小説

【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -12-

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「すげぇ。そっくりだ」
 野太い声がハーモニーで反応。満場一致というところか。
「これで駅員さんとか直接聞いて回ろうかと。郡山ではお父様、あと、このご近所も探してらっしゃるのでしょうか?それはそのままお続け下さい」
 彼女は2人を交互に見ながら言った。
「おじさん、俺が姫……相原さんに同行するから。やれるだけのことやろうぜ。親には駅まで歩いて探しに行ったとかテキトーぶっこいてよ」
 叔父殿は折れた。
「オーケー判った。ただ、時々連絡をよこせ……お嬢さんのそれは何か凄いが携帯なんだな。進は俺の番号知ってたな」
「ええそうです。状況変化あればご連絡します」
「じゃぁ、頼むわ。すまんが。あ、お金が要るな」
 叔父殿は胸の内ポケットに手を伸ばす。移動に要する費用であろう。彼女は断ろうとしたが、この状況で“赤の他人”に足代出させるというのは叔父殿も気が引けるか。
「三春まで行けるはずだ」
 叔父殿は財布から1万円札を数葉、わしづかみという感じで取り出し、平沢進に持たせた。
「……大金過ぎて怖え」
「しっかり財布に入れて持ってけ」
「おう。……姫、相原さんちょっと待ってて。財布取ってくる」
 家の前で叔父殿と分かれ、バス停に向かう。それは“軌跡”をたどっているという示唆は受ける。が、思考の足跡は感じない。客観的な結論は“何も考えず駅への道を行った”だが、そんなことあるのだろうか。やはり認知機能か。
 我がテレパシーかくも無力か
 バス停の時刻表を覗く。バスは20分間隔で次の便は15分後だが、持て余すので通りがかったタクシーに手を上げる。
「子供じゃ止まってくれ……たよ」
 二人、中学校の制服姿である。普通、そんな二人に止まってはくれないだろう。
 もちろん、彼女が特殊能力で小細工している。
 後席ドアが開いて乗り込み、駅まで依頼。
「お急ぎのようですね」
「ええ、親がちょっと……」
 大嘘、でもあるまい。
「承りました」
 少し荒い気もするが速度上げ目で走ってくれる。
 走りながら思考の残り香を探す。どんな思いでこの道を行かれたか。
 なのだが。
 引き続き何も感じない。この道や風景と紐づけされた“思い”は存在していない。
 それは、もっと集中する何かがあったのか。

(つづく)

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【理絵子の夜話】サイキックアクション -06-

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 それは理絵子にギリシャ神話の一場面を思い出させた。見ただけで石に変える魔女メデューサの退治である。
 同様に黒い顔が雄叫びを発し、その首が剣を打ち込まれた反動で仰向けの角度で動いて切断され、上の方へ弾け飛んに、泡のように変質して消え。
 そして、噴水の如く噴き出した“血”が何かに変わった。
〈大量のサソリになるんじゃ……〉
 と、登与。対し理絵子が得た示唆。
〈クリュサオール〉
 メデューサの血から生まれたとされる物……天馬ペガサス、サソリなど毒生物、そして姿と形の伝承無き怪物、クリュサオール。それは黄金の剣を持つという。
 果たしてそこにはケンタウロスを思わせる半人半馬の怪物があった。その手には金色の剣があった。
 対し、馬の蹄。
 戦女アルヴィトである。人間世界に白馬を伴い具象化した。
〈汝ら、我が髪に命与えよ〉
 それは以前、“お守り”としてもらった彼女の黄金髪の毛ひと束。理絵子は1本ずつ友と家族に持たせている。
 自分も一本常に持っている。りぼんに織り込んでいるが、そのりぼんを手にしたら白い煙のような剣に変じた。
 “意のままに”動く剣だと示唆が来た。登与のそれはフェンシングの剣を思わせ、本橋美砂は水晶の両剣だ。すなわち柄の前後双方に水晶で出来た刃が伸びている。
 クリュサオールが変化する。半人半馬の人の部分がサソリに変わり、その10本の手足は剣の態様。
 数で勝負か。
 アルヴィトが馬上から剣を振るう。切っ先が複数のナイフに分裂し、クリュサオールの手足剣先に拮抗する。
 すると……クリュサオールはそれ自身1本の大剣と化した。
〈魔剣か〉
 アルヴィトの呟き。魂宿した生きた剣……神話・SFでままある設定。
 そこに立ちはだかったのは本橋美砂である。念動を発揮し、両剣プロペラのように回して“面”の盾を形成。クリスタル・イージスという概念を受信。
 これは悪意の権化だ……クリュサオールの正体について、そんな示唆が来た。かつて一戦交えた死神とまた別物だ。目的は魂を屈服させること、恐怖と敗北をもたらせ。
 クリュサオールは手出しをしない。その理由を理絵子は知る。端的には本橋美砂の水晶イージスを突破できないからであるが、事態が膠着したわけではない。
 美砂の念力衰えてプロペラ威力下がることを待っている。
 理絵子はアルヴィトの傍らに立った。
 意志にする必要すら無い。超能力を意図して行使している理絵子にはマイクロ秒の単位で視界を解像できる。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -11-

