【魔法少女レムリアシリーズ】虫愛づる姫と姫君 -24-
多摩川の堤防が見える所まで坂を下りると、右手に墓地の入り口があり、大きなその募集看板が見える。そして、看板の向こう側、1つだけ廊下の明かりが灯る二階建てのアパート。その二階部分に人影が複数。恰幅は森本でスカートは森宮のばらで、スーツの男性?
階段下には白い軽自動車が止めてあり、ドアには不動産屋の広告と電話番号。管理会社か。
近づくと軽は到着して程なくのようでまだボンネットが温かい。幽霊、と森宮のばらが自虐したアパートは「古びた」という表現が使え、鉄製の外階段は赤さびが目立ち、歩くとグラグラ揺れ、照明に蜘蛛の巣が白く光る。
階段を派手にカンコン足音立てて上がって行ったせいか、目線が二人を待ち構えていた。
投げ置かれたような段ボール、その傍に座り込み肩を震わせて泣きじゃくる森宮のばら。
「あんたがた!のばらちゃんに何をした!」
彼女姫子は怒鳴った。それは小柄な外見と似つかぬ度肝を抜くような大音声であり、墓石並ぶ急斜面でこだまのように反響して広がった。
ただし、それはブラフである。自分が彼女の絶対味方であるという意思表明に過ぎない。
驚愕の丸い目3人。涙を止めた森宮のばら。困惑の森本と、同じく困惑しているスーツの男性。
「あ、相原さん落ち着いて。ちゃんと話すから。その生徒手帳なんだが……」
「いいよ先生……相原さんは隠し立てなんか要らない」
森宮のばらはぼそっと言った。泣きはらしたのかしゃくり上げるような声。
「母親に捨てられた」
「は……」
瞠目する姫子の前に森宮のばらはメモを差し出した。走り書き。
『出て行くならこのキタネエのぜんぶもって行け』
「帰ったら、カギが合わなくて、先生に頼んで不動産屋さん来てもらって……そしたら転居したって」
そのスーツの男性であろう。彼女が勢い余ってギロリと睨み上げると。
「転居先を、とのことなんですが、何せ契約者様お一人の契約で、個人情報ですので身分証明が必要でして……」
気圧されたように引きつった笑みを浮かべて言う。
「私が担任だと言ってもダメだと言うんだ……君も、その平沢君も持ってないということは、無かったんだな?」
姫子は歯がみした。彼女が生徒手帳を落とした責任は連れ出した自分にあろう。それは探すとして。
「他の手段はダメなんですか?住民票とか」
「いいよ」
森宮のばらは再びぼそっと。
「いいよ相原さん。わたし、戸籍無いはずだから。だから保険証もないんだし……3時までに帰って部屋中掃除して食事の準備。それが置いてやる条件って言われてたの。破ったの私だし……」
ネグレクト(neglect):保護者としての責任放棄。見れば交換されたカギはピカピカ輝き、しかし古典的なシリンダー錠であって、森本に見せた“おまじない”で開けることは可能であろう。だが、段ボールは彼女の少ない私物を恐らく“全て”押し込まれたと見え、室内は空っぽの公算が高い。
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