【理絵子の夜話】空き教室の理由 -87・終-
「その通り。あなたがその線路に落とされたことにより、それを認める旨の証言をその者より引き出した。あなたがそれを回避したなれば?」
教頭が関わっている、という論理的つながりを断ち切ることになっただろう。秘密を探られていると知った教頭が理絵子を消しに掛かったというプロセス無く、いきなり教頭を疑ったことになるのだ。唐突すぎて不自然である。
同じ事が全体に対して言える。理絵子がもし、心霊写真をあゆみちゃんのせいだと決めて、いきなり空き教室に臨んだとしたら?
教頭に殺害されてそれこそ伝説の一部と化したか。
或いはそれを回避できても、疑う自分をあゆみちゃんは相手にしなかっただろうし、“彼”でない自分に、彷徨う彼女を救うことはできなかったに相違ない。
「全てはあるべくしてあり」
理絵子は言った。それが結論。
「その通り」
住職は頷いた。
気持ちがすぅっと軽くなる。
あるものをありのままに受け入れられるというのは、何と気楽なことなんだろう。
廊下を来る数名の足音。
「クゥールでクレヴァーな会話は終わったかい?」
桜井優子が顔を出す。
墓参のメンバーは他にマスターと朝倉祥子。
朝倉祥子が畳に手を付く。
「本来、誰よりもわたくしがここに参らねばならないところ。不作為を反省しております」
住職は朝倉祥子に顔を上げさせ、
「いえ、それは時が必要だったかと思われます。あなたが今のお心の状態で参ってこそ彼女も浮かばれようというもの。あなたは悩み、苦しみ、そして傷ついた。長い長い時間を彷徨った。ただその結果として、この黒野さんを素直に受け入れ、そして最後には彼女のために死線に向かって足を踏み入れたではありませんか。これが無駄な遠回りだという愚かな者はおりますまい」
「『私の生徒ですもの』……かっこよかったぜ、先生」
桜井優子がからかい半分で言った。
聞いたところでは、朝倉祥子は理絵子が出て行くところを夢に見、仲が良い桜井優子に電話で問い、桜井優子がマスターにクルマを出してもらって、深夜の学校へ乗り込んだという。
朝倉祥子は照れたように笑った。
理絵子はハッとした。
担任がこういう表情で笑ったのは初めてではないのか。
しかし。
「半年休職ですと、もう3年になるまでお会い出来ないんですね」
「ええ、復職先は別の学校になるかも知れない。いっぺんアパートを引き払って実家に転がり込むつもり。……ありがとう。あなたには学級委員という以上に世話になったし、大きな何かをもらった気がする」
「そんな。ただの生徒です。先生はずっと先生です」
「あら、上手いこと言っても、成績には反映しないよ」
「言うだけ損か」
「……どれ、おはぎでも出しますかね」
会話が進行すると見るや、住職が立ち上がり、住居部分へ歩き出す。
秋の空は青く深く、そして高い。
空き教室の理由/終
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