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【理絵子の夜話】サイキックアクション -18-

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騙されるか、彼は一瞬そう思ったようである。が、神性を備えた異国の娘に抱きしめられて彼は一介の“男”に戻った。
 “憑きもの”が剥がれる。
〈主(あるじ)よ、ここは我が……〉
 声と共に、理絵子の身の中から現れて貫く漆黒の長剣一閃。
 魔剣クリュサオールであった。黒い人型のようなものが中空で串刺しにされている。
〈美砂殿。我が力援用されよ。汝にしか能わぬ〉
 それは、美砂だけが、条件が整った時のみ、可能な力の発露を示した。
 瞬間移動テレポーテーション。但し彼女のそれは所要の目的地に送るものではない。
 時空を越えたいずこかへ投擲する。
 さらば……クリュサオールの感情と共に、パン!という、風船が割れたような破裂音がした。
 腕の中が脱力する。等身大の人形のように、にわかに筋骨が力を失い、グニャグニャになり、どころか皮膚が裂けどろどろとした内容物があふれ出し液化して広がり。
 骨と、“人体の70%は水分”を彷彿させる汚穢な染みの広がった姿に変わった。
 獅子王と、魔剣の意識が追跡できない。
「ゾンビだね」
 美砂が一言。理絵子は思わず我と我が身を見回した。それの残滓が付着してはいないだろうか……気にするなと言う方がムリ。
「整理していいでしょうか」
 登与が言った。

・地球在来種の魔族でもなく、外来のそれでもなく、人類が発達してくる中で獲得した魔性
・宗教や正義の名の下に精神肉体両面から攻撃をしてくる。ターゲットは“日本”

「国家国民?」
「恐らく。人類が獲得した魔性にとって、“和をもって貴しと成す”日本の在り方は気に入らない。征服者というスタンスが得られなくなるし、付随する人間としてのあらゆる快楽を欲しいままにする権力も存在しない」

(次回・最終回)

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【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -23-

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 電源を入れるとクラシック音楽。すなわちこの地域の放送周波数に合わせたまま。
「ああ、済まないね……」
 祖母殿はラジオを傍らにコトリと置いた。
「まぁ、お二人ともここへ来ておくれ」
 ラジオを挟んで着座を促される。
「進、ほら」
「お、おう」
 彼を促し、率先して座る。
 祖母殿が口を開く。
「まずは……いきなり飛び出して済まんな。いたたまれなくなってな。ほんでこご来だはいいけど携帯電話があるわけでなし、ここの電話も止めたでね。連絡しようがなくてよ」
「常磐線から来られたとか」
「海へ行げでねっがらな。新幹線じゃダメだ」
 件の原子力発電所は太平洋側にある。当然、避けたくなる。
 うぐいすの鳴き声。
「わぁ、きれいな声。初めて聞いた」
 彼女の感想に祖母殿は微笑んだ。
「おめさん、進が初めで此処(ごご)で春告げ鳥聞いた時と同じだな」
「え?」
「そうなんですか?」
 二人は驚いて祖母殿を見た。春告げ鳥はウグイスの別名。
「ああ、じいさんが庭いじりしてて驚かしちゃなんねがらってハサミ持ったまま固まってよ。人形みだいだって……ああ、これは進じゃねがったか。彰(あきら)か」
 平沢進の父君であると彼女は察した。
 と、突如祖母殿はしょげたようにうつむいた。
「ごめんな。オレばっか進と遊んでよ。挙句に厄介になってまっでよ。じいさんに申し訳なくてよ」
 ラジオに向かって。
「それでここへ……」
「迷惑かけてすまんな。クラスメートちゅうこどは学校抜けて来ただが?しかしめんこい子だなおめさんは」
「人命にかかわる事態かも、という第一報でした。なら、天下御免ですよ……めんこい?」
 地面にたたきつける日本の古いカードゲームの“めんこ”なら知っているが。
「か、かわいい、って意味だよ」
 説明する平沢進の耳まで真っ赤。
「あら。恐れ入ります」
 彼女が応じると、ウグイスが唐突に飛び去った。まるで逃げるように。すなわち。
 程なく、クルマが止まった。

