小説・魔法少女レムリアシリーズ

【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -02-

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 坂本美咲はぱっと目を見開き、
「じゃぁ彼とは付き合ってないんだ。でも、よく一緒に帰ってるけど?」
 小首を傾げるが目線はきつい。
「何も。あれは諏訪(すわ)君のボディガードだよ。それに、普通にお友達でいる分には何も構わないじゃん」
 諏訪君というのは喘息があって、行き帰り彼女が同行している男子生徒である。そこに平沢も同行している。
「好きなんだ」
 逆に彼女は訊いた。
「え?あ、うん、その、気になってるというか……」
 坂本美咲は急にしおらしい口調に転じ、うつむいて目を伏せた。
 その諏訪君が福島と地縁があるため、原発事故と絡んで言いがかりを付けてきた女子生徒があるのだが、その言動にストップをかけたのが当の平沢である。従前、ひょうきん者でギャグ担当というポジションだった彼の、豹変ともいえる雄々しい態度に「ハッとなった」という。
 以上坂本美咲は背景を語ると、
「姫ちゃんにお願いがあって。その、何でもいいんだけど、彼が触ったものが欲しいんだ。紙、鉛筆、消しゴム……」
「もらって来てもらえないか、ってこと?」
「そう」
「何かおまじない?」
 坂本美咲は目を見開いた。
「何で判るの?」
「ご承知の通り慈善活動で手品をするので……」
 彼女は言いながら、左右の手を交互に開いたり閉じたりした。
 その都度、手のひらから紙に包まれたキャンディがコロコロ。なお、このマジックショーで彼女は“魔女のレムリア”と称している。以下、彼女をレムリアと書く。
「え?え?あ、あ。すごい」
「おひとつどうぞ」
 キャンディを持たせる。
「演出上、魔術の仁義みたいなもの語ったりするわけですよ。恋の魔法で相手の持ち物に秘薬を垂らして、とかよくあるパターン。それでもしかして、と思ったわけ」
 坂本美咲はキャンディをしげしげ眺め、包みを開いて口に含んだ。
 おもむろに視線を彼女レムリアに戻す。
「じゃあ、本気だ、と言っても笑わないで聞いてくれるかな?」
 まっすぐ見つめてくる。レムリアは坂本美咲がいつもひとりでいる理由を理解した。“素っ頓狂”なのだ。オカルト志向で応じて非・論理的であり、突飛な言動に行き着く。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -01-

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「姫ちゃん平沢(ひらさわ)と付き合っててエッチもしたってほんと?」
 姫ちゃん、と呼ばれた彼女はさすがに面食らって少しの間瞬きを忘れた。最近髪を伸ばし始めたので、身体の揺らぎが髪の毛先端に増幅されて出てくる。
 目の前の級友を見返す。じっと見てくる眼鏡の双眸、その頬にはそばかすが見られ、男子たちの評を聞くに地味で目立たないという。確かに、いつも静かに文庫本を開いて見てるイメージが強い。しかし、そのまくしたてるような話し口は饒舌系と思わせる。
「ちょっと待って。落ち着いて。大きく息を吸って」
 彼女は押しとどめるように手のひらを向け、坂本美咲(さかもとみさき)というその娘に深呼吸を促した。花の時期すぎた春の終わり、夕方間近い公園内。四阿(あずまや)で丸いテーブル挟んで向かい合う青いブレザーの制服を着た娘が二人。「相談したいことがあって」と呼ばれたものだ。彼女は普段、休み時間のたびに仲間に周りを囲まれる方なので、坂本美咲とは下駄箱で出会えば挨拶はする、程度。
「えーっとですね」
「はい」
 二の句を継ぐ前に相づち。今にもそのままテーブル越しに乗り出して来そう。
「まず、私にはフィアンセがいます。22歳の社会人です」
「えっ?」
 坂本美咲は文字通り目をぱちくり。
 この話はあっという間にクラスに拡散したので言わずもがなと思ったのだが。
「平沢君には告白を受けました。でも、そういう事情を話して無効である旨説明しました。エッチうんぬんはそのフィアンセとシたのかと他の子に訊かれたので、結婚するまでしませんと答えただけです。いろいろ端折って誤解しすぎです」
「なぁんだ……」
 坂本美咲は安堵の表情を見せた。乗り出すまでではないが若干腰を浮かせていたようで肩の高さが変わる。ちなみに彼女は東京・原宿を歩くと良くナンパされたり芸能スカウトと称す者に声を掛けられたりするが、「夫がいるので」と返すと、多くの場合想定外の反応であるので押し黙って二の句が来ない。
 どう見ても中学生に見えるだろうにさもありなん。なお、長い髪は彼氏持ちの象徴みたいな部分があると聞いたので、そういう返しを使うのに無言のエビデンスになろうか思った次第。もうすぐ校則に引っかかるという指摘もある。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】彼の傷跡 -09・終-

