小説

2021年4月 7日 (水)

【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -10-

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「何の音だ?」
 超感覚を持っておるわけだが、それとの相乗効果か視覚聴覚は鋭い方。
「あれですね。ラジオですか」
 彼女は茶箪笥の上に置かれた手のひらサイズのラジオを指さした。くすんだ銀色で所々へこみも見られる外観。色褪せたソニーのロゴ。
 何十年も前の製品とみられる。ダイヤルとチューニングがそれぞれダイヤル式で、周波数表示の上を矢印が動く構造。
 示唆。この機械は、重要。
「電源が入りっぱなしなのでは……」
 手にすると……それは、おじいさまのものと判ずる。チューニングダイヤルを少し動かすとクラシック音楽が流れた。
 後年、体調を崩して臥せっていたおじいさまは、ずっとこれを聞いてた。病状も手伝い、次第に視覚聴覚が失われて行く中で、手の感覚だけで操作することができ、いつもと同じ声を聞いていた。それで安心できた。
 そして、形見になった。
 愛するものを失った心の彷徨。
「これらの調度品は、福島から運び込まれたのですね」
 ぐるり見回す。照明はドーナツ型の蛍光灯でスイッチは引きひも。
「ええ、ここは元々僕が下宿させてもらってて、勤めるようになってから空き部屋で。親父が死んだあと、お袋に来てもらおうと部屋の中のものを持ち込みました」
 綺麗に畳まれた布団と、古いつくりの鏡台。おじいさまの写真とご位牌。
「おじいさまは……」
「だから死んじゃ……」
「違う、仏壇という意味かね?それはさすがに大きすぎるので位牌だけという次第……そのせいかね?」
 平沢進の発言を遮って叔父殿が尋ね、身を乗り出すように彼女を見て目を見開く。
 彼女は弱く首を左右に振る。なんだろう、ここにいて強く感じるのはひたすらな空虚だ。サイコメトリが作用しない。どんな思いでここにいたのか判るような、思考の痕跡を残していない。“心ここにあらず”……これほどのものとは。
「立ち入ったことをお伺いしますが」
「なんでしょう」
「おばあさまに関して、脳や心の状態について医師の診断を受けたことは?」
「要はボケとるか?ということだね。要支援の認定はされたが要介護ではないよ。MRIの診断も年齢相応だが認知機能に問題はない」
「ここ数日の状況は?食欲や、普段することをしなかったとか」
「どうかな。元々食が細いしなぁ。ケアマネさんから何か聞いてるか?」
 平沢進は首を左右に振った。
「いや、特に」
 そうですか……彼女は頷いた。現時点、彼女の判断は“テレパシーのルートは閉ざされた”である。

(つづく)

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2021年4月 3日 (土)

【理絵子の夜話】サイキックアクション-04-

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〈キリが無い〉
 登与が呟いたその時。
 どん、と音を立て、天井から黒く大きな毛むくじゃらが落ちてくる。
 人の顔より巨大なクモである。天井を破って出てきたわけではない、テレポーテーション的にそこに沸いて出た。大きさといい、もちろん、節足動物のクモそのものではない。
 理絵子は知っていた。海岸の洞窟で、疎まれて寂しく死んだ姉弟を守っていた霊的なクモだ。
 すさまじい速度でカマドウマを駆逐して行く。喰らい、潰し、粘液を吐きかけて溶かし。
〈あなたは……〉
〈それより教会に行って下せえ。すげえのが出て来る。こいつらは単なる足止め〉
 クモの助言に“地の底からの唸り”のような声を理絵子は聞いた。もちろん霊的な物であるが、策が露見しての悪態として良いようだ。なお、教会というのは理絵子の友人が騙されて連れ込まれ、暴行および洗脳を受けそうになった外観上キリスト教のそれに似せた施設。友人を助ける際人死にが出た。
 そこを“軸”というか“穴”というか、何かしら変換点として“現れ出でよう”としている。
〈行くよ〉
 本橋美砂に連れられる。身体が周囲の空気ごとぐいと動き、引き寄せられるように庭へ移動し、空中へ浮遊する。
 それは超能力ものSFに出て来る“空を飛ぶ”イメージを覆した。“可能な限り高速で移動する”経路に空中を選んだだけ。映像ディスクのCM飛ばしに近い。自分たちだけ空間まるごと切り取られ、チェスの駒のように動かされているイメージ。風が吹くでなく、音がするでなく、落下するような気持ちはないが、逆に飛翔している感覚もない。景色だけが飛躍した。
 教会の上空に達する。黒塗りの高級車、スーツの紳士と刑事数名。
 空中に出現した彼女らに向かい、気付くはずの無い刑事らが振り仰ぎ、その腰ベルトから銃弾が発射される。
 同じことを何度も……。理絵子が思った瞬間。
〈罠!〉
 不意に“空中に投げ出された”形になり、服と髪の毛乱れはためかせ、轟と風唸る音聞きながら落下に転じる。その間仰向けに呪文を唱えよと示唆を受ける。真言を口にし手指絡めて印契を結んで胸の前へ。
 仰向けになって全容が見て取れる。空中に黒く大きな顔があり、口を開けている。その下に一人立ち向かう形で浮かび続ける本橋美砂。
〈私はいいからあなたは自分とお友達を〉
「ノウマク・サンマンダバザラダン・カン」
 不動明王真言一閃。
 結界が作られ、自分と登与と2人中空にビシャリと停止する。そこがあたかも地面かのような盤石さである。見渡すと何やら囲まれていると判る。リング状の霊的生命である。