(つづく)

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【理絵子の夜話】サイキックアクション -17-

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「違う。こいつは……」
 その生涯を殆ど戦乱の中で過ごし、追って獅子王と呼ばれた男であった。
 むろん英雄である、いわゆる“十字軍”を派遣した側では。
 そこで登与がロザリオを示してみせる。我々は敵対する者ではない。しかし、
〈偽なり異邦人〉
 その反応は彼女らの外見“人種”に起因する情動とすぐに判った。
 アングロサクソンキリスト教徒にあらざれば人にあらず。
 キリスト教原理主義と結びついた人種差別。
「霊をしてなお肌の色を価値と見る哀れで笑止なる者よ、去ね(いね)」
 登与はロザリオを突きつけるようにし、言った。
 対する返事はウォー・クライ。すなわち戦士が挑みかかるときに放つ咆哮。
 獅子王と称された男の手に剣が“沸いた”。
 何か途方も無い力がその剣には宿っている。それは誤謬を誤魔化すための信念を十重二十重にまとった、

 いわば、呪詛の集合体。

 剣が登与へ向け振り下ろされる。だが、彼女は微動だにしなかった。
 ガラスが割れるに似た、あるいは鍛冶の槌が振り下ろされるに似た、鋭い金属音。擬音でガチンとでも書くか。
「邪なる者破れたり」
 それは元々、オカルト雑誌の裏表紙に載っていた“魔力を備えたロザリオ”を買った物と彼女に聞いた。
 それこそ邪な存在であるはずだが、今ここに、3800円のクロームメッキの十字は淡い金色に輝き、邪悪な霊剣を受け止めているのであった。
 果たして驚愕か、獅子王は動作を止めた。
 理絵子に示唆が下る。その刹那に自分のなすべきことは一つ。
 素手で剣をなぎ払う。横から叩けば傷も付かない。勇者の大剣は吹っ飛ばされてガシャンガシャンと二転三転。
 油断というか、意表を突かれたのであろう。小柄な東洋の娘に必殺技を無効化され、縋る術なし。
 次は何をされるのか……そんな目で怯えるような獅子王を、
 理絵子は抱きしめる。
 意図して意表を突くために。
「敵対と戦闘に生きた貴殿を慰謝する者が無いなどあってはならぬこと」
 自分を超能力者と知らぬでも、巫女属性の持ち主だと言うクラスメートは多い。
 その属性こそは、今ここで発揮されるべき。
「愛し愛されることすら政略とされた貴殿の生涯に永久の安らぎを」

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -22-

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「扉を開きます」
 エレベータに乗り、着いた。一連の挙動は感覚的にはそれに近い。
 気密が開かれ、にわかに外界の音が入ってくる。鳥と虫の声。
 扉の向こうに姿を現す緑の間の道。
 畑に咲く白い花。トタン屋根の農器具小屋。
 ひょいと飛び降りる。“ドアが閉じて開いた結果”をぽかんと見ている平沢進を促して下ろす。
「見覚えある?」
 一応尋ねる。
「お、おう」
「良かった」
 なら、船は帰してもよかろう。帆船なので帆を広げて滑空できる。イヤホンでピンを送ると、周囲に人目が無いと確認したか、帆船は文字通り忽然と姿を現し、その帆を広げ、翼のように水平になびかせ、丘の上から風に乗って飛び立った。そして風の届かないところで主推進システムに切り替え、超高速で飛び去る。
 その動きを身体動かして見つめる平沢進は声も出ない。
“思い”が届く。しかも、この足下の大地から。
 おばあちゃんは、この里山を遊びまわる進少年を、夫婦で見守りたかった。
 近所にある複数の大きな桜の木を、肩車して見せたかった。
「ばあちゃん家(ち)、行けばいいかな」
「うん」
 坂道を下りて集落へ。果樹(柿だが、欧州育ちの彼女はそれだという知識がない)が枝を広げる平屋建てのお宅。
 垣根の向こう、縁側にその高齢女性は腰を下ろしていた。
「ばあちゃん」
 進少年の声にゆるりと振り向き、次いで目を見開く。
「進かえ?」
「そう。あー見つかってよかった。親父は?こっちへ向かってると思うけど」
「そちらは?」
 彼女のこと。
「相原姫子と申します。進君のクラスメートです」
「ばあちゃん探すの手伝ってもらったんだぜ」
 すると……祖母殿は温和な表情でゆっくり頷いた。
「ちょ……」
 散々探したのに、ということであろう。声を荒げようとする進少年の左手に彼女はそっと触れ、その先を制した。
「差し出がましいことをいたしまして申し訳ありません。人探しにツテがありまして申し出た次第です。こちら……手がかりとして借用したもの。お返しいたします」
 トランジスタラジオ。

