小説・魔法少女レムリアシリーズ

【魔法少女レムリアシリーズ】アルカナの娘 -16・終-

←前へレムリアのお話一覧→

 見れば目の下頬骨あたりを拳で殴られたようで、眼帯と包帯で青く腫れた周囲を隠し、小さな傷もたくさん。
「ごめんなさい……こんなことになるなら家まで送っていけば良かった……」
 涙が出てくるのを抑えきれない。美姫を抱きしめてわんわん泣いてしまう。恥も外聞も無いと判っていたがどうにもならなかった。それは傍目には膝立ちの美姫に姫子が抱きついてぶら下がり、だだでもこねているかのよう。
 美姫はしばしあっけにとられたようにしていたが、自らの目元を拭うと姫子の肩をトントン、とした。
 姫子は我に返って声を抑え、身体を離した。
「ごめん……泣きたいのは美姫ちゃんの方だよね」
 美姫は首をゆっくり左右に振った。
「ううん……嬉しい。こんなに、こんなに心配してもらったことないから……そして、自分がなにも見えてなかったってよく判った」
 神領美姫は意を決したように姫子の手を引きながら立ち上がった。
 傷だらけではあるが長身で流麗な美少女の挙動であって、黄金の輝きが迸るような印象を周囲に与えた。
「私……思い上がってました……正体晒したけどイケメンの彼氏がいてチヤホヤされて他は何も要らないと思ってた。でもむしろ迷惑を掛けてた。なのにクラスのみんなにこうして心配してもらえた。ごめんなさい。そしてありがとうございます」
 神領美姫は“カチ込み”に来ていた自分のクラスメートに頭を下げた。髪の毛がバサッと舞う。
 顔を上げる。
「そして相原さんは私の大切なお友達です。もちろん、殴るとかそんなことされてません。私の、そういうことに、魔法を使って気付かせてくれた、大事な、大事な、お友達です。ネガティブな内容は全部アイツの嘘と良くない噂です」
 神領美姫はレムリアの腕を取ってそう紹介した。それは、神領美姫が全部吹っ切れてリスタートしたことを証しした。
 もう、涙は似合わない。
「ありがとう」
 レムリアはまずそう言い、自らの乱れた髪の毛を束ねてポニーテールに作った。まだ長さが不十分で尻尾は短い。
 そして今度は、その傷もあって洗髪できていないであろう、神領美姫の両頬から腕を伸ばして彼女の髪を持ち上げる。
「これはレムリアの流儀で」
 金色のシュシュを通して長いテールを作って下へスッと流す。
 風もないのに彼女の髪の毛は一瞬ふわっと広がった。
 朝陽に黒曜石の輝きを放つ文字通りの射干玉(ぬばたま)に、男子達が瞠目しまばたきも出来ない。
「私はあなたの友達であり続ける。そして私は、私の友達を傷つける者を絶対に許さない」
 そう言って見つめると、強気な光が、神領美姫の瞳に戻った。
 
 アルカナの娘/終

| | コメント (0)

【魔法少女レムリアシリーズ】アルカナの娘 -15-

←前へ次へ→

「ほれ、身長150センチの女の子が丸腰だぜ。学校一の褐色美少女傷だらけにしてみろ。永遠の卑怯者として伝説になれるぜ」
 そこで大きく息を吸って。
 一拍。
「やれるもんならやってみろ!夕方のアサガオみてえなチンポコ野郎が!」
 小柄がウソのような大音声は教室の窓ガラスをビリビリ言わせ、その場の誰もが度肝を抜かれた。
 否、過去に同じ声を聞いた男子生徒平沢と、“そうなると寸前に探知した”美姫を除いて。
 彼女は放たれた弾丸のように突進した。
 突如頭突きの勢いで突っ込んできた小柄な娘にりゅーせーは反射的、と表現できる動作で小刀を突き出した。
「死ねーっ!」
 多くの悲鳴。刹那。
 それは闇雲ではあったが、そのまま彼女が突進すれば、何らかの傷を付けるであろう突き方であった。しかし、彼女には、どこへ、どのタイミングで刃先が達するか、判っているのであった。
 わずかに首を傾げて、右手を立てる。
「チェックメイトだ」
 それは、日曜日に放送している女児向けのアニメ。女子中学生が変身して華麗なコスチュームで悪と戦い、やっつけた時の決め台詞。
 衆目が惨劇を予見して逸らした目を恐る恐る戻すと、彼女姫子は、真剣白羽取りの要領で、小刀の刃先を右手の人差し指と中指でつまんでいた。“ピース”のポーズで、刃先を挟んだ形だ。
 りゅーせーは刃先突き出した勢いを往なされバランスを崩し、片足立ちの状態。逆に言うと伸びきった腕を彼女の指先で支えられている。
 彼女はそのまま小刀を引き抜いた。
 支え失えば倒れるのみ。
「あっ!」
 ドタバタと机に胸を打ち、更に床面に崩れ落ちる。ゴキブリたちのただ中にうつ伏せに倒れ込んだので、応じてゴキブリたちが動き回って周囲に小さなパニックを惹起したが、
 どうでもいい。両クラスの男子が一斉にりゅーせーをとっちめに動き出したので、彼女はナイフを遠くに放り出し、美姫に駆け寄った。なおこの間に“役目は終わり”とばかり、ゴキブリたちは教室から去った。

