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2025年12月

【魔法少女レムリアシリーズ】虫愛づる姫と姫君 -22-

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 傍らでは振るった網の中にかなりのハチ。ぶんぶんと凄い羽音だ。畑のそば背の高い茅の葉っぱを引っこ抜いてヒモ代わりに縛り、網の口からハチが逃げるのを阻止する。なお攻撃態勢のハチはフェロモンで他のハチを呼ぶので、こうして森宮のばらが生かしておくとどんどんとハチは寄ってくる。退治が最善であるが。
 イヤホンにピン。
『ハチはその小屋の脇にある土の玉のようなモノから出てくる。それが巣じゃないのか?』
 アリスタルコス。船のカメラが撮った画像を寄越す。耳の無線機PSCはこれを視神経に被せてヴァーチャルリアリティの要領で見せてくれる機能を持つ。バス待合所の外壁に茶色の濃淡で縞模様を描くラグビーボール状の大きな塊。
「のばらちゃん。巣は待合所だ」
「判った」
 すると森宮のばらは逡巡するように少しの間網を見た後、そのまま側溝水路に持って行って網を水に浸けた。
 昆虫類は腹部に吸排気システムがあってそこから呼吸する。従って水に浸ければ窒息する。また温度で運動能力が変化する。冷たい水で動作を鈍らせる意向もあろう。羽音が水に飲まれて泡立つような音に変わり、更に水中に没して全く聞こえなくなる。水中で暴れもがき、文字通り上を下へと動き回る多数のハチ。
「代わろうか?」
「いい。私がやる。責任を持って見届ける」
 殺す、ことに大きな躊躇があったに相違ない。でも、それが今は最適解。
 中途で止めたりするまい。
「アリス、それは巣です。火の玉」
『プラズマ準備ヨシ』
「のばらちゃん、それはそのまま放っておけばいいよ。持ち上げて見届ける必要はない。ヘタに持ち上げてわっと出てきたら大変。これからブラスターで巣を破壊する。残ったハチがまた出てくる可能性があるから船へ戻って」
「判った」
 森宮のばらは茅の先っぽを引っ張って網の棒に結び付けると、意を決したように網から手を離した。網が流され、茅に引っ張られて止まり、ハチが蠕くネットの部分が水底へ沈んで行く。
「殺しちゃった……」
「あなたはその勇気で子供達を助けた。ちゃんと神様が罪を贖って下さいます。さあ」
 幾らか残っているハチをシャベルでひっぱたきながら、レムリアは二人を船へ急がせる。全員が待合所に背を向ければ次のステップに進める。ブラスター(Blaster)、熱線銃と表現したが。
「アリス火の玉。ターゲットはハチの巣」
『おうよ照準よし。見るなよ』
「カウントダウン3秒、2、1、0」
 パンと破裂音がし、目を閉じて程なく、まぶたを通してすらそれと判る白銀の火の玉が甲板から一閃し、待合所で小さなキノコ雲を作った。プラズマ銃。大電流でアルミの塊を溶かして文字通り火の玉を生成し、その大電流の発揮する電気力で射出する。
「次、レーザーをマルチターゲット連射。準備良ければGO」
『行けるぜ』
 グリーンのレーザ光が数秒間で数百本。バチバチと静電気が飛んだような音が幾らか聞こえ、静かになる。
 雰囲気が変わり、“命”が全て失われたことを確認する。こういうのは魔女の仕事。
 彼女が船のスロープに足を載せると、両の手にそれぞれ1メートル50の長銃を持った大男が、上からニヤッと笑って寄越した。
「ミッション・コンプリート」

(つづく)

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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -150-

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 レムリアが少し笑うと、
「でもさ」
 相原のその言葉に、目を戻した。
「誰かのために生きてるって自覚してるかどうかに、年齢は関係ねえんだ。君はその歳で覚醒してる。そんだけさ」
「胸ぺったんこの童顔でも?」
「この娘は一生懸命生きてる。誰かを生かすために一生懸命生きてる。それがオレの第一印象で、それがオレの君に対する思いの全て。以上です」
 相原は誤魔化すように言って、諦めたように笑った。
 このひと可愛い、それがレムリアの思ったこと。
 すると相原は急に少年のような顔になり、
「恥ずかしいぞ」
「なんで?」
 レムリアは小首を傾げて尋ねた。
 それが“可愛い仕草”であるという認識はある。ただ、意図してそうしたわけではない。
「およそ21の男が……屈したんだぞ」
「あたし嬉しいよ。ああこの人あたしのこと凄く素敵に大切に考えてくれてるんだなあって。そりゃちょっと照れくさいけどさ」
 レムリアははにかんだ。
 好き、と言われてドキッとしたことは応じた回数あるが、素直に“ありがとう”と言える気持ちになったのは初めてだ。
 ただ、自分が好きだからか、と言われると違う。否、好きという感情を持ったことが無いのでワカラナイと言った方が正確かも知れぬ。
 結論、楽しい。
「あなたはあたしのことが好き」
「ぶっ……ええい唐突に何を言う。そういうことは明確に言語化して喚呼確認するでない。君はテレパスの使い方を間違っている。判っておればよろしい。言わすな恥ずかしい」
 やっぱり楽しい。
「え?いいじゃん別に。あなたの気持ち、凄く嬉しいよ、ありがと」
 レムリアは言った。そして判った。この男には“いかに相手を傷つけず自分の気持ちを伝えるか”という苦労がいらないのだ。
 ありのままの自分でいられる。
 すると相原は急に真面目な顔に戻り、何か言いかけたが、そこまで。
「お邪魔かな」
 トーンの低い利発そうな若い女性の声がし、部屋の入り口部分の壁が二回ノックされた。
 看護師である。雑貨屋の大きな紙袋。
「気が付いたね。じゃあ熱測ろうか。ハイはんてんの騎士は何も見ない何も聞こえない」
 看護師は軽妙な語り口で言いながら、その紙袋から相原愛用のはんてんを取り出すと、目隠しするように彼の頭にかぶせた。
「洗濯してあるから持ってきな。着ていた服も置いとくよ。えーっと、彼女は何か食べるかな?」
「はい。じゃぁ」
 言われて意識したら急に空腹を覚えた。
 相原ははんてんをかぶったまま、微動だにしない。はんてんの形状もあり、消えそびれた幽霊のようだ。とぼけた感じが珍妙。

(つづく)

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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -149-

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 館内呼び出しの音。
「あなた出てきた。って言うか連れ出された。アルゴ号でね。宇宙へ出るんだ。二人っきりで。誰も知らない。こっそり私を連れ出すの」
「それで?」
 相原がひとこと挟む。
「銀河に沿っていろんな星々を旅するんだ。アルゴナウタイ訪問ツアーって。神話に出てくるアルゴの乗員達の星座を実際に尋ねるんだ」
「なるほど、オレならやりかねんな」
 相原は人ごとのように論評を挟む。
「それで、あなたからいろんな事教わった。ふたご座は兄貴星のカストルよりも実は弟のポルックスのが明るいんだ、とか、こと座の琴はオルフェウスの持っていたもので、主星ベガは1万2千年後に北極星になる、とか。あとなんだっけ、ケンタウルス座のアルファ星は……」
「やがて太陽に近づいて、重力バランスの変動から彗星が雨のように地球に降り注ぐ。か?」
「そうそう。この辺本当の科学的知見?」
「うん」
「じゃぁ、やっぱり、あなたの知識だ」
 レムリアは一呼吸置いて。
「この間会った時にさ」
 前述の瀕死の相原を船に担ぎ込んだ際の話である。
「あなたあたしにデートしろって言ったじゃん。正直言うとさ、似たようなお誘いは数え切れないほど受けておるわけですよ」
「まぁ、そうだろな」
「お茶しよう、面白いところ行こう……でも、宇宙へ行こうと言ったのはただ一人。でね、一つ訊きたい。口に出して言えって言ったら、言える?」
「……」
 相原が口にしようとした直前にレムリアは制した。
「待って、そう言うとあなたは『宇宙行こう』棒読みみたいに言う」
 相原は苦笑した。
「あなた、私のこと、好き?」
 正面から問われて、相原は固まった。
 まばたきすらせず、レムリアを見つめ返したまま硬直。
「へへ、ごめんね、気が変わった」
 レムリアは言ってみた。
 言葉にされないでも判っているし、それは彼もよく知っていることだろう。
 ただ、彼に対する自分の情動は、過去自分に気持ちを示したどの男の子とも違うし、また自分に接するどの“大人の男”とも違うのだ。否、どっちでもある、というべきか。
「目を見て言うか?」
「ええ、出来れば」
「お前、命がけで守るに値する、女だ。女の子じゃねえ、女だ……大好きだよ」
 相原は言い、レムリアの手を、両手で、柔らかく包んだ。
 骨張ってクッション感の少ない、しかし熱い男の手。
 一つだけ予想に反したのは、ドキドキという脈動を感じないこと。
「学って歳幾つだっけ」
「21。12歳の女が真面目に好きだなんて言ったら世間一般的には犯罪。ロリコン、変態、逮捕」
「だろうね」

(つづく)

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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -148-

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 彼女は理解した。自分の様子の確認か。
「ごめんね、テレパス娘で」
 はにかんでみせる。含めて、相原の気持ちは、わざわざ音声に具象化してもらわなくても、判った。
 面映ゆい。だから、からかい半分、意地悪で、言ってみた。
 ちょっと面白い。
 すると。
 相原は隠しても無駄と諦めたか、はたまた腰を据えたのか、フッと笑い、そして、自分の手は握ったまま、配管剥き出しの白い天井を見上げた。
「彼女のためだったら僕の血を全部抜いたっていい、臓器だって使える物なら全部使っていい、とにかく彼女を助けてくれ……と、申しました」
 今度はレムリアが赤くなる番だった。が。
「この娘は僕には何より大事な女の子なんだ。この位のことで死なせないでくれ」
 相原は、レムリアに顔を戻した。
 そして、レムリアもフッと笑った。
「ずうっとそばにいてくれたんだ」
 レムリアは相原の手を握り返した。
 呼応して早くなる相原の脈拍。
「まあね。あ、ごめんよ……勝手に手を握ったりして」
「ううん。いいよ。あなたの手は強くて熱くて、心地いい」
 レムリアは手を離そうとする相原のその手を、その必要は無い、とそのまま握った。
「そうか、それであんな夢見たんだ」
「え?」
 レムリアは目を閉じた。
「そう。夢。いつもと違う不思議な夢。でもそれが、あなたがそばにいたせいだったなら、納得できる。何か夢見た憶えは?」
「夢と言うより、祈ってた」
 相原は、そう返した。
「え……」
 レムリアが思わず目を開けると、今度は相原が目を閉じている。
「この娘を助けて下さい。世界の子どもを助けるためにも、この娘を助けて下さい。そう、祈った。理系のクセにね。祈ったよ。誰でもいいからと、祈ったさ。今こそ祈るべきだと思ったし、祈るしか無いと思った。お前さんが花咲いたみたいな笑顔で飛び跳ねてる姿思い描きながらね。こうなってくれってね。必死に祈るということがどういうものか、判った気がする。そのうち、眠り込んだらしい。夢を見たかどうかは判らん」
 相原が目を開く。
 今度は、自分が、語る番。
「なるほどね」
 レムリアは相原に一瞬目を合わせ、自分が、目を閉じた。
「夢ってさ」
 相原は特に相槌を打たない。しかし続けて良い旨は聞かずとも判る。
「人生反映されてんだよね。いやご大層な意味じゃ無くてね、知識と経験が映像に出てくる。……宇宙が出てきたんだ。それも凄い経験だったけれど、それだけじゃ出てこない、もっと広い空間。あたしの知識じゃない」
 テレビの音。
「男の夢、あなたの記憶、なら合点が行く。あんなスケールの夢あたしじゃ見られない」

(つづく)

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【理絵子の夜話】空き教室の理由 -87・終-

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「その通り。あなたがその線路に落とされたことにより、それを認める旨の証言をその者より引き出した。あなたがそれを回避したなれば?」
 教頭が関わっている、という論理的つながりを断ち切ることになっただろう。秘密を探られていると知った教頭が理絵子を消しに掛かったというプロセス無く、いきなり教頭を疑ったことになるのだ。唐突すぎて不自然である。
 同じ事が全体に対して言える。理絵子がもし、心霊写真をあゆみちゃんのせいだと決めて、いきなり空き教室に臨んだとしたら?
 教頭に殺害されてそれこそ伝説の一部と化したか。
 或いはそれを回避できても、疑う自分をあゆみちゃんは相手にしなかっただろうし、“彼”でない自分に、彷徨う彼女を救うことはできなかったに相違ない。
「全てはあるべくしてあり」
 理絵子は言った。それが結論。
「その通り」
 住職は頷いた。
 気持ちがすぅっと軽くなる。
 あるものをありのままに受け入れられるというのは、何と気楽なことなんだろう。
 廊下を来る数名の足音。
「クゥールでクレヴァーな会話は終わったかい?」
 桜井優子が顔を出す。
 墓参のメンバーは他にマスターと朝倉祥子。
 朝倉祥子が畳に手を付く。
「本来、誰よりもわたくしがここに参らねばならないところ。不作為を反省しております」
 住職は朝倉祥子に顔を上げさせ、
「いえ、それは時が必要だったかと思われます。あなたが今のお心の状態で参ってこそ彼女も浮かばれようというもの。あなたは悩み、苦しみ、そして傷ついた。長い長い時間を彷徨った。ただその結果として、この黒野さんを素直に受け入れ、そして最後には彼女のために死線に向かって足を踏み入れたではありませんか。これが無駄な遠回りだという愚かな者はおりますまい」
「『私の生徒ですもの』……かっこよかったぜ、先生」
 桜井優子がからかい半分で言った。
 聞いたところでは、朝倉祥子は理絵子が出て行くところを夢に見、仲が良い桜井優子に電話で問い、桜井優子がマスターにクルマを出してもらって、深夜の学校へ乗り込んだという。
 朝倉祥子は照れたように笑った。
 理絵子はハッとした。
 担任がこういう表情で笑ったのは初めてではないのか。
 しかし。
「半年休職ですと、もう3年になるまでお会い出来ないんですね」
「ええ、復職先は別の学校になるかも知れない。いっぺんアパートを引き払って実家に転がり込むつもり。……ありがとう。あなたには学級委員という以上に世話になったし、大きな何かをもらった気がする」
「そんな。ただの生徒です。先生はずっと先生です」
「あら、上手いこと言っても、成績には反映しないよ」
「言うだけ損か」
「……どれ、おはぎでも出しますかね」
 会話が進行すると見るや、住職が立ち上がり、住居部分へ歩き出す。
 秋の空は青く深く、そして高い。