(つづく)

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【理絵子の夜話】サイキックアクション -16-

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 念動を駆使したと知る。“煙”が全て凍り付く。
 次いで雨となって降り注ぐ。
「どうやら、あらゆる物事に挑戦が仕込まれるようだね」
 美砂は言った。意識と目線を感じる。闇の中から自分たちを見ている。
 味方もある。
〈そばにいますぜ〉
 とは件の巨大クモである。
「来る」
 気づいた瞬間後ろに刀抱えた男がいる。以下、実際には刹那の認識であるが、そこで判ったことを細かく書くとこう。まず、男は戦国時代に近隣の山城で戦死した武士の地縛であり、敵方血縁者に取り憑かずにおけない。
 その戦は凄絶な殲滅戦で、城に残ったのは女子供ばかりであったが、皆殺しにされたという。
 応じた仕返しを女子供に。
 以上判った瞬間には“女子供”である彼女らに対し、侍の刀が振り下ろされるところであった。
 対する理絵子の反応は。
 真剣白刃取り。
 侍が驚愕で凝固した刹那、美砂が後を受け継ぐ。刀は見えざる力でぐにゃりとなり、反動で侍がよろけ、理絵子が手を離した瞬間に赤熱して溶解する。
 遠方より“槍”が飛来。
 否、フッと中空で姿を消す。次に現れるまでやはり一瞬であったが、その間にこれから起こる出来事を彼女らは察知した。
 登与がロザリオ片手に口走る魔法のフレーズ。
 そして日に向かってかざした手のひらに槍の先端が弾かれて甲高い音を立てる。こちらは弥生時代の縄張り争いであるらしい。
 そんな者が今後も次々沸くのか?
 否、一時的に“そういうもの”を遮蔽しておくシールドが外れただけ。
 なら、直せば良い。ただ、自分たちが維持する次元の存在ではない。
「キリが無い」
 理絵子は印契を切った。のうまくさまんだばさらだんかん。後は超常の皆様に委ねます。
 爆風の如き物が彼女らを中心に生じて吹き広がる。結界が生成され、封印が成された。
「終わった?おうち帰れる?」
 これは美砂の弁。勿論、そうは簡単に問屋は卸さないというニュアンスを含む。
〈何か来ますぜ〉
 クモが言い、巨体を具象化させ、彼女らの傍らに参じた。
「……アレクサンダー」
「まさか」
 それが正なら、アルヴィトが破れたことを示唆するが。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -21-

