小説・魔法少女レムリアシリーズ

【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -18-

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 ちなみにアメリカが管理している衛星なので、アメリカから国際電話で日本へ掛ける扱いとなる。国番号に続けて彼の携帯番号。宇宙へ飛び、アメリカへ届けられ、そこから太平洋海底ケーブル。40キロ向こうへ掛けるのに信号は万キロを馳せる。応じたタイムラグが会話に出る。
「どうした。急ぎか」
「うん。友達のおばあちゃんが行方不明になった。一方的に喋るね。昔の記憶をたどって福島三春へ向かおうとする場合、どの駅を通る可能性が高いか」
 果たして回答は、電波が行って戻るタイムラグと変わりなかった。
「上野へ行け。一方的に喋るぞ。今なら新幹線だが開通は1982年だ。そのおばあちゃんが人生のほとんどを昭和で過ごしたなら、上野から特急電車だ。いっぺん国立博物館に行ったな?あん時降りたのが上野駅だ。博物館側の出口と真逆の方向、13番から17番ホームが長距離列車のホームだった。新幹線の乗り換え口ができていると思うが、その脇に“みどりの窓口”がある。そこで三春までの切符を求めたお年寄りについて聞き込みをしてみろ。以上理解したか」
「上野駅の17番線にあるみどりの窓口で聞いてみる。理解した」
「それでいい。行け」
「ありがとう」
 電話を切る。膨大な“時間”の存在をそこに感じる。
 おばあさまの意識が、30年前の記憶で動いていたなら、自分のテレパスごときで判ると考える方がおこがましい。
「上野?」
 言葉尻だけ聞いていたであろう平沢は訝しげ。
「昔の記憶に基づくならば、新幹線が開通する前のルートじゃないのかと。だったら上野駅から特急電車じゃない?って」
 平沢は口元を小さく、アルファベットの“o”の字にした。気づき、だ。
「そうか、東北新幹線って平成のちょっと前だもんな。わかった行ってみよう。山手線乗るぜ。こっちだ」(作者註:「上野東京ライン」開業前である)
 東海道線のホームから降り、コンコースの人波を小走りでかき分け進み、山手線内回り、京浜東北線大宮方面が発着する3、4番線へ。
「最初からこのホームに来て……も電波届かないねこれ」
 上に件の中央線ホームの構造物が覆いかぶさっている。
 山手線電車は待つまでもない。乗り込んで動き出す。ただ、神田、秋葉原、御徒町、上野、と止まって行くその時間が、上野駅手前のカーブを進む緩い速度がもどかしい。
 上野駅。明治の開業当初より北へ向かうターミナル。
 ホームから階段でコンコースへ上がる。

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“博物館と逆”と相原学は言った。その方向へ“新幹線”の案内がある。
 問題はだ。
「どうなってんの?この駅」

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -17-

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「お年寄りを探しています。福島の方まで買ったと思うのですが……」
 加齢加工した写真を見せる。するとテレパス反応するより早く、お姉さんは困った顔になった。
「たくさんのお客様がいらっしゃるので、お写真と行き先だけでは……失礼ですが警察の方には?」
「届け出済みです」
 答えながら、“東京に行け”の示唆の答えを確信する。それは求めている解とは逆だが確実なもの。
 ここには来ていない。
「わたくし本日は2時間ほどここにおりますが、お見えになってないと思います。窓口の者にも訊いてみましょうか」
 それは列を成し切符を求めるこの人々を待たせ、切符を買わない尋ねごとを要求するもの。
 しかも、得られる解は判っている。
「あ、いえ、すみません。ありがとうございました……」
「お力になれずすいません……」
 先に頭を下げられる。いえ、いきなり無茶を言ったのはこちら。
 邪魔にならぬようとりあえず列を離れる。文字通り立ち往生である。東北へ、東海道新幹線で名古屋大阪へ。人の波は途切れず交錯し続ける。
 他の方法で向かった?
 だとしたらどうやって。鉄道に詳しい人……。
 相原学に訊く手があるではないか。ヲタクと会話できるレベルとは言っていた。
 衛星携帯を取り出す。ただ、屋内では電波が届かない。外へ出られるところは?
「空が見えるところへ出たい。一番近い出口は?」
 見回すと“八重洲中央口”。
「待って姫ちゃん」
 看板を見つけて走り出そうとしたら平沢に止められた。
「普通にホームに上がればいいと思う。中央線のホーム以外は全部屋根かぶってるわけじゃないから」
 新幹線最寄りのホームは10番線とか。一段高い新幹線改札前から階段使って降りて進む。オレンジ色の看板には東海道線……そう言えば大船(おおふな)まで乗ったし、それこそ相原学の勤務先は大船でモノレールに乗り換えと聞く。
 エスカレータももどかしいので階段を一段飛ばし。ホームに上がり、屋根の切れ目を見つけて衛星携帯のアンテナを延ばす。
 電波を捕まえた。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -16-

