小説・魔法少女レムリアシリーズ

【魔法少女レムリアシリーズ】アルカナの娘 -08-

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「相原さんは、私に昔、霊能があったと言ったら、笑う?」
 カップの王というのは、小アルカナに属し、人間関係を大切にする……などの示唆を与える。
 応じた重い告白が始まると彼女は理解した。まっすぐに神領美姫の目を見る。
「いいえ。科学を超えた力やエネルギは、科学で検出することは出来ません。だから、科学で理解できないからと言って、ないと言い切ることはできないと思います。そしてあなたは今、多分、誰にも話したことのない、重大な秘密を告白してくれようとしています。それを私は笑ったりしません」
「わたし……」
 物心ついた頃には、誰が何を考えているか、自分に対してどんな感情を抱いているか、“顔を見れば判る”状態だったという。
 つまりテレパシー。それは持てるならば羨ましい能力とされるが。
「みんなが、私を、気持ち悪いって、避けてるのが判った。嫌いなのに先生に命令されて無理矢理仲のいい素振りをしているのが判った。気持ちが針みたいに、棘みたいに、どんどん、どんどん、刺さってきて、幼稚園に行けなくなった」
「判るのは、いいことばかりじゃない。むしろ、知らなければ幸せだったことも判ってしまって、辛いばっかり」
 神領美姫は頷いた。
「しかも、誰も理解してくれない……違う?」
 首肯再度。そして。
「だから、自分で何とかしなきゃって思って。そんな時、占いってのを知った。これなら、逆にみんな判っちゃうことが活かせるなって」
 小学校に上がって程なく、占いの当たる子と評判になったという。ちなみに彼女姫子は幼少期日本におらず、幼稚園から小学校に上がることで何が変わるかピンと来なかったが、多く幼稚園は私学であり、同じ幼稚園だから同じ小学校へ行くと限らず、逆に違う幼稚園の子も来て、要するに“シャッフル”されるのだと理解した。ならば、“変な子”の先入観を持たれる確率も下がる。
「それで、感じた結果と辻褄の合うカードを示すようにして、占いの結果ということにした、と」
「うん、でも、小学校高学年になって、どうしようもないことが起きた。仲の良かった友達が、男の子を好きになって、成就するかと。でも、相手の男の子にその気はなかった」
「イエスともノーとも答えられなかった」
「ううん、嘘をついた」
 姫子は思わず目を見開いた。つぶやきに混じる重い後悔。
 神領美姫は机上に並んだ彼女のタロットを手に取り、大アルカナの〝力〟を示した。獅子を手懐ける女性が描かれており、忍耐強く取り組め、みたいな解釈を取る。

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(Wiki)

「正位置で提示したわけだ」
「うん、で、彼女は速攻コクって、当然ダメで、私を嘘つきとひどく罵った。その瞬間、私は、何か“がしゃん”って壊れた気がして、もう、何も判らなくなった」
「エスパー突然消えちゃった」

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】アルカナの娘 -07-

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「クラシックが好き……って言ったら、引く?」
 恐る恐る、という感じで、神領美姫は幼女のように小首を傾げた。“引く”の意を彼女は一瞬理解しかねたが、しらける、お断りします、距離を取りたい、身を引く……的なニュアンスだとすぐに判じた。
「いいえ別に。無駄に耳が敏感なのでピアノやバイオリンの倍音がキリキリ乗っかった音が好きです。フィアンセが“はいれぞ”って奴を構築しているので、パソコンで呼び出してこれにたたき込めるようにしてあります。クラシックだとコレッリとかヴィヴァルディとか、バロックに偏ってるかな。シューベルト、モーツァルト、小編成ものをダラダラ流すの好き。シャンカールも取り込み済みだから、CD貸してあげるよ」
 テーブル上のノートパソコンを開き、オーディオの再生リストを切り替える。
 弦楽。
「“和声と創意の試み”」
 神領美姫は当たり前のように言い当てた。いわゆる“ヴィヴァルディの四季”は協奏曲集“和声と創意の試み”の前半12曲を指す。彼女はいま、その続きに当たる13曲目をスタートさせた。
「正解、と言うだけ野暮みたいだね。後はランダムだから適当だよ。はいはい立ってないで座って」
「ああ、うん」
 色々抱え込んで潰れそうになっている娘だな。それが彼女の印象。それに抗うべくハリセンボンのようにトゲを立てて膨らんでいるのだ。
 紅茶にグラニュ糖を混ぜるのを待ち、切り出してみる。
「実はあまりいい噂を聞きません」
 すると神領美姫はティースプーンを回す手を止め、しおれた花のように肩をすぼめた。
 カランと音を立てて止まるスプーン。
 彼女は指をパチンと鳴らしてテーブルの上にカードを横一列に並べる。タロットフルセット78枚。
 神領美姫は目を見開いた。
「古そうなカード。アンティーク?」
「500年ほど前のもの。親から譲ってもらった私の宝物の一つ」
「ごひゃく!?」
「ヴィスコンティとか言ったかな。さて午前の占いの続き」
「えと、あの……ごめんなさい」
 神領美姫は頭を垂れ、彼女はカードに添えた手を止めた。
「私のは……うそ、です」
「カードにマーキングしてあったしね」
 意図したカードを引くために、傷、汚れ、折れ目で目印。
 78枚から一枚引く。“カップの王”。

