小説・魔法少女レムリアシリーズ

2026年3月16日 (月)

【魔法少女レムリアシリーズ】トワイライト・マジシャン・ガール -16-

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 姫子は頭の上にレーザポインタを立ててちょっと首を傾げて見せた。こぐま座のアルファ星〝ポラリス〟がレーザ光に照らされる。
「北極の真上にある星が北極星です。そして歳差運動をしているので……」
 そのまま柔軟体操のように首を回せば〝歳差運動〟が再現できる。

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「あー、そうやって変わるんだ」
「なるほどー」
「目立つ星で言うと……7800年後にケフェウス座のアルデミラン……1万年後にはくちょう座のしっぽの一等星デネブ……1万2千年もすると、たえちゃんが言ってた織り姫星ベガ……更に2万3千年後、これはピラミッドが建造された当時でもありますがりゅう座のトゥバン。そして2万5800年で元に戻ってこぐま座のアルファ星、ポラリスです」(※ポラリス:Polaris。それ自身は「北極星」の意)
「え?地球も歳差ってことは止まりかけている?」
 デイの男性。
「いえ、地球の場合ちょっとややこしいです。まず、大陸と海があって、海の水は太陽と月の引力で引っ張られて地球の上を動いています」
 姫子はまず手を伸ばして平沢に引っ張らせた。
「満ち潮引き潮だね」
「そうです。しかも大陸移動説……」
「知ってる!知ってるぞ!恐竜のいた頃はローラシアとゴンドワナだろ!」
 甚太郎くん。〝大きくて、力のあるものが大好き〟。そして興味を持ったものの周辺情報も一緒に覚える。典型的な男の子のパターン。なお彼の言った両大陸は恐竜の時代に地球の南北に存在した巨大地塊・超大陸の名。
「甚太郎くんその通り。で、地球の上の重たいところと軽いところのバランスがいつも変わっている。コマで言うと変なところにオモリがついていて、そのオモリがいつも動いてる」
 姫子は反対の手も伸ばして副住職と平沢に交互に引っ張ってもらった。
「そういう、丸いんだけどアンバランスという、結構ヘンテコなボールを、月と太陽が引っ張り合ってピタッと止まってない。だから、傾いたまま回っている、というのが正確なところのようです」
「先生すごい。よく判りました」
 月と地球と太陽でお辞儀。
 すると。
「あら、四季があるのは、このちょっと傾いていることが原因と習った気がするけど、そうすると織姫が北極星の頃は季節が逆なの?」

(つづく)

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2026年3月15日 (日)

【魔法少女レムリアシリーズ】トワイライト・マジシャン・ガール -15-

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 バッグを背負い、玄関マットでしょんぼりするネコタレにごめんと言って早足。それこそマンガの『遅刻遅刻~』よろしく、紅茶ペットとハム乗せパンを交互に口に運びながらトワイライトへ戻る。
 扉を開けると集まるキラキラ目線。
「お待たせ……えっとね」
 まずはシルクハットからよいしょよいしょと引っ張り出す。真っ黒で。
「おっきな傘!」
「に、見えるでしょ」
 開くと、普通の傘と異なり、パラボラ構造がそっくり返って上に向く。まるで強風によって〝おちょこ〟になったビーチパラソル。
「何だそれ!壊れてんじゃん」
 とは甚太郎くん。
「残念、これで良いのです」
 天地ひっくり返し、持ち手の部分をプレハブ天井から下がっている直管蛍光灯の器具に引っかける。平沢がタッパを活かしてヒョイ。ありがとう。
 プロジェクタを取り出して電源を入れ、パソコンを接続。
「おやおや何か大がかりだね」
 お年寄り達も見に来る。
「ご一緒にどうぞ。えっと、照明を消してもらえますか」
「ああ、はいはい」
 薄暗くなる遊戯室。それと引き換えにプロジェクタが〝逆さまの傘〟に映し出したのは。
「星空だ」
「プラネタリウムだね」
「その通りです。さてここにコマがあります……えっと、回していただけますか?」
 手品の手法で取り出したそれは、太い紐を巻き付けて回す日本の伝統的なコマ。
「僕が回そう」
 とはお年寄りの男性。それこそ昔取った杵柄。糸を巻き、宙に浮いた状態で素早く紐を引き、回転を与えて落とす。
 床の上でブーンと高速回転。
「お、スゲェ」
「なんかカッコイイ」
 まぁこれは今の子に一朝一夕では身につかないスキルであろう。
「さてこのコマは元気に回っていますが……回転が落ちてくると……」
 軸が斜めになって首振りを始める。
「この、回転する物体が、ちょっと斜めになって首を振っている状態、を、歳差運動、と言います。それでね」
 コマが止まったところで取り出したのは、〝地球〟のお面。自分の顔に付けてプラネタリウムの傘の下へ。
「私が地球です」
 すると。
「じゃぁオレ月やる」
 とスポーツ刈りの平沢。
「では私は太陽をやるとしようか」
 副住職。シャンプーハットに毛を貼り付けて作った〝ライオンのたてがみ〟を、鉢巻のように(つまりシャンプーハット本来の使い方で)頭に付ければ、丁度太陽の光条のよう。
 2人で頭ピカピカ。子ども達は大笑い。
「地球も、自転をしていますが、ちょっと傾いていて、この歳差運動をしているのです」