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 その理由を彼女は説明出来る。そしてそれは言葉にすれば彼を次のステップへ踏み出させる後押しになろう。
「あなたにたくさんの我慢を、いっぱいいっぱい押し殺してきた辛い気持ちの積み重ねを感じます。体格のことや外見ことであらぬ誹謗中傷を受けてきたこと……でも、私はあなたが努力する男の子で、勉強の遅れを取り返したいと新たに努力を始めたこと知っています。それが最も大事なことだと私は自信を持ってあなたに伝えます。あなたの私に対する好意に応えることは出来ないけれど、友達でいてはだめですか」
 彼女は、手のひらを差し出した。
 彼は涙を止め、きょとん。
「友達……」
「そう。防空識別圏を設定しますという告白お断りの言い回しじゃなくて。気軽にくっちゃべる女子という意味で。女の子の友達」
 自分の提案はひっくり返すと「いたことないでしょう女友達」という決めつけになってしまって甚だ失礼なのだが、逆に言えば彼に条件が整ったという証明でもある。
 うん。これでいい。彼女は自分の物言いに自信を持った。
「いい、のか?」
「もちろん」
 ウィンクしてみせると、平沢はしゃがんだまま右の手を伸ばして来、彼女の手のひらを恐る恐る……おっかなびっくり、触れた。
 電撃に触れたように彼の腕が肩まで震える。その頬が目に見えて赤く染まる。
 彼女は震えで飛び出して行かないように握り返す。脂肪感ゼロでゴツゴツガサガサの男の手のひら。
 手首に触れて魔法を一つ。
 巻き付く毛糸。
「なんだこれ」
 平沢は手のひらを戻してじろじろ眺めた。
「ミサンガ。友達には強制的に付けさせてる」
「え、あれこれ結び目とかないじゃんどうやって……」
「そこは手品ですから。それは不思議なミサンガです。必要なことをあなたに教え、不要な時には出て来ません。試合で見つかると咎められるというなら、あなたがそう思えばそれは消えます……従妹のさくらちゃんに見せれば教えてもらえるでしょう」
 彼女は言い、ニヤッと笑った。こういう“後から自分自身意味を理解する魔法”は必要があるから働いたのだと知っている。
「お、おう。あれ?なんでさくらの名前知っ……」
「いいじゃん。帰ろ」
 彼女は先に立って歩き出した。

