小説・魔法少女レムリアシリーズ

【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -12-

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「すげぇ。そっくりだ」
 野太い声がハーモニーで反応。満場一致というところか。
「これで駅員さんとか直接聞いて回ろうかと。郡山ではお父様、あと、このご近所も探してらっしゃるのでしょうか?それはそのままお続け下さい」
 彼女は2人を交互に見ながら言った。
「おじさん、俺が姫……相原さんに同行するから。やれるだけのことやろうぜ。親には駅まで歩いて探しに行ったとかテキトーぶっこいてよ」
 叔父殿は折れた。
「オーケー判った。ただ、時々連絡をよこせ……お嬢さんのそれは何か凄いが携帯なんだな。進は俺の番号知ってたな」
「ええそうです。状況変化あればご連絡します」
「じゃぁ、頼むわ。すまんが。あ、お金が要るな」
 叔父殿は胸の内ポケットに手を伸ばす。移動に要する費用であろう。彼女は断ろうとしたが、この状況で“赤の他人”に足代出させるというのは叔父殿も気が引けるか。
「三春まで行けるはずだ」
 叔父殿は財布から1万円札を数葉、わしづかみという感じで取り出し、平沢進に持たせた。
「……大金過ぎて怖え」
「しっかり財布に入れて持ってけ」
「おう。……姫、相原さんちょっと待ってて。財布取ってくる」
 家の前で叔父殿と分かれ、バス停に向かう。それは“軌跡”をたどっているという示唆は受ける。が、思考の足跡は感じない。客観的な結論は“何も考えず駅への道を行った”だが、そんなことあるのだろうか。やはり認知機能か。
 我がテレパシーかくも無力か
 バス停の時刻表を覗く。バスは20分間隔で次の便は15分後だが、持て余すので通りがかったタクシーに手を上げる。
「子供じゃ止まってくれ……たよ」
 二人、中学校の制服姿である。普通、そんな二人に止まってはくれないだろう。
 もちろん、彼女が特殊能力で小細工している。
 後席ドアが開いて乗り込み、駅まで依頼。
「お急ぎのようですね」
「ええ、親がちょっと……」
 大嘘、でもあるまい。
「承りました」
 少し荒い気もするが速度上げ目で走ってくれる。
 走りながら思考の残り香を探す。どんな思いでこの道を行かれたか。
 なのだが。
 引き続き何も感じない。この道や風景と紐づけされた“思い”は存在していない。
 それは、もっと集中する何かがあったのか。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -11-

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 人の心を追える能力が人の心をつかめない。能力不足か、テレパシーでそんなことするのはおこがましいのか。
 認知症については、一晩でなってしまったとかあるにはある。が、布団は綺麗に畳んであるなど、その可能性はあまり感じない。もっとも、あまり良い言葉ではないが“まだらボケ”と呼ばれる認知機能が短時間で正常と非正常を行き来する現象もある。
 そこでピロピロ言う電子音。着信待ちで窓際に放ってきた衛星電話。
「失礼」
 メールである。受信しに戻る。テキストを繰ると、所属団体が“画像を受領した、どこを検索すればいいか”。
 おばあさまが通りそうな場所。
「ここから三春に行こうとすると?東京駅までは?」
「中央線で東京へ出て、だな」
 最寄り駅の名前と東京を伝える。
「でも警察も同じところを探してて、何も連絡が来ないよ。兄貴がそろそろ郡山についたと思うが……電話してみるか」
 叔父殿がポケットを探りながら部屋を離れる。あー、もしもし……。
 彼女はラジオを手に取る。ご位牌と遺影はそのままということは、家出的なニュアンスは感じない。
 ラジオから感じ取ろうとする。蒸気機関車、咲き誇る大きな桜。
 俳句の同好会。その宴席。
 届いた誕生の知らせ。
 それが、最も、そして、繰り返しの“思い”であるなら。
「行ってみましょう」
「三春へか?」
「少なくともそこへ向かったのなら、途中途中で手がかりが掴めると思う」
「でも防犯カメラには……」
 ああしまった。テレパシーで探りながらなんて言えない。
「とりあえず、駅のカメラのハッキングしか頼んでないから。都度都度あのカメラは?とか要求しながら行こうかと」
 そこへ叔父殿の大きな声。
「来てないってよ!」
 しかし、ベクトルは三春を指向している。
 レムリアは戻ってきた叔父殿に相対した。
「わたし、東京駅へ向かおうかと思います」
「ええ!?いやそんなそこまで他人様に……」
 彼女はコンパクトカメラ裏側の液晶画面を叔父殿に見せた。
“加齢加工”してある。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -10-

