小説・魔法少女レムリアシリーズ

魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -131-

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 居並ぶベッド群の中へ放り出され、失神状態で二転三転。レムリアは彼に向かって走り出そうとしたが、アルフォンススが捕まえ、巨躯を被せて床に伏せる。
 その腕の隙間からレムリアが見たもの。
 高濃度二酸化炭素の空間で動くことが出来、しかし自分のテレパシーに感応せず。
 電子機器なら感じ取れるアルフォンススですら気づけなかったもの。
 ネアンデルタール人の復元図のような筋骨を備え、カビの繁殖を思わせる青緑の皮膚。2体。
 動いているが生きていない。
「ゾンビだ」
 アルフォンススの乾いた声。〝それ〟は死んだ人体を改造し……クジラリモートコントロールと同じ方法で神経系に電流を流して遠隔制御……アルフォンススの推定。
 リモコンのゾンビ兵。応用したのがクジラか、その逆か。
 その〝目〟が自分たちを見たと思った次の瞬間、視界に割って入ってくる2人の大男。
 ゾンビ兵2体の動く速度は異常という以外の何物でもなかった。
 凄まじい速度でその手足は動いた。ネコの反射と駆動速度であった。対抗できるのはアリスタルコスだからこそであった。彼はその〝ニンジャ〟の反射神経で殴る腕を撥ねのけ、蹴る足を躱し、今度は自身が飛び上がって回転蹴りを顔面に与える、が、びくともしない。
 と、書いたが、ここまでの動きは1秒以内である。レムリアは超感覚によって起こった事象を後から動画に起こし直して確認することが出来る。リアルタイムをスローモーション化して認識できると書くか。1人だけ時間の進み方を可変出来るような感じである。
 一方のラングレヌスは要するに〝ボコボコ〟に殴られているのであるが、特異な肉体のせいか、その衝撃で少しずつ後ずさりこそすれ、相原のように吹っ飛ばされるまでは行かない。
 アルフォンススが腕と一体化した銃口を向けるが、ゾンビ兵の動きはあまりに速すぎ、双子を避けて照準発砲という時間が取れない。
 青黒い液体がピシャピシャ周囲に飛び散る。死体を制御しているだけなので、保持する薬液が末端の細胞までは行き届いていないのか、壊死分解した組織片が少しずつ飛び散っているのである。であれば。
 レムリアはその故に逆に酸素があると一気に腐敗すると予想した。二酸化炭素濃度が高いからこそ使える〝生きてない〟兵士。
 この部屋に外気を導入すると?
「船長、私を相原さんのそばへ投げ出してください。銃で壁に風穴を開けます」
「君が銃を?……判った」
 アルフォンススは、一瞬躊躇しつつも、レムリアの身体を、床面滑らすように投げ出し。
 自らは銃を突き上げて雄叫びを上げた。それは傭兵だという普段の彼を思わせるウォー・クライであった。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】虫愛づる姫と姫君 -19-