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 青い空の下、再度衛星携帯のアンテナを伸ばし、短縮ダイヤルでコール。相手が出た。
「Hi,It's Lemuria.Please pick up me and friend,with use cloaking.」
 あとは待つだけ。1分もかからない。
「あの……」
「暴風が吹くから顔を腕で覆ってください」
 彼女は言いながら、ウェストポーチをごそごそしてワイヤレスイヤホン近似の機械を耳に挿した。
「来ます」
 ほどなく一陣の風が上空より吹き降りて広がり、順次風速が上がって轟轟たる暴風になった。
 園内を歩いていた人々から小さな悲鳴、走り逃げる人も。すいません。
“なにか”が二人の前に舞い降りる。ただその“なにか”は重量と大きさの感覚は有するが、目には見えない。
 風が収まって木の幹に見える部位に、黒い四角い領域が出現した。
 cloaking(クローキング)。いわゆる光学迷彩である。実際には二人の前に空飛ぶ帆船が着陸しており、見えているのは“船がいなければ見えるはず”の光景。
「どうぞ」
 彼女は黒い四角い領域……舷側通路を彼に示した。
「見られたくないので急いで欲しい」
「お、おう」
 持ち前の運動神経を発揮してヒョイと飛び乗る。
 彼女は昇降スロープを出そうとしたが、平沢が腕を伸ばして引っ張り上げてくれた。
「ありがと」
 ウィンクしてみせると彼は見て判るほど頬を赤くし、己の手のひらを見つめた。
「福島県三春町、お願いします。INS使うほどは急いでいません」
 中は白く照明されており、目が慣れてくると、縦に長い6角形断面の空間である。
 スライド式の舷側昇降ドアが閉まり、上昇に伴って下方へ押し付けられるようなG。エレベータでおなじみの感覚だ。
「これ、あの、窓際に浮かんでいた船、だよな」
「そうです。国際救助隊アルゴ・ムーンライト・プロジェクトの所有する飛行帆船です」
 一度、教室の窓際に呼びつけたことがある。ほとんどの生徒はその暴風に逃げ出す姿勢を取って見ていないが、彼は見ていた。
 ちなみに乗せた以上は秘密を前提に多少情報を開示してもいいと思うのだが。
 そんな時間はなさそうだ。
 耳に挿した通信機にピン音。
「間もなく到着します。どこへ?」
「えっと……」
 住所に基づきこの船が下ろせるスペースを検索。
 集落の外れ、アスファルト舗装が途切れたところに小高い緑地あり。
 特にGを感じることもなく、着地に伴う小さな衝撃。

(つづく)

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【理絵子の夜話】サイキックアクション -15-

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「理絵子!」
 アルヴィトが剣を抜き呼ぶ。
「はい!」
「私はこの者に永遠の戦いを挑む。その間に時空の継承を閉じよ。されど我が髪は我が分身としてそなたらに力を与える」
 それは3つの指示と結論を示していた。すなわち相容れぬ価値観は距離を取るより無いのであり、
 アルヴィトはアレクサンダーを異世界へ連れて行こうとしているのであり。
 再びこの戦女と会うことは無い。
「はい!」
 理絵子は応えた。その3つが示すもの“自立せよ”。
「小気味よい。汝らには太陽と月と大地が味方する。以後この“大王”に感化された者が挑んでくるかも知れぬが排除できる。否、排除せよ。征服せんと欲する者を万物を持って排除せよ!」
「お元気で!」
 理絵子はそう応じた。肉の身持たぬ存在に“元気”もへったくれも無いのだが。
「お前もな」
 戦女は大剣構えて強気に笑んで見せ、その剣でアレクサンダーに襲いかかった。
 永遠に戦いを挑み続ければ、アレクサンダーが人間世界、この世に出てくるヒマは無い。
 結果として人間世界に超常の戦いは現出しない。

 示唆一つ。実は聖書に言うハルマゲドンは、遠い過去から永遠の未来まで続くそうした戦いなのではないか。「そのとき、天で戦いが起こった」とは黙示録の一節である。それは永遠の過去の一点であり、天使たちは今もずっと戦っている。

 だから、巨大な超能力で地球生命が脅かされる可能性は低い。
 ただ、そういう“思念”自体は渦巻いていて、人がネガティブな意識を持つと、容易に共振し、通じて“悪意持つ超能力者”は発現しうる。

