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小説・魔法少女レムリアシリーズ

【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -24・終-

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「高校野球でスター選手と持て囃されても、いざプロに入ったらボコられて記憶にも残らず引退する……ということは、時々、あります。そういう、ことですよね」
「その通り。だから多分、なんだけれども、皆さんは、それぞれに、自分の足で、自分の考えで、今、確実に一歩進んだ、そう思うんです」
 副住職の言葉に、坂本美咲は手の中のルーンを広げて見つめ、そして。
「姫ちゃ……相原さん」
「はい」
 答えた彼女の前に差し出す。
「返す。判ったんだ私。あなたに追い抜かれたような気がして嫉妬しただけ」
 それは、その場の聴衆には、転入生が溶け込めない自分を追い抜いていった、と受け取られよう。比してレムリアに対する意味は違う。
“2人の仲を引き裂こうと思った”
 レムリアはルーンを受け取り、いったん握り、
「お持ちなさいな」
 手のひらを開いて返す。それは文字はそのまま、ペンダントとして首から下げられる紐がついている。
「おお、鮮やかだ」
 これは副住職。
「この文字、エルハツの意味を知る限り列挙してみて」
「守護、防御、友情……」
 坂本美咲はハッと見開いてレムリアを見た。
「あなたは私たちの友達です。その石はあなたの願いを叶えました。違いますか?」
 坂本美咲の瞳が黒曜石を見たように見開かれ、揺らぎ、涙が浮かび、極寒に放り出されたの如くブルブル震え出す。
「坂本さんどうした?大丈夫か?」
 平沢が立ち上がろうとする。
「違う……」
 坂本美咲はそれだけまず言った。
「すごすぎて震えてるの……すごすぎて……私このルーンお守りにもらったの。護符の意味もあるからって……。でね、さっきのエイヴァーツ。あれは死後の再生とか、再生とか、要はリスタートの意味がある……合わせると友達としてリスタート……」
 坂本美咲はエルハツのルーンを首から下げた。
「ありがとう。離さない。これ、もうずっと離さない」
 坂本美咲は胸元の輝く光を、自分自身ごと、両腕で抱きしめた。

魔法の恋は恋じゃない/終

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【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -23-

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「私、人見知りというか、人と話してて否定されるの怖くて、ずっと、誰かと話そうって状態になるの避けてた。でも……姫ちゃんがクラスに来て、一気にみんなに溶け込んで、私でも話せるかなって思った。何でか知らないけど、姫ちゃんなら話聞いてくれるって思った。そしたら、こんな素敵なイベント設定して仲間に入れてくれた。話せるどころか男の子と普通に話できた。そしたら、今までの自分が、みじめ、って言ったら自分に可愛そうかな、でも、そのときの自分と違う見方や考え方をしてる自分がいるんだ。……って、何言ってるか判んないね。ごめんね」
「イヤ判るよ」
 間、髪を入れずそう言ったのは他ならぬ平沢。
 ハッと目を見開いて彼を見上げる坂本美咲。
「自分を思い知らされるんだ。姫ちゃ、失礼、相原さんと話してると。経験値の差かな。足らなさ、甘さ、気づかされる。その瞬間、違ってるんだ。今までの自分と。魔法だよ。それこそ」
 そのフレーズに、坂本美咲はものすごい勢いでレムリアを見た。
 その目は問う“あなたは一体”。
「本当に魔女だったら仏罰が当たるかと」
 レムリアは自分を指さして冷静にそう応じた。
 と、そこで、副住職が、はっはっは、と、ゆっくり笑った。
「本当に魔女だとしても、仏様は全て判っていらっしゃることでしょう。さておき、今、わたくしは、素敵な瞬間に立ち会わせていただいたかな、と言えると思います。多分、皆さんは、小学生になったときに幼稚園の自分を振り返って、中学生の制服を着て小学生の自分を振り返って、なんて幼かったんだろう、と思った瞬間があると思います。一方で、自分は今はまだ子供の範疇で、大人と比べると大きな差がある、とも感じていると思います。では今後、高校生になって、大学生になって、就職して、振り返ったら気づく、のでしょうか。逆に言うと、就職すれば、成人式を迎えたら、大人になるのでしょうか。違いますね。わたくしが皆さんの言葉を聞いて思ったのは、なすべきことのために動き出す、その瞬間を皆さんお一人お一人が迎えてらっしゃると言うことです。自分はどうしたいのか、そのためにどう動けばいいのか。魔法、という言葉がありましたが、それらは、自分で見つけるもので、自分で獲得して行く生きるための力です。なにがしかの儀式をして与えられたところで、考えて工夫して、修練を積んだ実力とはやはり差があると思います。進君は野球をしているからよく分かると思うが」
 水を向けられた平沢を坂本美咲がじっと見つめる。
 その目線にレムリアは気づく。この娘が“恋”と思っていた“思い”の正体と、今、掴みかけようとしていること。
「僕が言うのはおこがましいんですけど」
 平沢は神妙な面持ちで前置きして。