(次回・最終回)

| | コメント (0)

【魔法少女レムリアシリーズ】アルカナの娘 -14-

←前へ次へ→

〝宣戦布告〟を得てポケットからナイフが現れる。応じて悲鳴がいくつか上がり、りゅーせーからみんな距離を取る。
「龍生……いや……やめて……やめろ……」
 飛び出してくる勢いの美姫を、彼女のクラスメイトらが必死に抑える。姫子はそのうち一人と目を合わせ、頷いておく。
 りゅーせーに目を戻す。ナイフなど別に怖くはない。それ以上にここで怖いのは人質を取られることだが、もっと離れろ、とか自分が言うと逆効果であろう。
 さてこの時、姫子の制服スカートの裾と、そろそろポニーテールにしようかという髪の毛がゆっくり舞い動いている。それは彼女のオーラライトで彼女周囲が熱を帯び、弱い風が生じているせいである。
 そのことに神領美姫が気づく。彼女は多分、自分が纏うオーラライトが見えている。それは彼女の奥底に眠っていた(実態として嫌な記憶を忘れるのと同じ作用で潜在意識レベルに追い込んだ)超常感覚の再覚醒なのであるが、美姫にとってそれは“過去、日常”であったせいか、変化だとは認識していないようだ。であれば逆に構わない。そう、貴女の見立ては正しい。私は魔女のレムリア。だから私は貴女の「誰にも理解されない悩み」が理解できる。
 と、教室の前後から床面を這って侵入してくる黒い点状のもの多数。
「ゴキブリだ!」
「うわっ」
 悲鳴が上がりみんな逃げる。ゴキブリたちはりゅーせーの回りをゴソゴソし、応じてりゅーせーとみんなの距離は広がった。君たちいい仕事だ。
 そこへ、”朝の会”に来たであろう、ドア向こうにキュロットスカートの担任奈良井が姿を見せ、目を見開く。姫子は手のひらで“待って”のジェスチャー。
「ダンナが言ったよ。男の子が女の子をいじめるのは弱いからだってな。もっと弱いのを叩いて強いつもりになるんだってよ」
 姫子は言いながらりゅーせーを睨み付け、ゆっくり歩き出す。挑発である。攻撃を全て自分に振り向けるためである。
 この場で”レムリアの術”を使った対処は可能である。だが、こいつの場合思い知らせないといつか同じ事を繰り返す。

(つづく)

| | コメント (0)