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 人の心を追える能力が人の心をつかめない。能力不足か、テレパシーでそんなことするのはおこがましいのか。
 認知症については、一晩でなってしまったとかあるにはある。が、布団は綺麗に畳んであるなど、その可能性はあまり感じない。もっとも、あまり良い言葉ではないが“まだらボケ”と呼ばれる認知機能が短時間で正常と非正常を行き来する現象もある。
 そこでピロピロ言う電子音。着信待ちで窓際に放ってきた衛星電話。
「失礼」
 メールである。受信しに戻る。テキストを繰ると、所属団体が“画像を受領した、どこを検索すればいいか”。
 おばあさまが通りそうな場所。
「ここから三春に行こうとすると?東京駅までは?」
「中央線で東京へ出て、だな」
 最寄り駅の名前と東京を伝える。
「でも警察も同じところを探してて、何も連絡が来ないよ。兄貴がそろそろ郡山についたと思うが……電話してみるか」
 叔父殿がポケットを探りながら部屋を離れる。あー、もしもし……。
 彼女はラジオを手に取る。ご位牌と遺影はそのままということは、家出的なニュアンスは感じない。
 ラジオから感じ取ろうとする。蒸気機関車、咲き誇る大きな桜。
 俳句の同好会。その宴席。
 届いた誕生の知らせ。
 それが、最も、そして、繰り返しの“思い”であるなら。
「行ってみましょう」
「三春へか?」
「少なくともそこへ向かったのなら、途中途中で手がかりが掴めると思う」
「でも防犯カメラには……」
 ああしまった。テレパシーで探りながらなんて言えない。
「とりあえず、駅のカメラのハッキングしか頼んでないから。都度都度あのカメラは?とか要求しながら行こうかと」
 そこへ叔父殿の大きな声。
「来てないってよ!」
 しかし、ベクトルは三春を指向している。
 レムリアは戻ってきた叔父殿に相対した。
「わたし、東京駅へ向かおうかと思います」
「ええ!?いやそんなそこまで他人様に……」
 彼女はコンパクトカメラ裏側の液晶画面を叔父殿に見せた。
“加齢加工”してある。

(つづく)

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【理絵子の夜話】サイキックアクション-05-

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 背中合わせに登与が一言。
〈死。破壊。虚無……あなたを亡き者に出来ればそれでいい。肉の身を奪い心むき出しにしてその心弄び狂わせる〉
 霊的生命はいずれも男性的特徴を露わにした。性的な方向か。それは棒状であると知るが、全部つながってリングになっている。それに自分たちは囲繞されている。
 ならば。
 変な話男性同性愛を扱ったティーンズノベルの応用である。性的に気持ちよくなって頂く。心理的バイブレーション。リングが膨張し、赤らんでビクビク震え出す。
〈達する直前に寄越せ!〉
 声があった。戦女アルヴィト。“気持ちよくなった”霊的生命は一瞬だが状況を見失った。その一瞬に彼女に引き渡す。
 アルヴィトは聖剣で全員切り刻んでしまった。
 これに大変な驚愕を示したのが“黒い顔”であった。沈む太陽のように闇へ消えようとする。
〈逃がすな!〉
「オン・ロケイジンバラ・キリク・ソワカ」
 十一面観音の真言。
“守護”
 この場で用いるべき力のベクトルとは真逆の方向であろう。理絵子自身、なぜこの言が口を突いて出たか知らぬ。それは黒い顔もそうであったようで、驚愕からか動きを止めた。
 その状態は霊的な時空と肉体世界との接続点が時空構造を壊して出現している状況であって、急激な気象的擾乱を励起した。唐突に雲が起こり発達し、雷鳴轟いて雨が滝。
 周囲に迷惑がかかる。長い時間は掛けられない。理絵子は認識し、黒い顔と対峙した。
 神話の挿絵に出て来るゼウスを思わせるヒゲ男。
 が、ニンマリと口を開き、歯が剥き出され、よだれを垂らす。サディスティックでやや狂が入った笑み。
-滅す-
 黒い顔の意志は明確であった。自分を消滅させる。
 示唆が来る。この真言を遣わしたのは真言自身。つまり、言霊(ことだま)。
 言霊は言う。我を解け。
「ドシャコ!」
 理絵子は口にし、空中を“デコピン”のように中指で弾いた。
 現実世界に突き出た顔に天空から聖剣一閃。
 アルヴィトが突き出た首を切り落とした。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -10-

