【妖精エウリーの小さなお話】異形・異郷にて(前)
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(前編)
川沿い道をヘビが行く。
ヘビはカエル類が大好物ですので、水辺にいること自体は不思議でも何でもありません。ただ。
〈ちょい待ち〉
私は行き過ぎようとする白いヘビを呼び止めて手に取りました。
〈驚いた。なんで直接呼びかけられるんだ?〉
意識に直接意思を届ける……私のしたことに〝彼〟は驚いたようです。意思のやりとりを人語で書いていますが、ヘビはもちろん人語を理解しません。そういう意味の意思のやりとり。要するにテレパシーです。
〈人間……〉
〈違うよ。妖精〉
腕にくるくる身を絡め、怪訝な(に、見える)表情で私を見ます。近くに誰もいないので〝あるがまま〟の姿で私は川沿い公園にいますが、人間さんがいればどう思うでしょう。白い装束を纏う髪の長い女、に良く似た姿形をしていますが、背中にはカゲロウに近似した形の翅があります。で、腕に白蛇。
〈お前、日本のヘビじゃない上に妖精を知らない。ブリーディングか〉
日本産のヘビで体色が白いのはいわゆるアルビノです。アオダイショウなどで稀に見られ、神の使いと崇められます。が。
この子は元々白い種類。そして野生種であれば妖精の存在は遺伝子に入っていますので、忘れるくらい人工的に代を重ねた。
〈どこか目的地があるの?〉
訳ではないようです。隙間があったからそこから出て、とりあえずいる場所を変えたいと思った。
とはいえ外国のヘビが暮らせる環境ではないでしょうし、それはあってはならないこと。
〈どこから来たの〉
頭部に額で触れ〝彼〟の記憶を逆行します。その筋の用語でサイコメトリ。200メートルほどの所のアパート。
……アパートでヘビ?しかも有毒種もろともブリーディング?この時私はそれが人間の法的にアウトであることを疑うべきだったのでしょう。ただ、それよりは飼い主にエサをもらうべきだと考え、私は彼をマフラーのように首に掛けて左右に足らし。
背中の翅で舞い上がります。
〈おお、なんかすごい〉
〈あんた持って住宅街歩き回れますかいな〉
飛ぶのはいいのか?白昼上を見て歩いている人間さんはあまりいません。何なら昨今手のひらの画面をじっと見ていることが殆ど。もし見られたら?……見たことを忘れていただきます。妖精を見たことを記憶している人間さんはほとんどいませんよね。
果たして件のアパートの上空……から、降りたいのですが、様子が変です。パトカーが止まっていて、人だかりがあり、大きなトングや衣装ケースのようなものを持った警察官がたくさん。
「無許可でヘビ飼って売ってたんだって」
「あらやだ」
おばさん達の会話。
やがて男性がひとり、両脇を私服警察官に抱えられて連れ出されます。まぁ、そういうことなのでしょう。
そこへこの子もそうですと差し出すべきでしょうか。私がなぜこの子を首に巻いているか信じてもらえる説明が出来るでしょうか。翅は縮めて見えなくするように出来ますが。
〈あの……〉
「仕方ない、来なさい。リクラ・ラクラ・シャングリラ……」
呪文。仮に見ている人がいれば、思う言葉はテレポーテーション。
(後編へ)



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