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「何の音だ?」
 超感覚を持っておるわけだが、それとの相乗効果か視覚聴覚は鋭い方。
「あれですね。ラジオですか」
 彼女は茶箪笥の上に置かれた手のひらサイズのラジオを指さした。くすんだ銀色で所々へこみも見られる外観。色褪せたソニーのロゴ。
 何十年も前の製品とみられる。ボリュームと周波数チューニングがそれぞれダイヤル式で、周波数表示の上を矢印が動く構造。
 示唆。この機械は、重要。
「電源が入りっぱなしなのでは……」
 手にすると……それは、おじいさまのものと判ずる。チューニングダイヤルを少し動かすとクラシック音楽が流れた。
 後年、体調を崩して臥せっていたおじいさまは、ずっとこれを聞いてた。病状も手伝い、次第に視覚聴覚が失われて行く中で、手の感覚だけで操作することができ、いつもと同じ声を聞いていた。それで安心できた。
 そして、形見になった。
 愛するものを失った心の彷徨。
「これらの調度品は、福島から運び込まれたのですね」
 ぐるり見回す。照明はドーナツ型の蛍光灯でスイッチは引きひも。
「ええ、ここは元々僕が下宿させてもらってて、勤めるようになってから空き部屋で。親父が死んだあと、お袋に来てもらおうと部屋の中のものを持ち込みました」
 綺麗に畳まれた布団と、古いつくりの鏡台。おじいさまの写真とご位牌。
「おじいさまは……」
「だから死んじゃ……」
「違う、仏壇という意味かね?それはさすがに大きすぎるので位牌だけという次第……そのせいかね?」
 平沢進の発言を遮って叔父殿が尋ね、身を乗り出すように彼女を見て目を見開く。
 彼女は弱く首を左右に振る。なんだろう、ここにいて強く感じるのはひたすらな空虚だ。サイコメトリが作用しない。どんな思いでここにいたのか判るような、思考の痕跡を残していない。“心ここにあらず”……これほどのものとは。
「立ち入ったことをお伺いしますが」
「なんでしょう」
「おばあさまに関して、脳や心の状態について医師の診断を受けたことは?」
「要はボケとるか?ということだね。要支援の認定はされたが要介護ではないよ。MRIの診断も年齢相応だが認知機能に問題はない」
「ここ数日の状況は?食欲や、普段することをしなかったとか」
「どうかな。元々食が細いしなぁ。ケアマネさんから何か聞いてるか?」
 平沢進は首を左右に振った。
「いや、特に」
 そうですか……彼女は頷いた。現時点、彼女の判断は“テレパシーのルートは閉ざされた”である。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -08-