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「何の音だ?」
 超感覚を持っておるわけだが、それとの相乗効果か視覚聴覚は鋭い方。
「あれですね。ラジオですか」
 彼女は茶箪笥の上に置かれた手のひらサイズのラジオを指さした。くすんだ銀色で所々へこみも見られる外観。色褪せたソニーのロゴ。
 何十年も前の製品とみられる。ボリュームと周波数チューニングがそれぞれダイヤル式で、周波数表示の上を矢印が動く構造。
 示唆。この機械は、重要。
「電源が入りっぱなしなのでは……」
 手にすると……それは、おじいさまのものと判ずる。チューニングダイヤルを少し動かすとクラシック音楽が流れた。
 後年、体調を崩して臥せっていたおじいさまは、ずっとこれを聞いてた。病状も手伝い、次第に視覚聴覚が失われて行く中で、手の感覚だけで操作することができ、いつもと同じ声を聞いていた。それで安心できた。
 そして、形見になった。
 愛するものを失った心の彷徨。
「これらの調度品は、福島から運び込まれたのですね」
 ぐるり見回す。照明はドーナツ型の蛍光灯でスイッチは引きひも。
「ええ、ここは元々僕が下宿させてもらってて、勤めるようになってから空き部屋で。親父が死んだあと、お袋に来てもらおうと部屋の中のものを持ち込みました」
 綺麗に畳まれた布団と、古いつくりの鏡台。おじいさまの写真とご位牌。
「おじいさまは……」
「だから死んじゃ……」
「違う、仏壇という意味かね?それはさすがに大きすぎるので位牌だけという次第……そのせいかね?」
 平沢進の発言を遮って叔父殿が尋ね、身を乗り出すように彼女を見て目を見開く。
 彼女は弱く首を左右に振る。なんだろう、ここにいて強く感じるのはひたすらな空虚だ。サイコメトリが作用しない。どんな思いでここにいたのか判るような、思考の痕跡を残していない。“心ここにあらず”……これほどのものとは。
「立ち入ったことをお伺いしますが」
「なんでしょう」
「おばあさまに関して、脳や心の状態について医師の診断を受けたことは?」
「要はボケとるか?ということだね。要支援の認定はされたが要介護ではないよ。MRIの診断も年齢相応だが認知機能に問題はない」
「ここ数日の状況は?食欲や、普段することをしなかったとか」
「どうかな。元々食が細いしなぁ。ケアマネさんから何か聞いてるか?」
 平沢進は首を左右に振った。
「いや、特に」
 そうですか……彼女は頷いた。現時点、彼女の判断は“テレパシーのルートは閉ざされた”である。

(つづく)