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「操舵室。コンクリの広いスペースに下ろして。昇降口から皆さんを収容する」
『了解』
 さてこの船は地上への発着において空気圧を利用し、応じて周囲に暴風が生じるのであるが、子供達と畑がある中で竜巻レベルの風を出すわけにも行かぬ。
「滑空降下する。所要10秒」
『了解』
 レムリアは答え、森宮のばらの手を引き昇降口そばまで移動し待機。滑空というのは要するに補助動力として「帆」を持っており、これを水平に広げてグライダーのように使うことを言う。
 昇降口わきの液晶モニタをオンとし、屋外を伺う。子供達は泣きじゃくっており可哀想だ。5秒10秒が長く、惜しい。
 さてこの時レムリアとしては違和感を覚えている。自分の魔法……ムーンライト・マジック・ドライブは「操る者が何らか意図持ち行動している時」それを促進するように、周囲にいる生き物に働きかけるような作用をする。すなわち意思持つ動物は支配下に置いて意図通りの行動をさせることが出来、だからイヌネコは従うのであり、そして脊椎動物以外の節足動物や昆虫は魔女の行動を助け、意思達成を妨げる者を妨害する。前述の事件で教室に現れた大量のゴキブリもそうした作用の一環だ。その時は凶器持つ者が人質取ることを恐れたのだが、ゴキブリによって誰もその者に近づけず、その者も動けなかった。比してこの場合、ハチは魔女の意図を汲んでただちに雲散するべきであるが、そのような動きは見当たらない。ハチたちの怒りの故に魔法が奏功していないのか、
 それを自分たちで解決しろ、する意義があるという大いなる意思の故か。
 着艦。
「のばらちゃん!」
「はい!」
 二人は昇降口が開くと、スロープが延びる間も惜しく陽光の下に飛び降りた。森宮のばらは虫を追いかけていたせいかそうしたアクションに躊躇はないようであるが、にわかベジタリアンの生活が長かったか、着地した時にバランスを崩して前のめりに転んだ。
 が、痛いも言わず立ち上がる。
「しくじった。大丈夫だよ」
「オッケー、みんな!こっちへ!助けに来た!」
 手を振って誘導を試みる。その間に森宮のばらは走り出し、子供達に声を掛けつつ、ハチを手で追い払う。みんな、あの船へ行って!
 レムリアも行きたいがすべきことがある。わんわん飛び回るハチは数百。子供達はざっくり30。
 この空飛ぶ船は救助に“奇蹟”が必要な場所・状況において、超能力と科学を集結して実際奇蹟を起こしてその目的を達成するために存在する。彼女は魔法担当である。一方、科学力の代表として、救助活動の妨害・障壁の排除に備えた、“支援機器”と称する、有り体に言えば高速高出力の銃器を幾らか搭載している。

(つづく)

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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -130-

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「何があると思うね?」
「とりあえず、誰かいる感じではありません」
 レムリアは答えた。予感というかテレパシーの囁き。ここに、アルフォンススの言った〝自分を必要とする深刻〟は〝無い〟のではないか。
「とりあえず、ぶっ壊せ」
「上等。破壊と同時に全員突入」
 アルフォンススが指示し、ラングレヌスが外部からの侵入時と同様に火の玉でロックと開閉機構を溶かし、アリスタルコスとアルフォンススが体当たりしてドアを外した。
 2人は銃を構えるが中は予想通り真っ暗。
 それは、違和感が増幅する一方の静寂。
「典型的な罠だな」
 アリスタルコス。レムリアはテレパスを可能な限り感度を高めた。ここには〝人体〟がある。だが、〝命〟はない。ゴーグルの暗視モードで多数ベッドがあり、そこに〝人体〟が多く並んでいると分かる。だが所詮古いモノクロ写真のような見え方。
 刹那。照明が灯って明るくなる。それは暗視装置を経由すると目を射る照度になる(つまり目潰しになる)のだが、ゴーグルは一瞬遮光してそれを防ぎ、徐々に視界を明るく変えて行った。
「言葉もねぇぜ」
 ラングレヌスが言い、全員で呆然。
 暗幕で遮光された中に並ぶ多数のベッド。それらは水槽のように四角く透明なケースが被せてあり、中で苦悶の表情のまま息絶えた人体。
 実験を受けた人体はそれぞれ身体の各所に何らか〝繁殖〟させられ、ひどい壊死、腐敗などを呈していた。
 彼らを絶命に至らしめたのは実験の結果ではない。高濃度の〝二酸化炭素〟こそは。
 〈セレネさん〉
 〈ええ、この事象と思われます〉
 大きな悲しみの正体。そして〝急ぐ〟ことを求められなかった、及び、自分の力など必要ない、理由。
 その時。
 感度を高めたテレパシーが相原学の違和感を捉える。背後で〝ぺちゃ〟という、腐った果実が固いところに落ちたような音がした。
 誰かが、何かが、いる、とはテレパシーは言ってない。
『オーディオマニアだからさ』
 個室で聞いた話。彼は聞こえたのだ。レムリアは結論し振り返る。より一瞬早く、相原が自分の後ろでレールガンの銃身をナタのように振り上げた。
「この化け物め!」
 ゴリラのような〝何か〟が、自分を背後から殴ろうとしたところへ、相原が身を挺したのであった。
 応じて彼は殴り飛ばされる。耐環境ウェアは戦闘に備え、ラングレヌスの肉体構造を模して防弾である。銃弾を受けた場合瞬間的に硬くなって貫通を抑止し、運動エネルギは波紋のように広がって吸収される。だが丸ごとどこかに叩き付けられるのは話が別。

