【魔法少女レムリアシリーズ】虫愛づる姫と姫君 -20-
耳に指を入れ、イヤホンのボタンを押す。
「アリス」
『アイ』
「銃器を準備。レーザのマルチターゲットで狙えない?ドクター、クローキング解除。昇降口でみんなの誘導お願い」
先に答えをくれたのはドクター・シュレーター。
『クローキングは解除。操舵室でいいか』
「いえ、保持ユニットの方へ。子供達をそちらへ誘導して。幾らか刺された人がいるようです。画面にアナフィラキシのマニュアルを呼び出しておくので、書いてあるような症状の人がいたらエピペンを注射。エピペンは壁面格納5番」
『了解』
アナフィラキシというのは急峻なアレルギー症状の一種で呼吸困難などを引き起こす。ハチに刺されるのが2回目などの場合に起こりやすい。エピペンはそれを緩和するアドレナリン製剤の一種で、患者や家族でも扱える形態にした注射器である。糖尿病で使うインシュリン注射や、骨粗鬆症対策に用いるテリボンなどと同様。
さて子供達や付き添いと見られる女性らは、森宮のばらに気づきはしたが、こちら、船に気付いた気配が無い。次から次に襲ってくるハチを払うに手一杯というところ。
と、森宮のばらが何か気付いたようで駆け出す。その先には虫取り網を必死に振るう男の子。
その網を使おうというようだ。
イヤホンにピン。アリスタルコス。
「レムリア、ターゲットシステムはハチを追尾できるが、小さすぎる。レーザでは突き抜ける。向こうに当たる」
「出力絞るとか」
「時間制御だから出来ない」
レーザ銃でハチを撃ちたい。だが、この銃の出力制御は光の強さそのものではなく、光を放出する時間で決めている。要するに一瞬だがフルパワーで出るので、ビームはハチを蒸発させてなお進行し、その先の何かを傷つける可能性がある。
「仕方ない。プラズマも用意して待機を。追尾は続けて。可能ならハチの動きをトレースして巣のありかを探させて下さい。甲板からも子供達を呼んで下さい。日本語でコッチダマッテル」
「アイ」
程なく、転回場に停めた船体甲板に大男が出現し、コッチダー!マッテルー!。および昇降口でドクターが大きな身振りでカモンカモーン!
「貸して!」
声がし、森宮のばらが虫取り網を借り受けた。
一閃、とでも評すべき手さばきを発揮し、男の子の周囲を飛び回るハチを次々網に収めて行く。風切り音がヒュウとか聞こえるので相当な早さだ。ただ、それで踏み潰すとかでなく、あくまで、生け捕りのつもりらしい。
「大丈夫?あそこの船へ。おじさんのところへ!」
指示する。その間捕虫網の入り口を手で絞る。やはりハチを“退治”するつもりは無いようだ。
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