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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -155-

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 そこで院内放送のチャイム。先ほどの個人呼び出しと異なる雰囲気であり、応じてコミカルな看護師にも緊張が浮かぶ。
 放送の曰く、首都高でバスの絡んだ大きな事故があり、急患が大勢押し寄せるという。手空きの者は対応願う。
「あのあたし……」
 彼女メディアは自らを指さし、ベッドから出ようとした。
 看護師が目を剥いた。
「え?おいおいうちの病院は腹の傷パカパカしてる娘を手伝わせる趣味はないよ。それにナースは充分足りてるから。寝てなさい。これは命令」
「はーい」
 彼女メディアは不承不承といった風情で頷いた。看護師はニコッと笑うと、部屋から出て行った。
 視線を感じて振り返ると相原が見ている。
 それは傷付いた、そばにいた、彼ではなく、テレビの向こうのタレント……〝存在は知っているが接点は無い〟相手を見る目。
「姫様、ねぇ」
 相原はマンガに出てくる古代中国の任官のように、右手をガウンの左の袖に、左手を右手の袖口に入れ、腕組みした。
「ええ」
 レムリアはちょっと気取ってペットボトルの緑茶を口に含んだ。それこそ古い東洋からの使節団の訪問を受けたみたいだ。
「王女様」
 相原は恭しく拝跪し、そう口にした。
 王女は口に含んだ日本茶を反射的に吹き出しそうになった。
「ちょっとやめてよ」
「姫、おひいさま」
「きゃあ」
「本日はご機嫌麗しく、このはんてんの騎士、ご尊顔を拝し奉り恐悦至極に存じます」
 相原が使った最大限の敬語は、レムリア自身はそうとは知らなかったが、古風な響きから日常的なものでは無いことは理解出来た。
 王女は顔を真っ赤にして相原を見た。
「やめて……ぎゃはは……さぶいぼ(鳥肌)が出る」
 その所作はやんごとなきお方共通の高貴で淑やかなイメージではない。
 Tシャツ短パンで飛び回る元気な女の子レムリアである。
 そして、自分、それでいい。
「やっぱりレムリアだ。ってか、よくさぶいぼなんて言葉知ってるな」
「いいよそっちで。私だって……その、ボランティア活動の芸名とでも言うかな、ニックネームそっち使ってるから。メディアなんてマスコミかデータディスクじゃあるまいし、ましてや姫だの王女だの……ガラにもない」
「でも王女様なんだし……気が引けてさ。某国だってそういう血筋の方は宮様って呼んでるし」
「嫌、血筋は意識したくない」
「なんで。プリンセスは女の子の憧れ、ってのが童話の定番だし、グレース・ケリーとか、似たような事案は国あげて羨望のまなざしだけど」
 相原のシンプルな質問にレムリアは答えを躊躇った。普通の女の子は姫様になれると聞いたら喜ぶのであろう。比して最初から姫だと姫なりの事情があるのだ。

(つづく)

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