小説・恋の小話

【恋の小話】星の川辺で-20-完結

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「別に多重人格ってわけじゃないんだ」
「微塵も思ってないよ。いや、たとえそうであっても気にしない」
 オレは言うと、彼女の隣に座って、寝転び、見上げた。
 街中とはいえ、応じて目が慣れたのか、見える星の数は先ほどより多い。
「自分は違うんだ、って話は幼稚園の頃から朧に記憶があるんだ」
 彼女は、上を向き、髪を流し、星空に視界を向けて言った。
 悠里は川に石を投げて遊んでいる。
「変な奴、みんなそう言って、離れて行くんだ。そうしなかったのは高台君が初めて」
「なるほど」
 オレは一息置いた。
「オレは今、君の最大の秘密を聞いた」
「話したのはあなたが初めて」
 髪の毛が流れ、見つめる瞳が自分へ向かう。
「また一つ君のこと知った」
「あなたには、言ってもいいというか、言わなくちゃいけない、そう思った」
 それは恐らく彼女独特の言い回し。恐らくは、何らかシンパシー感じるところがあり、理解してもらえると確信もって打ち明けた、そんなところか。
 ならば。
「男の子ってさ、ナントカヒーローとか、好きになるじゃん。ゲーム機大好きじゃん。そうじゃない奴は置いてけぼりなんだ。同じだよ」
 夜空に向かって言ったら、風が動き、彼女の付けてるコロンか湯上がり故か、香りが漂い、白い顔と髪の毛が上から降りて来て、髪の毛がオレごと包んで唇を塞がれた。
「これは愛情表現」
 チュッと音を立てて唇が離れた。
 悠里は気付いていない。
 つまり自分達どこか一緒。オレは見下ろす女を見上げて思った。
 女の身体がオレの身体をクロスオーバー。その片手をクローバーの上に付き、もう片手でしなだれる髪をたくし上げ、
 そうして、確保された視線で、オレを見つめる。
 こいつは、女になったのだ。男の確信。
「オレでいいのか?」
「うん」
 笑ったその瞬間、少女の笑顔に戻る。
 年齢相応、中学校の同級生。
「じゃぁ、一緒に行こうか」
「うん!」
 幾千の星の光に守られてあなたとわたし二人の始まり。
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星の川辺で/終
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あとがきもどき

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【恋の小話】星の川辺で-19-

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 救命救急という言葉が頭をよぎる。呼吸を確認して……心臓マッサージ。
「お兄ちゃん!お姉ちゃんは?」
 悠里が足をジタバタさせる。
「大丈夫だ」
 オレは自分自身言い聞かせるように声に出し、草むらに彼女を横たえようとした。
 呼吸の有無は鼻の所に耳元を近づけて。
「お姫様にちゅーするの?」
 悠里の無邪気に、バカ!と答えようとしたが、
 少なくともこの抱きかかえて感じる身体の動き、伸縮は呼吸のそれだし、なら多分心臓も動いてる。
「美奈ちゃん」
 王子様のキッス、じゃないが、オレは呼んでみた。
 少なくともインパクトはあるからだ。
 キスは昼したし(おいおい)。
 果たして、小刻みな震えは収まった。
 が、目を開ける気配はない。
 失神しているのともどうも違うようである。なぜなら失神なら力が抜けてぐにゃぐにゃになるからだ。何らか過敏な意識反応を起こしているのだろう。トリップしているという奴だ。
 などと思いながら、女の子の顔ここまで間近でじろじろ眺めたのは初めてだと気付く。いわゆる美人でも可愛いでもないが、何だかんだで大和撫子である。ただ、少し青白いような肌の色は、苦労してるというか寝不足なのではないか。
「ひとりでずっと抱え込んでいたか」
 呟いたら、彼女はゆっくり目を開けた。
 そして涙ぼろぼろ流し始め、ぼろぼろ流しながらオレの腕の中にあった。
「お兄ちゃん泣かせてる!」
「ううん、違うよ」
 囃し立てるような悠里の物言いに、彼女は静かに一言。
 身を起こし、クローバーの上に体育座り。
 更に三つ編みを解いてしまう。さらりと広がって流れ、彼女の横顔を覆い隠す。……隠すことが目的か。
 するとまるで別人の体である。静謐さをたたえた、年齢相応以上大人びた若い娘の肖像をオレは見ている。
「星虹(せいこう)は亜光速だと君が言い星虹の如く人生を思う」
「オレはそばから離れんよ」
 これでいいだろう。
 