(つづく)

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2026年3月14日 (土)

【魔法少女レムリアシリーズ】トワイライト・マジシャン・ガール -14-

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 お昼はレンチンした冷凍焼きおにぎりとタコさんウインナー、温野菜。甚太郎くんはおにぎりを丸呑みする勢いで両手を使ってヒョイぱくヒョイぱく。なおデイサービスは契約している業者から届くお弁当。
「みんなの分がなくなっちゃうだろ」
 平沢が諌めるが。
「早く食べない方が悪いんだよ」
 まるで狙うかのように女の子達のプレートをじろじろ。
 姫子は自分のを差し出した。
「私のどうぞ。その代わり、他の子の食べちゃだめ。約束破ったら……判るよね」
「やったー!」
 おばちゃん、が眉根を寄せる。
「あら姫子ちゃん……」
 姫子はウインクだけ返した。〝どうにかなります〟の意思表示。甚太郎くんは姫子の分もあっという間に食べてしまい、後はお茶だけ。
「お茶じゃなくてジュースがいい」
「だめ。一気にそれだけ食べて糖分さらに取ったら血糖値スパイクで死にます。やめなさい」
 姫子はちょっと強く言った。
「死ぬ?……嘘つけ!」
「嘘じゃないよ。キミそうやって凄い勢いでご飯食べて、終わった後眠くなるでしょ。それ本当は危険なんだよ。他の子達そんな風にならない。キミだけでしょ」
「え……」
 甚太郎くんは涙目になってしまった。理詰めはそれなりに効くようだが効きすぎたか。だが本当だからしょうがない。
「死にたくない。まだ……」
 プロ野球の試合を球場へ見に行きたい。相撲も国技館で見てみたい。科博(科学博物館)の恐竜展も行きたいよう……。
「いっぱい遊んで、いっぱい食べたかったら、良く噛んで食べる。いいですか?」
「何か先生みたい。つまんねー」
 それでも承服する気は無いらしい。プイと立ち上がり、リュウザドンを触りに行く。
「ハイ先生、そう言えばさっきの歳差運動ってなあに?」
 たえちゃんが挙手。〝難しいからこそ知りたい〟という子どもさんは一定数いる。何なら漢字を勉強しながら専門書を読みこなす。
「えーとね。それはちょっと道具が要ります。私の家に取りに行っていいかな?」
「えー?時間かかるんじゃ……」
「そこの中央公園のそばだよ……奥さ……おばちゃん、平沢君、ちょっと席を外します」
「ああ、いいよ」
「オッケー」
 一旦帰宅すると母は「あら、もう終わり?」
「いえ、ちょっと小道具を取りに」
 それはノートパソコン、手のひらサイズの液晶プロジェクタ。スポーツバッグに詰め込んで。
 及び、冷蔵庫を開いてハムと食パン。ペットボトルのミルクティー。ついて歩くネコタレ。
「もう一度行ってきます」
「いきなり忙しいのね」
「喜んでくれれば」

(つづく)

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2026年3月13日 (金)