(次回・最終回)

【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -22-

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「え?オレ」
 彼は手を伸ばし、指揮棒の先端を握り、
 開いた。
 傾いた“N”のような、“Z”の裏返しのような、それ。
「姫ちゃん……」
 坂本美咲は悲壮な目でレムリアを見た。
「え?何?これ悲惨なの?」
 平沢が戸惑った顔で少女2人を交互に見る。
 レムリアは息を吸った。示唆“言ってよい”。
「エイヴァーツ。死神」(Eihwaz)
「ええ?何それ……」
 平沢はタコのように口をとがらせて眉毛をへの字にした。
 まぁ、あまり気分のよいものではないだろう。
 もちろん、この回答の相手先は坂本美咲である。彼女の問いに対するルーンの答え。
「これは魔王を演じた平沢君への忖度じゃない?もう一度やってみて?」
 方便。彼に再度握らせる。これはコントロールできる。
“X”が縦に2つ並んだような。
 諏訪君が笑った。
「え?え?」
 平沢はキョロキョロ。レムリアは少し笑って。
「これは乙女が口に出すのは恥ずかしいかな。イングツ。性欲をかき立てる、みたいな意味」(Inguz)
「マジで?」
「マジで。実はスケベ?」
 魔女のいたずらな微笑みで訊いてみる。
「えー、まー、男子として恥ずかしくないレベルには」
「これこれ真面目に答えなくてよろしい。まぁ、占いでこれが出たら、性欲の向こう、豊穣とか生誕みたいなポジティブな意味を答えてあげるのがセオリーかな。で、ペンダントにして身につけておくとセクシャルダイナマイツなお守りになりますと。欲しいならあげるよ?」
 すると、ここで吹っ切れたように笑い出したのが坂本美咲。
「あははははは」
「えー?なんかひでえな坂本さん」
 平沢はまたぞろタコ口になってもう一度指揮棒を握った。
 が、イングツのまま変わらない。何度握ってもイングツ。なお、この文字は上下同一である事も手伝い、逆位置・リバースはない。
「違う違う。ごめん……」
 坂本美咲は考え込むように、少しの間、黙り、
 意を決したように口を開く。

(つづく)

【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -21-

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 坂本美咲は指揮棒をギュッと握った。
「あ、いや、イヤならいいんだが?」
「いえ、違います。この水晶には古代文字が浮かぶんです。その意味を考えてました」
 坂本美咲は字面を副住職に見せた。
「ルーン文字かね」
 副住職の知見に女の子2人は少なからず驚いた。ルーンを魔法、占いのアイテムと置いた場合、仏教と最も遠い位置にある存在だろう。
「ルーン?ゲームに出てくる?」
 これは諏訪君。北欧神話の神々やルーン文字はそういう系のゲームで多出。
 キョトンとしている平沢。
「バイキング時代の古代文字だよ。キリスト教がふつーのアルファベット持ってきて廃れた。文字個々に意味が持たせてあるので、占いや魔法のキーワード、発動アイテムに多く使われる」
 レムリアは軽く説明した。
 すると坂本美咲の手が動いた。
 ポケットの中から取り出すエルハツ。
「同じものだね」
 副住職は言った。
 坂本美咲は、指揮棒を副住職に差し出した。
「た、試してみてください」
 ちょっと震える声。
「そうかね。では」
 副住職は、握って、離した。
 Fに似た、それ。
「アンスルじゃん!すげぇ。オーディンの象徴だぜ」
 興奮気味の諏訪君。なお、意味は高い知性など。スペルANSUR。
「北欧神話のオーディンかね?いやぁこれは忖度だなぁ」
 副住職は後頭部をポリポリ掻いた。
 そこで坂本美咲が気づいたように彼に……平沢に目を向ける。
「やってみて」
 レムリアは気づいた。彼女はルーンに尋ねている。
 啓示のように浮かんだ想いは“自分は口出ししてはならない”。
 坂本美咲の目は射るように真剣である。瞳自体が光を発しているかのよう。
 だが、彼は気付かない。

