小説・魔法少女レムリアシリーズ

【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -23-

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 電源を入れるとクラシック音楽。すなわちこの地域の放送周波数に合わせたまま。
「ああ、済まないね……」
 祖母殿はラジオを傍らにコトリと置いた。
「まぁ、お二人ともここへ来ておくれ」
 ラジオを挟んで着座を促される。
「進、ほら」
「お、おう」
 彼を促し、率先して座る。
 祖母殿が口を開く。
「まずは……いきなり飛び出して済まんな。いたたまれなくなってな。ほんでこご来だはいいけど携帯電話があるわけでなし、ここの電話も止めたでね。連絡しようがなくてよ」
「常磐線から来られたとか」
「海へ行げでねっがらな。新幹線じゃダメだ」
 件の原子力発電所は太平洋側にある。当然、避けたくなる。
 うぐいすの鳴き声。
「わぁ、きれいな声。初めて聞いた」
 彼女の感想に祖母殿は微笑んだ。
「おめさん、進が初めで此処(ごご)で春告げ鳥聞いた時と同じだな」
「え?」
「そうなんですか?」
 二人は驚いて祖母殿を見た。春告げ鳥はウグイスの別名。
「ああ、じいさんが庭いじりしてて驚かしちゃなんねがらってハサミ持ったまま固まってよ。人形みだいだって……ああ、これは進じゃねがったか。彰(あきら)か」
 平沢進の父君であると彼女は察した。
 と、突如祖母殿はしょげたようにうつむいた。
「ごめんな。オレばっか進と遊んでよ。挙句に厄介になってまっでよ。じいさんに申し訳なくてよ」
 ラジオに向かって。
「それでここへ……」
「迷惑かけてすまんな。クラスメートちゅうこどは学校抜けて来ただが?しかしめんこい子だなおめさんは」
「人命にかかわる事態かも、という第一報でした。なら、天下御免ですよ……めんこい?」
 地面にたたきつける日本の古いカードゲームの“めんこ”なら知っているが。
「か、かわいい、って意味だよ」
 説明する平沢進の耳まで真っ赤。
「あら。恐れ入ります」
 彼女が応じると、ウグイスが唐突に飛び去った。まるで逃げるように。すなわち。
 程なく、クルマが止まった。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -22-

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「扉を開きます」
 エレベータに乗り、着いた。一連の挙動は感覚的にはそれに近い。
 気密が開かれ、にわかに外界の音が入ってくる。鳥と虫の声。
 扉の向こうに姿を現す緑の間の道。
 畑に咲く白い花。トタン屋根の農器具小屋。
 ひょいと飛び降りる。“ドアが閉じて開いた結果”をぽかんと見ている平沢進を促して下ろす。
「見覚えある?」
 一応尋ねる。
「お、おう」
「良かった」
 なら、船は帰してもよかろう。帆船なので帆を広げて滑空できる。イヤホンでピンを送ると、周囲に人目が無いと確認したか、帆船は文字通り忽然と姿を現し、その帆を広げ、翼のように水平になびかせ、丘の上から風に乗って飛び立った。そして風の届かないところで主推進システムに切り替え、超高速で飛び去る。
 その動きを身体動かして見つめる平沢進は声も出ない。
“思い”が届く。しかも、この足下の大地から。
 おばあちゃんは、この里山を遊びまわる進少年を、夫婦で見守りたかった。
 近所にある複数の大きな桜の木を、肩車して見せたかった。
「ばあちゃん家(ち)、行けばいいかな」
「うん」
 坂道を下りて集落へ。果樹(柿だが、欧州育ちの彼女はそれだという知識がない)が枝を広げる平屋建てのお宅。
 垣根の向こう、縁側にその高齢女性は腰を下ろしていた。
「ばあちゃん」
 進少年の声にゆるりと振り向き、次いで目を見開く。
「進かえ?」
「そう。あー見つかってよかった。親父は?こっちへ向かってると思うけど」
「そちらは?」
 彼女のこと。
「相原姫子と申します。進君のクラスメートです」
「ばあちゃん探すの手伝ってもらったんだぜ」
 すると……祖母殿は温和な表情でゆっくり頷いた。
「ちょ……」
 散々探したのに、ということであろう。声を荒げようとする進少年の左手に彼女はそっと触れ、その先を制した。
「差し出がましいことをいたしまして申し訳ありません。人探しにツテがありまして申し出た次第です。こちら……手がかりとして借用したもの。お返しいたします」
 トランジスタラジオ。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -21-