【魔法少女レムリアシリーズ】トワイライト・マジシャン・ガール -13-

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 絵本。〝ドジっこまじょテストのひ〟。
 失敗ばっかりの見習い魔女がみんなの助けを得てどうにか合格する話。で、めでたしめでたし、なのだが。
「次はトランプの札当てだ!やってみろ!……教官が言うのでティスはまず帽子からトランプを出そうとしました。でも出てきたのは壊れたピエロの人形でした」
 三角帽子からそのまんまピエロを取り出してみる。手足のバネが剥き出しでびよんびよん。
「すごーい!絵本とおんなじ!」
「え、ちょっと待って。呪文言ってみて。ドグマグドグマグ、ジョーカーになあれ」
 言う通りにして、ピエロを両手で包んで広げると、ピエロがそのまま絵柄になったトランプのジョーカー。
 その顔を指先でコツンとし、両手を使って扇形にトランプ53枚広げる。
「凄い凄い凄い!」
「ちょっとお姉ちゃん待ってて。おばちゃーん!副住職さーん!」
 女の子達は副住職夫妻と、デイのお年寄りと呼びに行く。
 絵本はトランプの絵柄当てに失敗するが、仲間の魔女見習いが都度呪文を唱えて〝言った通りの絵柄〟に変わって行くという筋書き。
「わー!わー!本当に変わる!」
 手のひらを覗き込んでくる。彼女らのその小さな手のひらを包み、拳を作らせ、一緒に広げるとおもちゃの指輪とかイヤリングとか。
 みんなそれぞれアクセサリー身につけてお姫様ゴッコになる。呼び集められた大人たちは一様に目をまんまる。
「手品というより確かに魔法ですな」
「鮮やかでお見事だ」
「恐れ入ります」
 手を握って開いて花一輪。シルクハットから花瓶を出して挿す。先ほどたえちゃんがしがみついていた女性に渡す。
「あらあら。あらまぁ」
「私の頭に毛が生えたりするかな?」
 副住職が指差すので、シルクハットを被せて取ると。
 頭から顔から顎までぐるりとフサフサ。
「ライオンだ!」
「がおー」
「副住職ライオンの襲撃ですわ。皆さまお逃げ遊ばせ」
 女の子達が笑いながら逃げ回る。わたくしは美味しくなくてよライオンさん。
 全年代ごちゃまぜで暫く遊んで12時。お昼の時間。
 甚太郎くんが平沢に連れられて戻って来た。トワイライトの昼食は、この空間……遊戯室と言うそうな……に折りたたみのテーブルを並べてパイプ椅子を配置。甚太郎くんは平沢と一緒になってここぞとばかりそのパワーで大活躍。それなりに役に立ちたい。それを見てもらいたい。承認欲求は強いらしい。

(つづく)

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2026年3月12日 (木)

【魔法少女レムリアシリーズ】トワイライト・マジシャン・ガール -12-

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 食材は近所からの寄付や、檀家になっているスーパー店長から期限ギリギリの提供を受けて。そのほか、畑で子ども達とお年寄りと一緒になって野菜を育てている。
「空いている時に来てもらって、子ども達と遊んでもらえればもう充分大助かりなので」
 とは奥さん。「奥さん?みんなからおばちゃんと呼ばれてるからそれでいいよ」
「判りました。じゃぁ早速みんなの所に戻りますね」
 阿弥陀様に一礼し、トワイライトのスペースに戻る。母はこれで帰宅「何かあったら呼びなさいね」
 本堂からの渡り廊下の引き戸を開けたら、玄関側の引き戸も開いた。
「ちーす。おお、相原さん」
 平沢である。と、笑みを浮かべて立ち上がる甚太郎くん。
「ヒラにい待ってたぜ。オンナばっかでつまんなくてよー!なぁ、こいつ知ってる?オンナのくせにおっぱい無いんだぜ!」
 いきなりそう来たか。姫子は笑った。
「うるせぇそういうことはちんちんに毛が生えてから言えや坊主」
「お、おい……」
 どう処理していいのやら、とでも言いたげな平沢。まぁ、彼がこの大きな男の子の数少ない遊び相手であることは判った。そして「兄」として慕い、恐らく言いつけに従うこと。また、この子がよくある〝オンナに威張り散らす〟男の子であることも。
「うるせぇペチャパイ」
「まだ言うかうんこパンツ」
「なんだと……って、何で知ってるんだよ」
 甚太郎くんはしどろもどろになった。色々と雑なのでそういうのが出来上がる。そしてそれは彼の最も恥ずかしいこと。テレパシーが勝手に拾って来た。
「だって私魔法使いだもん。おトイレは、行く時間を決めると、慌てなくてもいいです。判りましたか?」
「う……うるせえオトコオンナ。ヒラ兄!野球しようぜ」
「おう。お前、さっきから姫子お姉さんに失礼だぞ」
「だっておっぱいないのはおっぱいないじゃん。お姉ちゃんってのはもっとバインバインのを言うんだぜ」
 引き戸をがらがらぴしゃん!まぁ、こう連発されたら傷つく女の子あるだろう。自分はフィアンセがあって外観気にする段ではないからどうでもいいのだが。
「ねぇ魔法の姫お姉ちゃん」
 甚太郎くんを体よく追い払った(?)という計算か、女の子達に呼ばれた。
「はーい」
「これ読んで」