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「ちょ……」
 果たして平沢進は目で見てわかるほどに赤くなったのだが、既に告白はされているので驚くまでもなく。
 ちょっとだけ笑みを見せて、でもそこまで。
「不躾で申し訳ありません。ただ、お話を伺って黙っていられず、無理なお願いと思いつつもお邪魔させていただくことにいしました。いきなりで申し訳ありませんが、おばあさまのお写真をお借りできないでしょうか。私が所属するチームの監視カメラ照合システムに取り込ませたいのですが……」
 叔父殿は目を見開いた。
「そんなことできるんですか!?」
「ええ、007(ぜろぜろせぶん)の世界が今は現実です」
 彼女は1960年代から続く著名なスパイ・シリーズ映画の名前を挙げた。
 その方がこまごま説明するよりきっと理解が早い。
「おお、それはそれは。警察に渡しましたが……多分まだ残りがあるはず。こちらどうぞ」
 瓦葺の2階屋である。彼女の表現パターンにはない言葉だが、昭和の風情と書けば手っ取り早い。土壁に木枠の窓。
 玄関は開き戸。鍵を挿して何回か、くるくるとねじのように回す。
 カラカラ開くと玉砂利を固めた三和土。彼女はいつぞや訪れた愛知・常滑(とこなめ)の陶芸家工房を思い出した。
「失礼いたします」
 靴を脱いで、屋内へあがって、向きを変えて正座して、靴を外向きに揃える。
「お前にはない部分だな、進」
「うるせぇよ。えーっと、こっち。うわひでぇな」
 廊下を少し行って障子の部屋に招かれたが、そこは畳の上にいくつものアルバムが広げてある。警察への依頼にあたり、慌てて写真を探したのだと判る。
「ここから探しても……」
「ええ、ご自由に。お茶を入れますわ。進、急須の葉っぱを変えろ」
「判ったよ、親父って何か言ってた?」
 野太い声同士の会話と、やりつけない洗い場の物音。がちゃん、あぶねー。
 アルバム数冊をまずは見渡す。殆ど平沢進本人と家族写真であり、“おばあちゃんといっしょ”はあまり多くないと判ぜられる。
 2冊重なったその下、裏返しになった緑の表紙。
 文字が刺繍されている“すすむくんの生い立ち”
「姫ちゃんごめん、お湯を沸かしてるからちょっと待……」
 背後に来た彼が、彼女の手にしたアルバムを見て固まったことが判った。
「見られるの恥ずかしいなら……開かずにおきますよ」
 振り返らずに。幼い自分を人に見られるのが恥ずかしいとはよく聞く年頃。
「いや……そこにおばあちゃんの写真絶対あるから。ちょっと若いけど」
 刺繍の表紙をめくると、それはお腹の中の超音波エコーから始まる。祝福され、喜びとともに成長が記録され。
 おくるみの姿、ちいさなてのひら。
 家族写真。そこに「おばあちゃん」の姿があった。
 和服姿、白髪で結い上げてあり、優しそうな笑顔に眼鏡。若干の寂寥。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -07-

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 要は授業を抜け出して悪さを働く中学生徒を見つけて報告する監視員。その手の生徒がいないという学校はないであろう。
「別に気にせずそのまま」
「え?」
 驚く平沢を尻目に、彼女はそのまま速度を緩めずスタスタ歩いて行く。
 もちろん、巡回監視員は制服二人を見つけるや、真っ直ぐに進路を取って向かってきた。
 この時、彼女は小さく数語呟いたのであるが、平沢が彼女の声を聞き取ったかは定かではない。
「こんにちは」
「はいこんにちは」
 彼女は会釈し、果たして監視員は笑顔でそう返し、普通にすれ違った。
 平沢は呆然。
「あの……」
「気にせず。コソコソするから疑われる。大義と正義は我らにあり」
「そういうもん?」
「そういうもん」
 住宅街を横切り、西端に達する。視界が開け、正面から左側は下り急斜面に沿って墓地、右側はさらに見上げる角度で続く崖で、土留めのコンクリート擁壁が陽光を反射してギラギラしている。
 その擁壁と墓地との間、斜面下へ向かい設置された長い階段を降りて行く。
 彼女はこの地に住んで半年もないが、ここへ来たのは初めてだ。
「ここを通ってるわけ?」
「走って上り下りしてんだ。いいトレーニングになってる」
「それすごい高負荷じゃない?」
 彼女は答え、背後から声が掛かる、と察した。
 事前に判る。それは予感というか、その人が自分たちに意識を向けたからそうと判った。
 平沢の叔父に当たる人物。“捜索”に馳せ参じたのは説明するまでもない。
「進。学校じゃなかったのか」
 彼と共通する低く響く声。彼は立ち止まり振り返る。
「あ。学校に相談したら事情を判ってくれてさ……」
「そちらは?」
 レムリアのこと。
「クラスメートの……」
「相原姫子と申します。准看護師ではありますが資格を持つので、多少お手伝いできるかと」
 手を膝前にしてぺこり。
「おお、例のお前が大好きな女の子か!」