(次回・最終回)

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【恋の小話】星の川辺で-18-

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 正直、中学生の女の子と話すのにここまで細かい話が要るとは思わんが。
 知ってること、全部、話した方がいいように思うのだ。
 知りたいと思っているだろうから。
「ドップラー……効果?」
 彼女はそっちに興味を示した。接眼レンズから目を離してオレを見る。
 の、オレたちの視線の間に割って入る悠里。
「ハイ!あたし知ってる!死ぬ前に出てくる自分のオバケ~」
「そりゃドッペルゲンガー。ドップラ……」
「救急車のサイレンなんかが急に低くなるあれだよね」
 ドップラー効果自体の説明は必要ないようだった。
「光でも起きるの?」
「波動だからね。だから、光の速さに近いような高速宇宙船で星の海を進むと、近づく星は青っぽく、今まさに抜こうとする星はくるくる色を変えて赤になって、去って行くに従い見えなくなる、だろうと言われてる。星が虹色に変化するのでスターボウ(starbow)」
 わぁ、と彼女は言った。
「スターボウ……なんて響き。レインボウ、ムーンボウ、スターボウ。太陽と月と星と全部揃ってるんだ……」
 言われて、ああそうか揃ってるなとオレの方が逆に感心した。空で輝く連中みんななにがしか虹現象を有しているわけだ。ちなみにムーンボウとは日本語では月虹(げっこう・つきにじ)と書き、月の光で生じる夜間の虹のこと。月光が淡いこともあって極めて珍しい。
「ねぇお兄ちゃん。お姉ちゃんが変」
 今更変は百も承知……と思いつつ、そういう意味じゃ無いとハッとし彼女を見ると、祈るように両の手を組み、上半身のけぞらせてガクガク震えている。
 昏倒しかかったところでオレの腕が間に合った。抱き留めると固まったように動かない。
「おい安達、安達美奈!」
 揺するが変わらず。
 何が起こった?
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(つづく)

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【恋の小話】星の川辺で-16-

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 接眼20ミリで中心に合わせ、輪のある姿をどうにか確認。9ミリに変換して中心に合わせ。表面のしましま模様を確認。
 もうワンランク上げたい所だが、都会の空では。
 こんなもんだろ。
「土星でござい」
 オレは安達美奈に見せようと思ったのだが、彼女は悠里を抱き上げ、先に接眼を覗かせた。
「土星さーん。はろはろ~。あ、お姉ちゃんもういよ。あたし前にも見たことあるから」
「そう?」
「そりゃ最初に見せるさ」
 オレは言った。
 すると、安達美奈は、悠里をそっと下ろし、胸に手をして目を閉じ、1回深呼吸。
「私は初めて」
 大げさな。普通ならそうなるだろう。でも、彼女に関して至って普通。
 何だろ、突然オンになるトランジスタみたいな。
「ピントはここで」
 彼女が接眼に目を当てたところでオレはピント合わせのダイヤルを手に持たせた。
 その手が震えている。真剣に緊張していると理解する。
 そしてオレは圧倒された。
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 天才のこぶと言いたる天体を我は輪としてこの目で見たる
 数多なる光の粒と同じに見えたるも真の姿は他とは違う
 目の中に手のひらの中に見えつつも実際の距離は幾十億キロ
 麦わらのツバかと思いし輪のありて無数の星のくずの集まり
 斜にしたシャッポをかぶったその姿次に見えるのは十数年後
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 それらは普通、一つ二つの感嘆の言葉で済まされる物であろう。それが彼女の手に(見識に?)掛かると五首の短歌に化ける。
 そこで一旦目を離して短冊と筆ペン登場。片っ端から書き出す。言ったこと全部覚えているらしい。
「勿体ないなって。すごいとかカワイイだけで終わらせるのって。そしたら、母が、昔の日本人はだから短歌や俳句にしたんだって教えてくれた」
 筆ペンの蓋を閉め、
「もっと見ていい?」
「もちろん。他の星?」
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(つづく)