(つづく)

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2026年3月11日 (水)

【魔法少女レムリアシリーズ】トワイライト・マジシャン・ガール -11-

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「先ほどあなた……姫子さんは、自身が魔と名乗ることは悪なのでは、とおっしゃいましたね。ここで言う悪人とはまさに姫子さんの〝魔かも知れない〟という心構えのことです。自分は悪人かも知れない。人は誰しも、何か失敗して誰かに迷惑を掛けています。ケガをして病気になって、誰かのご厄介になるものです。そして目標持って進もうとすれば、どこかで競争が発生して誰かを負かさなければならない。平たく言えば『あいつムカつく』と思われない者はないと言うことです。つまり誰かに取っては悪人かも知れないのです……と言うと貴女は多分、あの時この時と思いを馳られていることでしょう。迷惑をかけつつも生かしていただいている」
「ええ、確かに」
 何なら、自分のせいで命を落とした男の子すらある。異教の娘を好きになりやがって、と父親に爆殺された。
「一方、善人というのは、自分は善人であるという自意識を意味します。自分は良い人だからそんな迷惑を掛けたり傷つけるようなことはしてない。でもそれは気づきもしていないだけ。つまり思い上がりですね。そんな自称善人でもお救い下さる。いわんや悪人をや。つまりは全部お救い下さる。なので、大丈夫ですよ」
 副住職はニッコリ笑った。
 対して姫子はちょっと胸が(心が)痛い。救助活動……良いことをしている自分……という自意識と、それを誰かに認めて欲しいという承認欲求がどこにも無かったと言えば嘘。相原家に住み込んで程なく、この〝母〟は自分のそうした活動を知り、〝ありがとう〟と言って下さった。昨日帰宅したときと同じように。
「おお、姫子さんどうした」
「姫ちゃんどうしたの?」
「いえ……救われた気がしました。自分にとっては正義でも、相手にとっては賊ですから」
 姫子は目の下濡らすものを拭った。
「私で良ければお手伝いさせて下さい」
「大歓迎だよ」
 市に登録するというので書類を書き、〝保護者〟が署名。合わせて活動概要の説明。基本的に放課後7時まで幼稚園から中学生までの預かり、待機を請け負っている。水曜は夜の食事が出る。土日は春夏冬休みの間、および要請があれば開所し、今回の震災は非常事態であり24時間対応中。この他、月水金は〝子ども食堂〟として朝食を提供。

(つづく)

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2026年3月10日 (火)

【魔法少女レムリアシリーズ】トワイライト・マジシャン・ガール -10-

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 たえちゃんは得意げな笑顔。しばらく大丈夫だろう。
 甚太郎くんは……リュウザドンを眺めながら恍惚な表情で床にゴロゴロしている。余程好きで欲しかったのだろう。そのまま幸せに包まれて眠ってしまいそうな感じだ。彼には〝駄々をこねる〟が奏功しなかった結果、感情が荒ぶってますます駄々をこねる、みたいな負のスパイラルの存在を感じる。今はその真逆の状態が得られており、それは滅多にないことだ、という気がする。あまりこう、欲しいおもちゃを手にできる家庭環境ではないのだろうか。

 3

 お寺の本堂に招かれて〝オトナの話〟。作務衣姿の副住職と大きな阿弥陀様の前でお互いペコペコ。
滝山永代たきやまえいたいと申します。どうぞ」
 と、床から一段高い畳に置かれた座卓を促される。良く考えたら仏教の影響下で仕事することになるわけだが、魔女、はいいのだろうか。
「魔法使いさんと伺いました」
「ええ、手品を使う際にそう称していますが、冗談であっても魔の付く者が仏様の前におって良いのかとちょっと気になってはいます。その、宗教上の禁忌を破る気はないので」
「それなら、大丈夫です」
 滝山副住職は額に笑い皺を刻んでゆっくり言った。
「親鸞聖人の〝歎異抄〟をご存知ですか?教科書に載ってると思いますが」
「確かそんなのあったなぁ、ですが」
 苦笑い。
「はっはっは。まず、御仏は、神様、ではありません。神に対抗する、歯向かうという構図にはなりません。なので、神と逆の存在、汚れとしての魔であっても忌避されることはありません。御仏は、どうやったら人間が抱く様々な苦しみから救えるか、をずっと考えてらっしゃる存在です。それを踏まえて、それこそ教科書で紹介されているフレーズは次のようなものです」