(つづく)

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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -129-

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 しかしすぐ落ちるわけではない。エレベータはワイヤが切断すると、ケージの振動防止に設置されている、〝ガイドレール〟を締め付けるブレーキ装置が作動して停止する。金属同士の接触するガツンという音が聞こえ、次いで擦れるキーキーという音を立て、エレベータケージの急停止を教える。
 屋上と3階の間。ただ、ケージと重量バランスを取っているカウンターウェイトは落ちたようだ。ドーンと残響を伴い若干振動する。
「テレパス」
「誰もいないようです」
 レムリアは即答した。
「相原、銃を変えろ」
「プラズマ?」
「そうだ」
 ラングレヌスが相原と銃を交換。ラングレヌスがプラズマ。相原はレールガン。
「オレはコイツを落とす。お前らは先に行け」
 ラングレヌスはそう言うと、ドアパネルの穴をもう少し拡大し、そこから中へ、すなわち途中で止まったケージの上へドンと飛び降りた。衝撃で少しだけ動いて、噛んだブレーキからギャッという嫌な音。
『生命反応、武器、ロックオン反応なし』
「任せた。行くぞ」
 アルフォンススの指示で階段を駆け下りて行く。階段はエレベータシャフトに隣接して配されており、男達は一段抜かしで飛んで行くよう。アリスタルコスに至っては最早姿が見えない。ただレムリアも身軽さが奏功してか、アルフォンススの巨躯を見失うほどではない。
 二酸化炭素が濃度を上げて行く。
 3階のドア前。エレベータシャフトの中で発砲音がし、爪で黒板を擦っているような、耳に痛い金属音。
 彼が火の玉でブレーキシステムを溶解させ、ケージがガイドレールと擦れながら動き出した。
 『3階エレベータのドアを破る』
 金属音が通過し、火の玉を受けた3階のエレベータドアが円形に赤熱溶解し、突き破ってラングレヌスが転がり込んでくる。
 エレベータケージはガイドレールを外れたようで、あちこちガンガンぶつかりながら落ちて行く。
「熱いぜ」
 ウェアに付いた溶けたドアのカケラをぱっぱと払い落とす。ただ、その動作は、してもしなくてもいいような、マンガじみたオーバーアクションに見えるのは、彼の特性もあろう。
 下でドンと落下音。ちなみにエレベータは落下事故の最後の手段として、最下部に大きなバネと衝撃吸収用のダンパ装置が付いている。
 イヤホンにピン。
『衝撃と電力の急峻な変化を検出。大丈夫ですか?』
「エレベータを破壊したためかと」
『了解』
 ドアに向かって銃を構える男達。ドアは相原の認識を借りると〝半導体ラボ〟のような気密性の高い開き戸のようだ。窓のない一枚板で、なるほど隙間は空気の出入りが感じられず、中から光が漏れてくるようなことはなく、向こう側、室内は暗いとみられる。

(つづく)

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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -128-