空き教室の理由/終

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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -147-

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 そして、彼は自分の血を幾らかレムリアに分けた。彼女はAB型であり、希少性ゆえ病院の在庫では足りず、O型である相原から緊急にとなったものだ。なお、O型から別の型への輸血はあくまで緊急避難であり、通常は行われないことに留意されたい。O型が万能と考えられていたのは20世紀半ばまでの話だ。
 結果、まず、銃弾自体は彼女の脇腹を貫通しており、残留などは無かった。腹膜の損傷はあったが消化器の損傷は見られず、傷ついた皮下組織の切除と腹膜の傷・射出創(銃創の出口側)の縫合のみを実施した。鉛中毒の可能性は残るが様子見。
「撃たれた体内は中を火かき棒でかき回されたようになるものだが、これは奇蹟だ」
 執刀医はのたまった。
「そりゃぁ奇蹟が起きるだろうよ」相原は寝顔に語りかけるように言った。「この手で幾人救って来たのやら。ここで助からないなら神様解雇だ」
 相原が手を握ると、レムリアはギュッと握り返した。
 相原が身体震わせて赤くなる。
 が、レムリアは起きる気配無く、さりとて手を離すわけでもない。
 骨張って体毛も無造作な相原の手の甲と、ほんのりと薄紅色で“肌理”という文字がまさに似合いな少女の手。
「命がけ、ってのはマンガのヒーローと恋愛ドラマのキザ野郎だけのセリフ、だと思ったけどさ」
 相原は囁き声でひとりごちる。
「お前さんは、そう言い切るに足るよ……って、何言ってんだか」
 老夫婦に一旦目を向け、二人の目線が共にテレビに向いてるのを見て目を戻し。
「オレ3月下旬の生まれだからさ、基本的にクラスの同級生はみんな年上なんだよ。思春期になると見下されてるみたいに感じてさ。背も高くないからただのコンプレックスなんだろうけどさ。たださ、ケバい化粧の大学生より、派手に見えてみんなして同じカッコしてる高校生より、素のまんまのお前さんのわがまま聞いてる方が楽しい。そんな気がするよ。世間じゃこういうのロリコンって言うらしいけどさ。単に12歳だからイコールロリータってのは違うぜ」
 少女の手を両手で包む。
「んで?」
 果たして相原は心臓が止まったような顔をした。
「起きて……」
「るよ」
 レムリアは目を開く。黒曜石の輝きを蔵した、黒々と透明な瞳。
 比して、相原は、真っ赤。
「お・は・よ」
 彼女は軽い笑顔と共に言った。脇腹貫通したこととは関係ないと思うが、吹っ切れた、すっきりした気分だ。ちょっと苦しいぐるぐる巻の包帯。手首に刺さった輸液管。
「お、お目覚めですか」
 相原は首を絞められたような、掠れた声で言い、しかしハッと気付いたようにレムリアの顔を覗き込み、小さく頷く。

(つづく)

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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -146-

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 東京・信濃町しなのまち
 神宮球場にほど近い、著名な私大病院の一室で、相原は目を覚ました。
 そこは6人部屋で、こちら3ベッド、向かいに3ベッド。相原はベッドの脇、付き添い用の簡素な椅子に座った状態。浴衣をまとった己れを見、思い出したように周囲を見回す。そして痛そうに腰に手をし、硬くなった首をバキボキ言わせる。椅子に座ったまま寝込んだのだ。
 左方は空きベッドが2つあって窓。11階であり、窓の外は明治神宮の緑と、立体交差の高速道路。高速道路は通常通り(?)渋滞しており、昨日の騒ぎの影は見えない。
 そして右前の方、部屋の向こう半分には、真ん中のベッドにのみ使用者がいる。老夫婦であり、ベッドには夫君男性が上半身を起こした状態、奥さんの方が相原と同じく椅子に座し、2人でテレビを見ている。そこで男性が酷い咳をし、奥さんに背中をさすってもらう。
 男性は相原の目線に気付くや、背中さする手を振り払うようにして布団に潜る。
 困ったような奥さんと相原の目が合う。相原は軽く会釈をした。
「今日は、暖かいですね」
 奥さんがゆっくりと話しかける。
「そうですね。風もないし」
 相原は奥さんのテンポに合わせてゆっくり答えると、廊下を歩く靴音に顔を向けた。
 よそ行き顔の看護師が足早に目の前を横切って行く。ここは病室と廊下の間に仕切がない。その代わり、ベッド全体をカーテンでぐるりと囲う構造。下世話な言い方をすれば価格的に最もリーズナブル。
 看護師はこの部屋に用があるわけではない。相原はそれを確認すると、目線を手前に降ろした。
 彼の目の前、ベッドの上には、白一色のローブを纏った娘が仰臥している。疲れたような顔色で、しかし安心の面持ちで、安らかに寝息を立てている。
 レムリアである。助かったのだ。
 相原は足を組み、その上に肘を突き、レムリアを眺める。
「ふう……」
 相原はため息をつく。セリフ形で記述したが、その発声は声と呼べるかどうか判らないほど、かすかだ。僅かでも気付かれる、それを恐れているような感じである。
 ここでレムリアが失神した後の経緯に触れておく。
 潜水艦は帆膜被って動けないと判断したか、そのまま潜航して姿を消し、合衆国海兵隊より先に自衛隊が割り込んで〝防衛行動〟。アルゴ号と乗組員は密入国の疑いで逮捕。合わせて相原は〝外国為替及び外国貿易法〟に基づく〝非居住者への無許可武器提供〟で逮捕された。以上名目上。
 自衛隊の出したクルマの中で、相原はこの病院への搬送を指定した。彼の父親が希代の難病に罹患し、その病気である可能性に最初に言及したのがこの病院であった。結果全く関係ない交通事故で死にはしたが、応じた知識情報を有している、彼の知る限り最も優秀な病院がここだったわけだ。

(つづく)

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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -145-

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〝デーモン・コア〟という相原の認識を感じ取る。核事故を起こして2人が死んだプルトニウムの球体。似たような死の球体ということか。
『原潜、ミサイル発射口開きます』
 それは甲板にあって上に向かって発射するもの。
『クローラ。水鉄砲だ』
『アイ』
 舷側から海水をビームのように噴射。それだけで水が発熱して湯気が立つほど。
『非常操作。船体下部外板解放。加速コイル磁力を制御し球体を吸着』
 半球形のリフレクションプレートと側面昇降口との間、船の後部下半分のカバーが外され構造体が顔を出す。黒い棒に太い管が螺旋を描いて巻き付いている。加速コイルである。黒い球体を強大な磁力で引き寄せ、コイルに衝突し、ガチャーンと大きな音。
『ヘリウムパージ』
 その声にレムリアは相原に身体を抱き上げられ、クジラの顎の辺りまで運ばれる。コイルは液体ヘリウム温度で冷却されているが、そのヘリウムが吐き出される。一瞬で周囲が結露して白い霧に包まれ、球体が氷の塊のようになる。ちなみにこれでコイルは冷却を失い温度が上昇して行き、伴って粒子加速に必要な磁力を失い、アルゴ号は推進力を喪失する。そこまで……相原の認識では20秒。
 彼は自身の意識を彼女に見せる。生物兵器である場合、その〝生物〟を生かしたまま広範囲に拡散させ、生きて動いている人々に付着させたり吸い込ませたりする必要があり、一般に殺虫スプレーのようなエアロゾル(液体噴霧)か、粉体を散布する。具体的な手段として電気か炸薬を必ず用いるであろうから、超低温はその作動を遅らせ、僅かであるが解決に時間的猶予を与える。とは言え長くて10秒か。
「船が検出している重量は?」
『200キログラム』
 帆膜で包む。それが当初計画であったが、完全密封できるか?中で〝拡散〟が起きたら?
 原潜は。
「相原に制御権を下さい」
 身体に直接彼の声が響く。ちょっと意識がもうろうとしてきた。出血が多いのだろう。自力で立てる自信が無い。
『どうする』
 説明を相原は略した。シールドが解除され(これで周囲には突然船の姿が戻る)。クジラを載せた第2マストと、最前部の第1マストが切り離され、ハイドロが一瞬暴風を発して船体が甲板を下に上下逆さま。
 逆さまなので黒い球体が上になった。
 黒い球体は強力な磁力を受けて自身が磁石になっている。相原は教えてくれる。釘を磁石で擦ると、擦られた釘も磁石になるというあれだ。
「磁束ベクトル反転」
 相原はコイルの磁力を反転させた。
 コイル自身が振動してカチンと音を立て、黒い球体の帯びた磁力とコイルの磁力は反発となり、球体が跳ね上がった。
 相原は再度ハイドロに物を言わせて船体を倒立させた。リフレクションプレートが宇宙へ向いた。
「第1マストの帆膜は原潜に被せてしまえ。球体は残りの全推力で太陽系の向こうへ叩き出せ!」
『アイ!』
 ハイドロが水鉄砲で帆膜を広げながら打ち出し、原潜を〝包装〟してしまう。そして。
 これで大丈夫……レムリアは薄れ行く意識の中で、光の柱が宇宙へ向けて突っ走ったのを見届け、相原に自分の全体重を委ねた。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】虫愛づる姫と姫君 -21-

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 ならば。レムリアは周囲を見回し、道路脇、農業用水であろうか、勢いよく流れる側溝と草むらの向こう、畑の畝に挿してある手のひらサイズの小さなシャベルに目を付けた。苗を挟む等の使い方をするのか、2本ある。
 走って行き、側溝をまたいで草むらを左右に分け入って畑に入り、それを手にする。短剣二刀流よろしく両手に持って森宮のばらの元へ。
「あなたは捕まえて。私はこれでひっぱたく」
「判った。こいつらはキイロスズメバチ。凶暴。可能であれば巣を探して」
 二人は一瞬背中を合わせると、作戦を照合した。その仕草は意図せず日曜日に放映している女児向けアニメの“決意のシーン”に一致しており、子供達の数人が気付いたのであるが、さておく。二人は再度別れてそれぞれハチに立ち向かう。
 レムリアは両手のシャベルを振るってハチを打った。ハチは黒い物・動く物を攻撃する習性を持つ。なので「逃げ惑う黒い髪」は攻撃を増幅する。日本人が逃げるのは逆効果と言える。
 持ち前の脚力で子供とハチの間に割り込み、超感覚にモノを言わせて攻め来るハチの経路を読んでひっぱたく。強固な外骨格で“武装”したハチの頭部が“カン”と甲高い音を立て、まるで石礫を鉄板で打っているかのようだ。もちろん、ハチはそれでバランスを崩しこそすれ、死ぬわけでなく、落下するでなく、体勢を立て直して再度襲ってくる。そこをまたシャベルで叩く。なお、こうした頑健さの故、地面、とりわけ土の上に落ちたハチを靴で踏むという動作は危険を伴う。頑丈な頭をゴム底で踏んでも土にめり込むだけで潰れはせず、その間に靴の上から針が貫通して刺される。森宮のばらの生け捕りはその辺を見越した結果であるかも知れぬ。
 ふと見ると森宮のばらが手を緩めて小さい子の背中に回って抱きかかえようとした。その背後。
「のばらちゃん後ろ!」
 カチカチと威嚇の歯噛み音を立てて接近する2匹のハチ。
 森宮のばらは振り返る。その遠心力でお下げ髪が弧を描き、先端の水晶がハチを叩く。
 森宮のばらは幼子を片手で抱き、空いた手で体勢を崩しながらもハチに網を振るう。
「ありがとう!」
「もう少し!」
 残った子供達は10名程度であろうか、引率とおぼしき大人の女性が2人いるが、2人とも逃げるでなく、子供達一人一人手を引いて船へ走る。そこを襲うハチをレムリアがシャベルで叩き、森宮のばらが網で取るという連携を図る。これは奏功し、かなりのハチを捕らえ、子供達も船へ収容した。残っているのは自分たちと、最後まで身体を張り、件の刺されたと判明した引率の女性ひとり。見れば額の上の方が赤くなっている。この後腫れ上がって来よう。何らか処置をしたい。

(つづく)

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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -144-