(つづく)

【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -20-

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 お開きになった後、そのまま本堂で演者三人はジャージ姿で、私服の諏訪君と、車座になってお茶菓子をいただいた。
「鮮やかだねぇ。びっくりしたよ。どちらかが本物の魔女なら坊主代表で聞きたいことがたくさんある位だ」
 副住職は瞳を輝かせて笑った。
「僕が本物の魔法使いである可能性は?」
 平沢がボケる。
「ないから」
 諏訪君が即遮断。
「ちぇ。ちなみにこの相原さんの道具です。手品ってタネをごまかすのが難しいのに、誰が使ってもうまくできる。オランダ、だっけ」
「ええ、そうです」
 彼女は答えた。そういうことにしときましょう。
 ウソは付きたくない。
「ちなみに美咲ちゃんはどうでしたか?せっかく”魔女に昇格“したんだし、また一緒にいかが?」
 坂本美咲に水を向ける。
「え?……あ、うん。最初、次どうしようと思ったけど、姫ちゃんの道具に救われた。次、か……」
「魔法の指揮棒の方がいい?」
 手のひらからにゅっと出現させて彼女に渡す。先っぽに星の飾り物。
「おお、それも手品か。すごいな。そういえば帽子や服は?」
「片付けました」
 レムリアは副住職に答えた。
「あんな大きなものを?」
「そこは企業秘密とさせてください」
 話す二人の傍らで坂本美咲は指揮棒をじっと見つめる。先端の星を握り、離し。
 星が透明な石に変わった。
 坂本美咲はハッとした表情でレムリアを見上げた。
 現れたそれはルーンの水晶である。アルファベットのn、あるいはギリシャ文字ηに似た文様。
 その変化に副住職も気づく。
「ほう、星から変わった。すごいね。私がやってもなるのかね」
 坂本美咲はニコニコ顔の副住職に顔を向けた。
 nに似たその文字は“ウルツ(Uruz)”である。意味は複数で挑戦、始まり、審判、等。

(つづく)

【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -19-

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 レムリアは言って、冒頭脱ぎ捨てたジャージをステッキで指し示した。
 ジャージの中でもこもこと動くものあり。
「あら、僕のリスちゃん」
 平沢魔王はキスでもするかのように唇をとがらせ、内股で駆け寄り、「うふん」と発してジャージを取り上げた。
 リスがピーナッツをカリカリ。
 応じたどよめき。
「お待たせリスちゃん」
 平沢魔王がおちょぼ口でそう言ってまぶたをパチパチさせたら、リスは逃げるように走り出してレムリアのステッキから肩へ駆け上った。
 くすくす笑い。
「ひっどーい」
 魔王はおちょぼ口で不平を言い、再度まぶたパチパチ。
「ウッフンは満腹だから。やい魔王。これでマジックは終わりだ。採点しやがれ」
「やい魔王とは何事だ。待ちたまえ」
 平沢はジャージを着込み、胸を張る。
「サキくん」
「はい」
 サキは魔王の前にかしこまり、持っていたステッキを彼に渡した。
 魔王はステッキを右手に。
「合格だ」
 言って、ステッキで床をドン。
「やった!」
 サキが喜んでジャンプした次の瞬間。
 サキもレムリアもジャージ姿に変わる。
「ちょ!だっさ!魔女だっさ」
「なんで私までジャージにされるんですか魔王」
 会場爆笑。頃合いである。3人は横一列に並んだ。
「以上。見習い魔女のマジック試験、でした」
 お辞儀すると拍手をもらう。リスはレムリアの頭の上に移動し。
 ステッキは平沢の手の中で帽子に変化し、その帽子をレムリアにかぶせると、リスの姿は見えなくなった。