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(Wiki)

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】アルカナの娘 -06-

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 玄関から真っ直ぐ廊下の奥の突き当たり、リビングのドアがわずかに開いており、手のひらが出ている。
“手が離せない”の意味。
「あ、おじゃま、します」
 神領美姫がぺこり。
「どうぞー」
 インターホンで応対した“母”の声がし、手のひらが“OK”の形に変わる。
 そこで神領美姫が小さく笑った。
「……何か面白い」
「やっと笑ってくれた……2階へどうぞ」
「え?」
 手を引いて階段を上がって行くと、まるでされるがままの幼子のように後をついてくる。自分のすることが予想外過ぎて対応できないから、という側面はあろうが、それより明らかなのは、お高く止まった占い少女というのは、この娘の実の姿と大きく異なるということだろう。
「はい。フィアンセが元々使ってた部屋なので、男臭くて殺風景かもだけど」
 木製のドアを開いて中へ入れる。照明を付けるとフローリングで白い壁紙。押し入れは木製の引き戸。結果として木目と白のシンプルな色調。
 彼女はそこにベッドと丸テーブル、イス二脚を持ち込んでいる。道路方に出窓があって、アルマイトの弁当箱を思わせるオーディオ装置と、その両脇にセットされた木目の小型スピーカーシステム。
「ごめんねまだ自分の部屋としてチューニングできてなくて。女の子呼ぶには殺風景だよね。荷物はベッドの上に放っていいよ。何か飲み物持ってくるから座ってて」
 通学リュックをベッドに投げ出し、テーブル上のリモコンを手にしてオーディオにピッして一旦部屋を出る。
 と、母親、正確にはフィアンセの母親と出くわす。
「はいお紅茶」
「わーいありがとうございます」
 お盆の上のティーセットと、小皿に盛られたクッキー少々。
 彼女は受け取ってテーブルの上に置いた。
 一連の動きの間、神領美姫は立ったままポカンと見ているばかり。
 オーディオ装置が音楽を奏で始める。神領美姫はそこで正気に戻ったようにスピーカーに目をやった。
「不思議な音色……」
「アヌーシュカ・シャンカール(Anoushka Shankar)。演奏しているのはシタールってインドの楽器」
「あ、シタールって聞いたことあるかも……ギターみたいな奴だよね」
「そうそう。音楽好きなの?」