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【恋の小話】星の川辺で-15-

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「だから、表は虫に食われたり水分が蒸発したりするのを防ぐため、閉じる。ただ、そういう仮説ね、現段階あくまで」
P9280212
(閉じる)
 説明したがもう聞いてない。悠里の四つ葉探しに付き合っている。と言っても、昼間ココにあったわけで。
「あ、あったよ」
 ほぼ同じ場所なので当然そうなる。
「わ、ホントだ。お兄ちゃん見てみて四つ葉!四つ葉のクローバー!初めて見た!」
「でも取らないでおこうよ。これは幸せをプレゼントしたい誰かにあげるもの。悠里ちゃん今楽しいでしょ?だったら取ったらかわいそう」
 安達美奈はそんな物言いをした。
「うんそうする!お姉ちゃん優しい」
 オレは三脚の脚を広げながら、正直魂消た。
 普通四つ葉見つけたら引っこ抜いて独り占めするだろう。幼子なら尚のこと。
 それを納得させたこと、そして恐らく、悠里は安達美奈と一緒にいるのが楽しい。
 憧れのお姉さん、ということか。
「兄ちゃん」
「んあ?」
 赤道儀をセットする。ネジを締めてモータドライブに電池を接続。
「お兄ちゃんとお姉ちゃん結婚したら、お姉ちゃんは本当のお姉ちゃんになるんだよね」
 ぶっ。しかしオレが何か言う前に安達美奈が口を開いた。
「そうだよ。お兄ちゃんが18歳にならないと結婚できないけどね」
 何を話してるかこいつらは。
 無邪気と知識の同居……オレが安達美奈に下した一次判断。
 境筒載せ。動力確認。
「あ、動いた」
 悠里がモータのウィウィ唸るに気付き、三脚下の布袋に手を伸ばす。
 その布袋は巾着袋で似顔絵のアップリケ。
「悠里が作ったの」
 フェルトを切って福笑い。ボンドで貼ってあったのを母親がミシンで縫い付け。
「これお兄ちゃん?」
「うん!」
 中から取り出す接眼レンズ。別途ファインダーを取り出して付ける。このファインダーで狙った星を概略捉え、以下モータドライブを微調整し、接眼レンズ覗いた中心に星の像を追い込む。この一連の作業を天体の“導入”という。
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(つづく)

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【恋の小話】星の川辺で-14-

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「一筋の光描いて天を行く天空先端研究所のあり」
「その通り。しかしまぁ良く何でも三十一……」
「あー消えちゃう……あそこに人がいて、最先端の研究してて」
「そこへネットでメッセージ送れるんだなこれが。みんなツイッターやってるから」
「何かすごい。すごすぎる。私たちとんでもない未来に生きてる気がする!」
 あこがれのヒーローに出会った幼児のように足をじたばた。
 合わせて悠里も面白がって足をじたばた。
 それはさながらタイムスリップしてきた万葉人と評すべきか。
 短歌俳句好きなら、教科書が相手なら、文字になっているのは古い世界や視点、価値観が主だろう。
 万葉から1000年過ぎてる。
 以下、川までの道を星空解説しながら歩く。今年は土星がスピカの近くで白く輝く。
「土星の輪ってそれで見えるの?」
「合点承知の助」
 すると彼女は急に早足になった。
「見たい見たい土星見たい。早く行こう」
「お姉ちゃん速いよ」
 手を引かれる悠里がバランス崩すのを見て、彼女は抱き上げて小走り。
「ちょ……もう」
 機材を落とすわけにも行かないのでそのまま自転車を引いて行く。
 川べりに着いたら安達美奈は立ち尽くして呆然としていた。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん固まった」
 悠里の言葉の通り。ただ、果たして彼女はゆっくりこっちを向いた。
「閉じてる」
「は?」
 指さしたのは足もとシロツメクサ。
 クローバー共、葉を閉じてる。
「ああ」
 オレはとりあえず頷いて見せ、自転車のスタンドを立てた。彼女の今の疑問には応えることが出来る。
「ああ、ってことは、これ当然当たり前のことなの?」
「就眠(しゅうみん)活動って言うんだよ」
 植物一般の生活サイクル説明。昼は光合成。夜は呼吸。光合成に必要な葉緑素は表に多く、呼吸に必要な穴は裏に多く。
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(つづく)