彼の傷跡/終

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【魔法少女レムリアシリーズ】彼の傷跡 -08-

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 すると、平沢はのろのろした動きでバットを自分のカバンに戻し、持ち上げて肩に掛け、彼女を見た。
 そして、彼女を見、居住まいを正した。
「姫ちゃんって、すげえな」
 諦めたような声音。寂しそうな瞳。
 彼女は平沢進の自分に対する“強い気持ち”が消失していることに気付いて彼を見上げた。
 自分に対する彼の認識が変わったことは火を見るより明らかだった。“一目惚れしたかわいい子”を見るそれではなくなってしまった。まるで手の届かないテレビアイドルを見るよう。
「それで、あの……ひとつだけ、立ち入ったこと訊いてもいいかな?」
 応じた勇気を持って、反映された低く抑制された声で、平沢は問うた。
「何かな」
 小首を傾げて聞き返す。
「普通の女の子……じゃないよね。催眠術とか、あの船とか。呪文っぽいのも聞いた」
 開示すべき時が来た。彼女の答えは一つであった。足下のネコのしっぽ。
「本当の私を知る人は、私のことをレムリアと呼ぶんだ」
 船……それは彼女が隠密裡に活動しているボランティア団体が所持する飛行帆船である。平沢はそれを見かける機会があった。見えてはならない存在なので、訊かれない限り説明するつもりはなく、黙っていた。
 普通そんなものは存在しない。
「手品師で看護師だよ。その船の中ではね。私の力を必要とする場面はレムリア案件と呼びます」
「そうなんだ……」
「すごいがっかりしてるように見えますが」
 すると平沢は立ち止まり、突如腰が抜けたようにぺたりと膝をつき、彼女を下から上までゆっくりと見上げた。
「大丈夫?体調悪い?」
「いや、打ちのめされてるんだ。こんな、こんな凄い女の子、レベルが違いすぎるって……オレ今、自分がすげぇガキなんだって恥ずかしくて仕方ない」
 ああ、と彼女……以下レムリアと記す……は合点が行った。
 彼にとっての「子供時代の終わり」が今、来たのだ。
「そんなことないよ。ガキ様ならあの状況下で私放り出して逃げ出します。あいつらのようにね。でもあなたは過去を振り切って、トラウマに打ち勝ってカバンを投げて応戦し、バット持って立ち向かおうとしてくれた。過去を聞かせるとか、私を信用してくれないと出来ないことのはず。嬉しかった、ありがとう」
 レムリアは努めて優しい声で、語りかけた。
 すると……野球部応じたイガクリ頭で無骨屈強な体格である彼の目から涙がポロポロ。
「あれ……何でオレ泣いて……ごめんみっともねぇ……でも……止まらないんだ何これ……」

(次回・最終回)

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【魔法少女レムリアシリーズ】彼の傷跡 -07-

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 彼女は“企んでる魔女”の笑みで見捨てられた男達を見回した。
「あいつは女だから手加減してやった。だが、お前らはそうはいかない。私は友達を傷つける奴は絶対に許さない。卑怯の塊が女にヘラヘラしてるとかゴキブリのクソほどの価値もねぇ」
 バットを振り上げる。
「わああああああ!」
「ごめんなさい許して下さい。言われてやってただけなんですぅ」
 なんだこいつら。すると。
「俺、こんな奴らに……」
 おびえていた自分がバカみたいだ。平沢の言葉を補足すればそうなろう。
「裁く権限はあなたにあると思うよ。殴れというなら殴るし、何なら殺してもバレやしない」
 呼応するようにカラスがアーアー声を上げ。
 ツツジの植え込みからするりと現れたのは、赤い斑がいかにもと思わせる毒ヘビのヤマカガシ。
 男達はパニック寸前。何なら3人揃って漏らしそうな勢いだ。
 対して、平沢進は静かに一言。
「いや、俺はこいつらと永遠に会わないで済むならそれでいいよ」
「そう」
 彼女はそれを聞いてバットを下ろした。ただし、その実態重量以上にゴン、と重い音を立てて。さながら鬼に金棒のように聞こえた。
 彼女は立てた金棒の頂部を指で押さえた。
「3秒間、お前達に永遠に別れる権利を与える。私がこの手を離して、このバットが倒れる前に、ここから立ち去れ」
 彼女はバットを舗道に立て、手を離した。
 揺らぐバット。
「123っ!」
「わーっ!」
 わめき散らし、叫び声を上げ、こけつまろびつしながら男達は立ち上がり、不格好に舗道を走って去った。乱雑に舗道が濡れているが、まぁ知ったこっちゃない。
 バットを受け止め、グリップ側を平沢進に向けて、返す。
「お、おう」
 丸い目、もう少し言うと“人間じゃないもの”を見る目で彼女を見ている。
 説明、する必要があるようだ。
 その前に屈強な味方達を開放する。「ありがとね。助かった」これでヘビやカエルは茂みに戻り、カラスはバサバサ飛んで行く。
 ただ、ネコは足下。まるで付き従うかのように。彼女はしゃがんで、そのネコを撫でさすって。“言うべき内容”のレベルと順序を考える。
「ひとつ、あなたに言っておくことがあります。あの者達には催眠術を掛けました。永遠にあなたのことを思い出すことはありません」