 自分たちに超能力が備わっているように。それは言わずもがな、自分たちも“戦い続ける”責務を負う。

 錫杖を振るい印契を描き、真言を口にして封印をなす。
「……ドシャコ」
“学校”はにわかに全面がガラスのそれと化し、次いで耳をつんざく音を立てて崩壊を始めた。ガラスの割れるあの音が空間引き裂いて広がり、応じてキラキラとしたガラスの破砕片が煙のように舞い上がる。
 それはそれで危険なのではないか。
 美砂が手のひらを広げた。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -20-

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「そうです。常磐線で太平洋側から入るルートです」
 彼女は平沢の顔を振り仰いだ。
 全ての点が一本の線に繋がった。
「お父様は郡山駅だって確か」
「そう……常磐線に行ったならそりゃ郡山で待ってちゃダメだよ。三春に着いてもまだばちゃんが着いちゃいねぇ」
「先回りしすぎたわけだ。すぐ三春へ戻ってもらって……えーと、ありがとうございました」
「いーえ。君たち三春に行くのかい?」
「はい。あ、いえ、家族が先に行ってますので」
 じゃぁ切符買って行け、となると困るので言を翻して頭を下げ、その場を辞す。“術”が解けた後、彼は何等か守秘義務に違反した等で処罰されるのだろうか。
「(意図したこと形を成さず)」
「姫ちゃんなんて?」
「えーとね、上野公園へ行きます」
「え?三春じゃなく……え、それってひょっとして」
 彼女は頷いた。
 彼は一度、その存在を見たことがある。
「レムリア案件ですから」
 階段上がってコンコースを逆戻り、“公園口”からICカードをピッして出場。その国立博物館や美術館、そして著名な上野動物園のある上野公園へ。

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(科学博物館前)
 外へ出てまず平沢進の父殿へ電話。
「タイムラグすごいからトランシーバみたいに語尾どうぞ、ってつけた方がやりやすいよ」
「ありがとう。……あ、父ちゃん進だ。ばあちゃんは上野から常磐線の特急に乗った。郡山には行ってない。すぐ三春へ行ってくれ。どうぞ」
 喋りながら二人は横断歩道を渡って公園内に進み、博物館類のある方向と逆、南側へ進む。著名な西郷隆盛像がある方。
『……警察から連絡来ないが?』
「上野駅で駅員に聞いた。どうぞ」
『……そのどうぞ、って何だ。まぁええが、上野にいるんか。上野?……そうか上野か、よく気付いたな。わがった。とにかく三春へ行くわ。お前は戻れ』
 平沢は困惑して彼女を見た。
「とりあえず『はい』で。んで、電話オフでいいよ」
「はい。どうぞ、あ」
 平沢は言われたままにはいと言って電話を切った。
「軍の無線みたい」
「平和を愛する姫ちゃんとしては不本意だけどレムリアとしては強力な相棒」
 電話を返してもらってニヤッと笑うと、公園の中でも比較的木が少なく開けた場所へ出る。

(つづく)