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 その認識の後、狙撃銃の発砲であろう、パン、という破裂音。
 電撃のようなものが脇腹から脊髄、脳天へぶち抜くように突っ走るのを感じる。
「レムリア!」
 相原の声があり、男達の焦燥……狙撃?光圧シールド!シールド設定しました。銃弾軌道逆算。無力化せよ。
 程なく船体はバリアで覆われたようになり、幾らか銃弾が飛んできたようだが光の圧力で跳ね返されてしまう。帆膜の上はバリア外だが、マストの上からレーザ光が四方へ走り、無効化したとの声。
『合衆国海兵隊です。新規の標的動作検出されず。少女を撃ったと動揺しています』
 冷静なセレネの報告。脇腹に手をすると穴があり血で真っ赤。ああ、撃たれたのか。その部位は痺れて感覚マヒしたような状態。
 だが自分は生きているのでどうでもいい。クジラを何とかするまで動ければいい。
 横たわるクジラの腹部に両手を広げて額を付ける。
「ごめん……」
 お腹をさすりながら言う。後ろに足音があり、相原が自分に追いついたのだと判る。
「何てことだ」
 彼は呟いた。
「最後まで……やらせて」
 身体がこわばって声が出にくい。ケガした部位の筋肉がギュッと縮こまっているのでそうなる。 
「止めないが止血くらいさせろ」
 相原はレムリアが背負っている救急ザックの中から滅菌ガーゼのビニールを破いて中を取り出し、サージカルテープで前後の傷口に張り付け、押し込み、自身の着ていたジャージの袖を腰に巻いてギュッと縛った。
「うっ!」
 思わず声が出て身体がびくっと動く。
「ごめん」
「いい」
〈お前さん……魔女かい。ケガをしてるのかい?〉
 クジラの意思。お母さんというか、知ってるおばさんという感じ。
「あなたに比べたら……お腹のそれは、出してしまって」
 レムリアはそのまま日本語で言った。声音を変えたりしなくても、優しく響く言葉だと思うから。
 ちなみにクジラに対する〝強制命令〟は船のシールドで届いていない。ただ、そのままで終わるという気はしない。船が潜水艦の接近と海兵隊の集結を教える。
「私は大丈夫だから。後は任せて」
 噴水のようにクジラの体内から水が出てきて周囲を濡らす。破水である。ただそれはクジラの意思でないことはもちろん、不随意ですらない。ホルモン剤で人工的に妊娠状態を形成し、今度は電気信号で筋肉を制御し出産させようというメカニズムか。中にキカイがあって自動的にそう動くよう処置しているとは相原の認識。および、南極のように体内で爆発しないのは、外に出てからまき散らす必要があるから、とも。
 上空でバタバタとヘリコプターの音。合衆国と認識するや背後の相原がプラズマを、アルゴ側からレールガンがそれぞれ発砲され、ヘリコプターは一旦遠ざかる。
「後オレに出来ることは」
 銃を背負い直して相原が言った。星を見ていた青年は今、上空の世界最強に銃口を向けている。
「産道に沿って出口に向かってさすってあげて。それを押し出すサポートを」
〈魔女さん。これは子供じゃない〉
〈判ってる。でも残っているとあなたが死んでしまう〉
 上空に再び迷彩塗装のヘリコプターが現れるが。
「自衛隊だ。JSDF。大丈夫」
 相原が即座に。(JSDF:Japan Self-Defense Forces)
『アイ』
 他に報道のヘリコプター。そして海には海上保安庁。及び。
 大きな泡がボコンと浮かんできたように、それが海面に顔を出した。
『原子力潜水艦。攻撃態勢に警戒。特にレーザだったら厄介だ。光で光は防げない』
『原潜から電波を確認』
『強制的に出そうとしているんだろう。出させろ。以降は作戦通りに。噴霧拡散さえ防げば良い。慌てるな』
 クジラが大きく口を開いてその身をのけぞらせ。
 ゴリッ……擬音で書くとそうなろうか。肉を金属でえぐり取る嫌な音がし、クジラの腹部を押さえる相原の手先を大きな球体が通過した。
〈痛い〉
 大量の出血を伴い〝生み出される〟黒い球体。クジラが身体を硬直させ、それは身体を傷つけながら、ぬぅっとばかり姿を現した。

(つづく)

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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -143-

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 相原の認識を知る。合衆国アニメ会社と提携した夢の国(それはレムリアもよく知るところ)。夕方なので、もうすぐ始まる電飾パレードに備え、人々が集まり始める。
 人々が最も無防備になる場所と時間。そこへ爆弾抱えたクジラが打ち上がる。
 ソナーブイが故障信号を発し、同時に、クジラが水面から飛び上がった。ショーのイルカかシャチのように、ナガスクジラの体躯ではあり得ないくらい、高々と。
 そのまま落ちれば岸壁に身体を打ち付け自重で引き裂けてしまうだろう。それは避けねばならぬ。
「帆膜を!」
 レムリアは反射的に言った。それを避けて、次どうするべきか、判らないが。
 船はマストを横倒しにしながら帆膜……ソーラセイルを広げた。
 ナガスクジラの質量、50トン。
「衝撃を与えるな!」
 舵と出力制御の次元ではない。レムリアは相原が操舵権を奪ったことを知った。クローラを使い、暴風を帆膜に吹きつけながらクジラの身体を受け止めて、保持して、その夢の国遊園地と海岸の間のコンクリ堤の上に降ろす。それでも結構な衝撃があったと見え、クジラが痛がる。
 暴風で吹き上げられた海水が雨のようにざあざあと降る。痛いほど感じるクジラの業苦。その巨体は陸上では自らに過大な負荷となる。
「エックス線と超音波で体内の状況を探れ。相原どう思う。だいたい本当に1頭だけか?」
「ミサイルが出ない。応じた改造はされていない。生物兵器だろう。住まう人間だけ殺傷するなら。ここには日本全国から観光客が集まる。細菌ウイルスを持ち帰って各所で感染拡大させるに持ってこいだ。地中海が騒ぎになっても1頭だけならまさか同類とは思わないだろうし」
「気付いたときには手遅れってわけだ」
「中に球体があります」
 一方レムリアが拾ったクジラの意思は。
〈生まれる〉
「爆弾を出産させるつもりです」
「産ませろ。シュレーター、クジラから娩出された瞬間に加速コイル磁力で吸着。本船の液体ヘリウムをパージして温度を下げ、爆発を抑制しろ。その間に帆膜で包め」
「アイ」
 ならば……レムリアはウェアを脱いだ。人間の姿を覆い隠し、応じて五感を邪魔するウェアを脱いで、Tシャツ短パンで甲板へ飛び出した。可能な限り速い動きで。アリスタルコスの身ごなしを真似て。
〈助けるよ!〉
 クジラに呼びかける。甲板からクジラまでは帆膜で繋がっているような状態で、滑り台のように滑って行ける。
 その時。〝雨〟が上がって。
 一瞬の炎のようなものが、脇腹を強打し、身体をよろめかせ、飛び去って行った。
 彼女の視覚は、アリスタルコスとゾンビ兵の戦いと同じように、脇腹を貫いた炎の正体を、見ていた。
 銃弾。

(つづく)

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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -142-

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「イスラエル軍よりモールス、貴船はいずこの軍なりや」
「ボランティアとでも答えておけ。次は日本か」
「はい」
 日本へ戻る。太平洋黒潮に沿ってクジラを探して聞いて回る。
 その時。
「本部より。先のちあり・いぬかいと思われる少女がテレビに出ている」
「え?」
 レムリアと相原は同時に声を発した。
「俺が調べるから君はクジラ情報を拾ってくれ。ドクター、こいつ携帯で拾っているテレビ画像展開できますか?」
 相原は(当時まだ多くの携帯電話で可能だった)〝ワンセグ〟テレビ画像をシュレーターに見せた。
「それをカメラに撮って映せばいい。音はイヤホンジャックを回せ。古い手段だがな」
「はい」
 相原はゴーグルを外してそのカメラでワンセグ放送画面を撮らせ、音はコンソールのイヤホンプラグを挿した。
『……その船は私を日本まで連れて来てくれた船です。テロリストなんて事は絶対にありません!総理大臣どうかテロリスト認定なんてしないで』
〈苦しい……でも……〉
「いました!」
 レムリアは声を発した。
 東京湾。クジラの群れが一つ。そこから少し離れ、東京湾アクアラインの通気塔付近を行ったり戻ったりするクジラが1頭。サイコメトリは計8頭を出したというから、最後の1頭はこの子か。
〈魔女さん。どこ。苦しそうな子がいた〉
〈魔女さんが助けてくれるから待ってて〉
 呼び掛けているようだ。
〈今行くよ!〉
 レムリアはありったけの心の声で叫んだ。
 対して、返ってきたのは。
 クジラたちの悲鳴。
〈やかましくて気が変になる〉
「クジラたちが騒音を拾っています。本船に感ありますか?」
「船は何も。相原、ソナーブイ落とせ」
「はい」
 音響探査装置を搭載したブイを海面に投下。すぐにアラーム応答。
「感度異常。大音量で13・7ヘルツが海洋内に発せられています。クジラには聞こえるが自身で発するのは不可能な音量。それでやかましく感じているかと」
〈だめ……勝手に……動く……〉
 突如全速力で泳ぎ出す。そのクジラは、人工的な命令により〝東京湾内奥へ行く〟ように仕向けられており、しかし他のクジラたちの引き留めでとどまっていたのだ。
 それをかき消す大音量こそは。
〈待って……助ける……待って……〉
 呼びかけるがそれ以上の〝恐怖〟がクジラを泳がせている。
「どう止める?」
「水から出せば恐らく……」
 多数の船が行き交う中を縫って追いかけ……対しクジラも船を避けているのか右へ左へ。それは何らかコントロールされている可能性を示唆した。水中のクジラを追いかけてコントロールできるもの。
「潜水艦がいるぞ。副長、中の者に干渉できないか」
「それが……」
「無人艦か」
「クジラが岸壁に衝突します」
「いいや違うそこが目的だ、何がある」
「日本で一番有名な遊園地」

(つづく)

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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -141-

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 アルゴ号甲板から長時間照射のレーザが刀のように突っ走り、ミサイル胴体を切断し、火の玉が生じる。ただ、秒で超音速に達するミサイルに対し、レーザは数秒照射する必要があるためか、一気に全部を処理するのは僅かに満たせず。アリスタルコスは銃口自体は向けられようが、レーザで切るのに時間を要す。
「1発漏らした。イスラエル政府に連絡し、追撃する。2人とも船内へ戻るぞ。相原ミサイルを追尾しているか」
『高く上がった。短距離ロフテッドか?テルアビブの防空システム作動』(ロフテッド軌道:lofted trajectory)
「核だからだ。真上から超高速で突っ込み迎撃の確率を下げ、最適高度で炸裂する。殺傷能力が最も発揮できる高度でな」
 高すぎると届かない。低すぎると広がらない。
 破壊と殺戮に〝最適〟が存在する。レムリアはこの時の身震いを忘れまいと思った。
 アルフォンススの命で操舵室に戻る。
「アイアンドームに撃たせるな。弾頭が市街地に落ちる。猶予は」
「20秒。操舵権もらっていいか。アルゴで迎撃する」
 相原はアルフォンススに尋ねた。レムリアは彼が何を考えているか察知した。アイアンドームというのはイスラエルの防空迎撃システム。
「行け」
「はい。飛ぶぞアルゴ」
 相原はまるで相棒に呼び掛けるように言い、船はそれこそ水面から飛び上がる海生哺乳類のように、ロケットのように、船首を直上に向けて一直線に空へ向かった。
 スクリーンの奥方より突っ込んで来る黒光りするそれ。正面衝突のコース。
「相原カミカゼか?」
「シャハーブ114。対地速度マッハ7。本船接触まで5、4……」
 画面に急激に大きくなるミサイル弾頭。その刹那。
「踊れアルゴ」
 相原学は船長権限で特殊な機動を行った。アルゴ号は器械体操のフィニッシュよろしく空中でくるりと船体を宙返りさせ。
 船尾をミサイルへ向けると最大出力で大気圏外へ一気に吹き飛ばした。
 ただ、宇宙へ向かってエンジンを噴射することは、船自体は地上へ向かって突進することになる。直ちに非常停止が働いて逆噴射。
 逆噴射が生成した光の柱が、雲間の陽光薄明光線、通称〝天使のはしご〟のように地中海に突き立つ。更にそれは船体が衝突回避のため回頭するのに合わせて西から東に突っ走り、その膨大なエネルギーは相当量の海水を瞬時に蒸発させた。
 結果、出来上がったのは、西から東へと伸びる、海底まで露わになった一本の筋。その部位は空気が高温高圧を帯びたため、直ちに海水が戻ることが出来ず、まるで道の如し。
 アルゴ号はその道の中に船体を突っ込んで飛行路に使い、海面や海底へ衝突することなく、向きを変え日本へ戻るべく加速する。
「イスラエル沖でモーゼの海割れごっこをするとは上出来だ」
 とはアリスタルコス。
「狙ったのか」
「まさか」
 相原はそれだけ言い、操舵権を解放した。

(つづく)

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【理絵子の夜話】空き教室の理由 -86-

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エピローグ

“悪魔教頭逮捕-”
 翌日夕刊の見出しは、その後暫くマスコミを賑わした。
 父親経由で仕入れた情報によると、保存証拠と内川のDNAは完全に一致したという。また、二宮あゆみ宅周辺に怪文書をまいたのも内川で、理由は当然彼女が内川の“要求”を断ったから。投石も放火ももちろん内川だ。住職はそうした行為があゆみちゃんを最終的に死に向かわせたと言ったが、なるほどそこまでされれば耐えられまい。ただ、彼女は怪文書に対するように、自らも文書を残し、それが結局は今回の逮捕に繋がった。
 ちなみに、理絵子の母親の車にぼろ布を詰め込み、担任朝倉の部屋に侵入して携帯番号を調べ、電話をして理絵子と引き離す小細工までしたことも判明した。なお、内川により命を絶たれた…殺された生徒は件の2人だけであり、それぞれ14年前、8年前の事件だったが、歯牙にかかった生徒はピアノ内部の写真から20人以上に及ぶことが判った。
 教頭による長年の暴行と殺人。影響を考慮して1週間ほど学校が休みとなったため、理絵子たちは二宮あゆみの菩提寺を訪問した。墓前に捜査結果を報告すると共に、錫杖は住職に返却。
「お持ち下さって良かったのですよ」
 住職は言ったが。
「これは守るためにと借用させて頂いたもの。立派に私の大切な人たちと、私自身を守ってくれました。事が済んだのなら本来あるべき場所に帰還するのが然るべきと存じます。その故は発揮する力のあまりに大きく、わたくしの手に負えるものではなく」
 理絵子は言った。そして続けて。
「法力は常用するにあらず、と、わたくしに説いた師は申しました。瞳に黒曜石の輝き絶やす事なかれ……わたくしはこれを、力に目を眩ませるな、と理解しています」
 住職は理絵子の言葉に大きくゆっくりと頷いた。
「その歳でそこまで……。拙僧はもしかすると、追って名を残すお方の少女の時代に生きているのかも知れませんな」
 住職は理絵子が座布団の前に置いた錫杖を、手元に引き寄せた。
「ではこれは確かに」
「ご住職」
「何ですかな?」
「一つお伺いしたいことが。わたくしの力は従前わたくしの危機を事前に察知し、危機より免れることを許していました。しかしこの度は危機自体は訪れ、追ってこの錫杖や友の思いによって救い出されるという経過をたどりました。この意図をなんと解釈すれば良いかと」
「なるほど……」
 住職は一旦立ち上がり、錫杖を紫の袱紗に収め、引き出しにしまった。
 再び理絵子の前に正座する。
「必然であった、と解釈できますまいか」
「無駄は無駄という言葉のみなりと」
 理絵子はそう応じた。どこかで聞いた話だ。仏教の概念だったと思うが、この世に無駄というものはない。強いて言うなら無駄という言葉の存在そのものが無駄だ。追って無駄と感じたことはあっても、それを無駄と判ったという意味で無駄ではなかった。

