ければGO」
『行けるぜ』
グリーンのレーザ光が数秒間で数百本。バチバチと静電気が飛んだような音が幾らか聞こえ、静かになる。
雰囲気が変わり、“命”が全て失われたことを確認する。こういうのは魔女の仕事。
彼女が船のスロープに足を載せると、両の手にそれぞれ1メートル50の長銃を持った大男が、上からニヤッと笑って寄越した。
「ミッション・コンプリート」




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