【魔法少女レムリアシリーズ】虫愛づる姫と姫君 -21-
ならば。レムリアは周囲を見回し、道路脇、農業用水であろうか、勢いよく流れる側溝と草むらの向こう、畑の畝に挿してある手のひらサイズの小さなシャベルに目を付けた。苗を挟む等の使い方をするのか、2本ある。
走って行き、側溝をまたいで草むらを左右に分け入って畑に入り、それを手にする。短剣二刀流よろしく両手に持って森宮のばらの元へ。
「あなたは捕まえて。私はこれでひっぱたく」
「判った。こいつらはキイロスズメバチ。凶暴。可能であれば巣を探して」
二人は一瞬背中を合わせると、作戦を照合した。その仕草は意図せず日曜日に放映している女児向けアニメの“決意のシーン”に一致しており、子供達の数人が気付いたのであるが、さておく。二人は再度別れてそれぞれハチに立ち向かう。
レムリアは両手のシャベルを振るってハチを打った。ハチは黒い物・動く物を攻撃する習性を持つ。なので「逃げ惑う黒い髪」は攻撃を増幅する。日本人が逃げるのは逆効果と言える。
持ち前の脚力で子供とハチの間に割り込み、超感覚にモノを言わせて攻め来るハチの経路を読んでひっぱたく。強固な外骨格で“武装”したハチの頭部が“カン”と甲高い音を立て、まるで石礫を鉄板で打っているかのようだ。もちろん、ハチはそれでバランスを崩しこそすれ、死ぬわけでなく、落下するでなく、体勢を立て直して再度襲ってくる。そこをまたシャベルで叩く。なお、こうした頑健さの故、地面、とりわけ土の上に落ちたハチを靴で踏むという動作は危険を伴う。頑丈な頭をゴム底で踏んでも土にめり込むだけで潰れはせず、その間に靴の上から針が貫通して刺される。森宮のばらの生け捕りはその辺を見越した結果であるかも知れぬ。
ふと見ると森宮のばらが手を緩めて小さい子の背中に回って抱きかかえようとした。その背後。
「のばらちゃん後ろ!」
カチカチと威嚇の歯噛み音を立てて接近する2匹のハチ。
森宮のばらは振り返る。その遠心力でお下げ髪が弧を描き、先端の水晶がハチを叩く。
森宮のばらは幼子を片手で抱き、空いた手で体勢を崩しながらもハチに網を振るう。
「ありがとう!」
「もう少し!」
残った子供達は10名程度であろうか、引率とおぼしき大人の女性が2人いるが、2人とも逃げるでなく、子供達一人一人手を引いて船へ走る。そこを襲うハチをレムリアがシャベルで叩き、森宮のばらが網で取るという連携を図る。これは奏功し、かなりのハチを捕らえ、子供達も船へ収容した。残っているのは自分たちと、最後まで身体を張り、件の刺されたと判明した引率の女性ひとり。見れば額の上の方が赤くなっている。この後腫れ上がって来よう。何らか処置をしたい。
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