(次回・最終回)

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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -140-

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 甲板外周には多数のポールが立ち並び、その間を結ぶようにロープが渡されている。その造作だけ見ていると観光帆船のようだが、ポールの頂部は球形であり、銃底の凹面部を載せて銃架として使うことができる。
「爆弾の中身は生物、化学、核の使用がいずれも考えられるが、ホロコーストの再来とするなら目的は破壊全滅であろう」
 アルフォンススはそれだけ言った。
『わたくしです。イスラエルの防衛軍が本船を検出しました』
 その時。
〈苦しい……〉
 テレパシーの曰く、距離は多分、数キロ。なら、自分の超常の視力で場所は見える。
 ゴーグル内側に〝Neuro-Sync Mode(脳波連動)〟と表示が出る。自分の視神経が捉えたものを船のカメラシステムに載せる、すなわち自分の目を船のカメラとして使うことができる。
 海岸線にずらりと並ぶ海生哺乳類の胴体。全部で7頭。それは知られている同国の核施設の数と一致する。
「ここです!」
 声に出したらマークが付いて距離が表示された。既に幾らか人が集まっている。ホテルのプライベートビーチを夜明けの散歩、というところか。そこで出くわした〝群れごと打ち上げられたクジラ〟を遠巻きに見ている。
 打ち上げられたクジラやイルカ。それは、たまにあること。
 だから、疑わない。
 みんな携帯で動画を撮ったり。
 レムリアは大きく、息を、吸った。
 王族の娘であるから、王家あるいは政府からの発表があるときは、王宮の布告台から肉声で行うのが慣わし。
 応じて、大声を出す訓練を受けている。自分が王宮にいた頃は体のいい見世物だった。
 両手足を真っ直ぐ伸ばし、舳先に立つ。
「Run! those whales have bombs!(逃げて!クジラたちは爆弾を持ってる!)」
 体中の骨が共鳴してビリビリ言った。
 ただその声は人々に届き、クジラを見ていた人々は船に目を向けた。空飛ぶ船が突っ込んで来れば応じて〝異常〟と感じる効果はある。
「Go!away!(離れろ!)」
 理由は何でもそこから逃げればいい。その時。
 クジラも哺乳類であるから、胎児が体外へ出る部分の構造は人体と同様である。
 レムリアはクジラたちの認識から、その部位が〝改造〟されていることを知った。
 要するにパイプが埋め込んであり。
「ミサイル発射筒」
「アリス、多重標的連射」
「アイ」
 海岸線に横たわるクジラたちの腹部から次々ミサイルが発射される。
 こんな悪夢のような映像が他にあろうか。ミサイルは横向きに海面や地面と平行に発射され、応じて海面に水しぶきを発しながら直ちに垂直に向きを変えて上昇。

(つづく)

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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -139-

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「レムリアどうする」
「行ってください。日本周辺にはクジラが沢山います。仮に日本が標的でないにせよ。多くの個体に事態を知ってもらえるかと」
「よろしい行け」
 沖縄近海で複数のクジラの群れと接触する。すると。
〈そういうの、いたよ〉
〈どんな状態?〉
〈苦しい。でも身体が勝手に動く。思い通りにならない〉
〈どこへ〉
 訊きながらサイコメトリを試みる。彼らが遭遇したのは……昨日?
「今の時刻は?」
 何せ宇宙を含めて地球のあちこちを回っているので時間の感覚がめちゃくちゃだ。
「日本時間なら午後3時だ。電話もらってほぼ丸一日だな」
 相原が自らの携帯電話を見て言った。
「海流に沿って追え」
 アルフォンススが言った。それはいいのだが。
「早すぎませんか?ブラックウォー島からここまで1万キロはあるはずです」
 レムリアが言うと。
「陰謀が露見して破壊される前に傷跡は残したいと考えるなら、既にターゲット国の近くに配置は完了していて、命令ひとつで即座に同時攻撃という可能性はあるぞ。チェスだってそうだろ、陣形を整えて一気に攻める。俺たちならそうする」
「おう」
 双子が声を揃える。彼らの普段の生業は〝賞金稼ぎ〟であり、2人がかりで罠に嵌めるというパターンは多かろう。
「天然原子炉を破壊した時点で既に……」
 レムリアは言いかけて気付いた。セレネの感じた『地球全体を包むような……』の正体こそは、業苦を抱いて万キロ泳がされたクジラ達の思いなのでは。
 だと、するならば。
「そうだろ。芋づる式に全部バレるかも知れない。それならその時に備えて駒を配置しておけ。もし失敗しても爆散するから証拠はない。だから回遊プールも……弱った1頭を自爆用に使ったんだろ」
 これは相原。
「日本がターゲットだとしてこの距離まで来ているなら」
 レムリアは慄然となった。
「地中海……イスラエルは……」
「おう、ヤバいな」
「シュレーター!」
 直ちにアルフォンススが命令。
「アイ。総員着席。INS使用し急行する」
 ユーラシアの反対側へ1万キロを馳せる。大気圏内では秒速3000キロまで出せるようにしてあるので、4秒後には地中海に到達する。
 大都市テルアビブの沖合。時間は早朝。
 クジラの群れを見つけて接近を試みる。すると。
〈魔女へ伝言。見知らぬ群れがホテルのビーチへ向かった〉
 ありがとうと答えて海岸線に沿って進む。
「レムリア。甲板へ出て探せ。アリス、レーザだ。相原は船内に残り、何かあったら船長権限を使いエンジン推力で吹き飛ばせ」
「アイ」
「了解」
 各自答え、レムリアは大男2人と共に甲板へ走る。

(つづく)

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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -138-

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「ドレーク海峡だ。南アメリカの南端へ回れ。大西洋へ向かおうとする場合そこを通る」
「海流に添いますか。逆行しますか」
「常識なら海流に乗るだろうが、既に搾取しているアフリカを攻める理由が見当たらない。ブラジル東岸から南下せよ」
「了解」
「水面上を馳せよ。巡航速度で良い。途中クジラの群れがいた場合レムリア対応せよ」
「了解」
「判りました」
 テキパキとしたアルフォンススの指示に高度を下げる。大西洋南半分を縦断するので距離は約1万2千キロである。水面スレスレを突っ走る。秒速70キロで約3分。もちろんこの場合水面上に呼吸しに出てきたか、エサの小魚を追い詰めて水上に出てきた群れに限られるが。
「今いました!」
 船のカメラが形状認識でクジラと寄越し、座標をマーク。
「反転」
「アイ」
 船体を傾け蒼空に大円を描いて戻り、速度を落として今来た経路を逆行。……群れ飛ぶザトウクジラ。
 伝える。
〈仲間の危機だと〉
〈ええそう〉
〈お前は魔女か何か知らんが人間に何ができる〉
〈できる限りを〉 
〈生意気だが判った。ただ、お前のためじゃない。仲間のためだ〉
 頼んだので次へ行く。のだがどこへ。大西洋の次は太平洋だが。
「レムリア。クジラの主な回遊ルートは」
 相原が尋ねる。
「北半球なら今の時期は暖かい海にいるはずです。逆にそこから離れる個体があれば仲間内で噂になるかと」
 話す途中からレムリアはその可能性に気付いた。そして、あまりに広すぎる太平洋も、合衆国・豪州が対象外なら暖かい海域……フィリピン沖にフォーカスすれば良い。
「日本の南方へ」
「アイ」
 レムリアの指定にシュレーターが操船する。ニュージーランド近傍から赤道直下へ戻り、フィリピン沖へ。実際飛んで動いているのだが、まるでパソコンの地図ソフトで遊んでいるよう。
「この赤道周辺の国々は大丈夫なのか?インドは」
 アリスタルコス。
「簡単に言うと、原理主義に楯突いてないのと、そこをどうにかしたとして、利用価値を見いだすか?ということだろう。高温でインフラは脆弱だ。及び、原理主義の中枢で働くソフトウェア技術者にはインド出身が多い。彼らが故国を攻撃されたと知ったらどんな行動を取ると思うね?」
 アルフォンススが答えると。
「聞いてると横取りしたらインフラがそのまま使えて、抹殺するのにメリットしかない肌の色が異なる先進国がひとつあるんだが?」
 相原は言ってシニカルな笑みを浮かべた。
「日本を狙っていると?」
「クジラを取って食う名誉白人とかいう分際だからね。見下してた結果なんだが、技術と工業力と、水が手に入るんだよ日本を抹殺して奪うと。16世紀からの奴らの宿願だ。ドクター。このまま日本近海へ向かってもらって良いか」

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】虫愛づる姫と姫君 -20-

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 耳に指を入れ、イヤホンのボタンを押す。
「アリス」
『アイ』
「銃器を準備。レーザのマルチターゲットで狙えない?ドクター、クローキング解除。昇降口でみんなの誘導お願い」
 先に答えをくれたのはドクター・シュレーター。
『クローキングは解除。操舵室でいいか』
「いえ、保持ユニットの方へ。子供達をそちらへ誘導して。幾らか刺された人がいるようです。画面にアナフィラキシのマニュアルを呼び出しておくので、書いてあるような症状の人がいたらエピペンを注射。エピペンは壁面格納5番」
『了解』
 アナフィラキシというのは急峻なアレルギー症状の一種で呼吸困難などを引き起こす。ハチに刺されるのが2回目などの場合に起こりやすい。エピペンはそれを緩和するアドレナリン製剤の一種で、患者や家族でも扱える形態にした注射器である。糖尿病で使うインシュリン注射や、骨粗鬆症対策に用いるテリボンなどと同様。
 さて子供達や付き添いと見られる女性らは、森宮のばらに気づきはしたが、こちら、船に気付いた気配が無い。次から次に襲ってくるハチを払うに手一杯というところ。
 と、森宮のばらが何か気付いたようで駆け出す。その先には虫取り網を必死に振るう男の子。
 その網を使おうというようだ。
 イヤホンにピン。アリスタルコス。
「レムリア、ターゲットシステムはハチを追尾できるが、小さすぎる。レーザでは突き抜ける。向こうに当たる」
「出力絞るとか」
「時間制御だから出来ない」
 レーザ銃でハチを撃ちたい。だが、この銃の出力制御は光の強さそのものではなく、光を放出する時間で決めている。要するに一瞬だがフルパワーで出るので、ビームはハチを蒸発させてなお進行し、その先の何かを傷つける可能性がある。
「仕方ない。プラズマも用意して待機を。追尾は続けて。可能ならハチの動きをトレースして巣のありかを探させて下さい。甲板からも子供達を呼んで下さい。日本語でコッチダマッテル」
「アイ」
 程なく、転回場に停めた船体甲板に大男が出現し、コッチダー!マッテルー!。および昇降口でドクターが大きな身振りでカモンカモーン!
「貸して!」
 声がし、森宮のばらが虫取り網を借り受けた。
 一閃、とでも評すべき手さばきを発揮し、男の子の周囲を飛び回るハチを次々網に収めて行く。風切り音がヒュウとか聞こえるので相当な早さだ。ただ、それで踏み潰すとかでなく、あくまで、生け捕りのつもりらしい。
「大丈夫?あそこの船へ。おじさんのところへ!」
 指示する。その間捕虫網の入り口を手で絞る。やはりハチを“退治”するつもりは無いようだ。

(つづく)

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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -137-

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「私の能力は脳波がそのまま電磁波として干渉するものだ。もし、起爆部が金属の塊に入っていれば、その中まで入り込めない場合は当然発生する。南極では起爆を探知できなかった」
 携帯電話を金属で包むと〝圏外〟になる。電磁波が遮断されるから。
「他に、例えば爆発を失敗させる方法は?」
 ラングレヌス。
「低温と真空だ。熱反応だから酸素と温度の不足で鈍くなる」
 これは相原。イヤホンにピン。
「本部より入電。世界各国から本船への非難と攻撃対応の表明あり。欧州各国、合衆国、ロシア、豪州」
 セレネが報告。
「イスラエル、中東は?」
 レムリアは訊いた。
「特に」
「日本は?」
 相原。
「反応ありません」
「クジラは敵対表明した国には行かないと。レムリア、まずは的を絞りやすい地中海だ。範囲も限られる。来たら教えてで足りるだろう。船長許可を」
 相原は言った。
「よろしい。シュレーター大気圏内へ降下。光圧シールドを海面下まで下ろして直接海面下へ突入する」
「了解」
 宇宙から直接海の下へ。〝宇宙エレベーター〟が出来たらこんな挙動かと思わせる速度と角度で一気に距離200キロを馳せる。宇宙は黒く、深海もまた黒く、少し似ている気がする。
「潜航モード」
「切り替え完了。南極で録音した声を流せ。ソナー反響待て」
 録音したそれは『助けて苦しい』である。海中でクジラの反応を待つ。
「イスラエル、レバノン、防空システム反応あるか?」
「本船は探知されておりません。ソナー感あり。クジラとみられます」
「反応を拾った方向へ転船。ハイドロクローラ始動。レムリアコミュニケーションを試みよ」
「はい」
 ハイドロクローラによる潜水中の最大速度は時速200キロ程。
 ソナーの曰く6頭ほどのナガスクジラの群れ。カジキの2倍の移動体に一様に驚いている。
〈判る……?〉
〈魔女?……この物体は?〉
〈私の船。落ち着いて。いま、人間に酷いことされた君たちの仲間が地球のどこかを苦しみながら泳いでいる。歯向かえない力で泳ぎたくないのに泳がされている。そういう子を見かけたら、通りすがりの魔女に伝えろ、と、みんなに広げて欲しい〉
〈お前が助けるというのか?〉
〈人間の悪行は人間の責任〉
〈判った伝えよう……他には?〉
〈ごめんなさい〉
〈お前がしたことじゃないだろう。他にも行くのだろう?急げ〉
〈ありがとう〉
「終わりましたね」
 とはセレネ。
「次です」
 イスラエルから離れるように西方へ向かって加速浮上し上空へ駆け上がり、砂漠地域を横切って大西洋。