【魔法少女レムリアシリーズ】アルカナの娘 -13-

←前へ次へ→

「美姫ちゃん!?」
「ミキチャンじゃねえ!とぼけんな!」
 いきり立つ男子委員を、美姫が傷だらけの右手で制する。
「松岸(まつぎし)違う。話聞いて。コレは彼氏……て言うか、彼氏だった奴の仕業……」
 美姫の発音は不明瞭である。頬を殴られ腫れているのだ。
 姫子は思わず近づこうとするが、その男子委員松岸が阻もうとしてくる。
「昨日、相原さんと喋って、CD貸してもらって、帰る途中、彼氏が待ち伏せしてました。誰と会ってたんだって。手をつないで走って行ったのを見た奴がいるって。女の子だって言ったのに聞いてもらえなくて。そいついつもそんなばっかで。もうあたしイヤんなって、もう嫌だ別れる、ったの。そしたらふざけんなってこう」
 美姫は自らを指差し、その目を赤くし、涙が一筋。
 姫子は歯がみした。束縛系とか誰かから借りたマンガで読んだ気がした。嫉妬深い。で、気に入らないと暴力。
 最低の所業ではないか。
「そいつしかいないって思ってたけどそうじゃなかった。相原さん全部聞いてくれた。そいつがおかしいって気づいた。だから……」
 刹那、姫子はその場の誰よりも先に察知して目線を転じた。
「そうかおめえがその相原か」
 怒気に満ち、満ちるあまりに震えて聞こえる声が教室前方のドアから聞こえた。
 背の高い、細身の男子生徒。クールなイケメンという触れ込みじゃなかったか。2組の佐倉龍生(さくらりゅうせい)とか。
「切りつけに来たかいりゅーせーちゃん」
 姫子はゆっくりと身体の向きを変え、名前をりゅーせーと故意に棒読み風に発音してやった。
「彼氏彼女の関係でも暴力使っちゃ立派な犯罪だよ。しかも悪いが見ての通りオンナだ、ムネねぇけどな。カノジョの話聞けない腐れチンポ野郎はカレシとは言えないな。で?その鉛筆削りナイフで何かしたところで美姫ちゃんは離れて行く一方だと思うが?」
「黙れ。こいつはおめえがいるから俺は要らないとかヌカしやがった。だからおめえをズタズタにして『おともだち』を消してやんだよ」

(つづく)

| | コメント (0)

【魔法少女レムリアシリーズ】アルカナの娘 -12-

←前へ次へ→

3

 翌日。
 姫子が登校し、教室に入ると、級友達が一斉に恐怖心を備えた目で見つめてきた。粗暴で無敵な不良少女でも見るかのようだ。
 男子の一人が手招き。
「ミキミキをボコり倒したって?」
「はぁ?」
 ミキミキは美姫ちゃんのことであろう。ボコる。暴力を振るう。誰が、自分がか。
「あたしが?」
「そう」
 彼女は自分を指さしてみた。級友達は頷いた。
 何がどうしてそうなった。すると。
「おい、相原って来てるか」
 廊下方より聞き慣れぬ男子生徒の声。かなり高圧的で怒気を孕む。
 級友達の目が一斉にそちらを向いた。
 美姫のクラスの学級委員。男女揃って。
「はい、何か」
 彼女姫子はまずは顔を向けて尋常に応じ、次いでゆっくり身体をそちらに向けた。想定外の何かが進展しているに相違なかった。
 するとツカツカと入ってきたのは女子の方。
「あんた女の子の顔殴りつけるなんて酷くない?」
「はあ?」
「とぼけんじゃねえよ!」
 大声は男子の方。
「ボッコボコじゃねえかよ!」
 何が起こった。逆に私に見せてくれという所だが、
「私が?神領さんを殴ったと?」
「そうだ」
「ボコボコに?」
「そうだ!」
「殴ってなんかないけど?家で親に会わせてお茶飲んで、CD貸してから、ボコりつける?」
「ウソつけ!神領呼び出して引きずって行ったって聞いたぞ!」
 男子委員の声がヒートアップして来る。何某かウソを吹き込まれて義憤に駆られてであろうから、こちらの言い分は凡そ聞き入れられまい。が、首肯するわけにも行かぬ。
「呼び出し?確かに彼女とは話がしたいと言いました。ただし彼女にしか判らない方法で伝えました。ってか、一緒に走って行ったことが何で伝わってるんですかねぇ。つけ回して覗いてたってことじゃん。それこそ女の子を。そんな犯罪まがいのご注進を信用するわけ?」
 彼女は手を腰に反駁した、その時。
「待って……」
 弱々しい美姫の声がし、衆目がサッと集まる。
 廊下のドア脇から顔を出した包帯と絆創膏。

(つづく)

| | コメント (0)