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 青い空の下、再度衛星携帯のアンテナを伸ばし、短縮ダイヤルでコール。相手が出た。
「Hi,It's Lemuria.Please pick up me and friend,with use cloaking.」
 あとは待つだけ。1分もかからない。
「あの……」
「暴風が吹くから顔を腕で覆ってください」
 彼女は言いながら、ウェストポーチをごそごそしてワイヤレスイヤホン近似の機械を耳に挿した。
「来ます」
 ほどなく一陣の風が上空より吹き降りて広がり、順次風速が上がって轟轟たる暴風になった。
 園内を歩いていた人々から小さな悲鳴、走り逃げる人も。すいません。
“なにか”が二人の前に舞い降りる。ただその“なにか”は重量と大きさの感覚は有するが、目には見えない。
 風が収まって木の幹に見える部位に、黒い四角い領域が出現した。
 cloaking(クローキング)。いわゆる光学迷彩である。実際には二人の前に空飛ぶ帆船が着陸しており、見えているのは“船がいなければ見えるはず”の光景。
「どうぞ」
 彼女は黒い四角い領域……舷側通路を彼に示した。
「見られたくないので急いで欲しい」
「お、おう」
 持ち前の運動神経を発揮してヒョイと飛び乗る。
 彼女は昇降スロープを出そうとしたが、平沢が腕を伸ばして引っ張り上げてくれた。
「ありがと」
 ウィンクしてみせると彼は見て判るほど頬を赤くし、己の手のひらを見つめた。
「福島県三春町、お願いします。INS使うほどは急いでいません」
 中は白く照明されており、目が慣れてくると、縦に長い6角形断面の空間である。
 スライド式の舷側昇降ドアが閉まり、上昇に伴って下方へ押し付けられるようなG。エレベータでおなじみの感覚だ。
「これ、あの、窓際に浮かんでいた船、だよな」
「そうです。国際救助隊アルゴ・ムーンライト・プロジェクトの所有する飛行帆船です」
 一度、教室の窓際に呼びつけたことがある。ほとんどの生徒はその暴風に逃げ出す姿勢を取って見ていないが、彼は見ていた。
 ちなみに乗せた以上は秘密を前提に多少情報を開示してもいいと思うのだが。
 そんな時間はなさそうだ。
 耳に挿した通信機にピン音。
「間もなく到着します。どこへ?」
「えっと……」
 住所に基づきこの船が下ろせるスペースを検索。
 集落の外れ、アスファルト舗装が途切れたところに小高い緑地あり。
 特にGを感じることもなく、着地に伴う小さな衝撃。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -20-

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「そうです。常磐線で太平洋側から入るルートです」
 彼女は平沢の顔を振り仰いだ。
 全ての点が一本の線に繋がった。
「お父様は郡山駅だって確か」
「そう……常磐線に行ったならそりゃ郡山で待ってちゃダメだよ。三春に着いてもまだばちゃんが着いちゃいねぇ」
「先回りしすぎたわけだ。すぐ三春へ戻ってもらって……えーと、ありがとうございました」
「いーえ。君たち三春に行くのかい?」
「はい。あ、いえ、家族が先に行ってますので」
 じゃぁ切符買って行け、となると困るので言を翻して頭を下げ、その場を辞す。“術”が解けた後、彼は何等か守秘義務に違反した等で処罰されるのだろうか。
「(意図したこと形を成さず)」
「姫ちゃんなんて?」
「えーとね、上野公園へ行きます」
「え?三春じゃなく……え、それってひょっとして」
 彼女は頷いた。
 彼は一度、その存在を見たことがある。
「レムリア案件ですから」
 階段上がってコンコースを逆戻り、“公園口”からICカードをピッして出場。その国立博物館や美術館、そして著名な上野動物園のある上野公園へ。