(つづく)

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2021年3月24日 (水)

【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -09-

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「スキャンしても?」
「今はもっとしわくちゃだよ」
「補正推定ができます。後で今の年齢をお伺いします」
 冷徹で不躾だと思いつつ。ウェストポーチから取り出す軍用トランシーバみたいな外観の衛星携帯電話。アダプタで接続するサイコロみたいなカメラ。
 アルバムの幸せと真逆な、角ばって黒い機器たち。
 衛星電話なので空が見える場所じゃないと使えない。窓際へ持って行って通信確立。送信待ち(Waiting...)と文字が出てカメラで撮影。
 送信している間に写真に手のひらで触れる。サイコメトリ(Psychometry)。それは込められた思いを事後読み出す能力と言えば適切か。
「体が大きいから運動が得意かな……大学に行って苦労しないでほしいな……」
 彼女は拾った思いが勝手に口から出ていることに気づいていない。それは祝福のきらめきのゆえに彼女の自制を超えて飛び出してしまった。
 気が付く。この写真に「おじいちゃん」は写っていない。
「この時、おじいさまは?」
 この質問には叔父殿が応じた。
「もう、入院してたな。……心臓だった」
 おばあちゃんの思いを探す。
“私だけ写っても”
 応じた内容。および、これが“トリガである”という感覚。
 行く末を知りたくてアルバムを数葉めくるが、「おじいちゃん」と映った写真は出てこない。
 あったが、遺影とともに。
“会わせたかった”
 彼女は、アルバムを、そっと閉じた。
「姫ちゃんどした?」
 彼女の頬伝うきらめきにうろたえる平沢。
「気にしないで……あなたは、祝福と期待に包まれて育ったんだねって。ええと、おばあさまが普段過ごされてる部屋はどちら?常用されてる薬とか確認したい」
 振り払って立ち上がる。なお彼女の発言には一つ嘘がある。本当に欲しいのは“現在のおばあさまの感情”である。
「ああ、なるほど。ええとこちらですどうぞ」
 叔父殿が手のひらで示す。いったん廊下へ出、少し歩くと右側へ折れている。奥へ進んで階段だがそこではなく、左手、襖を開く。
 ガタガタと滑りの悪い襖を男の力任せで開けると和箪笥と茶箪笥が向かい合う和室。ちょっと埃っぽい。
“心ここにあらず”
 それは第一印象。あまり、この部屋に対して“自室”という感情をお持ちでない。
 と、ブスブス……という感じのオーディオ的なノイズ。

(つづく)

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2021年3月20日 (土)