 善人なおもて往生を遂ぐ、いわんや悪人をや。

「ああ、これですか」
 姫子は言った。確かに何処かで見た。
「意味はどう習いました?」
「往生とは死ぬことですが、それによって魂が救われることと。もって善人が救われる。悪人はもっと救われる……字面通りですが、悪人を救うのか?という疑念が沸くのは私が欧州というキリスト教の圏内にいたからでしょうか」
 副住職は頷き。

(つづく)

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2026年3月 9日 (月)

【魔法少女レムリアシリーズ】トワイライト・マジシャン・ガール -09-

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 姫子はそれだけ言って、両の手のひらを広げて板チョコを出した。
 たえちゃんは高齢女性の身体から腕を離し、姫子の方へ歩いてきた。
 今、この小さなレディに必要なのは、遠慮や、我慢をすることなく、ただ、安心して身を預けていられる場所。
 地震の時にギュッとしてもらえる腕。
「頑張ったね」
 声を掛けると頷く。もう、彼女は我慢できる限界を超えて頑張っていたのだろう。ママはもっと大変……判っているけど、理屈と気持ちは別のもの。
 小さな手にチョコを持たせ、両手でそっと包むと、ハッとしたように目を見開いて姫子を見る。小さく冷たい手先はぎゅっと縮こまっていた証。
 肩に腕を回してそっと抱き寄せる。
 何も考えなくていいところ。
 泣きべそがみんなから見えないように。
 まあ、幾度か、『いい子で待っててね』があったのだろう。都度我慢して、待ち続けて。でも、今回はもう4日目。
「魔法かけてあげる」
「魔法?」
「そう。わたし魔法の国の姫だから。(月女神月女神まなこに似合う微笑みを)」
 実際の詠唱文言は、伏す。
 電話が鳴る。奥さんが壁掛けの子機を取る。
「はい光龍寺トワイライト……ああ、たえちゃんのお母さん」
 腕の中から即座に解放。子機がたえちゃんに渡されて。いい子にしてる?迷惑かけてない?今から帰るからね。……たえちゃんは涙を拭い、小さな微笑みが刻まれる。
 子機が奥さんに戻る。
「お待ちしてますので。いえいえ遠慮なさらず。開けておりますので、はい……」
 電話を切ると、たえちゃんは満面の笑みで姫子の所へ戻って来た。
「ママ帰って来るって。お姉ちゃんの魔法すごい」
「よかったね。もう少しだね」
「うん」
「じゃあお姉ちゃん奥さんとオトナの話があるから。終わったら遊ぼう。それまでみんなとちょっと待ってて」
 優先順位が変わったのでシルクハットからモンスターを召喚。星がモチーフで顔があり、〝羽衣伝説〟に出てくるようなヒラヒラをまとっている。
 見せたら抱きかかえた。
「お星様好きなの?」
「うん。織姫さまはずーっと未来には北極星になるんだよ」
 なぬ?姫子は目を見開いた。
「よく知ってるね」
 すると今度は女の子達が目を見開いた。
「え、それ本当なの?魔法のお姉ちゃん」
「本当だよ。難しい言葉で歳差運動さいさうんどうと言ってね。織姫、こと座のベガが北極星になるのは今から1万2千年くらい未来かな。小学校の教科書には書いてないよ」
「えー、たえちゃんすごーい」

(つづく)

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2026年3月 8日 (日)