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(科学博物館前)
 外へ出てまず平沢進の父殿へ電話。
「タイムラグすごいからトランシーバみたいに語尾どうぞ、ってつけた方がやりやすいよ」
「ありがとう。……あ、父ちゃん進だ。ばあちゃんは上野から常磐線の特急に乗った。郡山には行ってない。すぐ三春へ行ってくれ。どうぞ」
 喋りながら二人は横断歩道を渡って公園内に進み、博物館類のある方向と逆、南側へ進む。著名な西郷隆盛像がある方。
『……警察から連絡来ないが?』
「上野駅で駅員に聞いた。どうぞ」
『……そのどうぞ、って何だ。まぁええが、上野にいるんか。上野?……そうか上野か、よく気付いたな。わがった。とにかく三春へ行くわ。お前は戻れ』
 平沢は困惑して彼女を見た。
「とりあえず『はい』で。んで、電話オフでいいよ」
「はい。どうぞ、あ」
 平沢は言われたままにはいと言って電話を切った。
「軍の無線みたい」
「平和を愛する姫ちゃんとしては不本意だけどレムリアとしては強力な相棒」
 電話を返してもらってニヤッと笑うと、公園の中でも比較的木が少なく開けた場所へ出る。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -19-

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Ultrabaka

 東京からの短い道中、隣接する新幹線は秋葉原のあたりから地下に潜った。対して自分たちはより高いコンコースへ上がった。
 その国立博物館に行った際の記憶を当たるが、妙に天井の低い通路を通ったことが印象に残っているだけで、目の前の光景とは異なる。

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 見えないし思い出せないなら感じるしかない。目を閉じて得ようとするのは人々に去来する“新幹線”の思い。その発出多い方向へ向かえば良い。
「姫ちゃん?」
「大丈夫、付いてきて」
 それは頭痛持ちの娘が眉をひそめてこめかみを押さえながらフラフラ歩いているの図であって、平沢進としては困惑するしかあるまい。
 12番線を行きすぎ、改札口で行き止まり。新幹線は19番線からだが、その間の番線はどこに?仕方なく階段を下りる。
 と、託宣のきらめきを持って確信が訪れる。左手の“みどりの窓口”相原学から聞いたのはここだ。
「あの!」
 彼女は、今から休憩であろうか、窓口に“他へお回りください”の札をさして立ち上がろうとする男性の係員に声をかけた。
「はい?」
 男性は少し不機嫌そう。年齢に応じて額が広いのだが、そこに皺が寄る。
「突然すいません。人を探しています。こういう高齢の女性が福島三春までの切符を買いに来ませんでしたか?」
「困るんだよねー」
 舌打ち混じりのその声は、窓口内部の他の係員の注目を集めたようである。
 そのうちの一人、ちょうど立ち上がった黒縁メガネの若い男性と目が合う。
 この人だ。
「(意図なさないこと形となりて)」
「姫ちゃんなんて?」
 黒縁メガネの男性はこちらへ歩み寄って来た。
「んー?見せて?あ、やっぱそうか、このおばあちゃんなら覚えてるよ」
「マジですか」
 これは平沢。
「おい……」
 不機嫌な男性の表情が厳しくなった。“個人情報をべらべら喋るな”というところか。
「いいじゃないすか。新幹線を勧めたんだけど『そんなもんはねぇ。汽車で行く』って。上野にいらしたわけだし、ああ、八戸(はちのへ)が尻内(しりうち=八戸の旧駅名)な感じかなと思って“ひたち”でいわき経由の乗車券と特急券を出しました」
 ぞんざいと丁寧が混じったその話し方は彼女の呟いた言葉の作用による。
「いわきは昔の平(たいら)だと言ったら、ああ、それなら判るってニコニコで買って行かれました」
「すいません鉄道には疎いので、つまり新幹線を使わずに三春へ行かれたと」