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 総合するに“突然、訳が分からなくなる”……譫妄(せんもう)と呼ばれる状態に入る可能性は感じないが。
 病気のほか、夢や薬の副作用、手術の麻酔でもなったりするとも聞く。
……否定しきれない。そしてその状態で元の住まいに向かったのだとすれば。
 電車は神田で北へ向かう新幹線を含む他の路線群と合流し、そこから自分たちの線路だけ高架線路からさらに一段高い高架へ駆けあがって終着、東京。
 電車が止まり、ドアが開くと、大都会の空気と騒音。
 ホームに降り立つ。で。
 思わず立ち止まる。感じないのだ。思いを何も。
 テレパシー感度が落ちてる?否否、傍ら平沢の不安と、次どうすれば、という困惑の念を強く感じる。あ、後ろに人が邪魔ですね。ホームの真ん中まで移動して人の流れを避ける。
 どうすればいい。とりあえず。
「新幹線の乗り場へ行ってみましょう」
 確証があるわけではない。というか、ここまで来て他に出来ることはない。
「おう……」
 平沢が応じる。とはいえ自分から足が出ない。掌握している駅ではないからだ。ホームの上の案内板は“新幹線↓”要するにこのホームからコンコースに降りろ。そりゃそうだ。
 情報が欲しいのはその先だ。
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https://www.jreast.co.jp/estation/stations/1039.html
「判る?」
「東北新幹線だろ。大丈夫だよ。行ったことあるから」
 平沢の後ろをついて行く。2段高架の上の階層から、途中に踊り場区間がある長く不思議なエスカレータで降りてコンコース。案内表示は20から23番線だとしてある。案内表示の「東北新幹線」を頼りにして歩く。東京駅を西端から東端まで横切る形。
 さて新幹線というのは特急列車であるから、乗車には乗車券と特急券を必要とし、両者揃って持っているかを確認する専用の改札がある。
 東京駅における東北新幹線のそうした改札は2か所。ともに“みどりの窓口”を傍らに備える。
 どちらも応じた行列。ロープでジグザグに仕切ってあり、人々がじっと待っている。彼女は長くアムステルダムで暮らしており、同様な高速列車“タリス(Thalys)”を知るが、チケットはネット予約の電子メールをプリントアウトすればよく、駅の改札もないので、この光景には違和感を覚える。割り込んで尋ねる?
 誰か係の……と見回したら、青い制服で首元にスカーフを巻いた、コンシェルジュのお姉さんがいたので、訊くだけ訊いてみることにする。
「すいません」
「はい」
 にっこり。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -15-