(つづく)

【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -18-

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「なんだゴミじゃん」
「いらねーよそんなもん」
 が、お年寄りの一人が、舞い降りてきた金色の紙片を手にしたところ。
 ラメ入りでそれこそ男の子たちがリクエストした炎のドラゴンがデザインされたカードに変わる。テーブル対戦ゲーム用カードである。携帯端末で印刷されたバーコードを読ませると画面の中で対戦できる。
「うそマジか!」
「オレも欲しい」
 出来事を掌握した男の子たちが立ち上がり走り出し一気に争奪戦になる。男の子たちの手にした紙くずはそれぞれがそれぞれ欲しいと思っていたモンスターのカードに変わった。
「レベル50とか最強じゃん!」
「やべー。何これマジ鳥肌」
 ただ、そのゲームに興味のない子も存在する。騒ぎの間にレムリアはサキにこっそり耳打ちし、サキは帽子を裏返しにしてそうした子供たちとお年寄りに配って歩いた。
 髪の毛のアクセサリーとか、ミニカーとか、お年寄りにはお菓子の小袋。
「なぁ、これ本当にもらっていいのか?」
 男の子の手が震え、のぞき込む周囲の子供達が目を見開く。威勢良く炎を吐く黒いドラゴン。
 レムリアは大きく頷いた。
「もちろん。あげておいて返せとか手品じゃないでしょう。さて、みんな席に戻ってください。見習いサキの最後の大手品です。この帽子はみんなにいっぱいあげたのでもう空っぽです」
 サキは帽子の中を聴衆に見せた。男の子達は席に戻らず、立ってそのまま帽子を見ている。
「でも……おかしいですね。このモンスターのぬいぐるみ、最初は何でしたっけ」
 女の子の一人が目を見開く。
「リス……あのリス本物だよね!?どこ?」
「ですよね。でも、私には判っています。こいつ……ちゃうちゃう魔王です」
 平沢を指さす。
「そう私がちゃうちゃう魔王です。ってそれじゃイヌじゃん。リスだろ」
「野球部のリスがおるかい」
 このツッコミは諏訪君。
「え?その人リスなの!?」
「そう私はリスだ。かわいいだろ」
 鼻の穴を広げて喉仏をぐびぐび。
「どこがじゃヒラ」
「おっと設定間違えた魔王だった」
「じゃぁジャージ……じゃない、魔王の制服を着て魔王に戻ってください」

(つづく)

【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -17-

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 リスからトカゲのモンスター。
 子供たちはざわついた。そして、そのモンスターがゲームのそれであると気づくや、成長した姿である火を吐くドラゴンに変えろとリクエスト。
「やってみたまえ」
「偉そうだぞヒラ」
 これは諏訪君。
「言葉を慎みたまえ、君は魔王の前にいるのだ」
「うるせーヒラ」
「そうだぞ黙れヒラ」
 このあたり子供たちが乗っかってくる。
「では、この子をドラゴンに……」
 帽子をかぶって、脱ぐ。
 間の抜けた顔をしたカバがモチーフのモンスター。
「ぎゃはははは!」
「だめじゃん」
「おかしいなぁ」
 もう一度、かぶって、脱ぐ。
 ドラゴンだが別のタイプで子供型。
「違いまーす。そのドラゴンじゃありませーん」
 もう一度。
 キツネと子犬のいいとこ取りをしたようなモフモフのモンスター。
「あ!」
 かわいい、という声が女の子から上がる。
「いいなー。欲しいなぁ」
 幼い声。サキはレムリアをちらと見た。レムリアは頷いて返す。
「どうぞ」
 サキは頭の上のモフモフモンスターを手にして女の子に手招きした。
「え?いいなー」
「あたしも欲しい」
 数名。サキは帽子から次々取り出して女の子たちに渡した。
「ずりー(狡い)。俺たちにもなんかくれ」
 男の子達の不満は当然。
「判りました何かあげましょう」
 サキは帽子からステッキを取り出し、宙へ向かって振り出した。
 舞い散る紙吹雪、まるで音のしないクラッカーを破裂させたよう。
 男の子達の目は一瞬輝いたが。