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -18-

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 ちなみにアメリカが管理している衛星なので、アメリカから国際電話で日本へ掛ける扱いとなる。国番号に続けて彼の携帯番号。宇宙へ飛び、アメリカへ届けられ、そこから太平洋海底ケーブル。40キロ向こうへ掛けるのに信号は万キロを馳せる。応じたタイムラグが会話に出る。
「どうした。急ぎか」
「うん。友達のおばあちゃんが行方不明になった。一方的に喋るね。昔の記憶をたどって福島三春へ向かおうとする場合、どの駅を通る可能性が高いか」
 果たして回答は、電波が行って戻るタイムラグと変わりなかった。
「上野へ行け。一方的に喋るぞ。今なら新幹線だが開通は1982年だ。そのおばあちゃんが人生のほとんどを昭和で過ごしたなら、上野から特急電車だ。いっぺん国立博物館に行ったな?あん時降りたのが上野駅だ。博物館側の出口と真逆の方向、13番から17番ホームが長距離列車のホームだった。新幹線の乗り換え口ができていると思うが、その脇に“みどりの窓口”がある。そこで三春までの切符を求めたお年寄りについて聞き込みをしてみろ。以上理解したか」
「上野駅の17番線にあるみどりの窓口で聞いてみる。理解した」
「それでいい。行け」
「ありがとう」
 電話を切る。膨大な“時間”の存在をそこに感じる。
 おばあさまの意識が、30年前の記憶で動いていたなら、自分のテレパスごときで判ると考える方がおこがましい。
「上野?」
 言葉尻だけ聞いていたであろう平沢は訝しげ。
「昔の記憶に基づくならば、新幹線が開通する前のルートじゃないのかと。だったら上野駅から特急電車じゃない?って」
 平沢は口元を小さく、アルファベットの“o”の字にした。気づき、だ。
「そうか、東北新幹線って平成のちょっと前だもんな。わかった行ってみよう。山手線乗るぜ。こっちだ」(作者註:「上野東京ライン」開業前である)
 東海道線のホームから降り、コンコースの人波を小走りでかき分け進み、山手線内回り、京浜東北線大宮方面が発着する3、4番線へ。
「最初からこのホームに来て……も電波届かないねこれ」
 上に件の中央線ホームの構造物が覆いかぶさっている。
 山手線電車は待つまでもない。乗り込んで動き出す。ただ、神田、秋葉原、御徒町、上野、と止まって行くその時間が、上野駅手前のカーブを進む緩い速度がもどかしい。
 上野駅。明治の開業当初より北へ向かうターミナル。
 ホームから階段でコンコースへ上がる。

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“博物館と逆”と相原学は言った。その方向へ“新幹線”の案内がある。
 問題はだ。
「どうなってんの?この駅」

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -17-

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「お年寄りを探しています。福島の方まで買ったと思うのですが……」
 加齢加工した写真を見せる。するとテレパス反応するより早く、お姉さんは困った顔になった。
「たくさんのお客様がいらっしゃるので、お写真と行き先だけでは……失礼ですが警察の方には?」
「届け出済みです」
 答えながら、“東京に行け”の示唆の答えを確信する。それは求めている解とは逆だが確実なもの。
 ここには来ていない。
「わたくし本日は2時間ほどここにおりますが、お見えになってないと思います。窓口の者にも訊いてみましょうか」
 それは列を成し切符を求めるこの人々を待たせ、切符を買わない尋ねごとを要求するもの。
 しかも、得られる解は判っている。
「あ、いえ、すみません。ありがとうございました……」
「お力になれずすいません……」
 先に頭を下げられる。いえ、いきなり無茶を言ったのはこちら。
 邪魔にならぬようとりあえず列を離れる。文字通り立ち往生である。東北へ、東海道新幹線で名古屋大阪へ。人の波は途切れず交錯し続ける。
 他の方法で向かった?
 だとしたらどうやって。鉄道に詳しい人……。
 相原学に訊く手があるではないか。ヲタクと会話できるレベルとは言っていた。
 衛星携帯を取り出す。ただ、屋内では電波が届かない。外へ出られるところは?
「空が見えるところへ出たい。一番近い出口は?」
 見回すと“八重洲中央口”。
「待って姫ちゃん」
 看板を見つけて走り出そうとしたら平沢に止められた。
「普通にホームに上がればいいと思う。中央線のホーム以外は全部屋根かぶってるわけじゃないから」
 新幹線最寄りのホームは10番線とか。一段高い新幹線改札前から階段使って降りて進む。オレンジ色の看板には東海道線……そう言えば大船(おおふな)まで乗ったし、それこそ相原学の勤務先は大船でモノレールに乗り換えと聞く。
 エスカレータももどかしいので階段を一段飛ばし。ホームに上がり、屋根の切れ目を見つけて衛星携帯のアンテナを延ばす。
 電波を捕まえた。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -16-