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】アルカナの娘 -05-

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 そして、そういう経験がこの娘には過去にないことも。
「友達なら普通だよ」
「友……」
「ほれほれ……」
 きょとんとなった瞬間に手を引いて歩き出す。姫子は神領に比して小柄であるうえ、白いTシャツにデニム地短パンというスタイルなので、まるで妹が姉を引っ張っているが如し。
「え……ちょ……あいはら……」
 スーパーがあるのは住宅街、路線バスが通る交差点の脇。信号を渡ると造成前の雑木林をそのまま残した公園があって、遊歩道が斜めに横切る。
 “夜は暗いので女子生徒は不用意に通るな”なのだが、姫子の家まで最短ルートなので構わず跋渉。
「ここって……」
「だから誰も付いてこられない」
 ゆえに尾行すると誰もいないので目立つ。すなわち尾行までされる心配は無い。
 ただ、この先、中学校のそばにある四阿は談笑場所として知られているので、待ち伏せの懸念がある。今日そこは使えないだろう。
 以上の判断から“自分の家”なのだと姫子は歩きながら神領に話した。
「いつもこの時間ここを一人で?」
「一人じゃないよ」
 スッと二人の前に現れる黒猫。
「仲良しなんだ」
「え?」
 二人の前に座り、尻尾をくるりと体にまとってにゃぁ。
「この子“いるけど触れない”って有名な……」
「ニジェルアレスヒロス。この子の名前。黒い翼のヒーローってな意味のラテン語。ヒロスで通じるよ。ありがと。今日もカッコイイよヒロス」
 姫子がそう言って手を振ると、黒猫は立ち上がり、尻尾の先端を神領美姫の足首に軽く触れて去った。
「今のチョットさわる、が彼の挨拶。あなたは私の友達なので、彼もあなたを友達と認めて下さると。シャイなんだよ。はい、学校まで着きました。ここからこっちの“コーポランド”へ入って5分ほどです」
 コーポランド。彼女の家がある、正確には帰化して居候している家のある住宅街のこと。プラザとかニュータウンと同じ類いの通称。
 南向きの斜面を造成したちょうどエリアの真ん中当たり、児童公園を支える高いコンクリ擁壁の下。
 インターホンをピンポン。
「姫子です。お友達連れてきちゃった」
『あら。お菓子と飲み物何か出すわね』
「はーい……どうぞ神領さん」
 門扉を開き、道から数段の階段を上がり、玄関ドアを開いて招き入れる。昭和の造作になる木造モルタル2階建て。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】アルカナの娘 -04-

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「確かに当たるんだけどなんかスッキリしない違和感それだ」
 姫に姫ちゃん……呼ばれる彼女姫子は腕組みした。否定ばかり当たるというのは思い当たる節がある。なお彼女の本名は姫子ではないが、便宜上しばらく姫子と表記する。
「ものごと成就させるには努力し続ける必要があるのですよ。放っておいてくっつく恋愛や勉強せずに点を取れるテストはありません」
「そりゃそうだ」
「そこでダメと言われると?ダメなのにそれ以上努力しようとする?」
「あきらめる……あっ!」
「あっ」
「何もしなきゃダメで当然。占いでも何でもないじゃん」
 その場の誰もが怒りを芽生えさせるのを姫子は感じた。調子に乗ってやがったんかタダじゃ置かねえ。
「クソがよ……」
「まぁまぁ。だからこそ会う意味と理由があるのですよ。盛り塩ナメクジになっちゃったのは、あの 自身がそこを見透かされたと気付いたせい。任せてもらっていい?」
 一部男子たちの眉毛がへの字。
「金取るとか言う話もあんだぜ?怖いのが後ろにいるんじゃねえの?」
「助けなくてもいいのに……」
「むしろ新たな被害者を出さないためだよ」
 任意のタイミングで……姫子は神領美姫にそう伝えたが、まぁ大体の予想は付いていた。学校近いスーパーマーケットの2階にある学習塾に通っているが、そこで木曜夜の一枠前の時間に神領美姫が通っていると知っているからだ(前述のご注進からそう判じた)。姫子自身は神領美姫を意識したことはないが、まぁ、向こうは気にしているので知っているのであろう。
 果たして夜9時半。塾を出て建物の外階段をカンコンと降りて行くと、赤いワンピース姿の神領美姫が階段下からこちらを見上げる。
「90分待ったと思うけど」
 声を掛けると意外や、小さな微笑み。それは昼間のお高くとまった美魔女と異なり、あどけない子猫のよう。
「自主学習スペースにいたから」
 神領美姫は素直に応じた。なお、自主学習スペースというのは、習ったことの復習や、家庭の事情で集中できる時間と場所がない生徒のために、塾が解放しているフリー空間のこと。
「そう」
 姫子は微笑みで返し、階段途中で一旦止まって360度周囲を見渡し、再度歩き出し、神領美姫に近づき、耳打ち。
「ズバリ言いますが、私たちが何するんだと聞き耳立ててる者がいます。いきなりでアレだけど私のウチへ来ませんか?」
「え?」
 家に来い。意表を突いたことは火を見るより明らかだった。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】アルカナの娘 -03-