【魔法少女レムリアシリーズ】アルカナの娘 -11-

←前へ次へ→

「辛い言い方をしたかも知れない。でも、占いに頼るほど追い込まれた心の有様(ありよう)とあるべき姿をあなたは知っている」
 レムリアはアンスールを美姫の手のひらに載せ、握らせ、そしてもう一度開かせた。
 紐が通ってペンダントの出来上がり。それも手品。美姫はしかし、驚くと言うより“当たり前の結果”を受け入れている表情。
「あたしひとりで占い希望者背負い込んだら忙しくてトイレにも行けない。あなたには占いを引退しないで欲しい。私じゃ嫌だという人も必ずいるし。彷徨う心の受け皿は幾らあってもいい。大アルカナの回答に良い言い回しが思いつかなかったら、小アルカナを引きなさい。そこに答えが啓示される。それはお守りがわりに首にかけて。西方に過去あった魔法国家アルフェラッツの術式Coegi magicae Lunae(こえじ・まじけ・るなえ)に従い」
 レムリアは人差し指を立ててくるくると宙に円を描き、そのままパチンと鳴らした。
 美姫はペンダントを首に通した。
 そこでレムリアは革製のカードケースを手のひらに出して差し出した。
「一式入っています。お持ちなさい。差し上げます。傷だらけのカードでは、めくる前に判ってしまう」
「え?」
 美姫はボタン留めされた蓋を開いた。絵柄は19世紀から20世紀にかけて活躍したデザイナーの手になるもので、ネット辞書で類型の絵柄として取り上げられているほか、現在流通している絵柄の中でも最も一般的なもの。だが。
「羊皮紙……これって」
「ヨーロッパ王侯向けの特注品。ふさわしくない者の元から自ら離れ、ふさわしい者の手元にたどり着くと言います。私があげられる手元のタロットは今はこれだけ。なら、あなたに持てと言うことでしょう」
「でも……」
「値段?希少性?そんなこと気にする人にこれを持つ価値はないと思います。逆に道具とするなら可能な限りよい物を。私の父の教えです。少し裁いてみて」
「え?……あ、うん」
 美姫は78枚を取り出し、シャッフルし、積み上げ、崩して時計回りに混ぜる。
「凄い滑らか……」
 横一列にずらっと並べ、1枚抜き取る。
 羅針盤のような文様“運命の輪”。
「チャンスにせよ」
「私の占いは以上です」

330pxrws_tarot_10_wheel_of_fort

(wiki)

(つづく)

| | コメント (0)

【魔法少女レムリアシリーズ】アルカナの娘 -10-

←前へ次へ→

「敵と感じれば攻めもするでしょ。私はあなたが悪いと思っているその過去を責めたりはしません。現に私がムカついてしょうがないって子は幾らもいます。でも、仕方ないしそれで当然だから、嫌いにならないで、とは言わない。ただ、喧嘩売ってくるなら言うことは言う。あなたの挑戦にもそうしたつもり。でも、その結果あなたは打ちのめされたように見えた。あるべきあなたの姿じゃないように思えた。だから、話を聞いてみようと思った」
 彼女は抱きしめた耳元で一気に喋り、身体を離した。
 もう、涙は必要ないという確信と共に。
 テーブルに戻ってタロットに尋ねる。シャッフルして裏返し、一番上。
“魔術師”。

330pxrws_tarot_01_magician

(Wiki)
 美姫の眉根が歪んだ。
「皮肉みたい」
「そこは素直にとっていいと思うよ。信じて、動け。そして多分、あなたにテレパシーのような輝きは戻らないかも知れないけれど、傷ついた心の状態は覚えているはず。ここでようやく私のルーンの出番です。児童館で手品イベントやる時は魔女のレムリアって名乗っててね。その流儀で」
 以下姫子を彼女の意を汲みレムリアと記す。レムリアは右の手指をパチンと鳴らし、握りこぶしを作ってテーブルの上に置いた。
「触れて。今のあなたにふさわしい一文字があるはず」
 美姫は手のひらで包むように触れた。
「姫ちゃんの手、温かい……」
「基礎代謝が旺盛なようで」
 彼女レムリアは応じてから、手のひらを開いた。
 水晶の中に浮かび上がる、アルファベットの“F”の横棒を斜め下に傾けたような文字。

20240820-214932

(Wiki)

「アンスール……だっけ」
「そう。正位置なので、あなたの知ることをよりよい方向に使いなさい」
「私の知ること……」
「辛さや葛藤、迷い、破滅、そして裏切り……」
“裏切り”……その言葉に美姫は肩をびくりと震わせ、膝の上で拳を固く握った。
 友の信頼を裏切って辛い思いをさせたのは自分だし、そして、相原姫子の出現によって“信者”に裏切られたのもまた自分。