(つづく)

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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -136-

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 ネットに踊るニュースの曰く、国際貢献を続ける研究所を2つも破壊した武装飛行船なのだそうな。
「貢献してみました」
 ニヤニヤ笑いながら相原。
「まぁ放っておけ。来たら対応でいい。さてそのどさくさにクジラがどこかへ行くぞと。何ならそれで何か起こっても本船が犯人だと」
 ニヤニヤ応じるアルフォンスス。
「レムリア。クジラは水中でどのように?何か聞けましたか?」
 柔らかく尋ねるセレネ。
「聞いたというか知る限りですが、海洋では水圧の関係で水面下1000メートル付近に音響チャンネルと呼ばれる遠くまで音が伝わる領域が存在します。この水深で、遠くまで届く性質を持つ人間には聞こえない低い周波数で声をやりとりしています。そこにデータを載せて制御というのが船長さん達の見解です。従って、本船で探すとすれば、その深度の水中で呼びかけるか。或いは、彼らは南極と同じ構成を取っているなら起爆メカを背負っていますから、呼吸に出てきたクジラに機械がないか観測するか。いずれにせよ全地球規模で探す必要があり、広すぎるのが難点かと」
 正面スクリーンには太平洋を中心とした地球が映っている。現在アルゴ号は本部で相原に応急処置を施した後、宇宙空間へ逃れている。なお相原は肩を脱臼していた。肋骨に肩に……なるほど船長の言う通りこのままでは彼は文字通り壊れてしまう。
 その肩を見ていると相原と目が合う。
「テレパスは」
「距離に限りがあります」
「南極で苦しがっていると言ってたね」
「無理矢理異物を仕込まれているので、呼吸器系を圧迫されているか、消化器系を圧迫されているか、いずれにせよ苦しいのだと思います」
「そういうクジラを他のクジラに探してもらうことは可能か?見つけたら教えてくれと伝言を依頼する」
「え?」
 可能だ。それがテレパシーの答えである。および、魔女の仕事。ただし。
「私がその頼んだクジラのそばにいる必要があります」
「出会ったクジラに片っ端から呼びかけて、遠距離伝言で広めてもらうんだ。そういう個体を見つけたら魔女に知らせろ」
「なるほど判りました」
「で?クジラはどう止める?そもそもどうやって身体の中に?」
 アリスタルコス。
「出産経路を拡張して中に押し込んだか、喩えが適切か判らんがボトルシップのように中で組み立てたか。まぁ取り出せば起爆するだろう」
 とは相原。
「起爆回路の動作は私が止めることができる……」
 と、アルフォンススは言ってからうーんと唸った。

(つづく)

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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -135-

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 刹那、相原に抱きかかえられたかと思うと、衝撃と共に爆風で突き飛ばされ、ガラス戸を通り抜けた辺りから凄い勢いでぐるぐる回る。玄関先に放り出されて地面の上を転がったのだと理解する。
 回転が止まり、起きて相原の腕の中から抜け出て振り返ると。
『私が御する』
 アルフォンススの声。爆風で中空へ吹き飛ばされながらアルゴ号を脳波で制御。光圧シールドチューブが水平に走って、地下から盛り上がる火柱を文字通り吹き消してしまう。次いで船は帆を広げ、宙を舞った男達は順次その上に落ちてトランポリンのように数回跳ねて受け止められる。アリスタルコスと、アルフォンススと……。
「ラングさん?……」
『ここだよレムリア』
 大穴が開いて丸見えの地下だと判じて近づくと、ゴーグルを外したか吹き飛んだか、煤だらけの黒い顔で下から彼が見上げる。爆発したのは地下の電力プラントであった。クリーンエネルギーで命を守る研究開発をサポート、とか太陽光パネルが並んでる写真をウェブサイトで見た気がするが。
 この島のどこにもパネルは見えず。まぁ、表向きなのだろう。要するに〝全てがウソ〟だ。
「原子力発電だが、まぁ、白亜の炉を壊したら燃料は届かないな。以後、非常用のディーゼルでやっていたようだな。で、南極もバレたから放棄逃亡と。防衛装置だけ電池で動かしてあわよくば、あたりか」
 ラングレヌスは手を腰に『やれやれ』という風情。
「どこへ逃げたか、何か隠したものはないか、持ち去ったものはないか。テレパスで何か探れないか?」
「はい」
 飛び降りるとラングレヌスが受け止めてくれる。運動能力の差違によって毎度世話と手間を掛けている気がするが、それで当然というか気にならなくなってきた。みんな気にするなと言うので遠慮する方がワンテンポ遅れる。ただ、アリスタルコスの敏捷さは可能な範囲で取り入れたい。
 イヤホンからピー。警告であり、ゴーグル内で一酸化炭素の数値が跳ね上がる。この爆発は発電燃料に着火したもので、そのの不完全燃焼か。滞在可能な時間は5分。見回すと概ね焼けぼっくいだが、エレベータシャフトだけは形状を維持して残っている。建物で一番丈夫なのは〝空洞で下から上まで繋がっている必要のある〟エレベータシャフトと聞いたことがある。ちなみにエレベータケージは変形して斜めに引っかかったようになって地下フロアにあり、そのドアは中からこじ開けた様な壊れ方をしている。腐食の痕跡というか、変色した部分があり、例のゾンビ兵が力任せをし、3階まで階段で上がってきた、ということか。
 どうでもいいが。
「海の匂いだ」
 相原。上空の見張りも兼ねているので船の甲板から。
「繋がってるぜ」
 アルフォンススが指さす先で水面が揺れ動く。地下は原子力発電の冷却も兼ねてであろう、海まで水路で直結しており、潜水艦が出入りできるドックの構造。思念の痕跡をサイコメトリ(Psychometry)能力が教えてくれる。大声を出してくる鉄の塊……多分潜水艦、そして。
「クジラを、ここから出しています。苦しい気持ちが8頭」
「核爆弾か、生物化学兵器か、抱えたクジラが、遠隔で音波指令を受けつつ、時速60キロで深海を世界のどこかへ向かっています、か。いつ出発したのか判るか?」
 相原に訊かれる。それは気持ちの強さの故に濃く残っているが、経過時間までは。
 イヤホンにピン。
『わたくしです。本船がテロリストとして国際手配されました』
「邪魔者は消せと」
「上等だ」
 相原がそれこそ銃器をガシャンと言わせる。温厚そうなメガネの青年は義憤に駆られた騎士として今、大男達と互して立っている。

(つづく)

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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -134-

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「痛って。クソが」
「クラスターか」
 クラスター(cluster)弾。小型の金属球多数を爆風で吹き飛ばし殺傷能力を高めたもの。
 刹那。
 赤ランプが点滅してブザー。まぁ、何かするのであろう。この手の音と光は応じてパニックを惹起するが、それも意図してのモノか。
 フロア各所の柱がドカンドカンと爆発する。柱を壊せばその上が落ちてくる。
 3階から上を落下させて潰すつもりであろう。ラングレヌスがプラズマを床面に放って穴を穿ち。
 更に下層へ。アリスタルコスが斥候し、アルフォンススが続き、レムリア、相原、ラングレヌス。
 再びレムリアを真ん中に隠したフォーメーション。自分より大けがの相原が守られるべきだと思うが、まぁ聞いちゃくれないだろう。
「さて最後に必殺の罠があるのかな?」
「つまりやり過ごせばそれで終わりと」
 1階。そこはなるほど、病院・研究所の対外窓口然としており、ガラスドアの出入り口と窓があり、照明は不要。受付や打ち合わせのブース、壁には出資者の肖像や、注射を打ったりベッドで点滴等の〝いかにも〟な場面の写真が掲げられている。
 ただ、その全部がウソと。
 イヤホンにピン。ピン2発は緊急。
『地下。高温高圧。爆発するぞ』
「底が抜け天井落ちて挟み撃ち、と」
 相原は言って(川柳だがレムリアは与り知らぬ)、ゴーグルを外して血を吐き捨てた。テレパシーの曰く殴り飛ばされた衝撃で口の中を歯で切った。
「相原命令だ従え。レムリアを連れてそこから出ろ。それ以上ケガされたら君のお母様に申し訳ない」
 アルフォンススの言に相原は笑って咳き込んで血を吹いた。そこ、とは一般向けであろう玄関のこと。
「従うよ。無事に戻るんだぜ。ラング、交換」
「おう」
 2人は銃を交換し、相原は銃身の下にくっつけてあるアタッチメントを外して銃口にセットした。その先端に挿したのはワイヤーハーケン。
「レムリアは相原にしがみつけ。相原、姫を頼むぞ。姫は相原を頼む」
 とはアルフォンスス。相原は銃の肩掛けベルトをレムリアの両脇の下に通し、銃を構えた。
「行くぜ」
「はい」
 レムリアは自分も両手で銃把を掴んだ。少しでも相原の身体に掛かる負担が軽くなるように。
 爆発音がし、床面が〝ボコォ〟とばかり盛り上がる。
 その瞬間、相原は正面玄関と思しき方向へプラズマ銃を放った。ハーケンが飛び出し、びょうと音を立ててワイヤが走り。
 ワイヤを火の玉が追い越して入り口ガラスを溶かすとハーケンがそこを突破。次いで自分と相原がワイヤに引っ張られて男達の間から引き抜かれる。銃のベルトが身体に食い込んで一瞬息が止まる。
 すっ飛んで行く自分達。立ち上る火柱に飲み込まれる大男達。

(つづく)

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【理絵子の夜話】空き教室の理由 -85-

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「オン キリ キャラ ハラ ハラ フタラン バソツ ソワカ」
 理絵子はこれを3回唱え。
「オン バサラ ドシャコ」
 更にこう付け足し、指先の異物を弾き飛ばすのと同じ動作で中空を弾き、伸ばしていた錫杖を縮めた。
 これは九字による封じを解く動作に相当する。九字は本来極めて強力な念動力の発動に用いるものだ。安っぽく使うと副作用の方が大きい。ちなみにここでもし、理絵子が封じを解かなければ、死神によって一時的に除された内川の意識が封じられたままとなり、いわゆる植物状態と同様の状況に陥ったであろう。
 なお付け加えておくが、理絵子は念動そのものは持たないが、力の挙動すなわちベクトルそのものは感じられる。その程度の能力を持たない者が上記技法を安易に用いるのは避けた方がよい。その点でプロセスの明記は避けた方が良いのかも知れぬが、恐怖の深淵より自らを救出するに適することもあり、全様相を記録した。
 静寂。
 内川は無論のこと、マスター始め、担任、桜井優子も失神して横たわっている。
 僅かに聞こえる声を頼りに理絵子は携帯電話を探し、手に取る。
『もしもし、理絵子?大丈夫か理絵子。教頭に何か……』
「大丈夫。お父さん。終わった」
 理絵子は言った。
『間もなく着くぞ。警備会社から警報とあるが大丈夫なんだな?』
「うん。でも早く来てね」
 理絵子は電話を切った。
「……っああ!」
 マスターがスイッチを入れられたように上半身を起こした。
「なんだ今のは、落雷か?火の玉が飛び込んできたように見えたが」
 全身にまとわりついた埃を払い落としながら言い、溜め息一つ。
 理絵子は電撃の如きものの正体が、死神によってこの世と“あの世”とが繋がった際に生じた強烈なエネルギーの擾乱であり、それが意識より精神神経回路に飛び込み、彼らに失神をもたらしたのだと理解した。理絵子は頭痛で済んだものが、彼らには失神にまで至ったのである。それは肉体的メカニズムとしては、驚愕や絶望などのショックによる失神と同一。
 と、窓から淡い光が射し込む。風で開いたカーテンの向こうから、遅く昇ってきた下弦の月。
 理絵子はその月光の中、砕けたピアノのなかに散らばる夥しい数の写真を見いだす。
「なんだこれ?」
 マスターが手に取る。理絵子は見たくなかった。見なくても判った。
「これ……こいつ……まさかこれ全部か?」
「教頭の威光をかさに着たケダモノの証明」
 理絵子は、言った。

(つづく)

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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -133-

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「ガイコツのまま動くんじゃねぇだろうな」
 アリスタルコスが距離を取る。肩を大きく動かし、流石に息も絶え絶え。
「アルゴナウタイが、ガイコツ兵士に負けたら、メディア姫を助けられんぜ」
 とは、レムリアの足下で動き出した相原。それは神話のアルゴ探検隊のエピソード。
 ゴーグルの向こうは血まみれだ。頭に傷?
「左腕が動かん。息が苦しい。折れた肋骨がズレたかもな。バンドと宇宙呼吸器様々だぜ。さて脳みそが腐って出てこないのは頭蓋骨の中に別のモノが入ってる。大方爆弾だろ。リモコンの反応が無くなったらドカンじゃないのか。逃げようぜ。ラング、悪いがプラズマで床に穴を開けてくれ」
「おう」
 ラングレヌスはプラズマをリング状に広がるモードで足下へ向けて数発放ち、床面に穴を開け、下層へ貫通させた。
「急げ」
 〝ドロドロ〟と〝ガイコツ〟に成り果てたゾンビに銃を向けながら、自分たちに行くよう促す。盾になると。
 一方、下は暗闇だが安全かどうか気に掛ける暇はない。アリスタルコスが飛び降りて銃を構え、ハンドサインで来いと言い、そこでレムリアはレールガンを構えたままアルフォンススに足首を持って逆さに吊してもらう。
 アリスタルコスが彼女を片腕で受け取るが、レムリアによって〝銃を構える〟状況は維持できる。
 くるりと回転して立たせてもらい、レムリアは自らの超視力と銃のスコープ暗視機構を併用してフロアを見回す。感染症リスクを示すバイオハザードシールが見え、手袋の生えた透明なボックス(グローブボックス)や分析器。天井と床に大型の吸排気設備。各ボックスや機器の前に天井からぶら下がるエアホース。それらは簡単に言うと船の生命保持ユニットより更にハイレベルな感染症対策設備。
 その間にアルフォンススが降り、相原が床を這って穴から落ち、下で大男2人が受け止める。
「お手数を」
「いいってことよ」
「船長、相原さん。ここはBSL4の病原菌研究施設です」
 レムリアは言った。相原がレールガンをヒョイと取り上げる。
「え、でも慣れたから……」
「悪いが背丈の関係だ……だとすると不用意にここを壊すとまずいな」
「もう穴開いたけどね」
 レムリアは上を指さした。
「行くぞ」
 ラングレヌスが言い、男達3人が背中合わせになってレムリアを囲み。
 穿った穴からラングレヌスが飛び降りると同時に爆発2回。
 ただ、その、爆発がもたらしたのは熱と爆風ではなかった。
 ざあっ。擬音で書くとそうなる。3階から2階天井を無数の弾丸が貫いて穴だらけにし、応じて自分たちのウェアにも幾らか着弾した。