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】彼の傷跡 -06-

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 男達は戦意喪失と言って良かった。彼女はゆっくり、瑠菜に向き直った。
「何なんだ……お前……」
 対して、瑠菜から出てきた台詞がそれ。目玉が小刻みに揺れ動いており、不気味に近い恐怖心を抱いていると判る。まぁ、得体が知れないだろうとは思う。
「それはこっちの台詞だ。道すがらいきなりカツアゲとかバカだろ。んで?しょんべん漏らしの代わりにお前がやんのか?ああ、獲物が無いと不公平だな」
 彼女は担いでいたバットを舗道に転がした。金属バットなりのカンという音。
「私らをどうにかしたいんだろう。だったらそれ持って掛かって来やがれ。相手してやる」
 と、足下に味方。
 さっきのネコ。毛を逆立ててフーと威嚇。
「タンパク質が不足して手足も細いお前にバット振り回せると思わんがな」
 バサバサと羽音を立ててカラスが数羽舞い降りてくる。近くの木に止まって瑠菜を凝視。交互にアーアーと鳴き声を響かせる。
 そして。
 ツツジの植え込みからのそのそ這い出してきたヒキガエル。

P7190597
 これが決定打になった。彼女はカエルが苦手であり、手のひらサイズのイボイボカエルは見ただけでノックアウトと判じた。
「あ……は……あ……」
 過呼吸状態に陥ってしまう。もう動くことが出来ないのは明白だった。
 しょんべん漏らし2になる前に、謝罪と二度と接近しないことの念書でも取ってやろうかと思ったけど面倒くさくなった。
 彼女は瑠菜にツカツカ歩み寄ると中指でその額を強く弾いた。“デコピン”という奴だ。ただし。
 食らった瑠菜は急にキョトンとなった。まるで夢から覚めたように。
「あれ?あたし……」
「これ見て気絶しちゃったんだよ」
 彼女はまるで今初めて出会ったかのようにヒキガエルを指さした。当のカエルは“めんどうくさい”とでも言いたげに長い舌で自らの目玉をペロペロ。
「ひっ……」
 またぞろ過呼吸を起こしそうなので。
「見てるからここから逃げなさい」
「あ、はい。すいません」
「そして二度とここへ来ない」
「来ません」
 瑠菜は数歩下がり、きびすを返し、サイズの合ってないヒールの靴でパタパタ走り出して去った。
「おい……」
 呼び止めようとして何も出来ない男達。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】彼の傷跡 -05-

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 ただ、野球の試合などを通じて、彼がここに通っていることが露見したのだろう。
 彼女は下卑た笑いを作ると、
「そんで悪さのあげくに小遣い無くなって、昔のアイツを揺すってカツアゲたろかってか?あ?るなちゃんよ。月って名前のくせにゲスだなお前。月に月のもの出ないように仕置きしてやるか?股から手ぇ突っ込んで子宮引きずり出すぞゲロ女」
 マフィアに囲われていた孤児とか付き合いがあるので、幾らでも不良言葉は出てくる。
 すると。
「黙って聞いてりゃ随分とイキってんなお前」
 血の気が上がってきたのは植え込みに倒れ込んでガサガサしていた男。ジタバタしたあげく、ようやく舗道に片手が付いたのであるが。
 彼女はアニメで習った蔑みの目線、ジト目という奴を上からくれてやると。
「私殴る?いいけどそこから1センチでも動くとお前の目の前とお前の身体の周りにワンサといるドクガの毛虫がお前を襲うよ」
「な……」
 何か言い返そうとして、視界眼前をうごめく多数の毛虫に気付いたらしい。男はツツジを“かき混ぜた”状態になり、折から繁殖していたドクガの幼虫達が集まってしまった。
 すると。
「このクソ!」
 釣り糸を引いていたもう反対側の男である。勢いよく立ち上がろうとし、そのまま足をもつれさせて倒れ込む。
 足首に絡まる釣り糸。
「いてぇクソ……」
 力任せに足を引っ張るが釣り糸が皮膚に食い込んでギャーと言う羽目になる。
「クソクソうるせぇんだよ。そんなに出したきゃそこのスーパーでトイレ借りてして来い。行ければだけどな」
 そこでゲホゲホ咳き込みながらようやく立ち上がれそうなのがスプレー男。
 彼女は振り向くなり指さしてゲラゲラ笑ってやった。嘲笑という奴だ。
「鼻水鼻くそ涙ボロボロ。ついでに言うと小便漏れてるぜ。イキって結局馬鹿なガキそのものじゃねぇか。そんなんで私に殴りかかろうなんざ100年早い。おととい来やがれ」
 さんざん言って、バットを振り上げる。
「うわ……」
 とはいえ、そこまでで良かった。男は本当に殴られると思ったらしく、小便を漏らしてしまった。ズボンに広がる黒い染み。
 そこで。
「おら!どうしたオシッコ漏らし!」
 一拍置いて。

