魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -122-
さて太陽系に最も近いブラックホールは、相原が命じたHDE226868、詳しくはそれと重力的に連結している〝はくちょう座X-1(Cygnus X-1)〟ではないのだが、太陽系円盤の真北の方向に位置している。太陽系の全惑星から最も早く遠ざけることが出来る、ということになる。
画面に日本語がダラダラ流れる。
「前進と後退を同時に行い、船体位置はそのまま原子力船をエンジン推力で吹き飛ばす。光圧シールドチューブ形成。若干の振動を伴う可能性あり耐衝撃防御」
「レムリア大丈夫ですか?そのままそこで」
「はい」
そのままセレネの言葉に甘え、副長席シートでベルトで固定。コの字に配された複数の画面(2-3-2の7面ある)に様々な情報が流れるが、セレネはその殆どをテレパシーで把握していると知る。何故なら乗組員の認知したことを直接感じ取れるからである。
「リアクター内温度推定マイナス82。リバーサー(出力反転機)作動、放逐開始までカウントダウン3秒、2、1、0」
船体が前後に若干振動した後、太陽系の〝北〟の方向へ白い光の点が吹き飛んで行ったのが大画面に映る。凄まじい加速に船体も原子炉も耐えられるはずもないが、一気に潰れて金属の板で封じられたような状態の上、シールドチューブで覆われている。遠い未来に四散しても絶対零度の真空、核反応が起きる条件を満たさない。
「秒速44キロ。公転未使用での第3宇宙速度を突破しました。太陽系に回帰しません。目標到達まで約5千万年」
「了解。地球大気圏内へ帰還する。その間に情報を整理解析する。アルゴに命令。取得したデータより関連のある組織、人間、国家主体、非国家主体を抽出し相関図を作成して提示せよ。レムリアは終わるまで自室に戻って休養回復に努めろ。可能であればテレパスで得られた情報を整理して開示してくれ」
以上アルフォンスス。
「ああ、じゃぁ自分付き合います。ドクター……はんだごてあります?ソルダーアイロン」
相原が席を立った。
「ソルダー?あるにはあるが……どこか壊れた配線でもあったか?」
「彼女の持ち込んだステレオセットに断線があって」
シュレーターは船自身と全く無関係な内容に目を見開き、笑った。
「直してやろうと。いいだろう。武器庫のロッカー19番。一番下の一番端だ」
「アイ……立てるか?無理するな。顔色が悪い」
「気持ち悪い」
レムリアは言った。頭痛がし、胃袋を誰かに鷲掴みにされているような不快感。
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