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【理絵子の夜話】サイキックアクション-04-

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〈キリが無い〉
 登与が呟いたその時。
 どん、と音を立て、天井から黒く大きな毛むくじゃらが落ちてくる。
 人の顔より巨大なクモである。天井を破って出てきたわけではない、テレポーテーション的にそこに沸いて出た。大きさといい、もちろん、節足動物のクモそのものではない。
 理絵子は知っていた。海岸の洞窟で、疎まれて寂しく死んだ姉弟を守っていた霊的なクモだ。
 すさまじい速度でカマドウマを駆逐して行く。喰らい、潰し、粘液を吐きかけて溶かし。
〈あなたは……〉
〈それより教会に行って下せえ。すげえのが出て来る。こいつらは単なる足止め〉
 クモの助言に“地の底からの唸り”のような声を理絵子は聞いた。もちろん霊的な物であるが、策が露見しての悪態として良いようだ。なお、教会というのは理絵子の友人が騙されて連れ込まれ、暴行および洗脳を受けそうになった外観上キリスト教のそれに似せた施設。友人を助ける際人死にが出た。
 そこを“軸”というか“穴”というか、何かしら変換点として“現れ出でよう”としている。
〈行くよ〉
 本橋美砂に連れられる。身体が周囲の空気ごとぐいと動き、引き寄せられるように庭へ移動し、空中へ浮遊する。
 それは超能力ものSFに出て来る“空を飛ぶ”イメージを覆した。“可能な限り高速で移動する”経路に空中を選んだだけ。映像ディスクのCM飛ばしに近い。自分たちだけ空間まるごと切り取られ、チェスの駒のように動かされているイメージ。風が吹くでなく、音がするでなく、落下するような気持ちはないが、逆に飛翔している感覚もない。景色だけが飛躍した。
 教会の上空に達する。黒塗りの高級車、スーツの紳士と刑事数名。
 空中に出現した彼女らに向かい、気付くはずの無い刑事らが振り仰ぎ、その腰ベルトから銃弾が発射される。
 同じことを何度も……。理絵子が思った瞬間。
〈罠!〉
 不意に“空中に投げ出された”形になり、服と髪の毛乱れはためかせ、轟と風唸る音聞きながら落下に転じる。その間仰向けに呪文を唱えよと示唆を受ける。真言を口にし手指絡めて印契を結んで胸の前へ。
 仰向けになって全容が見て取れる。空中に黒く大きな顔があり、口を開けている。その下に一人立ち向かう形で浮かび続ける本橋美砂。
〈私はいいからあなたは自分とお友達を〉
「ノウマク・サンマンダバザラダン・カン」
 不動明王真言一閃。
 結界が作られ、自分と登与と2人中空にビシャリと停止する。そこがあたかも地面かのような盤石さである。見渡すと何やら囲まれていると判る。リング状の霊的生命である。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -09-

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「スキャンしても?」
「今はもっとしわくちゃだよ」
「補正推定ができます。後で今の年齢をお伺いします」
 冷徹で不躾だと思いつつ。ウェストポーチから取り出す軍用トランシーバみたいな外観の衛星携帯電話。アダプタで接続するサイコロみたいなカメラ。
 アルバムの幸せと真逆な、角ばって黒い機器たち。
 衛星電話なので空が見える場所じゃないと使えない。窓際へ持って行って通信確立。送信待ち(Waiting...)と文字が出てカメラで撮影。
 送信している間に写真に手のひらで触れる。サイコメトリ(Psychometry)。それは込められた思いを事後読み出す能力と言えば適切か。
「体が大きいから運動が得意かな……大学に行って苦労しないでほしいな……」
 彼女は拾った思いが勝手に口から出ていることに気づいていない。それは祝福のきらめきのゆえに彼女の自制を超えて飛び出してしまった。
 気が付く。この写真に「おじいちゃん」は写っていない。
「この時、おじいさまは?」
 この質問には叔父殿が応じた。
「もう、入院してたな。……心臓だった」
 おばあちゃんの思いを探す。
“私だけ写っても”
 応じた内容。および、これが“トリガである”という感覚。
 行く末を知りたくてアルバムを数葉めくるが、「おじいちゃん」と映った写真は出てこない。
 あったが、遺影とともに。
“会わせたかった”
 彼女は、アルバムを、そっと閉じた。
「姫ちゃんどした?」
 彼女の頬伝うきらめきにうろたえる平沢。
「気にしないで……あなたは、祝福と期待に包まれて育ったんだねって。ええと、おばあさまが普段過ごされてる部屋はどちら?常用されてる薬とか確認したい」
 振り払って立ち上がる。なお彼女の発言には一つ嘘がある。本当に欲しいのは“現在のおばあさまの感情”である。
「ああ、なるほど。ええとこちらですどうぞ」
 叔父殿が手のひらで示す。いったん廊下へ出、少し歩くと右側へ折れている。奥へ進んで階段だがそこではなく、左手、襖を開く。
 ガタガタと滑りの悪い襖を男の力任せで開けると和箪笥と茶箪笥が向かい合う和室。ちょっと埃っぽい。
“心ここにあらず”
 それは第一印象。あまり、この部屋に対して“自室”という感情をお持ちでない。
 と、ブスブス……という感じのオーディオ的なノイズ。