「掛かって来いや!」

 彼女はその場の誰もが度肝を抜かれて目を剥く大音声を張り上げた。オペラ歌手と同じ発声法で骨を共鳴させ、体内空間全てを使って増幅放出させる術を有する。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】彼の傷跡 -04-

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 男3、女1。彼女はバット片手に女の方を向き、対し平沢は同じくバット片手に男らの方を向く。この時点でスプレー男はよろよろしながら咳き込んで鼻水ダラダラ。植え込みに倒れ込んだ男の片方は植え込みの上に身体が完全に乗ってしまい、足は地面についておらず、手を突いて立とうにも枝の間を突き抜けるばかりで、さながらデタラメなクロールを空中で泳いでいるよう。反対側の植え込み男は釣り糸が自らとツツジの枝に絡んでしまい身動き取れず。結果両方から「くそっくそっ」。
「説明があってもいいんじゃないですかね」
 彼女は携帯端末で撮影し続ける女の方を見て言った。
「(意図したこと形を成さず)」
 ボソボソッと彼女が呟いたそれは日本語に直すとそんな意味になる。
 平沢が気付いたようで一瞬彼女に目を向けたが、彼女は、彼が気付いたことには、気付かないふりをした。
 程なく、女の携帯端末からブーという雑音が生じ、煙を噴き出した。
「うわっ!」
 女が放り投げると、ぼん、と小爆発を起こして液晶画面がはじけ飛び、赤い炎に包まれる。電池の主材料リチウムの燃焼。
 肉付きの悪い、顔色の悪い、目つきの悪い、けばけばしい服装の女が燃える端末を見つめる。姉御ぶった感じだが、ずばり同年代である。
「お前ジャンクフードしか食ってないだろ。生理が止まって死ぬぞ」
 彼女は挑発してみる。
「るせえ……ちっ」
 女は我々に食ってかかりたいのだが、こちらにはバットがある。しかも携帯端末は燃え溶けドロドロ。そこを乗り越えて暴力に出る気力は無い。ハッタリ人間の裏返し。
「坂本瑠菜(さかもとるな)……ちゃん14歳。おやおや川向こうの隣の市からわざわざお越しですかい」
 これに女は目を剥いた。今、彼女の右手には生徒手帳が4冊、トランプのカードのように広げられている。
「話してくれないならこっちからどんどん喋るよ」
「いや、やめてくれ」
 ぼそっと、呟くように制したのは平沢進であった。
 彼の手がギュッと強く拳を握り、大きな体躯全体に萎縮が働いて縮こまろうとしている。
 彼にとって、とても辛いことなのだと彼女は知った。ただ同時に。
「こいつ、小学校の時、俺の隣の席で、脇毛野郎とか体臭食堂とか、さんざん言ってくれてさ。調子に乗って一緒にちょっかい掛けてくるようになったのが、この3人なんだよ。俺、野球で有名な私立中へ進学の話があったのに、こいつらの挑発に負けて殴っちまった」
「人の進学を潰した不良バカか」
 それで彼は人目を避けるように隣の市からこの住宅街にある中古住宅に引っ越し、同じ中学に行かないようにしたのだ、と彼は話した。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】彼の傷跡 -03-