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【恋の小話】星の川辺で-13-

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「うん、入ってきたよ」
 風呂に入ってきた。同級生の女の子。
 物凄く、ドキッとした、と書いておく。何故かは判らない。
 ティッシュを出して悠里の顔をぬぐい、それでべっちょりのオレのTシャツもぬぐう。
「ゴメン、オレ風呂入ってないどころか鼻水付き。悠里乗るか?」
「やだー。お姉ちゃんとお手々つないで行く。お兄ちゃん落とすもん」
 何を言うか自分でバランス崩したくせに。
 女の“客観的事実の把握の欠如”ってこの歳から既にあるのか。
 さておき川へ向かう。天候は晴れでOK。悠里が覚えたてか、“たなばたさま”の歌をノンストップパワープレイ。
「でもここからじゃ砂子って見えませんよね」
 この時々敬語混じり。何かあるのだろうが、心理学の本をめくればいいのだろうが、
 そういうことしたら逆に“自分のナチュラルな反応”失いそうな気がする。
 ちなみに砂子はその歌の歌詞に出てくる金銀砂子のこと。星屑のキラキラを指す。
「まぁ街中だしね。でも望遠鏡なら星の大集団なのは見えるから」
「『午后の授業』みたい。あ、あれって流れ星?」
 午后の授業、は宮澤賢治“銀河鉄道の夜”冒頭の副題と判った。というか星ネタだから付いて行けてる。そして、流れ星?と彼女が指さしたのは……天を横切って行く光の点。
「ゆーほー?」
 悠里が見上げる。二人の反応と記憶の限りでオレは答えを知ってた。
「国際宇宙ステーション」
「うそっ!?」
 こっちが驚くほど大きな声を出した安達美奈。
 その驚き方は悠里のそれと大差ない。
「お姉ちゃんびっくりしたよ~」
「ごめんね。え?あれって見えるの?」
「400キロ上空ではまだ太陽が見えてるわけ。逆に言うとその光が反射してオレらの目に届いてる。同じ理屈で人工衛星なんか朝夕に時々見えるよ。流れ星は大体0.3秒で消える」
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(つづく)

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【恋の小話】星の川辺で-12-

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 であれば、悠里置いて行けば何が発生するか大体予想が付く。この家にある“オレのモノ”に片っ端からウンチの絵を描かれる。
 母親が抑えるだろうが……翌日翌々日まではムリだろう。女の恨みは根が深い。隙見て描かれる。
 仕方がねぇ。
「コブ付きデートとか聞いたことねぇよ……ご飯残さず食べること」
「はーい!」
 ピーマンもニンジンも苦にならないらしい。
 出かける時間になった。
 自転車に望遠鏡システムバラして載せる。赤道儀(三脚部分)は荷台にゴム紐。モータードライブは前カゴ。境筒(望遠鏡本体)はナップザックに突っ込んで背負った。
 で、サドルに悠里を乗せてガラガラ押して行く。
「わー!たか~い」
「しっかり掴まってないと落ちるぞ」
 で、アパートの駐輪場から出たら、そこにすでに安達美奈がいた。
 半袖ブラウスに……スカートはセーラーのまま。
「何か手伝うことないかなって。あらこんばんは」
 挨拶してもらって悠里が両手広げてVサイン。
「ごめん、付いてくるって」
「お姉ちゃん、にーちゃんとちゅーするの?」
「バカモノ。ちゃんと挨拶しろ。これ妹の悠里」
「悠里ちゃんでーす」
 で、ふざけてバンザイするからバランスを崩す。
 ハンドル持って手を出すのは不可能。咄嗟に身体を出したのでオレの胸元に顔面激突。
「……!……!」
 重心が完全にサドルから外れているので自力修復不可能。
「ごめん……ちょっと下ろしてやって欲しい。か、自転車抑えるか頼む」
 安達美奈に手伝ってもらわざるを得ない。
「いいよ」
 安達美奈はオレの傍らまで来、しゃがみ込んで悠里に腕を伸ばした。
「お姉ちゃんの方へおいで~」
 髪の毛から漂う香りふわり。
「うわぁお姉ちゃんいい匂い!お風呂入ったママみたい」
 悠里は顔を上げ、半べそ鼻水で笑顔キラキラ。
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(つづく)