(つづく)

| | コメント (0)

【魔法少女レムリアシリーズ】アルカナの娘 -09-

←前へ次へ→

「うん。背後霊みたいなのが見捨てて出ていった、みたいな感じになって、ポカンと空っぽになった。あ、外国にいたんだっけ、背後霊ってのは……」
「判るよ。憑き物さんのことでしょ。悪魔ケダモノから天使であることも。……その存在は感じてた?」
「ううん……全部自分の力だと思って……え!もしかしてそのせい?私が背後霊さんに感謝しなかったから……」
「未練があるの?力の存在に」
 話を逸らすと、神領美姫は目線を外して少し考えた。
「良いことも、残念に思うことも……でも、余計なことを判ってしまわずに済むようになったのは、楽、かな」
 神領美姫は笑った。少し寂しげではあるが。
「じゃ、良かったんじゃない?でも、それでも占いは続けたんだよね」
 神領美姫は俯いた。
「うん。だってそれ取ったら何も残らないじゃん、って思って。そう、私って占い以外の人付き合いないって……」
 神領美姫はハッと気付いたように早口で言い、その目に涙を浮かべた。彼女は立ち上がり、美姫の傍に膝立ちとなり、肩を抱いた。
「悲しいこと言わせてごめん」
「ううん構わない。相原さん聞いてくれてるからいい……」
 我慢して、溜め込んでいたのだろう。神領美姫は堰が切れたように泣き出した。
 わんわんと幼子のように大声で泣いてしまう。階下母親が心配してショートメッセージを送ってくるほど。
『大丈夫なの?』
『辛いこと話してくれたの』
 神領美姫はひとしきり涙を流し、ハンカチで拭った。
「後はもう、判り切ったことを言うか、どっちにも取れることしか言わなくなった。だめ、って言っちゃえば、諦めるから、絶対にだめになるしね。酷いよね私……」
「気付いた人は、悪く言うようになるね」
「そんな時、相原さんが転入して来た。すごい美少女で魔法のような手品を見せて……地震の時は気がつくと被災地で救助活動していた。学年中の噂になった。そしたら占いも凄いって……もう、私には何も、誰も残らなかった」
 神領美姫が言い終わった瞬間に彼女は彼女を目一杯抱きしめた。
「何言ってるの、ここに残ってんじゃん」
 今度は涙ボロボロではあるが声押し殺すようにして肩を震わせる。一つ言えるのは、神領美姫の周囲に居たのは、美貌の占い少女という一般評に釣られた者ばかりで、友達になろうという手合いは皆無であった。
 神領美姫はそれを何となく感じていたのだろう。テレパシーとは言えないまでも、明確化された事実であれば確信を伴ってそうと判る。なお、美姫の言う“地震”は東北地方太平洋沖地震・東日本大震災を言い、彼女らの学校は同日“お別れ遠足”であったが、姫子は途中から救助ボランティアに参加し、学校へ数日戻らなかった。

(つづく)

| | コメント (0)