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 滑り込んできた白い列車の“自由席”を探して乗り込む(※)。ドアは車端のデッキ部にあって、客室とは自動ドアで仕切られている。ドアの向こうを覗くと満席。
 他、幾人かの乗車客とともにデッキ部に立つことにする。ドアが閉まり、キシキシした機械音とともに列車は駅を離れる。
 カーブで身をくねらせ、本線に合流し、特別急行東京行き、とアナウンス。※未指定券制度導入前
「俺、初めて乗るぜJRの特急」
「そうなの?」
・私鉄とJRが並走、新宿や東京に出るには運賃の安い私鉄を使うことが多い
・JRの特急は東京まで乗っても1時間未満であり、特急料金が惜しい
・ほとんどは新宿止まりなので、尚のこと「わざわざ乗る」意味も理由もない
・反対方向甲府方面へ出かける際はクルマなのでやはり乗らない
 ちなみに発車してすぐは特急らしい加速を見せたが、間もなく速度が頭打ちのようになり、持て余して流すような走り方になった。それは前方に「特急以外」の列車が多く、追い抜くチャンスがないので、後ろから着いて行くようなダイヤになっているからだが、さておく。
 東京まで一定の時間と空間が持てたことは確かなので情報を集める。依頼した画像認識は現時点検出なし。全部は膨大な時間がかかるので新幹線乗り場を優先してもらった。3時間分で検出されず。
「東京駅にはお見えになってないみたい……」
「え……」
・私鉄とJRが並走、新宿や東京に出るには運賃の安い私鉄を使うことが多い
「このルートの場合、JRを全く使わず東京駅へ出られる?」
「うん、新宿から地下鉄に乗ればいいから……そっちかなぁ」
「検索依頼すればいいよ」
 私鉄の社名、地下鉄の路線名を聞いて追加の調査を依頼する。
 ただ、そも、そのルートを取ったのだろうか?
 JR一本に比して複雑すぎるのではないのか?
 テレパス無感応の説明は成り立つが。
 ともあれ東京駅へ行った方が良いようである。北帰行の結節点と考えられるからだ。画像検索とテレパシー検索の並走だ。
 30分弱、ダラダラ走ってビルの谷間に入ると、ゴトゴト揺れながら線路が分岐し、新宿に着く。二人が一旦ホームに降りてスペースを空ける要があるほど大量の下車があり、客席に空きも出たので移ることにする。動き出して更にのろのろ運転だ。
 さてこの先の車窓には見覚えがある。沿線の大学病院でちょっとお世話になったことがある。小児病棟とか遊びに行った。せっかくこの地に定住したのだからまた行こうか。
 高速道路、高層ビル。意外な緑。
 四谷に止まって下車客少し。それで車内の客はまばら。神田川に沿って東京まであと一息。
「おばあさまをこちらに引き取った後の大まかな変化を知りたい。健康状態を知ってる範囲で教えてください」
・転居2日後に体調を崩した。高熱と腹痛
・回復後はおおむね元気
・血圧と膝の持病有。近所で通う病院を決め、特に膝はリハビリ兼ねて毎日通院
「こちらで新たなお知り合いとかは?デイサービスとか使ってる?」
「知らない、というか聞いてないな。ごめん、親にお任せにしてる……」
「いいよ。それだけ判ってるだけでも大したものだよ。ありがと」

つづく

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【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -14-

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 直接感じるものは無い。しかしただ、確信はある。
 東京へ行け。
 以上、平沢が見たのは、駅前をぐるぐる歩き、改札機を触り、そこで腕組みしながら目を閉じてゆっくりと首を西、北、東と動かす彼女。困ったような表情は常軌を逸していて理解しがたいから。
 斯くて彼女は目を見開き、光を蔵した瞳で彼を見た。
「東京駅へ行ってみましょう」
「え?……」
 平沢は眉根に困惑を載せて彼女を見返した。客観的に見て、ここに来たという証拠はないのだ。
 だがしかし。
「判ったよ。姫ちゃん信じるよ。姫ちゃんが嘘言ってるとは俺には思えない」
「ありがと……あ、電車来たんじゃない?」
 ゴーゴーという走行音を聞きながら、二人はICカードをかざして改札を抜け、階段を駆け上がる。
「そういやばあちゃん敬老パスで電車も乗ってるの思い出した」
 それは、平沢が自身を無理やり納得させているように、或いは後で言い訳できる材料を探しているようにも聞こえたが。
 その可能性はゼロではない。この“カードかざして改札チェック”は殆ど無意識に行えてしまう。
 オレンジのストライプを巻いた銀色の電車に乗り込む。平日10時過ぎであり、空席も目立つ。
「これ快速だから東京まで1時間だなぁ……立川(たちかわ)で青梅特快(おうめとっかい)でも接続してれば……」
 平沢がひとりごちる。東京の鉄道乗り継ぎにおいて、彼女は自分で考えたことはあまりない。相原学にくっついて歩いていれば最短・最速・最安価で目的地に連れて行ってもらえる。
 車掌のアナウンス。『まもなく立川です。特急列車通過待ち合わせをいたします。新宿・東京方面お急ぎの方は特急列車にお乗り換えください。特急列車のご利用には特急券が必要です……』
 東京へ急ぐなら。
「乗ろう」
 彼女は提案した。
「えっ?新宿東京までJRの特急なんか乗ったことねーよ。何百円か取られるんだぜ」
「お金の問題じゃないじゃん。使えってもらってるんだし、移動の時間は節約して、探す時間に使おうよ」
「……判った」
 快速電車は速度を緩め、ポイントを渡って待避線へ入り、ドアが開いて二人が下りると特急接近のアナウンス。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -13-