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 神領美姫の瞳孔が一度大きく開いてから、元通り閉じたのを見逃さない。要するに“図星”だ。そして“落ち着け”と自らに言い聞かせた。
「私に敵意を?」
 上目で訊くと、
「うるさい!」
「脊髄反射しちゃダメじゃん……おっと」
 4時間目が始まるチャイム。悔しそうな神領美姫。恥を掻いた、という認識なのだろう。
 だがそれはある程度見えていた展開。および、そこを責め立てるつもりはない。
「ルーンに尋ねる前に、ちょっとお話をした方がいいような気がします。放課後、任意のタイミングで私を訪ねて下さい。その時誰にも邪魔されず話が出来るように取り計らってもらえるでしょう」
 それこそ占い師のように。女教皇の上下を戻して正位置とし、21枚のカードに混ぜて神領美姫の手に持たせる。女教皇正位置の意味の一つは“意外なタイミング”。つまり、今、彼女が言った“取り計らい”の内容そのもの。
 神領美姫は意味を判じたか、彼女を見つめた。
「カードの汚れ、取っておいたから。早く教室戻りな」
「え?あ、うん……」
 素直に応じて、しかし力なく、神領美姫は席を立った。
 先ほどまでの勢いが、しおれてしまった花のよう。

 お高くとまっていたタロット女を3分でシオシオにさせた話は、給食が終わる頃には学年中に広がっていた。“ぎゃふんと言わせた”という表現はこういうときに使うのだと教えてもらった。
「会うんだって?そのままフェードアウトさせればいいのに」
 顔に反対と書いてある大柄な娘は大桑(おおくわ)という。彼女が転入してその日のうちにいがみ合ったが、今は仲良しだ。柔道部、最後の夏の大会は大将を務める。
「ってことは、何か言われた……?」
 やれやれと思いつつ訊いてみると。
「ウチの部員でアレに占ってもらったのがいて、自信喪失、敗退、退部」
「真に受けたと。私が言うのもアレだけど」
「姫のはちゃうじゃん。刺さること言うけど元気をもらえる。あっちの姫はディスるだけ」
 ディスる。英語の否定辞disから来た“腐す”を意味するネットスラング。2010年代。
「否定的な内容ばかり当たる?」
 すると二人の会話を聞いていた数名がハッとした顔でうんうんと頷いた。
「それだよ、姫ちゃんご明察」

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】アルカナの娘 -02-

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「何を調べますか?」
 机の上で両手指を組み合わせ、神領美姫に尋ねる。自分を睥睨するその姿は、透明感に凄みをまとい、まるで音楽CDのジャケット写真のようだ。フィアンセはこういうビジュアル引力を”観賞用美女”と表現する。蠱惑的な笑みでも浮かべれば、占い師としてミステリアスなイメージ増幅に大いに寄与したことだろう。その瞳に映る童顔ショートカットな自分は、まるで場違いな新入生のようだ。
 すると。
「そのルーンの石はどこにあるの?」
 性急な感じで訊いてくる。彼女の“ルーン占い”は、願いや知りたいことに対し、手品の手法でルーン文字の刻まれた水晶を取り出すというもの。文字に込められた意味や伝承が占いの答え。
「お願いに応じた内容で1つだけ出てきますよ」
「だからどこにあるの?」
 苛立つ声音。机の中を見た結果の質問であることは確かめるまでもない。
 そこにルーンは無いからだ。勝手に机の中を見るとか失礼なことは置いといて。
「それは企業秘密ですよアルカナのお嬢さん」
 彼女は唇の端を持ち上げ、ちょいと不気味な笑みを作って言うと、組み合わせた両手を開いた。
 タロットカード大アルカナ22枚を扇のように広げる。
 何もなかった手からタロット。手品である。衆目から小さな歓声、および、
 気付いて驚愕に大きく体をびくりと動かしたのは神領美姫。
「あたしの!いつの間に!」
 立ち上がらんばかりの勢い。
「一枚、お引きなさい」
 比して彼女は髪の毛の一本も揺らすでなく、テーブルに22枚を伏せて直線状に並べた。
「私は願いや思いを叶えたい人のために文字に尋ねる。だけどあなたはその意図はない。単に今を知りたいならタロットがふさわしい。違いますか?」
 と、神領美姫の瞳から高慢ちきの光が消えた。
「そうだけど……」
 戸惑いの口調は、主導権を取られたが、否定出来ないので、どう対応していいのか困っている事を証する。要するに”これはヤバい”。
「傷や汚れでカードが判ってしまうと言うなら、ダイスに聞いてみますか?シャッフルするから止めてもらってもいいけど」
 神領美姫の眉根がピクリと動くが見なかったことにし、カードを集めてトランプのように切る。とはいえこの娘に“勇気”がないのは明白だ。
 怖いのである。なにがしか、予感があるのだろう。自身が占いをするが故に。
「私が引けばいいですか?」
 答えはない。ないと判っている。否定も肯定もしない。少し投げやりなのかも知れない。
 彼女は適当にシャッフルの手を止め、一番上の一枚を机の上に音もなく置いた。
“女教皇”のリバース……すなわち逆さま。