(つづく)

【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -16-

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 観客が一斉に振り返る。
 女の子二人。レムリアと坂本美咲。
 マジシャンがよく身につけるスーツとシルクハット。レムリアのそれは白、坂本美咲は黒。
「あー、君か、認定試験の受験者は。入りたまえ」
 ふんぞり返って偉そうにして腕を伸ばし、オイデオイデ。
「もう入っています」
「細かいこと気にするな。こっちへ来たまえ。ちゃんと皆様にご挨拶しながら、な」
 平沢は観客席に両腕を広げるようにして指示した。それはショーの始まりの合図である。
 本番。
「……は、はい」
 坂本美咲は緊張気味。
「はいはい、帽子を手に持って。早くしないとあふれちゃうよ」
 見世物その1シルクハットの中からお菓子を出して配る、なのだが。
 坂本美咲の頭の上でハットが左右に動く。まるで中に何かいるよう。
 坂本美咲が慌ててハットを手にして裏返すと、中からリスがひょっこり。
 どんぐりを前足で持って食べている。
 坂本美咲は呆然としている。いきなりシナリオから外れているのだ。
 一方、リスの存在に気づいた女の子を中心に、どよめきと「かわいい」の声。応じてお年寄りの方々の口元も緩む。
 心つかめばそこまで。これで坂本美咲が困ってしまうというのは本意ではない。
「サキ、それは私のドジ帽子では?交換しましょ?」
 どうしていいのかと固まってしまった坂本美咲……“サキ”にレムリアは助け船。
「え?あ、そうかも。はい」
 白で統一しているレムリアと、黒で統一している“サキ”と。
 シルクハットを交換すると、
 マジシャンスーツも併せて入れ替わる。
「おおっ?」
「え?うそ何今の」
 サキも応じて驚いたわけだが、リスが彼女の頭の上まで駆け上がり、何らかリアクションをする暇を与えない。
「では魔王教官準備できましたのでよろしくお願いします」
 レムリアはそう言って促した。ここから事前シナリオ通り、“次々モンスター出現”。
「うむ、見せてもらおう。最初は“モンスターマジック”だったか?」
「あ、はい、そうです。このリスが次々、みんなも知ってるあのモンスターに変わって行きます」
 サキは進行を合わせ、まずは帽子をかぶせて、取った。

(つづく)

【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -15-

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「判りました。君たちはいいかな?」
 座った子供達に問いかけ。
「あ、はい」
 先頭に座っていた女の子が答える。急に訊かれてちょっと緊張。
「ありがとう。では始めましょう。今日は当院始まって400年の歴史の中で初めての出来事です。魔女の認定試験」
 副住職は仏像右奥の引き戸へ向かい、開き、退出した。
 仏像左手。
 奥の方より平沢が歩いてくる。中学校の体操ジャージである。
 仏像の前に足を開いて立ち、手を腰に胸を張る。
「諸君、私は魔王だ」
 会場は無言。〝滑った〟というより唐突すぎる。
「あ、観音様ちーっす」
 仏像に向かってヘコヘコ。
「うそつけ平沢!」
 この声は諏訪君。
 子供たちが背後を振り返る。
「誰だお前は!私は平沢ではない。見ろ、それが証拠にここに魔王と書いてある」
 平沢は言って背中を向けた。
〝魔王〟と書いた紙が貼ってある。
「どう見ても魔王だろう」
「どう見てもジャージだが」
「ジャージに見えるなら脱いでやる」
 平沢は言って、観客に背を向けたまま、ジャージの上着を脱ぎ捨てた。
 白い体操シャツに〝魔王〟。
「魔王だろ?」
 ここで子供たちから小さな笑い。
「じゃ、始めるぞ」
 平沢は振り返る。
 体操シャツの胸に〝3-3 平沢〟。
「平沢じゃねぇか」
 諏訪君が突っ込み、ここでようやく本格的な笑いが取れた。
「あのー平沢君、じゃなかった魔王様」
 観客席の後ろからレムリアは声を上げた。

(つづく)

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