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 駅までの10分ほどが異様に長い。あと少し、のところで信号に捕まり、その向こう、高架線路を走り出す銀色の電車。
「ああ、特快(とっかい・特別快速のこと)行っちゃったねぇ。すいません」
 それは時間ロスを示す。しかし、運転手氏が謝ることではない。
「いえ、お気になさらず」
 青になり発進し、そのわずかな距離も可能な限り加速して、駅前広場、車寄せに止まる。
 平沢が財布をガサゴソしている間にクレジットカードでチェック。暗証番号でOK。
「はい確かに。ご無事を祈ります。何か急ぎのタクシー必要でしたらこちらお電話ください」
 運転手氏はプリントアウトされた領収書と名刺をくれた。
 彼女はそこで初めて運転手氏の顔を見返し、日焼け顔の中年男性と知る。
 頼んでおいて顔も見ないとか少し失礼だった。
「ありがとうございました。助かりました」
 笑顔で言ってドアを開けてもらう。
「えっと……お金は……」
 平沢がお札片手にキョトン。
「クレジットカードで切りました。お礼言って」
「お、おう。あ、ありがとうございました」
「いえいえ」
 降り立つ。走り出すタクシーを平沢が茫然と見送る。
「姫ちゃんすげえ……」
「現金は節約すべき。まずこの駅で係の人に訊いてみましょう」
「おう」
 我に返ったように平沢が歩き出す。駅は高架線だが建屋は地上だ。レンガの橋脚で支えられた線路のガードをくぐると、自動改札機が並ぶ様が見え、その左脇、対面販売用“みどりの窓口”の看板あり。
 近づいて中をのぞき込むと駅員が身体をひねった。
「はい、どちらまで」
「すいません、実は人を探しています。こういうおばあちゃんが福島までの切符を買いませんでしたか?」
 画像を見せる。すると窓口係員の若い男性は困ったように。
「さっき警察に聞かれた件かな?だったら、ないなぁ。済まんけど」
「そうですか……」
 食い下がっても仕方ないので一旦窓口を離れる。
 ここへ来ていない?
 ここを通ってない?
 間違っている?
 自動改札機に触れてみる。思いは残っていないか。
“ベクトル”を感じようとしてみる。それは予知予感を得ようとする行為に近いのかも知れぬ。方向性のある“希求”は無いか。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -12-

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「すげぇ。そっくりだ」
 野太い声がハーモニーで反応。満場一致というところか。
「これで駅員さんとか直接聞いて回ろうかと。郡山ではお父様、あと、このご近所も探してらっしゃるのでしょうか?それはそのままお続け下さい」
 彼女は2人を交互に見ながら言った。
「おじさん、俺が姫……相原さんに同行するから。やれるだけのことやろうぜ。親には駅まで歩いて探しに行ったとかテキトーぶっこいてよ」
 叔父殿は折れた。
「オーケー判った。ただ、時々連絡をよこせ……お嬢さんのそれは何か凄いが携帯なんだな。進は俺の番号知ってたな」
「ええそうです。状況変化あればご連絡します」
「じゃぁ、頼むわ。すまんが。あ、お金が要るな」
 叔父殿は胸の内ポケットに手を伸ばす。移動に要する費用であろう。彼女は断ろうとしたが、この状況で“赤の他人”に足代出させるというのは叔父殿も気が引けるか。
「三春まで行けるはずだ」
 叔父殿は財布から1万円札を数葉、わしづかみという感じで取り出し、平沢進に持たせた。
「……大金過ぎて怖え」
「しっかり財布に入れて持ってけ」
「おう。……姫、相原さんちょっと待ってて。財布取ってくる」
 家の前で叔父殿と分かれ、バス停に向かう。それは“軌跡”をたどっているという示唆は受ける。が、思考の足跡は感じない。客観的な結論は“何も考えず駅への道を行った”だが、そんなことあるのだろうか。やはり認知機能か。
 我がテレパシーかくも無力か
 バス停の時刻表を覗く。バスは20分間隔で次の便は15分後だが、持て余すので通りがかったタクシーに手を上げる。
「子供じゃ止まってくれ……たよ」
 二人、中学校の制服姿である。普通、そんな二人に止まってはくれないだろう。
 もちろん、彼女が特殊能力で小細工している。
 後席ドアが開いて乗り込み、駅まで依頼。
「お急ぎのようですね」
「ええ、親がちょっと……」
 大嘘、でもあるまい。
「承りました」
 少し荒い気もするが速度上げ目で走ってくれる。
 走りながら思考の残り香を探す。どんな思いでこの道を行かれたか。
 なのだが。
 引き続き何も感じない。この道や風景と紐づけされた“思い”は存在していない。
 それは、もっと集中する何かがあったのか。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -11-