(つづく)

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【理絵子の夜話】サイキックアクション-03-

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 挑戦の意思と殺意。
〈しくじった〉
〈いえ〉
 少なくも大剣はそれを人格統合体として存在することを阻止した。
〈理絵ちゃん!〉
 呼ぶ声に振り返る。もう一人の霊的な友、高千穂登与(たかちほとよ)という。
 テレパシー使い。
 振り返った理絵子の視界に映じたのは、庭で歯を剥いてシャーと威嚇する……ネコの姿であった。近所に居着くでっぷりと大柄な虎縞の野良猫、トラと呼ばれる。庭でたまに糞をする。
 憑依されているのであった。それは分裂してその程度になったのと同時に、理絵子に挑戦しているのだ。憎たらしいとはいえネコが殺せるか。
〈任せて〉
 理絵子は声に出さず友二人に答えた。答えは持っている。
 トラが異常な跳躍力を発揮して庭から飛びかかってくる。引っ掻こうと出された前足を、首傾けて数ミリで避ける。
 トラが座敷に飛び降りる。
 しかしその時理絵子は元の場所にいない。
 その代わり、右手にハサミを持ってトラの背後にいる。ハサミは美砂に念力で取り寄せてもらった。自分の意識は読めるようだが、友が何をするかまでは見てはいないだろう……斯くて然り。
 トラ、に憑依した者がそれと気付いたとき、理絵子はトラのひげを切り落とした。
 ネコとしての本能的な行動意欲が減退する。分裂して低下した能力の故に、ネコ本来の能力に依存し、霊はそれ以上のことはできない。
 トラが突如バタリと倒れる。失神したのであり、憑依者が抜け出したのだ。そこへ霊界から剣が伸びて来てぶすりと刺してしまう。
 剣が力として吸い取る。まるでヒキガエルを食うヤマカガシが、その毒を我が物とするかのように。
 この一連の動きを見ていて。
 驚愕を有した心理が畳の下一面に広がっていると理絵子は知った。
 “一つの意識”ではない。
 そしてそれが来る。
 床下から庭へ黒い泥水のような物が流れだし、波打ちながら広がり、その泥水が一気にバラバラになり、理絵子と、姉と、友へ、一散にぴょんぴょん跳びかかる。
 夥しい数のコオロギの仲間、カマドウマ。
 美砂が腕を下から上へ振り上げた。念動力が発動され、太鼓をたたくようなドンという音が響き、家の中から暴風が生じ、引きずられるようにカマドウマがざあっと空へ持って行かれた。
 しかし畳の隙間から止めどなく泥水が染みだし、次々にカマドウマに形象を変えて這い上がってくる。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -08-