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 総合するに“突然、訳が分からなくなる”……譫妄(せんもう)と呼ばれる状態に入る可能性は感じないが。
 病気のほか、夢や薬の副作用、手術の麻酔でもなったりするとも聞く。
……否定しきれない。そしてその状態で元の住まいに向かったのだとすれば。
 電車は神田で北へ向かう新幹線を含む他の路線群と合流し、そこから自分たちの線路だけ高架線路からさらに一段高い高架へ駆けあがって終着、東京。
 電車が止まり、ドアが開くと、大都会の空気と騒音。
 ホームに降り立つ。で。
 思わず立ち止まる。感じないのだ。思いを何も。
 テレパシー感度が落ちてる?否否、傍ら平沢の不安と、次どうすれば、という困惑の念を強く感じる。あ、後ろに人が邪魔ですね。ホームの真ん中まで移動して人の流れを避ける。
 どうすればいい。とりあえず。
「新幹線の乗り場へ行ってみましょう」
 確証があるわけではない。というか、ここまで来て他に出来ることはない。
「おう……」
 平沢が応じる。とはいえ自分から足が出ない。掌握している駅ではないからだ。ホームの上の案内板は“新幹線↓”要するにこのホームからコンコースに降りろ。そりゃそうだ。
 情報が欲しいのはその先だ。
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https://www.jreast.co.jp/estation/stations/1039.html
「判る?」
「東北新幹線だろ。大丈夫だよ。行ったことあるから」
 平沢の後ろをついて行く。2段高架の上の階層から、途中に踊り場区間がある長く不思議なエスカレータで降りてコンコース。案内表示は20から23番線だとしてある。案内表示の「東北新幹線」を頼りにして歩く。東京駅を西端から東端まで横切る形。
 さて新幹線というのは特急列車であるから、乗車には乗車券と特急券を必要とし、両者揃って持っているかを確認する専用の改札がある。
 東京駅における東北新幹線のそうした改札は2か所。ともに“みどりの窓口”を傍らに備える。
 どちらも応じた行列。ロープでジグザグに仕切ってあり、人々がじっと待っている。彼女は長くアムステルダムで暮らしており、同様な高速列車“タリス(Thalys)”を知るが、チケットはネット予約の電子メールをプリントアウトすればよく、駅の改札もないので、この光景には違和感を覚える。割り込んで尋ねる?
 誰か係の……と見回したら、青い制服で首元にスカーフを巻いた、コンシェルジュのお姉さんがいたので、訊くだけ訊いてみることにする。
「すいません」
「はい」
 にっこり。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -15-