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 人の心を追える能力が人の心をつかめない。能力不足か、テレパシーでそんなことするのはおこがましいのか。
 認知症については、一晩でなってしまったとかあるにはある。が、布団は綺麗に畳んであるなど、その可能性はあまり感じない。もっとも、あまり良い言葉ではないが“まだらボケ”と呼ばれる認知機能が短時間で正常と非正常を行き来する現象もある。
 そこでピロピロ言う電子音。着信待ちで窓際に放ってきた衛星電話。
「失礼」
 メールである。受信しに戻る。テキストを繰ると、所属団体が“画像を受領した、どこを検索すればいいか”。
 おばあさまが通りそうな場所。
「ここから三春に行こうとすると?東京駅までは?」
「中央線で東京へ出て、だな」
 最寄り駅の名前と東京を伝える。
「でも警察も同じところを探してて、何も連絡が来ないよ。兄貴がそろそろ郡山についたと思うが……電話してみるか」
 叔父殿がポケットを探りながら部屋を離れる。あー、もしもし……。
 彼女はラジオを手に取る。ご位牌と遺影はそのままということは、家出的なニュアンスは感じない。
 ラジオから感じ取ろうとする。蒸気機関車、咲き誇る大きな桜。
 俳句の同好会。その宴席。
 届いた誕生の知らせ。
 それが、最も、そして、繰り返しの“思い”であるなら。
「行ってみましょう」
「三春へか?」
「少なくともそこへ向かったのなら、途中途中で手がかりが掴めると思う」
「でも防犯カメラには……」
 ああしまった。テレパシーで探りながらなんて言えない。
「とりあえず、駅のカメラのハッキングしか頼んでないから。都度都度あのカメラは?とか要求しながら行こうかと」
 そこへ叔父殿の大きな声。
「来てないってよ!」
 しかし、ベクトルは三春を指向している。
 レムリアは戻ってきた叔父殿に相対した。
「わたし、東京駅へ向かおうかと思います」
「ええ!?いやそんなそこまで他人様に……」
 彼女はコンパクトカメラ裏側の液晶画面を叔父殿に見せた。
“加齢加工”してある。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -10-

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「何の音だ?」
 超感覚を持っておるわけだが、それとの相乗効果か視覚聴覚は鋭い方。
「あれですね。ラジオですか」
 彼女は茶箪笥の上に置かれた手のひらサイズのラジオを指さした。くすんだ銀色で所々へこみも見られる外観。色褪せたソニーのロゴ。
 何十年も前の製品とみられる。ボリュームと周波数チューニングがそれぞれダイヤル式で、周波数表示の上を矢印が動く構造。
 示唆。この機械は、重要。
「電源が入りっぱなしなのでは……」
 手にすると……それは、おじいさまのものと判ずる。チューニングダイヤルを少し動かすとクラシック音楽が流れた。
 後年、体調を崩して臥せっていたおじいさまは、ずっとこれを聞いてた。病状も手伝い、次第に視覚聴覚が失われて行く中で、手の感覚だけで操作することができ、いつもと同じ声を聞いていた。それで安心できた。
 そして、形見になった。
 愛するものを失った心の彷徨。
「これらの調度品は、福島から運び込まれたのですね」
 ぐるり見回す。照明はドーナツ型の蛍光灯でスイッチは引きひも。
「ええ、ここは元々僕が下宿させてもらってて、勤めるようになってから空き部屋で。親父が死んだあと、お袋に来てもらおうと部屋の中のものを持ち込みました」
 綺麗に畳まれた布団と、古いつくりの鏡台。おじいさまの写真とご位牌。
「おじいさまは……」
「だから死んじゃ……」
「違う、仏壇という意味かね?それはさすがに大きすぎるので位牌だけという次第……そのせいかね?」
 平沢進の発言を遮って叔父殿が尋ね、身を乗り出すように彼女を見て目を見開く。
 彼女は弱く首を左右に振る。なんだろう、ここにいて強く感じるのはひたすらな空虚だ。サイコメトリが作用しない。どんな思いでここにいたのか判るような、思考の痕跡を残していない。“心ここにあらず”……これほどのものとは。
「立ち入ったことをお伺いしますが」
「なんでしょう」
「おばあさまに関して、脳や心の状態について医師の診断を受けたことは?」
「要はボケとるか?ということだね。要支援の認定はされたが要介護ではないよ。MRIの診断も年齢相応だが認知機能に問題はない」
「ここ数日の状況は?食欲や、普段することをしなかったとか」
「どうかな。元々食が細いしなぁ。ケアマネさんから何か聞いてるか?」
 平沢進は首を左右に振った。
「いや、特に」
 そうですか……彼女は頷いた。現時点、彼女の判断は“テレパシーのルートは閉ざされた”である。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -08-