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“敵意”は基本向けられた瞬間にそれと気づく。それを遮断するほど“彼の気持ち”が強いということか。
 まぁどうでもいい。なるほど通学路には不向きかも知れぬ。
 ただ、自分は今、“女子一人”ではない。それこそ、そんな事態に対応したいと、立候補してくれたのが他ならぬ平沢であるが。
「お前の彼女か?ヒラ公」
 敵意むき出しの女の声が後ろから掛かるが、それは罠。
 振り返る……フリをして腰をかがめ、同じく振り返ろうとする平沢の袖を引っ張って制する。ちなみに、彼女のその動作は、飛び道具、有り体に言えば銃弾が飛んでくる場所にいるからこそ身についた動作。
 行く手、左側のツツジの植え込みから躍り出てくる男1名。
 何か持っている……催涙スプレー。
 肩掛けしていた通学カバンを彼女は投げつけるべく外しに掛かる。
 この間に平沢は彼女の手指と物音によって目線を後ろに向けることなく、出てきた男に気付いた。
 その瞬間の一瞬の震えを彼女は見逃さない。彼の恐怖と逃避。
 否。
 アドレナリンの分泌、恐怖を超える勇猛、彼女より素早い肩掛けカバンを外すアクション。
 平沢がカバンを投げる。男がスプレーの噴霧ボタンを押す。
 噴霧されたスプレーはカバンに跳ね返され、噴霧した本人に噴き掛かった。
 更にカバンがスプレー男に命中する。
 プシュッ、ドカッ、および「がっ!」という声にならない叫び。これで数秒。
 スプレー男はもんどりを打つ。固く鈍い音が聞こえ、頭部を舗道に打ち付けたことが知れる。
 平沢進は“仕事”をした自らのカバンを取り返す。
 そして、カバンの端からはみ出しているバットに手を伸ばし、グリップをつかんで引き抜く。
 それを見たスプレー男の表情が驚愕を形成し、もうろうとしているであろうかぶりを振って舗道に手を突き、起き上がろうとする。
「そんなことしちゃっていいのかな?ススムクン?」
 背後の女。バットで殴ると警察沙汰にするぞという意味であろう。
 そこで、彼女がもう一本のバットを手にした。
「私がやりゃいいか?」
 肩に担いで振り返ると女はスマートホンのカメラをこちらに向けている。暴力事件に仕立てようという腹づもりらしい。
 示唆。罠が実行される。足下。
 釣り糸を引っ張って自分たちを転ばせようという策と知る。それら一連の動きは自分たちの行動パターンを把握しており、待ち伏せしてどうにかしようとする強い意志を感じる。
 釣り糸を上からバットの先でガンと押さえつける。植え込みから釣り糸を引っ張っていた男達が想定外の荷重に逆にバランスを崩して植え込みに倒れ込む。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】彼の傷跡 -02-

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 彼女は我に返ったように真顔を見せる。そんな所へ押しかけて埃舞い上げるつもりはない。
「まぁまずは自分で考えるから」
「そ、そうだよ頼ってちゃ勉強にならない」
 二人で意見一致と書きたいが、後者平沢の発言には底意がある。彼女はそれを捉えているが、仕方の無いことと理解できている。
「そう?じゃ……いつもありがとう」
 信号の変わるタイミング、諏訪君が頭を下げる。送迎の意図は“途中で何かあった時に即応”するため。
 応じたスキルは彼女が保有。
「いやいやこちらこそ。じゃぁね」
 手を振って分かれる。その一連の仕草を見下ろす平沢。
 要は彼女に好意を持っている。底意というのはこの後二人きりの時間が自動的に訪れること。ただ、悲しいかな彼女には既にフィアンセと呼べる存在がいる。
「行きたかった?」
 彼女は平沢の目を見上げて尋ねた。自信と安定感がもたらす強い瞳。原宿で怪しげなスカウトをあしらうのも最近は慣れた。
「いや、だって呼吸機械とかあるんだろ?汚れた(けがれた)奴が行ったらいけねーよ」
 彼は慌てた風に目を逸らして応じると、逸らしがてらに英語のワークブックを取り出した。復路は彼女が彼に英語の補講。
 再び“通学路でない”小山の脇、遊歩道へ入って行く。彼らがここを通るのは、喘息持ちの諏訪君は少しでも車道を避けた方がいいだろうとの考えによる。遊歩道の反対側は住宅が並ぶが、いずれも遊歩道に対して高い塀を巡らせており、遊歩道に人目はないのだ。それが“暗くなると危険”の側面を与える。
 行く手にネコ一匹。
 いつもいる茶トラで耳の一部がカットされている。いわゆる“地域ネコ”という奴だ。
 にゃぁ、とひと鳴きして。
 いつもならすり寄ってきて首の後ろを擦り付けてくるのだが、今日はその場でピタリと止まった。
 いつもと違う。
「待って」
「え」
 彼女は平沢の身体の前に腕を伸ばし、進行を制した。
 自分を囲繞していた平沢の好意と目線……“ラブラブ光線”が、自分の緊張した声によって解除され、同時に自分たちに向けられた四方からの敵意を受け取る。
 待ち伏せである。多分に攻撃的な。

(つづく)

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