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【理絵子の夜話】サイキックアクション -14-

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 魔、である。但し、悪魔のような伝承の存在ではない。
 人間に由来する。人類ホモサピエンスが10万とも20万年とも言われる地球での生存で自ら獲得した“根源情動の人格化”。
 理絵子は、権限を背負って、指さし、命じた。
「名乗れ、征服王」
「我が名はイスカンダール」
 声とともに地震が起きようとする。が、天地の力がそれを制する。
 娘たちは情報を共有する。その者は人間の時の名を“アレキサンダー”と言った。世界史に著名な大王アレキサンダーである。言語間の伝承変化で文字が入れ替わりAliskandarと書かれ、更にアラブ表記の文法からiskandarとなった。現代に使われる人名・都市名であり、著名な映画等でも町の名、星の名として使われる。
 英雄。
「だけど、裏返せば破壊と殺戮の体現者」
 理絵子の知識を美砂がひっくり返した。
 史実は肯定的な書き方であり、彼の名の付いたゲームキャラクタでも戦闘能力は高い。だが、現代に通じる覇権主義の原点という見方も出来る。
 欧米の価値観の原点。それは中南米文化からの黄金の簒奪であり、奴隷商売であり、アヘン戦争、そして今も人種差別に色濃く残る。
 アレクサンダーではなくアラブの伝承名イスカンダールを名乗った理由。
「従うか、死か」
「問うに能わず。去ね(いね)、アレクサンダー」
 理絵子のゼロ回答にアレクサンダーは大地引き裂けと念じたようである。従わぬなら“生きるための場所”を破壊しようとしたようだ。しかしこちらの側には文字通りの“後光”が輝く。
 大地へ掛かる力を大地が拒否する。
 すると……アレクサンダーは、天文学的事象を惹起させようとしたようである。
 だが、天を司る存在がそれを抑える。
 所詮出自は“人”に過ぎぬ。
 そこへ。
 蹄の音高らかに天馬が現れ、長剣携えた金髪が翻る。
 戦女アルヴィト。
「待たせた」
 彼女らに微笑んで見せたその手には。
 椰子の実サイズのスズメバチの巣。
 人としてのアレクサンダーは蜂に刺された後に昏倒して世を去っている。
 果たしてアルヴィトは蜂の巣を放り上げ、二つに切り分ける。
 蜂が雲のように広がってアレクサンダーに襲いかかる。
 それは彼の“トラウマ”形象化と彼女らは気づいた。
 アレクサンダーの意識ベクトルが自分たちの指向を離れる。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -19-

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Ultrabaka

 東京からの短い道中、隣接する新幹線は秋葉原のあたりから地下に潜った。対して自分たちはより高いコンコースへ上がった。
 その国立博物館に行った際の記憶を当たるが、妙に天井の低い通路を通ったことが印象に残っているだけで、目の前の光景とは異なる。

E7tostxxeawemop
 見えないし思い出せないなら感じるしかない。目を閉じて得ようとするのは人々に去来する“新幹線”の思い。その発出多い方向へ向かえば良い。
「姫ちゃん?」
「大丈夫、付いてきて」
 それは頭痛持ちの娘が眉をひそめてこめかみを押さえながらフラフラ歩いているの図であって、平沢進としては困惑するしかあるまい。
 12番線を行きすぎ、改札口で行き止まり。新幹線は19番線からだが、その間の番線はどこに?仕方なく階段を下りる。
 と、託宣のきらめきを持って確信が訪れる。左手の“みどりの窓口”相原学から聞いたのはここだ。
「あの!」
 彼女は、今から休憩であろうか、窓口に“他へお回りください”の札をさして立ち上がろうとする男性の係員に声をかけた。
「はい?」
 男性は少し不機嫌そう。年齢に応じて額が広いのだが、そこに皺が寄る。
「突然すいません。人を探しています。こういう高齢の女性が福島三春までの切符を買いに来ませんでしたか?」
「困るんだよねー」
 舌打ち混じりのその声は、窓口内部の他の係員の注目を集めたようである。
 そのうちの一人、ちょうど立ち上がった黒縁メガネの若い男性と目が合う。
 この人だ。
「(意図なさないこと形となりて)」
「姫ちゃんなんて?」
 黒縁メガネの男性はこちらへ歩み寄って来た。
「んー?見せて?あ、やっぱそうか、このおばあちゃんなら覚えてるよ」
「マジですか」
 これは平沢。
「おい……」
 不機嫌な男性の表情が厳しくなった。“個人情報をべらべら喋るな”というところか。
「いいじゃないすか。新幹線を勧めたんだけど『そんなもんはねぇ。汽車で行く』って。上野にいらしたわけだし、ああ、八戸(はちのへ)が尻内(しりうち=八戸の旧駅名)な感じかなと思って“ひたち”でいわき経由の乗車券と特急券を出しました」
 ぞんざいと丁寧が混じったその話し方は彼女の呟いた言葉の作用による。
「いわきは昔の平(たいら)だと言ったら、ああ、それなら判るってニコニコで買って行かれました」
「すいません鉄道には疎いので、つまり新幹線を使わずに三春へ行かれたと」

(つづく)

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