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「判りました」
 男達は屋上部の鉄扉に向かって銃口を向けた。相原の言った〝やったろうぜガチャン〟そのものである。
「ノブ、ロック部、ヒンジ部をプラズマで打ち抜いて溶かせ」
「アイ」
 プラズマ銃を抱えているのは相原だ。パン、パン、パンと音がして鉄扉のドアノブ部位と蝶番の位置に穴が空き、扉が支えを失って奥方へ倒れる。
「センサ感あり。迎撃されるぞ。レーザ」
 ドアパネル向こうの暗闇で何かが赤く光ったと思った次の瞬間、アリスタルコスの手先から無数のレーザ光条が突っ走り、応じて小さな煙や火の玉がチラチラする。対侵入者銃撃用の銃砲が無力化されたと理解した。
「全自動か、遠隔か」
「なるほど。外見ほど平和じゃねぇ(So, it's not as peaceful as it looks.)」
 レムリアは男達の口調で呟いた。
「いいノリだレムリア。だが無茶すんな」
 中へ入ろうとするとレムリアの端末……目の前のアームに付いてる小さなスクリーンに警告。
「炭酸ガス。高濃度。このまま入ると窒息します」
「総員ウェアを宇宙モードに切り替えろ。各自銃の燃料電池システムとガス交換システムを接続」
 銃の電源は燃料電池である。ここから電源をもらってウェアに仕込んである人工光合成システムを駆動し、呼気中から酸素を取り出す。酸素が不足した場合は燃料電池の発電用酸素を分配する(もちろん、その分だけ銃の駆動時間は減少する)。
「レムリアはリュックサックの底にシステム一式入っている。ウェアの後頭部にガス交換チューブをつなげ」
 その作業は相原が後ろに回ってやってくれている。
 〝空気の味〟が変わった。正直長く吸いたくはない。
「大丈夫です」
「行くぞ。突入」
 大男達が銃口を向けながら入り、次にレムリアが足を踏み入れる。殿は相原。足下から奥手は真っ暗だが、レムリアの場合透視に近い力が働き、夕闇程度に見て取れる。隅の方にドロドロに溶けて落ちたカメラと機関銃のなれの果て。その他はエレベータと脇に階段。
 人、というか生命の気配はない。逃げたか隠れたか。
 エレベータの動作音。
「上がって来るぞ」
「ロクなもん載ってねーだろ。壊す」
 相原はエレベータのドアに向かって火の玉銃を構える。
「いや、ケージがドカンの場合もある。落とせ」
「アイ」
 アルフォンススの言葉に相原がドアパネルに穴を開けた。
 穴の向こう、上下に動くケーブル類。
「アリス焼き切れ!」
「おう」
 アリスタルコスがその穴からレーザを放ってエレベータを動かしているワイヤーを焼き切る。

(つづく)

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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -127-

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 船長の操作で画面が変わって。
「さっきのヘリコプターの運用歴だ。我々がマラッカ海峡にいたタイミングで……そばの島に来て戻っている。乗せる荷物を横取りされて引き返したのだろう」
「つまりそれは……人身売買船の行き先が……」
「奴隷商法ではなくブラックウォー島の、研究所と称する施設だろ。人を攫ってきて、つまり秘密にしてまでやりたい研究って何だろうね」
 相原は言い、レムリアは奥歯を噛みしめた。
「人体実験」
 アルフォンススはゆっくり頷いた。
「その通り。特定の人種を抹殺しようとしたとき、核爆弾による破壊では同胞も殺してしまうし、その土地が使い物にならなくなるのだよ。最も、ホロコースト礼賛系統はそれが目的の節はあるがね。すると?」
「この研究所では病気と治療の研究と見せかけてその真逆、特定の人種にのみ伝染し死に至らしめる病原菌兵器を開発している」
「ご明察。従ってこれから研究所を破壊するのが我々の責務だと自認するが、応じて多くの人々が深刻な状態で君の助力を必要とするだろう。ただそれが君の心身に深刻なダメージを与える可能性を私は危惧する。なので君に選択の余地を与えたい……」
「行きます」
 レムリアはアルフォンススが全部喋る前に言った。
「救える人を命を救う。無碍にされる命はあってはならぬが私の信念。私がこの船に乗ったのは、奇蹟を起こして命を救うためです」
 真っ直ぐ答える。心傷付いてナヨナヨしている時間はもういい。
 許せるかそんなもの。自分は最早、目の前で誰かに死なれても平気なメンタル。
「よろしい。副長、シュレーター、船内を任せる。他はそれぞれウェアに着替え、銃器、装備を持って昇降ゲートへ。目標建造物は鉄筋コンクリート3階建て。屋上ヘリポート部より強襲する」
「了解です」
「アイ」
 透過シールドで姿を隠したまま接近する。それは青い海に浮かぶ絶海の孤島であり、豊かな緑に囲まれた清潔な白い病院という体である。至って普通であり、怪しさのカケラもないように見える。小規模な港まで道路が通じる。見て分かる人工構造物はそれだけ。レムリアの知る限り、島が丸ごと病院施設で、自然の中を歩いて日光浴と海水浴と、安らかな時間の流れを……みたいな案内がされていた。
 突如姿を現してビルの上に船体を降ろす。スロープを下ろし、〝殺人研究所〟ビル屋上に降り立つ。
 まだそうと信じられないが。
「迎撃無し。敵味方識別装置反応無し」
「籠城して待ち伏せか?」
 以上双子から。
「レムリア。君の端末に環境データ、すなわち放射線、ガス、細菌、ウィルス等の検出状況が表示される。我々は武装と攻撃の無力化に徹する。要救護者の発見に全力を挙げてくれ。都度で君に手を貸す」