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【恋の小話】星の川辺で-11-

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 聞かなきゃ良かったかも知れない。オレの表情や言動にそうした同情が表れたらどうしよう。
 俳句や短歌をぽんぽん作るような娘が、感受性鈍いわけが無い。
 逆に一発で感付かれる。
「お前が、そばにいてあげたいと思うなら、それでいいんじゃ無いのかね」
 母親は、言った。
 電話を手に取る。
「むしろ立派な男の子だよ。連絡網どこだっけ」
 渡した後の会話はスラスラと進んだ。先方が大仰な反応を示して声が漏れ聞こえる。
『お誘い下さると言うんですか?……ちがうちがう私の方からお願いしたの……ご無理では?』
 オレはたまらず受話器を奪った。
「すいません智です。ムリとかそういうの全然関係ありません。望遠鏡持ってる話をしたら星を見たいと聞いたので。ただ、夜だからご心配かけちゃいけないと電話で確認させて頂いた次第です」
 電話の向こうでお辞儀してるのが目に見えるよう。
 向こうも美奈に変わった。
「てなわけで8時に。商談成立ってことで」
 言ったら、彼女は大笑いした。商談という言い方がツボにはまったらしい。
『私買われるの?』
「オレの責任の下にお預かりするわけだからあながちウソじゃないでしょ。じゃ、後で」
 電話を切る。と、シャツの裾を引っ張る力。
 悠里。ニヤニヤしている。
「お兄ちゃん今の電話のお姉ちゃんとちゅっちゅするの?」
 何と言うか、ムダにおませというか。
「違うよ。難しいお勉強を一緒にしようってお話」
「お星様見るんでしょ?」
 いわゆる“カマ掛け”されたことにオレは呆れるやら驚くやら。
「悠里も一緒に行く~」
 駄々をこねる方法子供によって様々だろうが、悠里の場合、ぴょんぴょん飛ぶ。
「えー兄ちゃん困る~」
 一緒になって飛んでみせる。悠里はゲラゲラ笑いながら、
「お兄ちゃんは悠里と結婚するから誰にもあげないの!」
 そういうことかい。
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(つづく)

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【恋の小話】星の川辺で-10-

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 それは、PTAの間で、オレら生徒の与り知らぬところで、彼女に関し何らかの情報が出回っていることを意味した。
「あんた知ってるの?その子言動が……」
「オレの感想、彼女のべつ短歌とか俳句とか考えてんの。だから傍目に変で不思議なんだよ。めちゃくちゃいろんな事知ってるしめちゃくちゃ好奇心旺盛。そら普通の言動はしねぇだろうよ。今夜望遠鏡担ぎ出すと言ったら一緒に見たいってさ。8時位に出て行くから先方の親に電話してくれよ」
 オレは流れるように必要なことを言った。
「そこまで進んでるの!?」
「何だろ、好きだからちゅー、なんだよ。エロ成分ゼロ」
 言ったら、悠里が「エロちかん、男子は変態エロスケベえ~」と歌い出した。幼稚園で流行っているのだろう。
 母親が怒る。
「こら悠里」
「はい色紙」
 渡すと、エロスケベコンサートは終わった。
 オレは母親に向き直った。
「正直、自分で安達さん好きかどうかワカラン。いきなり言われてピンと来ないしね。ただ、彼女の気持ちは尊重したい。っていうか……」
「ムリに理由を探さなくていいよ」
 母親は温和な表情で言った。
 学校の父母会において、彼女の母親が全員に頭を下げたというのだ。
「迷惑掛けるような子に育てたつもりはありませんが、思ったままを口にしてしまう傾向があります。それがどうしても悪い印象に取られることがあります。味方になってくれる友達がいて下されば幸いですって」
 動揺、した。
 子供にとって、大人に言われて最悪の言葉というのがある。
 ……友達になってあげて、だ。
 言われた他の子ども達が抱く心象は一つである。コイツ仲間外れなんだ。
 大人は気を遣ったつもり。比して子供が持ったのは先入観。
 もちろん、優しい子は友達になろうとする。ただ往々にして、その裏にある心情動機、“友情”でなく“同情”の存在に相手は気付く。
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(つづく)

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