(つづく)

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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -132-

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 ゾンビ兵の注意を引くために。
 一瞬でいいからその動きを止めるために。
 彼がその銃FELを撃つ場合、引き金を引く動作は必要ない。電磁的に連結された銃器は彼の身体の一部であり念じるだけで良い。
 果たしてゾンビ兵は動いたアルフォンススに気付いて(生き物ではないので反射であろう)、目を向けた。
 その刹那。アリスタルコスは両手の指をゾンビ兵の目玉に突き立て。
 生命反応のないゾンビ兵をFELから無数のビームが走って穴を穿ち。
 行動不能に陥ったところで、ラングレヌスを襲っていた方に背後から殴りかかる。2人がかりでタコ殴りだが、殴ってダメージというより、衝撃で少しずつ組織を削り取って行く作業に近い。ゾンビは双子にそれぞれ片腕で対応した後、何と目潰しを食らった片方の〝身体〟を盾に取り、あまつさえは振り回し始めた。
 そんな男たちの時間稼ぎの間に、レムリアは相原の腕からレールガンを手にすると、うつ伏せで銃底を肩に当て、〝無照準防衛発砲〟で引き金を引いた。寝そべって撃つスナイパーの見よう見まねだ。パンと音がし、反動が肩に食い込み、身体が後ろへズッと動く。が、アルミの塊は暗幕と窓を一気に貫通して外気を呼ぶ。
 これで初めて銃を扱ったことになる。船の銃器は人を撃てない。それでもどこか抵抗があり、忌避感を持っていたもの。
 だが、たった今、それは使うべきもの。こいつらは〝救助支援機器〟。
 今使わずにいつ使うのだ。レムリアは立ち上がり、足を前後に広げて踏ん張りを利かせると、その引き金を引きっぱなしとし、要するに闇雲にアルミの弾丸を撃ちまくった。
 フロアの窓の前後あちこちをドカンドカンと音を立ててアルミの塊が打ち抜き、強化ガラスのようで粉々に割れる。吹き込む風が暗幕を翻して外界の色をもたらし、ついでに天井に向けてもぶっ放して陽光を導入する。
「少し残せ」
 アリスタルコスに言われて夢中になっていたことに気づき、指を離す。コンクリ片が散りしだき、今や室内は場違いなほど爽やかな海風が吹き抜ける状況。二酸化炭素は吹き流され、あっという間に酸素濃度が20%近くに上昇。
 ゾンビ兵は無数の穴からじゃぁじゃぁと青い漿液……保持の薬液であろう……を吹き出し、その全身からは急速な腐敗進行によると見られる煙が上がっている。急速にドロドロした何かになって床面に広がり、固い部分……要するに骨格だけの状態に変わって行く。ラングレヌスの相手も同様に煙を上げて軟体化を始め、程なくその動きが止まった。
 元々腐っていたモノがその元の姿に戻って行く。

(つづく)

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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -131-

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 居並ぶベッド群の中へ放り出され、失神状態で二転三転。レムリアは彼に向かって走り出そうとしたが、アルフォンススが捕まえ、巨躯を被せて床に伏せる。
 その腕の隙間からレムリアが見たもの。
 高濃度二酸化炭素の空間で動くことが出来、しかし自分のテレパシーに感応せず。
 電子機器なら感じ取れるアルフォンススですら気づけなかったもの。
 ネアンデルタール人の復元図のような筋骨を備え、カビの繁殖を思わせる青緑の皮膚。2体。
 動いているが生きていない。
「ゾンビだ」
 アルフォンススの乾いた声。〝それ〟は死んだ人体を改造し……クジラリモートコントロールと同じ方法で神経系に電流を流して遠隔制御……アルフォンススの推定。
 リモコンのゾンビ兵。応用したのがクジラか、その逆か。
 その〝目〟が自分たちを見たと思った次の瞬間、視界に割って入ってくる2人の大男。
 ゾンビ兵2体の動く速度は異常という以外の何物でもなかった。
 凄まじい速度でその手足は動いた。ネコの反射と駆動速度であった。対抗できるのはアリスタルコスだからこそであった。彼はその〝ニンジャ〟の反射神経で殴る腕を撥ねのけ、蹴る足を躱し、今度は自身が飛び上がって回転蹴りを顔面に与える、が、びくともしない。
 と、書いたが、ここまでの動きは1秒以内である。レムリアは超感覚によって起こった事象を後から動画に起こし直して確認することが出来る。リアルタイムをスローモーション化して認識できると書くか。1人だけ時間の進み方を可変出来るような感じである。
 一方のラングレヌスは要するに〝ボコボコ〟に殴られているのであるが、特異な肉体のせいか、その衝撃で少しずつ後ずさりこそすれ、相原のように吹っ飛ばされるまでは行かない。
 アルフォンススが腕と一体化した銃口を向けるが、ゾンビ兵の動きはあまりに速すぎ、双子を避けて照準発砲という時間が取れない。
 青黒い液体がピシャピシャ周囲に飛び散る。死体を制御しているだけなので、保持する薬液が末端の細胞までは行き届いていないのか、壊死分解した組織片が少しずつ飛び散っているのである。であれば。
 レムリアはその故に逆に酸素があると一気に腐敗すると予想した。二酸化炭素濃度が高いからこそ使える〝生きてない〟兵士。
 この部屋に外気を導入すると?
「船長、私を相原さんのそばへ投げ出してください。銃で壁に風穴を開けます」
「君が銃を?……判った」
 アルフォンススは、一瞬躊躇しつつも、レムリアの身体を、床面滑らすように投げ出し。
 自らは銃を突き上げて雄叫びを上げた。それは傭兵だという普段の彼を思わせるウォー・クライであった。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】虫愛づる姫と姫君 -19-

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「操舵室。コンクリの広いスペースに下ろして。昇降口から皆さんを収容する」
『了解』
 さてこの船は地上への発着において空気圧を利用し、応じて周囲に暴風が生じるのであるが、子供達と畑がある中で竜巻レベルの風を出すわけにも行かぬ。
「滑空降下する。所要10秒」
『了解』
 レムリアは答え、森宮のばらの手を引き昇降口そばまで移動し待機。滑空というのは要するに補助動力として「帆」を持っており、これを水平に広げてグライダーのように使うことを言う。
 昇降口わきの液晶モニタをオンとし、屋外を伺う。子供達は泣きじゃくっており可哀想だ。5秒10秒が長く、惜しい。
 さてこの時レムリアとしては違和感を覚えている。自分の魔法……ムーンライト・マジック・ドライブは「操る者が何らか意図持ち行動している時」それを促進するように、周囲にいる生き物に働きかけるような作用をする。すなわち意思持つ動物は支配下に置いて意図通りの行動をさせることが出来、だからイヌネコは従うのであり、そして脊椎動物以外の節足動物や昆虫は魔女の行動を助け、意思達成を妨げる者を妨害する。前述の事件で教室に現れた大量のゴキブリもそうした作用の一環だ。その時は凶器持つ者が人質取ることを恐れたのだが、ゴキブリによって誰もその者に近づけず、その者も動けなかった。比してこの場合、ハチは魔女の意図を汲んでただちに雲散するべきであるが、そのような動きは見当たらない。ハチたちの怒りの故に魔法が奏功していないのか、
 それを自分たちで解決しろ、する意義があるという大いなる意思の故か。
 着艦。
「のばらちゃん!」
「はい!」
 二人は昇降口が開くと、スロープが延びる間も惜しく陽光の下に飛び降りた。森宮のばらは虫を追いかけていたせいかそうしたアクションに躊躇はないようであるが、にわかベジタリアンの生活が長かったか、着地した時にバランスを崩して前のめりに転んだ。
 が、痛いも言わず立ち上がる。
「しくじった。大丈夫だよ」
「オッケー、みんな!こっちへ!助けに来た!」
 手を振って誘導を試みる。その間に森宮のばらは走り出し、子供達に声を掛けつつ、ハチを手で追い払う。みんな、あの船へ行って!
 レムリアも行きたいがすべきことがある。わんわん飛び回るハチは数百。子供達はざっくり30。
 この空飛ぶ船は救助に“奇蹟”が必要な場所・状況において、超能力と科学を集結して実際奇蹟を起こしてその目的を達成するために存在する。彼女は魔法担当である。一方、科学力の代表として、救助活動の妨害・障壁の排除に備えた、“支援機器”と称する、有り体に言えば高速高出力の銃器を幾らか搭載している。

(つづく)

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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -130-

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「何があると思うね?」
「とりあえず、誰かいる感じではありません」
 レムリアは答えた。予感というかテレパシーの囁き。ここに、アルフォンススの言った〝自分を必要とする深刻〟は〝無い〟のではないか。
「とりあえず、ぶっ壊せ」
「上等。破壊と同時に全員突入」
 アルフォンススが指示し、ラングレヌスが外部からの侵入時と同様に火の玉でロックと開閉機構を溶かし、アリスタルコスとアルフォンススが体当たりしてドアを外した。
 2人は銃を構えるが中は予想通り真っ暗。
 それは、違和感が増幅する一方の静寂。
「典型的な罠だな」
 アリスタルコス。レムリアはテレパスを可能な限り感度を高めた。ここには〝人体〟がある。だが、〝命〟はない。ゴーグルの暗視モードで多数ベッドがあり、そこに〝人体〟が多く並んでいると分かる。だが所詮古いモノクロ写真のような見え方。
 刹那。照明が灯って明るくなる。それは暗視装置を経由すると目を射る照度になる(つまり目潰しになる)のだが、ゴーグルは一瞬遮光してそれを防ぎ、徐々に視界を明るく変えて行った。
「言葉もねぇぜ」
 ラングレヌスが言い、全員で呆然。
 暗幕で遮光された中に並ぶ多数のベッド。それらは水槽のように四角く透明なケースが被せてあり、中で苦悶の表情のまま息絶えた人体。
 実験を受けた人体はそれぞれ身体の各所に何らか〝繁殖〟させられ、ひどい壊死、腐敗などを呈していた。
 彼らを絶命に至らしめたのは実験の結果ではない。高濃度の〝二酸化炭素〟こそは。
 〈セレネさん〉
 〈ええ、この事象と思われます〉
 大きな悲しみの正体。そして〝急ぐ〟ことを求められなかった、及び、自分の力など必要ない、理由。
 その時。
 感度を高めたテレパシーが相原学の違和感を捉える。背後で〝ぺちゃ〟という、腐った果実が固いところに落ちたような音がした。
 誰かが、何かが、いる、とはテレパシーは言ってない。
『オーディオマニアだからさ』
 個室で聞いた話。彼は聞こえたのだ。レムリアは結論し振り返る。より一瞬早く、相原が自分の後ろでレールガンの銃身をナタのように振り上げた。
「この化け物め!」
 ゴリラのような〝何か〟が、自分を背後から殴ろうとしたところへ、相原が身を挺したのであった。
 応じて彼は殴り飛ばされる。耐環境ウェアは戦闘に備え、ラングレヌスの肉体構造を模して防弾である。銃弾を受けた場合瞬間的に硬くなって貫通を抑止し、運動エネルギは波紋のように広がって吸収される。だが丸ごとどこかに叩き付けられるのは話が別。

(つづく)

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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -129-

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 しかしすぐ落ちるわけではない。エレベータはワイヤが切断すると、ケージの振動防止に設置されている、〝ガイドレール〟を締め付けるブレーキ装置が作動して停止する。金属同士の接触するガツンという音が聞こえ、次いで擦れるキーキーという音を立て、エレベータケージの急停止を教える。
 屋上と3階の間。ただ、ケージと重量バランスを取っているカウンターウェイトは落ちたようだ。ドーンと残響を伴い若干振動する。
「テレパス」
「誰もいないようです」
 レムリアは即答した。
「相原、銃を変えろ」
「プラズマ?」
「そうだ」
 ラングレヌスが相原と銃を交換。ラングレヌスがプラズマ。相原はレールガン。
「オレはコイツを落とす。お前らは先に行け」
 ラングレヌスはそう言うと、ドアパネルの穴をもう少し拡大し、そこから中へ、すなわち途中で止まったケージの上へドンと飛び降りた。衝撃で少しだけ動いて、噛んだブレーキからギャッという嫌な音。
『生命反応、武器、ロックオン反応なし』
「任せた。行くぞ」
 アルフォンススの指示で階段を駆け下りて行く。階段はエレベータシャフトに隣接して配されており、男達は一段抜かしで飛んで行くよう。アリスタルコスに至っては最早姿が見えない。ただレムリアも身軽さが奏功してか、アルフォンススの巨躯を見失うほどではない。
 二酸化炭素が濃度を上げて行く。
 3階のドア前。エレベータシャフトの中で発砲音がし、爪で黒板を擦っているような、耳に痛い金属音。
 彼が火の玉でブレーキシステムを溶解させ、ケージがガイドレールと擦れながら動き出した。
 『3階エレベータのドアを破る』
 金属音が通過し、火の玉を受けた3階のエレベータドアが円形に赤熱溶解し、突き破ってラングレヌスが転がり込んでくる。
 エレベータケージはガイドレールを外れたようで、あちこちガンガンぶつかりながら落ちて行く。
「熱いぜ」
 ウェアに付いた溶けたドアのカケラをぱっぱと払い落とす。ただ、その動作は、してもしなくてもいいような、マンガじみたオーバーアクションに見えるのは、彼の特性もあろう。
 下でドンと落下音。ちなみにエレベータは落下事故の最後の手段として、最下部に大きなバネと衝撃吸収用のダンパ装置が付いている。
 イヤホンにピン。
『衝撃と電力の急峻な変化を検出。大丈夫ですか?』
「エレベータを破壊したためかと」
『了解』
 ドアに向かって銃を構える男達。ドアは相原の認識を借りると〝半導体ラボ〟のような気密性の高い開き戸のようだ。窓のない一枚板で、なるほど隙間は空気の出入りが感じられず、中から光が漏れてくるようなことはなく、向こう側、室内は暗いとみられる。