【理絵子の夜話】サイキックアクション-03-

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 挑戦の意思と殺意。
〈しくじった〉
〈いえ〉
 少なくも大剣はそれを人格統合体として存在することを阻止した。
〈理絵ちゃん!〉
 呼ぶ声に振り返る。もう一人の霊的な友、高千穂登与(たかちほとよ)という。
 テレパシー使い。
 振り返った理絵子の視界に映じたのは、庭で歯を剥いてシャーと威嚇する……ネコの姿であった。近所に居着くでっぷりと大柄な虎縞の野良猫、トラと呼ばれる。庭でたまに糞をする。
 憑依されているのであった。それは分裂してその程度になったのと同時に、理絵子に挑戦しているのだ。憎たらしいとはいえネコが殺せるか。
〈任せて〉
 理絵子は声に出さず友二人に答えた。答えは持っている。
 トラが異常な跳躍力を発揮して庭から飛びかかってくる。引っ掻こうと出された前足を、首傾けて数ミリで避ける。
 トラが座敷に飛び降りる。
 しかしその時理絵子は元の場所にいない。
 その代わり、右手にハサミを持ってトラの背後にいる。ハサミは美砂に念力で取り寄せてもらった。自分の意識は読めるようだが、友が何をするかまでは見てはいないだろう……斯くて然り。
 トラ、に憑依した者がそれと気付いたとき、理絵子はトラのひげを切り落とした。
 ネコとしての本能的な行動意欲が減退する。分裂して低下した能力の故に、ネコ本来の能力に依存し、霊はそれ以上のことはできない。
 トラが突如バタリと倒れる。失神したのであり、憑依者が抜け出したのだ。そこへ霊界から剣が伸びて来てぶすりと刺してしまう。
 剣が力として吸い取る。まるでヒキガエルを食うヤマカガシが、その毒を我が物とするかのように。
 この一連の動きを見ていて。
 驚愕を有した心理が畳の下一面に広がっていると理絵子は知った。
 “一つの意識”ではない。
 そしてそれが来る。
 床下から庭へ黒い泥水のような物が流れだし、波打ちながら広がり、その泥水が一気にバラバラになり、理絵子と、姉と、友へ、一散にぴょんぴょん跳びかかる。
 夥しい数のコオロギの仲間、カマドウマ。
 美砂が腕を下から上へ振り上げた。念動力が発動され、太鼓をたたくようなドンという音が響き、家の中から暴風が生じ、引きずられるようにカマドウマがざあっと空へ持って行かれた。
 しかし畳の隙間から止めどなく泥水が染みだし、次々にカマドウマに形象を変えて這い上がってくる。

(つづく)

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2021年3月10日 (水)

【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -08-

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「ちょ……」
 果たして平沢進は目で見てわかるほどに赤くなったのだが、既に告白はされているので驚くまでもなく。
 ちょっとだけ笑みを見せて、でもそこまで。
「不躾で申し訳ありません。ただ、お話を伺って黙っていられず、無理なお願いと思いつつもお邪魔させていただくことにいしました。いきなりで申し訳ありませんが、おばあさまのお写真をお借りできないでしょうか。私が所属するチームの監視カメラ照合システムに取り込ませたいのですが……」
 叔父殿は目を見開いた。
「そんなことできるんですか!?」
「ええ、007(ぜろぜろせぶん)の世界が今は現実です」
 彼女は1960年代から続く著名なスパイ・シリーズ映画の名前を挙げた。
 その方がこまごま説明するよりきっと理解が早い。
「おお、それはそれは。警察に渡しましたが……多分まだ残りがあるはず。こちらどうぞ」
 瓦葺の2階屋である。彼女の表現パターンにはない言葉だが、昭和の風情と書けば手っ取り早い。土壁に木枠の窓。
 玄関は開き戸。鍵を挿して何回か、くるくるとねじのように回す。
 カラカラ開くと玉砂利を固めた三和土。彼女はいつぞや訪れた愛知・常滑(とこなめ)の陶芸家工房を思い出した。
「失礼いたします」
 靴を脱いで、屋内へあがって、向きを変えて正座して、靴を外向きに揃える。
「お前にはない部分だな、進」
「うるせぇよ。えーっと、こっち。うわひでぇな」
 廊下を少し行って障子の部屋に招かれたが、そこは畳の上にいくつものアルバムが広げてある。警察への依頼にあたり、慌てて写真を探したのだと判る。
「ここから探しても……」
「ええ、ご自由に。お茶を入れますわ。進、急須の葉っぱを変えろ」
「判ったよ、親父って何か言ってた?」
 野太い声同士の会話と、やりつけない洗い場の物音。がちゃん、あぶねー。
 アルバム数冊をまずは見渡す。殆ど平沢進本人と家族写真であり、“おばあちゃんといっしょ”はあまり多くないと判ぜられる。
 2冊重なったその下、裏返しになった緑の表紙。
 文字が刺繍されている“すすむくんの生い立ち”
「姫ちゃんごめん、お湯を沸かしてるからちょっと待……」
 背後に来た彼が、彼女の手にしたアルバムを見て固まったことが判った。
「見られるの恥ずかしいなら……開かずにおきますよ」
 振り返らずに。幼い自分を人に見られるのが恥ずかしいとはよく聞く年頃。
「いや……そこにおばあちゃんの写真絶対あるから。ちょっと若いけど」
 刺繍の表紙をめくると、それはお腹の中の超音波エコーから始まる。祝福され、喜びとともに成長が記録され。
 おくるみの姿、ちいさなてのひら。
 家族写真。そこに「おばあちゃん」の姿があった。
 和服姿、白髪で結い上げてあり、優しそうな笑顔に眼鏡。若干の寂寥。