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -06-

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 彼の説明は要領を得なかったが、彼の思い描いた画像をつなぎ合わせるに、その昔、蒸気機関車が客車を牽引していた時代の名残で、旧国鉄時代から続く列車のことを“汽車”と呼ぶ年代であり、それに引きずられて彼も汽車と呼んでおり、列車そのものはJR八高線と同型のエンジン駆動の列車が走っていると理解した。まぁ鉄道の詳しいことはフィアンセに訊けば判ろう。
「おばあさまはこちらへ、東京へ遊びに来たことは何度もあるのね?」
「うん」
「じゃぁ、そのルートに沿って探してみましょうか。それとも既に」
「駅には警察から確認してもらってるはず。でも……」
 そういうレベルか。レムリアは少し落胆した。ハイテク日本じゃなかったのか?
 逆に言うとそれならそれで自分の方で別のアプローチがある。
「おばあさまの写真はお持ち?」
「家に行けば……」
「お借り出来ないかな。画像検索にかける。ビッグデータって奴」
「それって……」
 平沢は目を見開いた。前述の特殊な方法……空飛ぶ船で世界各地へ駆けつける。彼はその船を目撃したクラスの数少ない一人。その船の電子能力を使う。
「わかった。ありがとう。ちょっと親に電話してみる……あ、でも何て説明しよう」
「友達が協力してくれる、でいいと思うよ」
「わかった。……で、その、ありがとう」

「クラスメートの家族を探すので授業に参加しません」
 それは認めれば教員が組織に咎められ、逆であれば生徒達から人でなし扱いされる。
 なので彼女らは、相談室を使い終わったとだけ告げて、そのまま黙って学校を出て来た。
「オレはいいけど……姫ちゃんは……」
「いいの。呼び出されるのはウチの親だし」
 以下、“レムリア案件”ということで彼女の名をレムリアと書く。
 中学校は丘の上、公園の向かい側にある。校舎を出て左へ折れ、その公園を右手に見ながら坂を下りる。
 住宅地が広がる。丘から続く高台を崩してひな壇状に開発したもの。彼女の家はその中程にあり、彼の家は横切って宅地の西端、さらに、
「お寺と墓地あるじゃん、その向こう」
 彼女は頷いた。自分の家の前を通り過ぎる。不思議な感覚。
 家の前の通りの向こう、ひな壇の奥へ続く“メインストリート”とのT字の交差点におばさんの二人組。
 二人とも左腕にグリーンの腕章を付けている。
 平沢が舌打ち。
「巡回だよ。どうする?」

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -05-

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「うん……あ、でも」
「でも?」
「今年は花見に行けないかもねって」
 三春、その地名は梅、桃、桜の春の花たちが揃って咲くからという。滝桜(たきざくら)と呼ばれる咲き誇る枝下桜で知られる。
「そのせいなのか?」
「待って。……認知症だったらと仮定してお話しします。新しい記憶から失われて行きます。すると原風景が残る。その状態でふと周りを見ると知らない風景。ここどこ、帰らなきゃ。で、外へ出て“原風景”へ向かいます。ただ、多くの場合闇雲に歩くだけで、今住んでいた場所へも戻れなくなる。いわゆる徘徊の一形態がこんな感じです」
 レムリアは喋りながら、自分のテレパシーを何らか使えないかと考えている。ただそれには結局おばあさまと出会って意思の疎通をしないとならない。平沢の記憶の中のおばあさまから……は無理。容姿は掬い上げたが。前掛けをした和服姿。
 ……サイコメトリを使うか。ただそれにしても“思い”の残った要素が必要。普段身につけている物、大切にしている物。警察犬に匂いを追わせる動作に近い。
「原風景って……三春へ行ったってこと?」
「行くつもりでお出かけになった、とは言えると思う。ただ、例えば駅にたどり着き、正しい行き先の電車に乗れたかどうか。そもそもそのつもりで出たけど、程なくして目的を忘れてしまったり」
「目的を失う?」
「思いついて行動に移してもそれを忘れてしまうんです。私たちだってたまにあるでしょ?何か目的があって机の前まで来て、あれ?何するんだっけ、ってな奴。それが出発してから起こるんだ。どこへ行くんだっけ。どこへ戻るんだっけ。そもそも何やってるんだろ。こうなってしまう」
 なので、例えば三春へ先回りしても、そこで出会えるか判らない。
「どうしよう……」
 平沢は力なくうつむき、ソファに崩れるように腰を下ろした。スポーツマンであり、日頃おちゃらけてクラスを笑わせる……うなだれたその姿は枯れてしぼんだ花のよう。
 彼が、“子供は引っ込んで学校行け”“探しておくから”系のことを言われたのは容易に想像つく。そして実際、“八方手を尽くす”必要があり、組織的な連携が不可欠。
 かと言って落ち着いて学校に行けるわけもなく。
「三春には普段どんなルートで?」
「新幹線で郡山(こおりやま)から汽車」
「キシャ?蒸気機関車なの?」
 それは日本に居を移して数ヶ月という彼女ならではの質問。
「ああ、違う違う。それは昔の話で、今はそこの八高線(はちこうせん)と同じエンジンで動く奴」