【魔法少女レムリアシリーズ】アルカナの娘 -08-

←前へ次へ→

「相原さんは、私に昔、霊能があったと言ったら、笑う?」
 カップの王というのは、小アルカナに属し、人間関係を大切にする……などの示唆を与える。
 応じた重い告白が始まると彼女は理解した。まっすぐに神領美姫の目を見る。
「いいえ。科学を超えた力やエネルギは、科学で検出することは出来ません。だから、科学で理解できないからと言って、ないと言い切ることはできないと思います。そしてあなたは今、多分、誰にも話したことのない、重大な秘密を告白してくれようとしています。それを私は笑ったりしません」
「わたし……」
 物心ついた頃には、誰が何を考えているか、自分に対してどんな感情を抱いているか、“顔を見れば判る”状態だったという。
 つまりテレパシー。それは持てるならば羨ましい能力とされるが。
「みんなが、私を、気持ち悪いって、避けてるのが判った。嫌いなのに先生に命令されて無理矢理仲のいい素振りをしているのが判った。気持ちが針みたいに、棘みたいに、どんどん、どんどん、刺さってきて、幼稚園に行けなくなった」
「判るのは、いいことばかりじゃない。むしろ、知らなければ幸せだったことも判ってしまって、辛いばっかり」
 神領美姫は頷いた。
「しかも、誰も理解してくれない……違う?」
 首肯再度。そして。
「だから、自分で何とかしなきゃって思って。そんな時、占いってのを知った。これなら、逆にみんな判っちゃうことが活かせるなって」
 小学校に上がって程なく、占いの当たる子と評判になったという。ちなみに彼女姫子は幼少期日本におらず、幼稚園から小学校に上がることで何が変わるかピンと来なかったが、多く幼稚園は私学であり、同じ幼稚園だから同じ小学校へ行くと限らず、逆に違う幼稚園の子も来て、要するに“シャッフル”されるのだと理解した。ならば、“変な子”の先入観を持たれる確率も下がる。
「それで、感じた結果と辻褄の合うカードを示すようにして、占いの結果ということにした、と」
「うん、でも、小学校高学年になって、どうしようもないことが起きた。仲の良かった友達が、男の子を好きになって、成就するかと。でも、相手の男の子にその気はなかった」
「イエスともノーとも答えられなかった」
「ううん、嘘をついた」
 姫子は思わず目を見開いた。つぶやきに混じる重い後悔。
 神領美姫は机上に並んだ彼女のタロットを手に取り、大アルカナの〝力〟を示した。獅子を手懐ける女性が描かれており、忍耐強く取り組め、みたいな解釈を取る。

800pxrws_tarot_08_strength

(Wiki)

「正位置で提示したわけだ」
「うん、で、彼女は速攻コクって、当然ダメで、私を嘘つきとひどく罵った。その瞬間、私は、何か“がしゃん”って壊れた気がして、もう、何も判らなくなった」
「エスパー突然消えちゃった」

(つづく)

| | コメント (0)

【魔法少女レムリアシリーズ】アルカナの娘 -07-

←前へ次へ→

「クラシックが好き……って言ったら、引く?」
 恐る恐る、という感じで、神領美姫は幼女のように小首を傾げた。“引く”の意を彼女は一瞬理解しかねたが、しらける、お断りします、距離を取りたい、身を引く……的なニュアンスだとすぐに判じた。
「いいえ別に。無駄に耳が敏感なのでピアノやバイオリンの倍音がキリキリ乗っかった音が好きです。フィアンセが“はいれぞ”って奴を構築しているので、パソコンで呼び出してこれにたたき込めるようにしてあります。クラシックだとコレッリとかヴィヴァルディとか、バロックに偏ってるかな。シューベルト、モーツァルト、小編成ものをダラダラ流すの好き。シャンカールも取り込み済みだから、CD貸してあげるよ」
 テーブル上のノートパソコンを開き、オーディオの再生リストを切り替える。
 弦楽。
「“和声と創意の試み”」
 神領美姫は当たり前のように言い当てた。いわゆる“ヴィヴァルディの四季”は協奏曲集“和声と創意の試み”の前半12曲を指す。彼女はいま、その続きに当たる13曲目をスタートさせた。
「正解、と言うだけ野暮みたいだね。後はランダムだから適当だよ。はいはい立ってないで座って」
「ああ、うん」
 色々抱え込んで潰れそうになっている娘だな。それが彼女の印象。それに抗うべくハリセンボンのようにトゲを立てて膨らんでいるのだ。
 紅茶にグラニュ糖を混ぜるのを待ち、切り出してみる。
「実はあまりいい噂を聞きません」
 すると神領美姫はティースプーンを回す手を止め、しおれた花のように肩をすぼめた。
 カランと音を立てて止まるスプーン。
 彼女は指をパチンと鳴らしてテーブルの上にカードを横一列に並べる。タロットフルセット78枚。
 神領美姫は目を見開いた。
「古そうなカード。アンティーク?」
「500年ほど前のもの。親から譲ってもらった私の宝物の一つ」
「ごひゃく!?」
「ヴィスコンティとか言ったかな。さて午前の占いの続き」
「えと、あの……ごめんなさい」
 神領美姫は頭を垂れ、彼女はカードに添えた手を止めた。
「私のは……うそ、です」
「カードにマーキングしてあったしね」
 意図したカードを引くために、傷、汚れ、折れ目で目印。
 78枚から一枚引く。“カップの王”。

800pxcups14

(Wiki)

(つづく)

| | コメント (0)

より以前の記事一覧