(つづく)

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2021年3月 6日 (土)

【理絵子の夜話】サイキックアクション-02-

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 玄関呼び鈴チャイムがピンポン。
「はーい」
「私でしょ」
 母親の声を遮り、理絵子は2階から階段を降り始め。
 気付く。
「伏せて!」
 理絵子は残り数段を駆け下り、1階廊下に立ってこちらを見ている母親の身体を引き倒した。
 パン、パンと乾いた、かんしゃく玉の破裂に似た音がし、玄関ドアと台所からわずかなタイムラグを持ってバシ、バシ、と鋭い音が出る。
 銃弾である。
 護身の真言を唱えようとするが不要と判ずる。相手は庭へ動いている。その様が手に取るように判る。が、何も出来ない。
 否。
〈理絵ちゃん任せて〉
 庭へ走り込む拳銃片手の目の前に、陽光輝く天から突如、ブレザーの制服を着た“姉”がふわりと降り立つ。
 その姿と言動から理絵子が“みさねーちゃん”と呼んでいる娘。
 本橋美砂(もとはしみさ)。17歳。念力使い。
 降りて来ただけで拳銃片手の私服警官が透明な張り手を食らったように突き飛ばされる。天からふわりと降りて来たと書いた……彼女は弘法大師空海の伝説よろしく空を飛んできた。念力の分類用語で空中浮揚(レビテーション)とか言う。
 だが、そんな分類、どうでもいい。
 私服警官が庭先にゴロンと転がり、動かなくなる。
〈そこにいるぞ!〉
 声だけ。アルヴィトであった。私服警官は憑依され操られており、前後不覚に伴って憑依の主体が中から出てくる。
 人型のような“もや”が陽光降り注ぐ庭先で超視覚に映じた。
〈見てはならん。罠だ〉
 人型の向こう、超視覚野に白馬のアルヴィトが出現するや、腰の大剣を抜きながら振るった。
 大剣がもやを切り裂く。割れた水風船のように、飛び散る水しぶきのように、もやの構成要素が四散する。
 アルヴィトの表情に失敗が見て取れた。
 それを本来の目的とする罠だったのだ。もやの正体は個々の怨念が集合してできあがった一種のゲシュタルト。それが多数の霊体に分裂した。
 多数が同時に具象化するのを阻止することはできまい。

(つづく)

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2021年2月24日 (水)