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -04-

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 廊下を行く足音が遠ざかる。
「あの、えと、ごめん」
 平沢はまず言った。
 彼女はソファに腰を下ろした。
「いいよ。それで……相原姫子として、それとも、レムリアとして?」
 レムリア、というのは彼女の国際的通り名である。特殊な方法で人命救助を行う。秘密を共有できると信じた友にだけ教えている名前。ちなみに、彼にはその“特殊な方法”を見られたこともあり、開示してある。
 つまり、級友としてではなく、そういう、特殊スキルを要する相談ですか?
「うちのばあちゃんがいなくなったんだ」
 福島県三春(みはる)にて夫君と死別し、おひとりでお住まいであったが、原発事故を機にこちら東京で彼のご家族と同居を始めた……と彼は説明した。
 お年寄りの行方不明というと、いわゆる“徘徊”が思い浮かぶが。
「近所探しても見つからなくて……それで、なんか知らないけど、姫ちゃんなら、れ、レムリアなら道が開けるかもとか……ごめん、図々しいよね。やっぱり」
「いいえ」
 狼狽を見せる平沢に彼女……以下、意を汲んでレムリアと書く……はゆっくり応じた。
 これでも看護師でテレパス。可能な範囲で。
「順番に状況訊かせてね。おばあさまは、認知症はあった?」
 徘徊と言えば背景にこれがあることが多いが。
「いや……こっち来てすぐ、物忘れが多いとか、ぼーっとしてるとか多くなって、介護保険の認定とかやってみたけど、そういう判断は出なかった」
「直近で脳梗塞とか起こしたことは」
「ううん。膝が悪くて病院行ってるけど。あとは血圧の薬飲んでるくらい……え、膝かな。途中で歩けなくなったとか」
 それはない。という直感、それこそ超感覚的回答。
「ないと思う。この近所で動けなくなって他の人の目に触れないことはないでしょう。昨日、一昨日でいつもと違うところは?」
 平沢はうーんと考え込んで。
「オレ、部活と塾で帰ると8時なんだ。その間にばあちゃん風呂に入ってて、オレが風呂入ってる間に寝ちゃう。だから、ここ2~3日は話してないや……え、それがまずかったのか!?」
 立ち上がる勢い。
「違う違う。落ち着いて。認知症って怖くて、倒れて一晩入院したら別人になってましたとかあるわけ。ケガや病気で何か回復不可能な不具合を持ってしまったり、絶望した瞬間にガラス割れるみたいに人格が壊れちゃう。そういう一般論に基づき訊きました。進(すすむ)君が把握している範囲では変化はなかった訳ね。ご家族からそういう話も出なかった」
 平沢は頷いた。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -03-

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「姫ちゃんだってお」(だってよ、のネットスラング。2010年代)
「え?お前らデキてんの?」
「事件事件」
「何かあった?」
 冷やかす声を無視して彼女が問うたら雰囲気が一気に変わった。
 真剣かつ急を要する事態という理解が広がる。
「いや、あの、ごめん……」
 彼は動作を切ってきびすを返そうとしたが、
「いいから!。たった今お休みと聞きました。なのに飛び込んできて私に直。私が必要なら動きますよ。何があったの?」
 訊きながら……彼の思惟を探るが、驚いたことにテレパシーが入り込めない。恐ろしく強く固い壁があるのだ。
 まるで心を閉ざしているかのように。
 葛藤は受け取る。一か八かの結果が自分なのだが、そんなことをしてはいけないという強い諫め。
 極めてプライベートな内容なことだけは確か。能力上げれば切り込めるがやりたくない。
「生徒相談室を開けましょうか?」
 奈良井が提案してくれた。
「え、でも……」
 衆目に困惑する平沢。言葉なき「ごめん」のように彼女を見つめる。
 彼女は笑みで返して。
「呼び出して何を今更。遠慮しないで。全世界に様々なツテがあるから、スキルとエビデンスは集まるよ。行きましょう。先生お願いします」