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「ちょ……」
 果たして平沢進は目で見てわかるほどに赤くなったのだが、既に告白はされているので驚くまでもなく。
 ちょっとだけ笑みを見せて、でもそこまで。
「不躾で申し訳ありません。ただ、お話を伺って黙っていられず、無理なお願いと思いつつもお邪魔させていただくことにいしました。いきなりで申し訳ありませんが、おばあさまのお写真をお借りできないでしょうか。私が所属するチームの監視カメラ照合システムに取り込ませたいのですが……」
 叔父殿は目を見開いた。
「そんなことできるんですか!?」
「ええ、007(ぜろぜろせぶん)の世界が今は現実です」
 彼女は1960年代から続く著名なスパイ・シリーズ映画の名前を挙げた。
 その方がこまごま説明するよりきっと理解が早い。
「おお、それはそれは。警察に渡しましたが……多分まだ残りがあるはず。こちらどうぞ」
 瓦葺の2階屋である。彼女の表現パターンにはない言葉だが、昭和の風情と書けば手っ取り早い。土壁に木枠の窓。
 玄関は開き戸。鍵を挿して何回か、くるくるとねじのように回す。
 カラカラ開くと玉砂利を固めた三和土。彼女はいつぞや訪れた愛知・常滑(とこなめ)の陶芸家工房を思い出した。
「失礼いたします」
 靴を脱いで、屋内へあがって、向きを変えて正座して、靴を外向きに揃える。
「お前にはない部分だな、進」
「うるせぇよ。えーっと、こっち。うわひでぇな」
 廊下を少し行って障子の部屋に招かれたが、そこは畳の上にいくつものアルバムが広げてある。警察への依頼にあたり、慌てて写真を探したのだと判る。
「ここから探しても……」
「ええ、ご自由に。お茶を入れますわ。進、急須の葉っぱを変えろ」
「判ったよ、親父って何か言ってた?」
 野太い声同士の会話と、やりつけない洗い場の物音。がちゃん、あぶねー。
 アルバム数冊をまずは見渡す。殆ど平沢進本人と家族写真であり、“おばあちゃんといっしょ”はあまり多くないと判ぜられる。
 2冊重なったその下、裏返しになった緑の表紙。
 文字が刺繍されている“すすむくんの生い立ち”
「姫ちゃんごめん、お湯を沸かしてるからちょっと待……」
 背後に来た彼が、彼女の手にしたアルバムを見て固まったことが判った。
「見られるの恥ずかしいなら……開かずにおきますよ」
 振り返らずに。幼い自分を人に見られるのが恥ずかしいとはよく聞く年頃。
「いや……そこにおばあちゃんの写真絶対あるから。ちょっと若いけど」
 刺繍の表紙をめくると、それはお腹の中の超音波エコーから始まる。祝福され、喜びとともに成長が記録され。
 おくるみの姿、ちいさなてのひら。
 家族写真。そこに「おばあちゃん」の姿があった。
 和服姿、白髪で結い上げてあり、優しそうな笑顔に眼鏡。若干の寂寥。

(つづく)

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【理絵子の夜話】サイキックアクション-02-

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 玄関呼び鈴チャイムがピンポン。
「はーい」
「私でしょ」
 母親の声を遮り、理絵子は2階から階段を降り始め。
 気付く。
「伏せて!」
 理絵子は残り数段を駆け下り、1階廊下に立ってこちらを見ている母親の身体を引き倒した。
 パン、パンと乾いた、かんしゃく玉の破裂に似た音がし、玄関ドアと台所からわずかなタイムラグを持ってバシ、バシ、と鋭い音が出る。
 銃弾である。
 護身の真言を唱えようとするが不要と判ずる。相手は庭へ動いている。その様が手に取るように判る。が、何も出来ない。
 否。
〈理絵ちゃん任せて〉
 庭へ走り込む拳銃片手の目の前に、陽光輝く天から突如、ブレザーの制服を着た“姉”がふわりと降り立つ。
 その姿と言動から理絵子が“みさねーちゃん”と呼んでいる娘。
 本橋美砂(もとはしみさ)。17歳。念力使い。
 降りて来ただけで拳銃片手の私服警官が透明な張り手を食らったように突き飛ばされる。天からふわりと降りて来たと書いた……彼女は弘法大師空海の伝説よろしく空を飛んできた。念力の分類用語で空中浮揚(レビテーション)とか言う。
 だが、そんな分類、どうでもいい。
 私服警官が庭先にゴロンと転がり、動かなくなる。
〈そこにいるぞ!〉
 声だけ。アルヴィトであった。私服警官は憑依され操られており、前後不覚に伴って憑依の主体が中から出てくる。
 人型のような“もや”が陽光降り注ぐ庭先で超視覚に映じた。
〈見てはならん。罠だ〉
 人型の向こう、超視覚野に白馬のアルヴィトが出現するや、腰の大剣を抜きながら振るった。
 大剣がもやを切り裂く。割れた水風船のように、飛び散る水しぶきのように、もやの構成要素が四散する。
 アルヴィトの表情に失敗が見て取れた。
 それを本来の目的とする罠だったのだ。もやの正体は個々の怨念が集合してできあがった一種のゲシュタルト。それが多数の霊体に分裂した。
 多数が同時に具象化するのを阻止することはできまい。

(つづく)

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