【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -07-

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 要は授業を抜け出して悪さを働く中学生徒を見つけて報告する監視員。その手の生徒がいないという学校はないであろう。
「別に気にせずそのまま」
「え?」
 驚く平沢を尻目に、彼女はそのまま速度を緩めずスタスタ歩いて行く。
 もちろん、巡回監視員は制服二人を見つけるや、真っ直ぐに進路を取って向かってきた。
 この時、彼女は小さく数語呟いたのであるが、平沢が彼女の声を聞き取ったかは定かではない。
「こんにちは」
「はいこんにちは」
 彼女は会釈し、果たして監視員は笑顔でそう返し、普通にすれ違った。
 平沢は呆然。
「あの……」
「気にせず。コソコソするから疑われる。大義と正義は我らにあり」
「そういうもん?」
「そういうもん」
 住宅街を横切り、西端に達する。視界が開け、正面から左側は下り急斜面に沿って墓地、右側はさらに見上げる角度で続く崖で、土留めのコンクリート擁壁が陽光を反射してギラギラしている。
 その擁壁と墓地との間、斜面下へ向かい設置された長い階段を降りて行く。
 彼女はこの地に住んで半年もないが、ここへ来たのは初めてだ。
「ここを通ってるわけ?」
「走って上り下りしてんだ。いいトレーニングになってる」
「それすごい高負荷じゃない?」
 彼女は答え、背後から声が掛かる、と察した。
 事前に判る。それは予感というか、その人が自分たちに意識を向けたからそうと判った。
 平沢の叔父に当たる人物。“捜索”に馳せ参じたのは説明するまでもない。
「進。学校じゃなかったのか」
 彼と共通する低く響く声。彼は立ち止まり振り返る。
「あ。学校に相談したら事情を判ってくれてさ……」
「そちらは?」
 レムリアのこと。
「クラスメートの……」
「相原姫子と申します。准看護師ではありますが資格を持つので、多少お手伝いできるかと」
 手を膝前にしてぺこり。
「おお、例のお前が大好きな女の子か!」

(つづく)

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2021年2月20日 (土)

【理絵子の夜話】サイキックアクション-01-

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プロローグ

「汝、守りたい者はあるか」
 問う声があった。
 成人した、しかしまだ若い女の声だ。
 日本語で、肉声のように感ぜられたが、夢の中だと理絵子(りえこ)は認識している。しかしそこは意識だけで動く世界であるから、幽体離脱(アストラルプロジェクション)の状態との区別は難しい。幽体離脱の可能性の故は、その声の主を理絵子は知っており、相互に住んでいる時間と次元が異なる。
「家族と、友と、クラスメート」
 答えると、声の主の姿が浮かぶ。鋼の武装から金色の髪をなびかせ、こちらを見つめる馬上の麗人。
 北欧の伝説に名を残す戦女、アルヴィト。
 逢うのは二度目である。死神に襲われた際、時空を超えて助太刀に来てくれた。その際、必要に応じ助けを求めよ、と言ってくれた。
 そのアルヴィトが自分の夢に。余程の事態ということであろうが、その理由はすぐに判った。
 自分が絡んだ事件が先に起こった。エセ宗教家から友人を救い出すに際し、その宗教家の教会が爆発し、宗教家と周辺が死亡したのだ。
 それは巨大な罠だったと警告に来てくれたのだ。自分と、自分の大事な全てを破壊するため魔が仕組んだのだという。そして、それを“夢に直接”の故は、テレパシーや、類似の超常感覚による察知の防止。
「汝の意思は受け入れた。だがしかし、肉の身に収まっている者は逆に我らからは察知できぬ。これからの時制は防げるが、過去に属する既には防げぬ。戦いに備えよ。よろしいか」
「はい」
 理絵子は答えた。その事件の場において、ただでは済まぬと思っていたが、全面・全力で攻撃に来るというのか。
 超能力で攻撃される。SF・恐怖マンガそのものの世界。伝説級の魔族が戦いを挑んでくる。少し前の自分なら怖じ気づいていたかも知れぬ。なぜなら自分は“感覚”は持つが、念動力・サイコキネシスは持たぬ。
 しかし今は違う。知る力を持つ自分と、守る力を持つ友と、
 攻める力持つ“姉”がいる。
「心を閉じるな。それこそが罠だ。恐怖に負けず開いて居よ。ならば、私は常にこちらの側から汝が見える」
「ありがとうございます。どうぞその時はお力添えを」
「心得た」
 馬上の戦女は振り返って笑んで見せ、髪をたなびかせ馬にて去った。

(つづく)

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2021年2月10日 (水)

