【理絵子の夜話】空き教室の理由 -79-
「そうみたい。こんばんは、理絵子さん。その結果、二人かな。ここまでたどり着いたけど、結局この人に見つかって突き落とされた。それがまた伝説を生んだのね。この人にとって都合のいい形に」
二宮あゆみは、テレビドラマのあらすじを語るように、淡々と言った。
理絵子は目を剥いた。ひとつは、彼女たちは内川の陵辱にショックを受けての自殺、ではなく、内川の手に掛かったのかということ。
そしてもうひとつは。
「あなたそれを……」
「見てた。ずっとここにいたからね。ずっとずっとぼーっとここにいた。空しいだけだったし。その間に、二人が死んだ。それだけのこと」
二宮あゆみのこの傍観スタンス。
彼女の言を酷いというのは簡単かも知れぬ。実際理絵子も一瞬はそう思った。
しかし、大切な人を、自分を守ってくれたことがきっかけで引き離され、挙げ句全てを失って自ら死を選んだ少女なのだ。他人の死などどうでも良いものと映っても、仕方がないことかも知れない。
彼女は永遠に孤独で寂しいのだ。
「可哀相なあゆみさん……」
理絵子のその言葉に、マスターがあゆみ……担任を見、その“存在”に気付いたらしく、目を見開く。それは驚愕の反応と言って良い。憑依現象を目の当たりにしたのだ。さもあろう。
次いで理絵子を見、目で問う。理絵子は頷いた。マスターは理絵子の能力を知らない。最もこの事態であるから、桜井優子が道すがら話したかも知れぬが。
能力を知られる相手がマスターである分には別に構わない。
「ありがとう。もう、どうでもいいけどね。そう、もう、どうでもいいの。あなたは何故私が出てこないかって不思議がってたけど、どうでもいいんだもの。朝倉先生が苦しんでたのも判ってたけど、別に何とも。だって……私はもう」
「もういい!やめろあゆみ、もういい!」
その声を放ったのはマスターであった。
「まさき……」
あゆみの宿った担任がまるで人形のように、まばたきせずに、その目をマスターに向ける。
まさきという名に理絵子は気付く。岩村正樹。担任の一人芝居に出てきた名前。
喫茶店、ロッキー(岩のロック+樹)のマスター。
謎が全部繋がる。マスターと警察官である父親との関係、何故マスターがあゆみちゃんの家を知っていたか、何故学校がロッキーを出入り禁止としたか。



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