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 滑り込んできた白い列車の“自由席”を探して乗り込む(※)。ドアは車端のデッキ部にあって、客室とは自動ドアで仕切られている。ドアの向こうを覗くと満席。
 他、幾人かの乗車客とともにデッキ部に立つことにする。ドアが閉まり、キシキシした機械音とともに列車は駅を離れる。
 カーブで身をくねらせ、本線に合流し、特別急行東京行き、とアナウンス。※未指定券制度導入前
「俺、初めて乗るぜJRの特急」
「そうなの?」
・私鉄とJRが並走、新宿や東京に出るには運賃の安い私鉄を使うことが多い
・JRの特急は東京まで乗っても1時間未満であり、特急料金が惜しい
・ほとんどは新宿止まりなので、尚のこと「わざわざ乗る」意味も理由もない
・反対方向甲府方面へ出かける際はクルマなのでやはり乗らない
 ちなみに発車してすぐは特急らしい加速を見せたが、間もなく速度が頭打ちのようになり、持て余して流すような走り方になった。それは前方に「特急以外」の列車が多く、追い抜くチャンスがないので、後ろから着いて行くようなダイヤになっているからだが、さておく。
 東京まで一定の時間と空間が持てたことは確かなので情報を集める。依頼した画像認識は現時点検出なし。全部は膨大な時間がかかるので新幹線乗り場を優先してもらった。3時間分で検出されず。
「東京駅にはお見えになってないみたい……」
「え……」
・私鉄とJRが並走、新宿や東京に出るには運賃の安い私鉄を使うことが多い
「このルートの場合、JRを全く使わず東京駅へ出られる?」
「うん、新宿から地下鉄に乗ればいいから……そっちかなぁ」
「検索依頼すればいいよ」
 私鉄の社名、地下鉄の路線名を聞いて追加の調査を依頼する。
 ただ、そも、そのルートを取ったのだろうか?
 JR一本に比して複雑すぎるのではないのか?
 テレパス無感応の説明は成り立つが。
 ともあれ東京駅へ行った方が良いようである。北帰行の結節点と考えられるからだ。画像検索とテレパシー検索の並走だ。
 30分弱、ダラダラ走ってビルの谷間に入ると、ゴトゴト揺れながら線路が分岐し、新宿に着く。二人が一旦ホームに降りてスペースを空ける要があるほど大量の下車があり、客席に空きも出たので移ることにする。動き出して更にのろのろ運転だ。
 さてこの先の車窓には見覚えがある。沿線の大学病院でちょっとお世話になったことがある。小児病棟とか遊びに行った。せっかくこの地に定住したのだからまた行こうか。
 高速道路、高層ビル。意外な緑。
 四谷に止まって下車客少し。それで車内の客はまばら。神田川に沿って東京まであと一息。
「おばあさまをこちらに引き取った後の大まかな変化を知りたい。健康状態を知ってる範囲で教えてください」
・転居2日後に体調を崩した。高熱と腹痛
・回復後はおおむね元気
・血圧と膝の持病有。近所で通う病院を決め、特に膝はリハビリ兼ねて毎日通院
「こちらで新たなお知り合いとかは?デイサービスとか使ってる?」
「知らない、というか聞いてないな。ごめん、親にお任せにしてる……」
「いいよ。それだけ判ってるだけでも大したものだよ。ありがと」

つづく

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【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -14-

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 直接感じるものは無い。しかしただ、確信はある。
 東京へ行け。
 以上、平沢が見たのは、駅前をぐるぐる歩き、改札機を触り、そこで腕組みしながら目を閉じてゆっくりと首を西、北、東と動かす彼女。困ったような表情は常軌を逸していて理解しがたいから。
 斯くて彼女は目を見開き、光を蔵した瞳で彼を見た。
「東京駅へ行ってみましょう」
「え?……」
 平沢は眉根に困惑を載せて彼女を見返した。客観的に見て、ここに来たという証拠はないのだ。
 だがしかし。
「判ったよ。姫ちゃん信じるよ。姫ちゃんが嘘言ってるとは俺には思えない」
「ありがと……あ、電車来たんじゃない?」
 ゴーゴーという走行音を聞きながら、二人はICカードをかざして改札を抜け、階段を駆け上がる。
「そういやばあちゃん敬老パスで電車も乗ってるの思い出した」
 それは、平沢が自身を無理やり納得させているように、或いは後で言い訳できる材料を探しているようにも聞こえたが。
 その可能性はゼロではない。この“カードかざして改札チェック”は殆ど無意識に行えてしまう。
 オレンジのストライプを巻いた銀色の電車に乗り込む。平日10時過ぎであり、空席も目立つ。
「これ快速だから東京まで1時間だなぁ……立川(たちかわ)で青梅特快(おうめとっかい)でも接続してれば……」
 平沢がひとりごちる。東京の鉄道乗り継ぎにおいて、彼女は自分で考えたことはあまりない。相原学にくっついて歩いていれば最短・最速・最安価で目的地に連れて行ってもらえる。
 車掌のアナウンス。『まもなく立川です。特急列車通過待ち合わせをいたします。新宿・東京方面お急ぎの方は特急列車にお乗り換えください。特急列車のご利用には特急券が必要です……』
 東京へ急ぐなら。
「乗ろう」
 彼女は提案した。
「えっ?新宿東京までJRの特急なんか乗ったことねーよ。何百円か取られるんだぜ」
「お金の問題じゃないじゃん。使えってもらってるんだし、移動の時間は節約して、探す時間に使おうよ」
「……判った」
 快速電車は速度を緩め、ポイントを渡って待避線へ入り、ドアが開いて二人が下りると特急接近のアナウンス。

(つづく)

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