 職員室の二つ隣。
 鍵束から担任奈良井がようやく見つけ出して引き戸を開けると、ホコリすら動いていない印象。
 あまり使われていない。
 いいか悪いかはさておき。事実として。
「どうぞ。オバケ出たりしないから」
 促されて二人はソファセットへ足を進める。ソファは横長の応接卓を挟み、向かい合わせに4脚。
「私、いた方がいいですか?いない方がいい?相原さんは事情を知ってるみたいだけど」
 いいえ全然知りません……ただ、応じた開示はしてくれると思う。
「平沢君次第だけど」
 彼女は水を向けた。
 彼は一瞬、逡巡し、
「いえ、自分で話します」
 しかし強くそう言った。
「そう。じゃぁ終わったら声かけて」
 担任奈良井は言い、ドアを閉めて歩き去った。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -02-

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「姫ちゃん」
 呼ばれて、彼女は“目覚める”。音楽聴いたり瞑想したりするのは、ストレス源シャットアウトの次善手段だが、通り過ぎてうたた寝していたらしい。
「仏様みたいだったわよ」
 教壇からキュロットスカートの担任奈良井(ならい)が笑みを含んで言い、クスクス笑いがクラスに広がる。どうやら座ったまま微動だにせず目は半眼……菩薩様の半跏思惟像っぽく見えたと。
「おん・まいたれいや・そわか・きょうの・きゅうしょく・なにか」
 言われたからにはボケ倒す。指を“OK”の形に作り、呪文っぽいのは弥勒菩薩の真言(しんごん)もじり。「56億7千万年後に再臨する救世主マイトレーヤ」は彼女が住んでいたキリスト教圏でもそれなりに有名である。なお、彼女自身の外見容姿は日本の街中歩いていて海外の出自と判らず、幼さの残る“ころん”とした顔立ちと、真っ直ぐな目線の持ち主であり、原宿歩いていてスカウトされたこともある。
「カレーだよ」
「やったぜ」
 目を見開き、両の手を身体の前で合わせてパチンと鳴らす。
 クスクスを通り越してぷっと吹き出す声。
 担任は咳払いして場を改め。
「では学活始めます。連絡事項。昨日の水道水の放射線数値は……」
 そこで彼女は“いつも自分を見つめ続ける思惟”の不在に気づく。
 右斜め後ろ、廊下より。
 見なくても判る。空席だ。
「……えっと、あとそう、平沢君ですけど」
 担任の言及に目を向けると、クラスメートの目も揃ってその空席に向けられ、少しざわつく。野球部で活躍し応じた体躯のスポーツマン。体調不良とは縁遠いタイプだが。
「家庭の事情で今日は欠席と……」
 ガラリ、と、やや性急さを伴って教室の前側引き戸が開けられたのはその時。
 肩で息する大柄で坊主頭。件の平沢である。この中学校の制服はブレザーであるが、ボタンが一つ留まっていないなど、慌てて引っかけてきた風情。
 真剣なまなざし、焦燥を感じる表情、自席に近い後ろドアではなく、前から入ってきた理由。
「姫ちゃん」
 体格なりの野太い声で呼ばれると同時に彼女は自分を指さし立ち上がった。彼が普段、自分に思惟を送る背景は好意に他ならない。公開告白に公開お断り済み。自分には婿の候補者が内定済みでダメだよとは言ってあり、理解は示したが、自分と普通に接してくれる希少な女子が学校一の美少女では、どうにも止まらないらしい。
 そうした経緯でフランクに姫ちゃんと呼んでもいいよとは言い、さりとて彼は恥ずかしがってクラスにあるときは「相原さん」とさん付けを通していた。
 それがいきなり姫ちゃんと来た。自分に強い意志持て伝達したい何かがある。

(つづく)

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