(つづく)

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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -126-

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 偽名で表記する。ブラックウォー島。南半球とだけしておく。10キロほど離れた海洋上にアルゴ号は普通の船然として浮いて停船している。
「こことつながっていますと」
 正面スクリーンの画像を見て相原が言った。
「ここには伝染病の国際共同研究所が……」
 レムリアは言いかけ、鯨プールと同じだと判断した。この島の名であるブラックは肌の色から来ている。植民地政策で虐殺、もっと言うと、列強富裕層向けに〝人間狩り〟が営業されていた。その〝罪滅ぼし〟がこの研究所なのだが……白亜の国にとっては疑われない隠れ蓑ということになる。
 アルフォンススが画面上に何か図を出す。四角形で囲まれた人名か組織名と思しきものが相互に線で結ばれている。船に作成を命じたという相関図、か。
「レムリア、人類が犯した人種差別的な政策二つ、思いつくものは?」
 アルフォンススの口調が厳しい。
「ホロコースト、アパルトヘイト」
 答えると、アルフォンススは頷いた。
 レムリアは目を見開いた。特定の人種至上主義・原理主義は21世紀をして人目を避けつつ存在し続けているのは知っている。
 それらが素性を隠し、地下に潜って最新の軍事技術を獲得していたら?しかも。
「ネオナチと白人優越主義がつながっている、ということ?」
「だけではない。パレスチナやゴラン高原へ行ったことは?」
「あります……ということは、それらと中東の反イスラエルが結束ですか……」
 その地の非国家主体の名が相関図にあり、アルフォンススがポインターで示す。そこから、白亜の国に資金が流れている。その見返りこそは、反米・反イスラエル・反キリストを掲げて割拠する各非国家主体が、喉から手が出るほど欲しいもの。
「プルトニウム」
「そうだ。ただ、それは表面に過ぎない。こっちは得た資金でクジラを音波制御の自爆テロ犯に仕立てて、何がしたいか?白人優越は狂信的なキリスト教原理主義と結びついて世界中にいて、旧植民地主義国、合衆国やロシアもだ。政権中枢に食い込んで、国際輸出管理レジームの枠を超えて喜んで横流しする」
「船長言いたいこと言ってくれるじゃねぇか」
 困惑しているアングロサクソン……金髪碧眼の双子。
「ロシアの船に欧州の迎撃システム乗せて合衆国のガンシップ運用しているのだが?」
「ああ、はい。言い返す言葉はねぇよ」
「レムリア。君に尋ねたのは他でもない。こういう背景があることを認識してもらいたかったのと、先日の日本の女の子は何かあったら本船で救助に行ける状態になっているか?」
「ええ。はい。連絡先は相原さんの携帯に残していますし、本船に関する記憶もそのまま残して……何か関係があると?」
 レムリアは胴震いした。こんな世界規模の人種差別組織に、自分より歳下の女の子がマークされる?