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「ちょ……」
 果たして平沢進は目で見てわかるほどに赤くなったのだが、既に告白はされているので驚くまでもなく。
 ちょっとだけ笑みを見せて、でもそこまで。
「不躾で申し訳ありません。ただ、お話を伺って黙っていられず、無理なお願いと思いつつもお邪魔させていただくことにいしました。いきなりで申し訳ありませんが、おばあさまのお写真をお借りできないでしょうか。私が所属するチームの監視カメラ照合システムに取り込ませたいのですが……」
 叔父殿は目を見開いた。
「そんなことできるんですか!?」
「ええ、007(ぜろぜろせぶん)の世界が今は現実です」
 彼女は1960年代から続く著名なスパイ・シリーズ映画の名前を挙げた。
 その方がこまごま説明するよりきっと理解が早い。
「おお、それはそれは。警察に渡しましたが……多分まだ残りがあるはず。こちらどうぞ」
 瓦葺の2階屋である。彼女の表現パターンにはない言葉だが、昭和の風情と書けば手っ取り早い。土壁に木枠の窓。
 玄関は開き戸。鍵を挿して何回か、くるくるとねじのように回す。
 カラカラ開くと玉砂利を固めた三和土。彼女はいつぞや訪れた愛知・常滑(とこなめ)の陶芸家工房を思い出した。
「失礼いたします」
 靴を脱いで、屋内へあがって、向きを変えて正座して、靴を外向きに揃える。
「お前にはない部分だな、進」
「うるせぇよ。えーっと、こっち。うわひでぇな」
 廊下を少し行って障子の部屋に招かれたが、そこは畳の上にいくつものアルバムが広げてある。警察への依頼にあたり、慌てて写真を探したのだと判る。
「ここから探しても……」
「ええ、ご自由に。お茶を入れますわ。進、急須の葉っぱを変えろ」
「判ったよ、親父って何か言ってた?」
 野太い声同士の会話と、やりつけない洗い場の物音。がちゃん、あぶねー。
 アルバム数冊をまずは見渡す。殆ど平沢進本人と家族写真であり、“おばあちゃんといっしょ”はあまり多くないと判ぜられる。
 2冊重なったその下、裏返しになった緑の表紙。
 文字が刺繍されている“すすむくんの生い立ち”
「姫ちゃんごめん、お湯を沸かしてるからちょっと待……」
 背後に来た彼が、彼女の手にしたアルバムを見て固まったことが判った。
「見られるの恥ずかしいなら……開かずにおきますよ」
 振り返らずに。幼い自分を人に見られるのが恥ずかしいとはよく聞く年頃。
「いや……そこにおばあちゃんの写真絶対あるから。ちょっと若いけど」
 刺繍の表紙をめくると、それはお腹の中の超音波エコーから始まる。祝福され、喜びとともに成長が記録され。
 おくるみの姿、ちいさなてのひら。
 家族写真。そこに「おばあちゃん」の姿があった。
 和服姿、白髪で結い上げてあり、優しそうな笑顔に眼鏡。若干の寂寥。

(つづく)

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