(つづく)

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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -128-

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「判りました」
 男達は屋上部の鉄扉に向かって銃口を向けた。相原の言った〝やったろうぜガチャン〟そのものである。
「ノブ、ロック部、ヒンジ部をプラズマで打ち抜いて溶かせ」
「アイ」
 プラズマ銃を抱えているのは相原だ。パン、パン、パンと音がして鉄扉のドアノブ部位と蝶番の位置に穴が空き、扉が支えを失って奥方へ倒れる。
「センサ感あり。迎撃されるぞ。レーザ」
 ドアパネル向こうの暗闇で何かが赤く光ったと思った次の瞬間、アリスタルコスの手先から無数のレーザ光条が突っ走り、応じて小さな煙や火の玉がチラチラする。対侵入者銃撃用の銃砲が無力化されたと理解した。
「全自動か、遠隔か」
「なるほど。外見ほど平和じゃねぇ(So, it's not as peaceful as it looks.)」
 レムリアは男達の口調で呟いた。
「いいノリだレムリア。だが無茶すんな」
 中へ入ろうとするとレムリアの端末……目の前のアームに付いてる小さなスクリーンに警告。
「炭酸ガス。高濃度。このまま入ると窒息します」
「総員ウェアを宇宙モードに切り替えろ。各自銃の燃料電池システムとガス交換システムを接続」
 銃の電源は燃料電池である。ここから電源をもらってウェアに仕込んである人工光合成システムを駆動し、呼気中から酸素を取り出す。酸素が不足した場合は燃料電池の発電用酸素を分配する(もちろん、その分だけ銃の駆動時間は減少する)。
「レムリアはリュックサックの底にシステム一式入っている。ウェアの後頭部にガス交換チューブをつなげ」
 その作業は相原が後ろに回ってやってくれている。
 〝空気の味〟が変わった。正直長く吸いたくはない。
「大丈夫です」
「行くぞ。突入」
 大男達が銃口を向けながら入り、次にレムリアが足を踏み入れる。殿は相原。足下から奥手は真っ暗だが、レムリアの場合透視に近い力が働き、夕闇程度に見て取れる。隅の方にドロドロに溶けて落ちたカメラと機関銃のなれの果て。その他はエレベータと脇に階段。
 人、というか生命の気配はない。逃げたか隠れたか。
 エレベータの動作音。
「上がって来るぞ」
「ロクなもん載ってねーだろ。壊す」
 相原はエレベータのドアに向かって火の玉銃を構える。
「いや、ケージがドカンの場合もある。落とせ」
「アイ」
 アルフォンススの言葉に相原がドアパネルに穴を開けた。
 穴の向こう、上下に動くケーブル類。
「アリス焼き切れ!」
「おう」
 アリスタルコスがその穴からレーザを放ってエレベータを動かしているワイヤーを焼き切る。

(つづく)

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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -127-

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 船長の操作で画面が変わって。
「さっきのヘリコプターの運用歴だ。我々がマラッカ海峡にいたタイミングで……そばの島に来て戻っている。乗せる荷物を横取りされて引き返したのだろう」
「つまりそれは……人身売買船の行き先が……」
「奴隷商法ではなくブラックウォー島の、研究所と称する施設だろ。人を攫ってきて、つまり秘密にしてまでやりたい研究って何だろうね」
 相原は言い、レムリアは奥歯を噛みしめた。
「人体実験」
 アルフォンススはゆっくり頷いた。
「その通り。特定の人種を抹殺しようとしたとき、核爆弾による破壊では同胞も殺してしまうし、その土地が使い物にならなくなるのだよ。最も、ホロコースト礼賛系統はそれが目的の節はあるがね。すると?」
「この研究所では病気と治療の研究と見せかけてその真逆、特定の人種にのみ伝染し死に至らしめる病原菌兵器を開発している」
「ご明察。従ってこれから研究所を破壊するのが我々の責務だと自認するが、応じて多くの人々が深刻な状態で君の助力を必要とするだろう。ただそれが君の心身に深刻なダメージを与える可能性を私は危惧する。なので君に選択の余地を与えたい……」
「行きます」
 レムリアはアルフォンススが全部喋る前に言った。
「救える人を命を救う。無碍にされる命はあってはならぬが私の信念。私がこの船に乗ったのは、奇蹟を起こして命を救うためです」
 真っ直ぐ答える。心傷付いてナヨナヨしている時間はもういい。
 許せるかそんなもの。自分は最早、目の前で誰かに死なれても平気なメンタル。
「よろしい。副長、シュレーター、船内を任せる。他はそれぞれウェアに着替え、銃器、装備を持って昇降ゲートへ。目標建造物は鉄筋コンクリート3階建て。屋上ヘリポート部より強襲する」
「了解です」
「アイ」
 透過シールドで姿を隠したまま接近する。それは青い海に浮かぶ絶海の孤島であり、豊かな緑に囲まれた清潔な白い病院という体である。至って普通であり、怪しさのカケラもないように見える。小規模な港まで道路が通じる。見て分かる人工構造物はそれだけ。レムリアの知る限り、島が丸ごと病院施設で、自然の中を歩いて日光浴と海水浴と、安らかな時間の流れを……みたいな案内がされていた。
 突如姿を現してビルの上に船体を降ろす。スロープを下ろし、〝殺人研究所〟ビル屋上に降り立つ。
 まだそうと信じられないが。
「迎撃無し。敵味方識別装置反応無し」
「籠城して待ち伏せか?」
 以上双子から。
「レムリア。君の端末に環境データ、すなわち放射線、ガス、細菌、ウィルス等の検出状況が表示される。我々は武装と攻撃の無力化に徹する。要救護者の発見に全力を挙げてくれ。都度で君に手を貸す」

(つづく)

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【理絵子の夜話】空き教室の理由 -84-

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 電撃に似た何かが、激しい頭痛を伴い精神神経回路を突っ走った。目の裏がそれこそフラッシュバックよろしく一瞬真っ白になる。
 理絵子は目を閉じ歯を食いしばりそれに耐え、内川に目を戻した。
 野獣のような咆哮。

 狂。

 その一文字が頭に浮かんだ。たった今、内川の意識精神は別の何かに変わった。
 文字通り化物の怪力で内川が木材の山の中から身を起こす。うず高く積み上がった木材片を周囲に飛び散らせる。
 理絵子は錫杖を化け物に向けた。
 その目は炎のようであり、口は内部に深淵を蔵す。超感覚の捉えた様相がそのまま肉眼次元に反映されている。化け物が口を開いたその様は、眼窩に火を蔵した髑髏そのもの。
 その正体を理絵子は知っている。狂気に乗じ、憑依して現れ出た魔界の住人。
 死神。
 この世に出してたまるか。
臨兵闘者皆陣列在前りんびょうとうしゃかいちんれつざいぜんうん
 九字を切るという密教の行為を、火渡り儀式などの冒頭でご覧になった方も多いであろう。理絵子は今まさに錫杖を用いてそれを行った。上記のように唱えながら、銀色のリングが空中に格子状の幾何学模様を描く。意味は『兵に臨んで闘う者皆最前に列をなし鎮座して在り』、といったようなもので、字面から“総動員”的な意味合いがあることが読み取れよう。
 更に
「バン、ウン、タラク、キリク、アク、ウン」
 唱えながら星印の五角形、ペンタグラム(五芒星)を描く。陰陽道おんみょうどう安倍晴明あべのせいめいで知られるが、密教でも用いる。九字で描く幾何学模様と合わせてセーマン・ドーマンなどと呼ばれる。なお、こうした両者の密接な繋がりから、理絵子は神道・陰陽道の方も少々独学で知識を得ている。

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 更に再度九字を唱える。但し幾何学模様ではなく、胎蔵界大日如来たいぞうかいだいにちにょらいを意味する、アーンクと呼ばれる梵字を描く。
 この3つの動作で、狂にある内川に現出した死神を、理絵子は封じたことになる。
 理絵子は錫杖で内川を、その向こうに存在を現した死神をまっすぐに指し示す。拳銃で狙いを定めるように、照準装置のロックオン動作に似て。
 背後に存在を感じる。女の子達であり、もうひとり、強く大きな存在。
 光の柱と理絵子は捉えている。太陽柱現象を想起させる、縦に長い楕円形の発光体である。三つが小さく、一つは大きい。そしてその一つは光が強い。
 死神が去ると判る。この世への現出を諦念し、己の世界に帰ると判る。髑髏の口が……口惜しさか不敵さか、笑みを刻み、その存在感がフッと消失した。
 狂のゆえに、羆の如く仁王立ちしていた内川の身体がくずおれた。

(つづく)

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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -126-

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 偽名で表記する。ブラックウォー島。南半球とだけしておく。10キロほど離れた海洋上にアルゴ号は普通の船然として浮いて停船している。
「こことつながっていますと」
 正面スクリーンの画像を見て相原が言った。
「ここには伝染病の国際共同研究所が……」
 レムリアは言いかけ、鯨プールと同じだと判断した。この島の名であるブラックは肌の色から来ている。植民地政策で虐殺、もっと言うと、列強富裕層向けに〝人間狩り〟が営業されていた。その〝罪滅ぼし〟がこの研究所なのだが……白亜の国にとっては疑われない隠れ蓑ということになる。
 アルフォンススが画面上に何か図を出す。四角形で囲まれた人名か組織名と思しきものが相互に線で結ばれている。船に作成を命じたという相関図、か。
「レムリア、人類が犯した人種差別的な政策二つ、思いつくものは?」
 アルフォンススの口調が厳しい。
「ホロコースト、アパルトヘイト」
 答えると、アルフォンススは頷いた。
 レムリアは目を見開いた。特定の人種至上主義・原理主義は21世紀をして人目を避けつつ存在し続けているのは知っている。
 それらが素性を隠し、地下に潜って最新の軍事技術を獲得していたら?しかも。
「ネオナチと白人優越主義がつながっている、ということ?」
「だけではない。パレスチナやゴラン高原へ行ったことは?」
「あります……ということは、それらと中東の反イスラエルが結束ですか……」
 その地の非国家主体の名が相関図にあり、アルフォンススがポインターで示す。そこから、白亜の国に資金が流れている。その見返りこそは、反米・反イスラエル・反キリストを掲げて割拠する各非国家主体が、喉から手が出るほど欲しいもの。
「プルトニウム」
「そうだ。ただ、それは表面に過ぎない。こっちは得た資金でクジラを音波制御の自爆テロ犯に仕立てて、何がしたいか?白人優越は狂信的なキリスト教原理主義と結びついて世界中にいて、旧植民地主義国、合衆国やロシアもだ。政権中枢に食い込んで、国際輸出管理レジームの枠を超えて喜んで横流しする」
「船長言いたいこと言ってくれるじゃねぇか」
 困惑しているアングロサクソン……金髪碧眼の双子。
「ロシアの船に欧州の迎撃システム乗せて合衆国のガンシップ運用しているのだが?」
「ああ、はい。言い返す言葉はねぇよ」
「レムリア。君に尋ねたのは他でもない。こういう背景があることを認識してもらいたかったのと、先日の日本の女の子は何かあったら本船で救助に行ける状態になっているか?」
「ええ。はい。連絡先は相原さんの携帯に残していますし、本船に関する記憶もそのまま残して……何か関係があると?」
 レムリアは胴震いした。こんな世界規模の人種差別組織に、自分より歳下の女の子がマークされる?