(つづく)

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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -125-

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「抗いようのない命を弄んだからだろ。しかもリアルタイムで意思を通じている相手が。君が優しい証拠だと思うぞ」
「なのかな」
 確認しながら思う。自分、出会って2回目なのに全部晒している気がする。その中で事実ひとつ、この男は自分の全てを肯定してくれる。
 アルゴメンバーと彼がちょっと違うところ。能力を発揮して所要の結果を出せ、に、対して、女の子メディアとしての個性や価値観を押し殺すな。
「船長……アリスやラングが顕著かな。銃口向けられても面白がってる節すらあって、冗談で笑い飛ばそうとする。あなたもそうみたい。対して私はこの船で活動していて笑ったことは無いかも知れない」
 すると相原学はちょっと顔を近づけて来た。
 じっと目を見られる。
「自分で自分を責めるクセあるか?良くないぞ。君は君なりの方法で命のアシストすればいいじゃんか。俺たちがへらず口をたたくのはそうやってカッコ付けるのが男だからだよ。デケェ銃を担いでガシャンおら掛かって来いや!映画で見たそれが実際出来るんだもん、やるさね。そんだけさ。真似する必要は無いし、そうあるべき、ってわけじゃない。だから無理して笑うな、だよ」
 相原は手のひらで頬にそっと触れた。
「あっ」
 その〝大きな熱さ〟にびっくりして声が出る。
「多分、俺たちは巨大な陰謀のしっぽを捕まえた。それは世界を守るようなことをしている。そういう自覚をオレは抱えてる。必要としてもらえた喜びにこの身が熱い。それだけさ。大きな悲しみを突き止めて、解決して、なぁ、一度東京に来てみないか?」
「え?」
 意表を突いた言葉にレムリアは驚き、そして笑みを作った。
「ナンパ?デートしろ?」
「そういう言い方もあるな」
 張り詰めていた自分の肩の力を抜いてくれた。レムリアは理解した。
「それにはまず、この白亜万歳の連中が何をしていたか、何をしようとしていたのか、突き止めないとだね、学」
「名前で呼ぶか?ええよ。その方がしっくり来る位だ」
 イヤホンにピン。
『問題無ければ戻ってくれ。情報に基づいて総意を集めたい……凄いぞ』
「アイ」
 音楽を止め、2人は部屋を出た。

(つづく)

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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -124-

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 相原が淡々と作業をするのをぼーっと見る。ハサミのような工具(ニッパー)で樹脂成形のプラグを切り落とし、ケーブルを左右に割いて二股にし、刃の間にたくさんの穴が空いたペンチのオバケのようなキカイ(ワイヤストリッパ)で噛むと、被覆が剥がれて芯線である銅の撚り線が露出。一方でプラスチック製の〝プラグ部分だけ〟の部品を手に取ると、ドライバーでねじを回して中を開き、剥き出した芯線をひねって〝?〟型にする。コンセントに刺される電極(ブレード或いは差し込み極)に電線と接続するねじがあるので、そこに〝?〟を巻き付けて止めると、芯線の先端がバラけないようにであろう、糸状の金属線をあてがい、はんだごてを押し当てる。金属線こそがソルダー・はんだであり、加熱用のこてであると理解する。
「ちょっと臭うぞ。はんだの広がりを良くするフラックスという成分が蒸発する」
 煙が一筋立ってジュッと音を立てて金属線が溶け、銅の芯線をサーッと銀色に変えて行く。その臭い。
「松ヤニ?」
「よく知ってるな」
「軟膏や香油に入っている場合もあるから」
「なるほど」
 交換したプラグ部品を元通り組み立てて、コンセントに挿し、電源オン。
 トルコのポップス。
「わぁ、ありがとう」
「今後はこの白いところ(プラグ本体)を持って抜き差ししてくれ。これセゼン・アクス(Sezen Aksu:アーチスト名)か、ええもん聞いてるな。アジアテイスト好きかい?」
「こんな顔してるから……かどうか判らないけど、強さの中にちょっと寂しげな感じがあって。って、よく知ってるね。トルコの楽曲が日本で流行ってるわけじゃないでしょ」
「オーディオマニアだからさ。いい音いい声いい演奏、常に飢えてるから世界中探してるよ」
「何それ」
 レムリアは思わず笑った。すると。
「ようやく笑顔を見た」
 相原は小さく笑った。
「え?」
「あ、無理して笑えって言ってるんじゃないぜ。あんなもん、ショック受けて当然だろう。命の冒涜そのもので、君のしていること、したいことと真逆のベクトルだ。むしろ、こりゃ仕方ないで済ませてしまって、その後その先を気にした俺たちの方が残酷かも知れない」
 相原は少し慌てて言い訳する風に。確かにゲロ吐いた背景は彼の言うとおり。ただ自分自身引っかかっているのは。
「死ぬ……という現象に対しては、妙な話、慣れてしまっている部分はあるの。看護師資格を取ったボランティアは貧困、疫病、戦場、そんな所に行くから。対応しても既にとか、今まさにとか、こんな腕より小さな赤ちゃんがね。最初のうちは動揺して悔しくて……でも今は、端から見れば残酷な態度、文字通り魔女に見えるかもね。なのに、さっきのは……」