【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -06-

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 彼の説明は要領を得なかったが、彼の思い描いた画像をつなぎ合わせるに、その昔、蒸気機関車が客車を牽引していた時代の名残で、旧国鉄時代から続く列車のことを“汽車”と呼ぶ年代であり、それに引きずられて彼も汽車と呼んでおり、列車そのものはJR八高線と同型のエンジン駆動の列車が走っていると理解した。まぁ鉄道の詳しいことはフィアンセに訊けば判ろう。
「おばあさまはこちらへ、東京へ遊びに来たことは何度もあるのね?」
「うん」
「じゃぁ、そのルートに沿って探してみましょうか。それとも既に」
「駅には警察から確認してもらってるはず。でも……」
 そういうレベルか。レムリアは少し落胆した。ハイテク日本じゃなかったのか?
 逆に言うとそれならそれで自分の方で別のアプローチがある。
「おばあさまの写真はお持ち?」
「家に行けば……」
「お借り出来ないかな。画像検索にかける。ビッグデータって奴」
「それって……」
 平沢は目を見開いた。前述の特殊な方法……空飛ぶ船で世界各地へ駆けつける。彼はその船を目撃したクラスの数少ない一人。その船の電子能力を使う。
「わかった。ありがとう。ちょっと親に電話してみる……あ、でも何て説明しよう」
「友達が協力してくれる、でいいと思うよ」
「わかった。……で、その、ありがとう」

「クラスメートの家族を探すので授業に参加しません」
 それは認めれば教員が組織に咎められ、逆であれば生徒達から人でなし扱いされる。
 なので彼女らは、相談室を使い終わったとだけ告げて、そのまま黙って学校を出て来た。
「オレはいいけど……姫ちゃんは……」
「いいの。呼び出されるのはウチの親だし」
 以下、“レムリア案件”ということで彼女の名をレムリアと書く。
 中学校は丘の上、公園の向かい側にある。校舎を出て左へ折れ、その公園を右手に見ながら坂を下りる。
 住宅地が広がる。丘から続く高台を崩してひな壇状に開発したもの。彼女の家はその中程にあり、彼の家は横切って宅地の西端、さらに、
「お寺と墓地あるじゃん、その向こう」
 彼女は頷いた。自分の家の前を通り過ぎる。不思議な感覚。
 家の前の通りの向こう、ひな壇の奥へ続く“メインストリート”とのT字の交差点におばさんの二人組。
 二人とも左腕にグリーンの腕章を付けている。
 平沢が舌打ち。
「巡回だよ。どうする?」

(つづく)

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2021年2月 6日 (土)

【理絵子の夜話】聞こえること見えること-04・終-

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「ありがとう」
 理絵子は彼の所へ戻り、マフラーを受け取って言った。
「あの……」
 彼は何か言いかけた。が、そのまま何も言わず、理絵子に渡したマフラーから手を離し、背を向けて走り出した。
 翌日、学校に来た理絵子の机に大振りな封筒一つ。開けると楽譜。
「おおっ!りえぼーがまたもらってるぞ!」
「誰から?誰から?え?…楽譜じゃん」
 集まってくる女子生徒達。そのうちの一人が楽譜のタイトルを読んだ。
「Josef Strauss、op.28 Sylphide - Polka-Francaise」
「わっかんないよ」
「ヨゼフ=シュトラウス、作品28。フランス風ポルカ、“シルフィード”」
「しるふぃーど?」
「風の妖精のこと」
「へー。妖精。……おっと妖精と来たか」
「何かゴーヂャスだね。コクる手段としては斬新でないかい?」
「で、これどうしろって?妖精のようなあんたに妖精のように弾けと要請?」
「あたしバイエルも弾けませんが何か。それにそれ面白くないし」
 理絵子は彼女たちに言い、さっさと楽譜をしまった。
 差出人もその意図も判っている。少なくとも彼女たちが思っているようなことではない。
「返事するの?」
 そう言ったのは、良く理絵子に相談を持ちかけるメガネの彼女。心配なほど大人しい娘。
 理絵子はちょっと考えて。
「シューマン、作品15の7」
 とだけ言い、彼女たちを残して、名簿を取りに職員室へ向かった。この曲ならどこぞの少女マンガに出ていたので、こういう言い方が出来る。
「え?何それ?」
「子どもの情景?………あ、トロイメライか」
「トロイメライ?」
「“夢”」
「うわ、きっつ~」
 そういう意味じゃないって。

聞こえること見えること/終

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