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【理絵子の夜話】空き教室の理由 -85-

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「オン キリ キャラ ハラ ハラ フタラン バソツ ソワカ」
 理絵子はこれを3回唱え。
「オン バサラ ドシャコ」
 更にこう付け足し、指先の異物を弾き飛ばすのと同じ動作で中空を弾き、伸ばしていた錫杖を縮めた。
 これは九字による封じを解く動作に相当する。九字は本来極めて強力な念動力の発動に用いるものだ。安っぽく使うと副作用の方が大きい。ちなみにここでもし、理絵子が封じを解かなければ、死神によって一時的に除された内川の意識が封じられたままとなり、いわゆる植物状態と同様の状況に陥ったであろう。
 なお付け加えておくが、理絵子は念動そのものは持たないが、力の挙動すなわちベクトルそのものは感じられる。その程度の能力を持たない者が上記技法を安易に用いるのは避けた方がよい。その点でプロセスの明記は避けた方が良いのかも知れぬが、恐怖の深淵より自らを救出するに適することもあり、全様相を記録した。
 静寂。
 内川は無論のこと、マスター始め、担任、桜井優子も失神して横たわっている。
 僅かに聞こえる声を頼りに理絵子は携帯電話を探し、手に取る。
『もしもし、理絵子?大丈夫か理絵子。教頭に何か……』
「大丈夫。お父さん。終わった」
 理絵子は言った。
『間もなく着くぞ。警備会社から警報とあるが大丈夫なんだな?』
「うん。でも早く来てね」
 理絵子は電話を切った。
「……っああ!」
 マスターがスイッチを入れられたように上半身を起こした。
「なんだ今のは、落雷か?火の玉が飛び込んできたように見えたが」
 全身にまとわりついた埃を払い落としながら言い、溜め息一つ。
 理絵子は電撃の如きものの正体が、死神によってこの世と“あの世”とが繋がった際に生じた強烈なエネルギーの擾乱であり、それが意識より精神神経回路に飛び込み、彼らに失神をもたらしたのだと理解した。理絵子は頭痛で済んだものが、彼らには失神にまで至ったのである。それは肉体的メカニズムとしては、驚愕や絶望などのショックによる失神と同一。
 と、窓から淡い光が射し込む。風で開いたカーテンの向こうから、遅く昇ってきた下弦の月。
 理絵子はその月光の中、砕けたピアノのなかに散らばる夥しい数の写真を見いだす。
「なんだこれ?」
 マスターが手に取る。理絵子は見たくなかった。見なくても判った。
「これ……こいつ……まさかこれ全部か?」
「教頭の威光をかさに着たケダモノの証明」
 理絵子は、言った。

(つづく)

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