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(「女教皇」wiki)

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】アルカナの娘 -01-

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 学年にひとりやふたり、占い好きの娘がいるものだ。
 なまじ当たったりすると、評判が付いてチヤホヤされるようになり、取り巻きが付いて一定の地位を得たりする。すると次第に評判を気にするようになり、それが生きがいに変わる。そんな、正に絶頂期とでも言うべきタイミングで、転入生に、その“地位”をあっさり奪われた日にゃ、不機嫌にもなるだろう。
 ひょんなことで、魔法が大好きという級友に、ルーン文字を使った占いをして見せる展開となり、その結果“魂が救われた”と級友が吹聴したことで、一気に評判になり、相対的に件の娘の人気が落ちた、という時系列になる。おかげで休み時間は先に手洗いに行かないと捕まるし、戻ってくると待ってる。彼女にその娘の悪口を言って寄越す依頼者までいる。
 が、4時間目の始まる前、教室の後ろドアから入ると、級友達の心配そうな目。
 いつもと違う“お客様”が来ていることはすぐに判った。
 流麗な長い髪の持ち主。お嬢様タイプ。彼女を見つけるや、
「相原姫子(あいはらひめこ)さん」
 椅子に足を組んで座っており、腕組みしてこちらを見ている。紺色ブレザー制服のスカートを長いまま着用しているが、足が長いせいか似合って見える。挨拶されたら答えましょう、
「神領美姫(じんりょうみき)さん」
 彼女は立ち止まり、返した。神領美姫の眉根がぴくりと動く。間髪を入れずフルネームで返されて少し驚いた、そんな感じか。
「占いのご用命で?」
「私を占ってもらっていい?」
 この手のさや当て、日本語でなんと言ったか、ああ、験比べ(げんくらべ)か。まぁ挑戦状の類いであろう。承るのは構わないが、こちとら先約がある。
「次は2組の武並(たけなみ)さんで、その次が釜戸(かまと)さんだと思ってましたが」
 少し冷たい目で指摘する。その二人は少し離れて彼女を見ている。
「譲ってもらいました」
「ホントに?」
 彼女は二人の方を見て尋ねた。
「う、うん」
 おどおどした感じの回答。
 二人が元々、神領美姫に頼んでいたが、自分に“鞍替え”したのは、火を見るより明らかだった。元の主人に見咎められた裏切り者……選択肢はあるまい。
「判りました。時間が無いから急ぎますね」
“姫ちゃんの占いコーナー”は、彼女の椅子と机を使い、一つ前に座っている別の娘の椅子を借り、前後逆にして座ってもらう形で行う。が、神領美姫が座っているのは彼女の机、つまり本来彼女が座る側。
 彼女は構わず、“お客様”の席に座る。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -24・終-