(つづく)

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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -125-

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「抗いようのない命を弄んだからだろ。しかもリアルタイムで意思を通じている相手が。君が優しい証拠だと思うぞ」
「なのかな」
 確認しながら思う。自分、出会って2回目なのに全部晒している気がする。その中で事実ひとつ、この男は自分の全てを肯定してくれる。
 アルゴメンバーと彼がちょっと違うところ。能力を発揮して所要の結果を出せ、に、対して、女の子メディアとしての個性や価値観を押し殺すな。
「船長……アリスやラングが顕著かな。銃口向けられても面白がってる節すらあって、冗談で笑い飛ばそうとする。あなたもそうみたい。対して私はこの船で活動していて笑ったことは無いかも知れない」
 すると相原学はちょっと顔を近づけて来た。
 じっと目を見られる。
「自分で自分を責めるクセあるか?良くないぞ。君は君なりの方法で命のアシストすればいいじゃんか。俺たちがへらず口をたたくのはそうやってカッコ付けるのが男だからだよ。デケェ銃を担いでガシャンおら掛かって来いや!映画で見たそれが実際出来るんだもん、やるさね。そんだけさ。真似する必要は無いし、そうあるべき、ってわけじゃない。だから無理して笑うな、だよ」
 相原は手のひらで頬にそっと触れた。
「あっ」
 その〝大きな熱さ〟にびっくりして声が出る。
「多分、俺たちは巨大な陰謀のしっぽを捕まえた。それは世界を守るようなことをしている。そういう自覚をオレは抱えてる。必要としてもらえた喜びにこの身が熱い。それだけさ。大きな悲しみを突き止めて、解決して、なぁ、一度東京に来てみないか?」
「え?」
 意表を突いた言葉にレムリアは驚き、そして笑みを作った。
「ナンパ?デートしろ?」
「そういう言い方もあるな」
 張り詰めていた自分の肩の力を抜いてくれた。レムリアは理解した。
「それにはまず、この白亜万歳の連中が何をしていたか、何をしようとしていたのか、突き止めないとだね、学」
「名前で呼ぶか?ええよ。その方がしっくり来る位だ」
 イヤホンにピン。
『問題無ければ戻ってくれ。情報に基づいて総意を集めたい……凄いぞ』
「アイ」
 音楽を止め、2人は部屋を出た。

(つづく)

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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -124-

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 相原が淡々と作業をするのをぼーっと見る。ハサミのような工具(ニッパー)で樹脂成形のプラグを切り落とし、ケーブルを左右に割いて二股にし、刃の間にたくさんの穴が空いたペンチのオバケのようなキカイ(ワイヤストリッパ)で噛むと、被覆が剥がれて芯線である銅の撚り線が露出。一方でプラスチック製の〝プラグ部分だけ〟の部品を手に取ると、ドライバーでねじを回して中を開き、剥き出した芯線をひねって〝?〟型にする。コンセントに刺される電極(ブレード或いは差し込み極)に電線と接続するねじがあるので、そこに〝?〟を巻き付けて止めると、芯線の先端がバラけないようにであろう、糸状の金属線をあてがい、はんだごてを押し当てる。金属線こそがソルダー・はんだであり、加熱用のこてであると理解する。

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「ちょっと臭うぞ。はんだの広がりを良くするフラックスという成分が蒸発する」
 煙が一筋立ってジュッと音を立てて金属線が溶け、銅の芯線をサーッと銀色に変えて行く。その臭い。
「松ヤニ?」
「よく知ってるな」
「軟膏や香油に入っている場合もあるから」
「なるほど」
 交換したプラグ部品を元通り組み立てて、コンセントに挿し、電源オン。
 トルコのポップス。
「わぁ、ありがとう」
「今後はこの白いところ(プラグ本体)を持って抜き差ししてくれ。これセゼン・アクス(Sezen Aksu:アーチスト名)か、ええもん聞いてるな。アジアテイスト好きかい?」
「こんな顔してるから……かどうか判らないけど、強さの中にちょっと寂しげな感じがあって。って、よく知ってるね。トルコの楽曲が日本で流行ってるわけじゃないでしょ」
「オーディオマニアだからさ。いい音いい声いい演奏、常に飢えてるから世界中探してるよ」
「何それ」
 レムリアは思わず笑った。すると。
「ようやく笑顔を見た」
 相原は小さく笑った。
「え?」
「あ、無理して笑えって言ってるんじゃないぜ。あんなもん、ショック受けて当然だろう。命の冒涜そのもので、君のしていること、したいことと真逆のベクトルだ。むしろ、こりゃ仕方ないで済ませてしまって、その後その先を気にした俺たちの方が残酷かも知れない」
 相原は少し慌てて言い訳する風に。確かにゲロ吐いた背景は彼の言うとおり。ただ自分自身引っかかっているのは。
「死ぬ……という現象に対しては、妙な話、慣れてしまっている部分はあるの。看護師資格を取ったボランティアは貧困、疫病、戦場、そんな所に行くから。対応しても既にとか、今まさにとか、こんな腕より小さな赤ちゃんがね。最初のうちは動揺して悔しくて……でも今は、端から見れば残酷な態度、文字通り魔女に見えるかもね。なのに、さっきのは……」

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】虫愛づる姫と姫君 -18-

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 と、意識に飛び込んでくるイメージ。子供達が集団で必死に走っている。何かから逃れようとして。
 林立している機器の一つが赤ランプを点滅させ、チャイムを鳴らした。
「Yes, this is Lemuria in the emergency room.」
 以下森宮のばらに通訳を要す内容については日本語で記す。
「子供達のパニックを感知した。救命ユニットは使っているか?」
 今日の乗組員はレムリアが突発で呼び出したこともあり、先のアリスタルコスと、操舵手でこの船の設計者であるドクター・シュレーター。野郎二人。船長権限がないと起動できないはずだが、まぁ、どうにかしたのだろう。
「彼女なら元気になりました。パニックの概況を教えてください」
 答えながら、ウェストポーチをゴソゴソし、ワイヤレスイヤホン近似の機械を耳に押し込む。この船の乗組員なら誰もが持つ通信セット、兼、一部船体の制御も可能。略称PSC。
「山道で多くの子どもたちが逃げ惑っているようだ。赤外線センサの反応だから詳細は不明。複数追われており相手は暴漢や熊のようなものでは無いようだ。日本、山梨県」
「日本?」
 2人は顔を見合わせた。
「センサの反応に現地画像を重ねて送ってもらえますか?」
 そして。
 レムリアはテレパシー能力をフル感度で働かせる。オーラライトが出て髪の毛が持ち上がるので、感づく人にはバレてしまうが仕方がない。
 画像は遠すぎてよく判らないが、激しく動き回る人と思しき点がいくつか、その点から激しい心拍を観測、というもの。
 そこからテレパシーが拾った意思は。
 -痛い。痛い!
 -そっち行ったぞ。
 -クソ!どれだけいるんだ!
 大人の女性、女の子、男の子。子供達は未就学から中学生程度まで年齢様々。頭を抱えて逃げ惑い、しゃがみ込み。
「ハチだ!」
 レムリアは声を上げた。
「現地に降下して下さい。どうやらハチの集団に襲われてる様子。行って対応する要あり。……のばらちゃん。子供達がハチに襲われてる。手伝ってもらえる?」
 森宮のばらに何の逡巡もなかった。
「もちろん」

6

 液晶画面には大声をあげて逃げ惑う子供達が映し出された。畑の多い集落の末端部で、ハイキングコースであろうか細い山道から降りてきた所、と見られる。路線バスの転回場らしく、少し広くコンクリートで舗装され、傍に待合所と思しき木製の小屋。
 その周りを子供達が悲鳴を上げながら右へ左へ。数名、大人の女性の姿が見え、頭を押さえ、追い払うように手を振り、その一方で子供達に逃げるよう促すような仕草。頭を抑えているのはそこを刺されたと見る。

(つづく)

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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -123-

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 そのまま相原に身を預ける。相原は少しよろけたが、自分の腕を引っ張って肩に回し、もう一方の腕を腰に回して抱き、自分を支えてくれた。何だろう、されるがままというか、頼ってしまっているというか、プロジェクトメンバーの中では自分に最も年齢が近いせい?まるで兄に世話される妹だ。
 イヤホンにピン。地球大気内に回帰。アルゴ号の場合、船体前後にチューブを形成してその中を進むので、従来型宇宙機で最大の危険を伴うイベント〝大気圏突入に伴う断熱圧縮による超高温〟は発生しない。
 自分の個室のドアを開ける。緊張が解けたか急激に吐き気が強くなり、奥にあるトイレに行って嘔吐する。相原は背中をさすってくれ、うがい用にとコップの水、更に一口飲めとミネラルウォーターのペットボトルを渡してくれる。
「横になり」
「そこまでは大丈夫」
 ベッドに座る。その間に相原学は「ちょっと」と個室を出、その〝はんだごて〟を取ってきた。電子工作用の溶接作業の一種と相原の認識で知った。小さな指揮棒のような、ソルダーアイロンと言っていたが、ヘアアイロンを小さくしたようなキカイであり、コンセント電源で加熱して使うものだと判る。スポンジの入った金属容器があり、相原がシャワー室へ行ってそこへ水を入れる。こてに通電して金属容器に立てかける。
 加熱に時間が掛かるというのでベッドの下からクッキーひと山取り出して「良かったらどうぞ」
「市販品じゃないね。作ったの?いただきます」
 相原は一つ口に入れた。
「試作中。救助先の子ども達とコミュニケーション取るのに食べ物って万国共通で強力かなって。栄養不良の場合も多いし。ところで〝いただきます〟ってどういう意味なの?」
「サクサクで美味しいよこれ。日本のいただきますというのは、食品って水と塩以外は何か生き物だったわけじゃん。その命の犠牲の下に生き続けさせてもらいます。そのお命頂きます、という命に対する感謝と贖罪。そして、調理を担った方へのありがとう、だよ」
「なるほど」
 レムリアは頷き、両の手をパチンと合わせた。教会孤児院で食事を共にするときは〝天の父〟に与えてもらった旨の祈りを捧げるわけだが、こちらは命に直接ということか。まぁキリスト教のそれは代わりに天の父が贖ってくれているのだろうが。
「んでコレだけどね」
 相原はクッキーポリポリしながらCDステレオを手に取り、背後の電源ケーブルを引き抜く。
「はい」
「これプラグじゃなくてケーブル持って引っこ抜いてるだろ」
「うん」
「だから根元にストレス掛かって断線しちゃうんだよ」

(つづく)

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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -122-

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 さて太陽系に最も近いブラックホールは、相原が命じたHDE226868、詳しくはそれと重力的に連結している〝はくちょう座X-1(Cygnus X-1)〟ではないのだが、太陽系円盤の真北の方向に位置している。太陽系の全惑星から最も早く遠ざけることが出来る、ということになる。
 画面に日本語がダラダラ流れる。
「前進と後退を同時に行い、船体位置はそのまま原子力船をエンジン推力で吹き飛ばす。光圧シールドチューブ形成。若干の振動を伴う可能性あり耐衝撃防御」
「レムリア大丈夫ですか?そのままそこで」
「はい」
 そのままセレネの言葉に甘え、副長席シートでベルトで固定。コの字に配された複数の画面(2-3-2の7面ある)に様々な情報が流れるが、セレネはその殆どをテレパシーで把握していると知る。何故なら乗組員の認知したことを直接感じ取れるからである。
「リアクター内温度推定マイナス82。リバーサー(出力反転機)作動、放逐開始までカウントダウン3秒、2、1、0」
 船体が前後に若干振動した後、太陽系の〝北〟の方向へ白い光の点が吹き飛んで行ったのが大画面に映る。凄まじい加速に船体も原子炉も耐えられるはずもないが、一気に潰れて金属の板で封じられたような状態の上、シールドチューブで覆われている。遠い未来に四散しても絶対零度の真空、核反応が起きる条件を満たさない。
「秒速44キロ。公転未使用での第3宇宙速度を突破しました。太陽系に回帰しません。目標到達まで約5千万年」
「了解。地球大気圏内へ帰還する。その間に情報を整理解析する。アルゴに命令。取得したデータより関連のある組織、人間、国家主体、非国家主体を抽出し相関図を作成して提示せよ。レムリアは終わるまで自室に戻って休養回復に努めろ。可能であればテレパスで得られた情報を整理して開示してくれ」
 以上アルフォンスス。
「ああ、じゃぁ自分付き合います。ドクター……はんだごてあります?ソルダーアイロン」
 相原が席を立った。
「ソルダー?あるにはあるが……どこか壊れた配線でもあったか?」
「彼女の持ち込んだステレオセットに断線があって」
 シュレーターは船自身と全く無関係な内容に目を見開き、笑った。
「直してやろうと。いいだろう。武器庫のロッカー19番。一番下の一番端だ」
「アイ……立てるか?無理するな。顔色が悪い」
「気持ち悪い」
 レムリアは言った。頭痛がし、胃袋を誰かに鷲掴みにされているような不快感。

(つづく)

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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -121-

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 船が猛火炎の中に飛び込む。一酸化炭素が多く、油起源の炎と判る。
「俺の顔を見て誇らしそうに死と滅亡を味わえとさ」
 アルフォンススが言った。
「船外温度815ケルビンです」
 セレネが言い、船外カメラの画角が大きく傾き、船体が横倒しになったことを知る。
「船底のみシールド解除し原子力船と連結」
「アイ」
 どん、という衝撃。
「オレには船長をどうにかしたら助けてやるとさ。一緒に戦わないかと」
 とはアリスタルコス。彼らは北欧の出自であって、仲間と見られた、ということであろう。
「磁気吸着確認」
「よろしい。INS使用できないため加速3G。大気圏外へ進行せよ。各部宇宙航行モード。相原確認し復唱せよ」
「了解。各部隔壁動作完全。漏洩なし。船内気圧保持、光合成還元システム動作正常、非常脱出カタパルト待機良し。宇宙航行モード遷移」
「宇宙モード。大気圏外へ進行します」
 セレネの冴えた声。
 宇宙へ出る……レムリアはゆるゆると事態を認識した。
 ★光合成還元システム:〝光〟を生み出す機関であるから、それを導いて呼気二酸化炭素から人工光合成で酸素を取り出し乗員の呼吸を維持する。
 ★非常脱出:操舵室だけ船外に射出される。

 4

 大画面は炎から氷の平原へ、そして青い空から漆黒へ暗転した。
「大気圏外赤道上空高度1000キロ。対地速度7.3キロ毎秒。船外カメラ遮光モード。座標系太陽系モード」
「地球とニュートン均衡。遠心力0.98G相当……レムリア大丈夫か」
 レムリアはリクライニングの背中を起こした。大画面に青い球体の一部が弧を描く。青と漆黒の間に挟まれた薄い薄い紙のような大気・雲の沸くエリア。
「原子力船のデータも船に食わせた。捨てろ。なお原子炉リアクターは緊急停止状態だが、内部温度は上昇傾向……猶予はないぞ。太陽系外と言ったな。どこにする」
 アルフォンススは相原を見。
「ブラックホール。アルゴに命令。天体HDE226868に向けて船外異物を秒速40キロで放逐する。当該天体と本船との相対速度を考慮し適切に加速射出せよ」
「おっと」
 相原が船に命じ、ちょっと驚いて舵から手を離したのはドクターシュレーター。命令を受けた船の主コンピュータ……人工知能が自動的に船を動かしている。〝船長〟の命令なのでシュレーターから操舵権を取った。
 宇宙空間なので上も下もないのであるが、太陽系の惑星はほぼ同一平面上に並んで公転しており、地球の南北がその円盤平面の上下に一致しているため、便宜上、太陽系円盤の上を北、下を南、と記す。船は原子力船を切り離し、船体を前後逆転させて原子力船の下に入った。船尾を原子力船に向ける。三次元挙動に伴い無数の星が目まぐるしく動き、太陽の光芒があっち行ったりこっち行ったりする。真剣に見ていると〝酔う〟と思われる、特有の気持ち悪さを惹起する。

(つづく)

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