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】虫愛づる姫と姫君 -18-

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 と、意識に飛び込んでくるイメージ。子供達が集団で必死に走っている。何かから逃れようとして。
 林立している機器の一つが赤ランプを点滅させ、チャイムを鳴らした。
「Yes, this is Lemuria in the emergency room.」
 以下森宮のばらに通訳を要す内容については日本語で記す。
「子供達のパニックを感知した。救命ユニットは使っているか?」
 今日の乗組員はレムリアが突発で呼び出したこともあり、先のアリスタルコスと、操舵手でこの船の設計者であるドクター・シュレーター。野郎二人。船長権限がないと起動できないはずだが、まぁ、どうにかしたのだろう。
「彼女なら元気になりました。パニックの概況を教えてください」
 答えながら、ウェストポーチをゴソゴソし、ワイヤレスイヤホン近似の機械を耳に押し込む。この船の乗組員なら誰もが持つ通信セット、兼、一部船体の制御も可能。略称PSC。
「山道で多くの子どもたちが逃げ惑っているようだ。赤外線センサの反応だから詳細は不明。複数追われており相手は暴漢や熊のようなものでは無いようだ。日本、山梨県」
「日本?」
 2人は顔を見合わせた。
「センサの反応に現地画像を重ねて送ってもらえますか?」
 そして。
 レムリアはテレパシー能力をフル感度で働かせる。オーラライトが出て髪の毛が持ち上がるので、感づく人にはバレてしまうが仕方がない。
 画像は遠すぎてよく判らないが、激しく動き回る人と思しき点がいくつか、その点から激しい心拍を観測、というもの。
 そこからテレパシーが拾った意思は。
 -痛い。痛い!
 -そっち行ったぞ。
 -クソ!どれだけいるんだ!
 大人の女性、女の子、男の子。子供達は未就学から中学生程度まで年齢様々。頭を抱えて逃げ惑い、しゃがみ込み。
「ハチだ!」
 レムリアは声を上げた。
「現地に降下して下さい。どうやらハチの集団に襲われてる様子。行って対応する要あり。……のばらちゃん。子供達がハチに襲われてる。手伝ってもらえる?」
 森宮のばらに何の逡巡もなかった。
「もちろん」

6

 液晶画面には大声をあげて逃げ惑う子供達が映し出された。畑の多い集落の末端部で、ハイキングコースであろうか細い山道から降りてきた所、と見られる。路線バスの転回場らしく、少し広くコンクリートで舗装され、傍に待合所と思しき木製の小屋。
 その周りを子供達が悲鳴を上げながら右へ左へ。数名、大人の女性の姿が見え、頭を押さえ、追い払うように手を振り、その一方で子供達に逃げるよう促すような仕草。頭を抑えているのはそこを刺されたと見る。

(つづく)

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