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「高校野球でスター選手と持て囃されても、いざプロに入ったらボコられて記憶にも残らず引退する……ということは、時々、あります。そういう、ことですよね」
「その通り。だから多分、なんだけれども、皆さんは、それぞれに、自分の足で、自分の考えで、今、確実に一歩進んだ、そう思うんです」
 副住職の言葉に、坂本美咲は手の中のルーンを広げて見つめ、そして。
「姫ちゃ……相原さん」
「はい」
 答えた彼女の前に差し出す。
「返す。判ったんだ私。あなたに追い抜かれたような気がして嫉妬しただけ」
 それは、その場の聴衆には、転入生が溶け込めない自分を追い抜いていった、と受け取られよう。比してレムリアに対する意味は違う。
“2人の仲を引き裂こうと思った”
 レムリアはルーンを受け取り、いったん握り、
「お持ちなさいな」
 手のひらを開いて返す。それは文字はそのまま、ペンダントとして首から下げられる紐がついている。
「おお、鮮やかだ」
 これは副住職。
「この文字、エルハツの意味を知る限り列挙してみて」
「守護、防御、友情……」
 坂本美咲はハッと見開いてレムリアを見た。
「あなたは私たちの友達です。その石はあなたの願いを叶えました。違いますか?」
 坂本美咲の瞳が黒曜石を見たように見開かれ、揺らぎ、涙が浮かび、極寒に放り出されたの如くブルブル震え出す。
「坂本さんどうした?大丈夫か?」
 平沢が立ち上がろうとする。
「違う……」
 坂本美咲はそれだけまず言った。
「すごすぎて震えてるの……すごすぎて……私このルーンお守りにもらったの。護符の意味もあるからって……。でね、さっきのエイヴァーツ。あれは死後の再生とか、再生とか、要はリスタートの意味がある……合わせると友達としてリスタート……」
 坂本美咲はエルハツのルーンを首から下げた。
「ありがとう。離さない。これ、もうずっと離さない」
 坂本美咲は胸元の輝く光を、自分自身ごと、両腕で抱きしめた。

魔法の恋は恋じゃない/終

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【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -23-

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「私、人見知りというか、人と話してて否定されるの怖くて、ずっと、誰かと話そうって状態になるの避けてた。でも……姫ちゃんがクラスに来て、一気にみんなに溶け込んで、私でも話せるかなって思った。何でか知らないけど、姫ちゃんなら話聞いてくれるって思った。そしたら、こんな素敵なイベント設定して仲間に入れてくれた。話せるどころか男の子と普通に話できた。そしたら、今までの自分が、みじめ、って言ったら自分に可愛そうかな、でも、そのときの自分と違う見方や考え方をしてる自分がいるんだ。……って、何言ってるか判んないね。ごめんね」
「イヤ判るよ」
 間、髪を入れずそう言ったのは他ならぬ平沢。
 ハッと目を見開いて彼を見上げる坂本美咲。
「自分を思い知らされるんだ。姫ちゃ、失礼、相原さんと話してると。経験値の差かな。足らなさ、甘さ、気づかされる。その瞬間、違ってるんだ。今までの自分と。魔法だよ。それこそ」
 そのフレーズに、坂本美咲はものすごい勢いでレムリアを見た。
 その目は問う“あなたは一体”。
「本当に魔女だったら仏罰が当たるかと」
 レムリアは自分を指さして冷静にそう応じた。
 と、そこで、副住職が、はっはっは、と、ゆっくり笑った。
「本当に魔女だとしても、仏様は全て判っていらっしゃることでしょう。さておき、今、わたくしは、素敵な瞬間に立ち会わせていただいたかな、と言えると思います。多分、皆さんは、小学生になったときに幼稚園の自分を振り返って、中学生の制服を着て小学生の自分を振り返って、なんて幼かったんだろう、と思った瞬間があると思います。一方で、自分は今はまだ子供の範疇で、大人と比べると大きな差がある、とも感じていると思います。では今後、高校生になって、大学生になって、就職して、振り返ったら気づく、のでしょうか。逆に言うと、就職すれば、成人式を迎えたら、大人になるのでしょうか。違いますね。わたくしが皆さんの言葉を聞いて思ったのは、なすべきことのために動き出す、その瞬間を皆さんお一人お一人が迎えてらっしゃると言うことです。自分はどうしたいのか、そのためにどう動けばいいのか。魔法、という言葉がありましたが、それらは、自分で見つけるもので、自分で獲得して行く生きるための力です。なにがしかの儀式をして与えられたところで、考えて工夫して、修練を積んだ実力とはやはり差があると思います。進君は野球をしているからよく分かると思うが」
 水を向けられた平沢を坂本美咲がじっと見つめる。
 その目線にレムリアは気づく。この娘が“恋”と思っていた“思い”の正体と、今、掴みかけようとしていること。
「僕が言うのはおこがましいんですけど」
 平沢は神妙な面持ちで前置きして。

(次回・最終回)

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