【魔法少女レムリアシリーズ】トワイライト・マジシャン・ガール -08-

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 姫子はウェットティッシュでその手を拭くと、彼の欲しがったそれを渡した。
「やったー!すげー!お前の名前は〝リュウザドン〟だ!。行け、リュウザドン!雑魚をやっつけろ!」
 甚太郎君はいきなりぬいぐるみの女の子達に突進した。
 さてそのゲームではモンスターが〝進化〟する。姫子は指をパチンと鳴らして、彼のリュウザドンを〝退化〟させ、可愛いトカゲのぬいぐるみに変えた。
「あれ?」
 雑魚雑魚ざぁこざぁこと女の子達になじられる。
「君のリュウザドンは乱暴なの?……君がこの後、誰かに『そういうのやめて!』って言われたら、また変えちゃうからね」
 再度指パチンでモンスターを元通りにする。好きなやり方では無いが、このままでは彼の我儘に振り回されることになるので、ちょっと避けただけ。どこかで目一杯受け止める必要があろう。
「手品……よね。魔法みたい」
 奥さんは呆然。魔法、というフレーズに女の子達はもう目がキラキラ。
「ええ。人心掌握に使っております。こんなのでよろしければもう今からでも……」
 と、子ども達が遊ぶこの建屋の向こう側、恐らく隣のプレハブとを結ぶ通路の引き戸が開き、お年寄りの女性が顔を出す。
「あの……」
 隣接するデイサービスと行き来可能なのだ。お年寄りは孫みたいな子ども達と遊べるし、逆もまた然り。いい刺激になると姫子もどこかで読んだ気がした。
 傍らにひしっとばかりしがみついている女の子。
「あの子、たえちゃん」
 母が耳打ちした。
 姫子は頷いた。
「お姉ちゃんと遊んでくれるかな」
 たえちゃん、の興味。モンスターはそれなり。お菓子も好きだが優先順位は……。
「あの……ボールはどこですかね……さっき甚太郎くんに」
 とは、その高齢の女性。まぁ握力のトレーニングにボールを使うのは良くある。ばぁちゃん貸してと返事も聞かずに持っていった……なるほど。
「はいこれです」
 姫子が両手をモミモミしてボールを出すと、女の子、たえちゃんの表情がちょっと緩んだ。
「ねー新しいおねえちゃん。たえちゃんのママはねぇ、看護師さんなんだよ。地震の所に行ってるの」
 とは背後の女の子。被災地に医療支援。母の言ってた〝帰って来ていない〟女の子はたえちゃんか。
「パパもずっとお仕事なのかな?」
 尋ねると頷く。市役所にお勤めで現地応援とは奥さんから。そりゃ、ひとりぼっちで地震の揺れは耐えられまい。周りに大人がいればいいというものでもない。
「偉いね」

(つづく)

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2026年3月 7日 (土)

【魔法少女レムリアシリーズ】トワイライト・マジシャン・ガール -07-

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 甚太郎くんの声に、部屋の隅で小さくなっていた幼い女の子達がこちらを向いた。
「あの、奥様……みんなにお菓子をあげても?」
「ええ、ええ、はい」
 飛行機はあんパンに変化。
「オレ大好き」
「じゃぁどうぞ」
 彼がその場で座り込んでパクついている間に、姫子は靴がワチャッと並んだコンクリ三和土の脇にしゃがんで女の子達に手招き。
 左右の手を交互に閉じて開いてお菓子をポロポロ出す。個包装のあめ玉、マシュマロ、一口チョコ。
 花咲く笑顔。
「好きなのどうぞ」
「いいの!?」
「うん」
 呆然と見ている奥さんと、ニコニコ見守る母。
「物凄く申し遅れました。叔母から連絡いたしました相原姫子です」
「あ、ああ、どうぞどうぞ」
 靴を脱ぎ、白っぽいリノリウムの敷き詰められた室内に上がらせてもらい、座り込んでいる甚太郎くんの背中を台車でも動かすように両手で押すと、床の上をすーっと滑って行く。指パッチンで途中でくるりと一回転。
「ぎゃははおもしれぇ」
 ごめん実はそこ座っとられると邪魔なのだよ。
「お手伝いさせていただければと……もう手ぇ出しちゃいましたが」
「日本に来られたハトコの方とか……」
 そう説明されたですね。
「ええ。帰化前は孤児院とか手伝ってましたので。幾らか力になれるかと」
 唐突に取り出すシルクハット。女の子達は興味津々。
 手を入れて取り出すぬいぐるみ。世界的に有名になったゲームのモンスター。
「あ!あたしその子好き」
 あげると。
「え?好きなの出せるの?」
「いい子だったら」
 言ったら、女の子達は唐突に正座。
 以下、はいこれ、それあたし、を繰り返し。モンスターが4匹。まるでそれぞれ犬の散歩中に出くわした奥様同士のような会話が始まる。それは教科書にあった井戸端会議の現代版とでも書くか。あら可愛い子をお連れで……。
 じっと見ている甚太郎くん。欲しいなら言えや。まだるっこしいのでテレパシーに聞く。なに、一番強い奴?でもって男の子だしぬいぐるみよりは精密なフィギュアだろ。
 今にも火を吹きそうな翼の生えたドラゴン。取り出したら口の中のあんパン吹き散らしながら「おおー!」……まぁ、親も手を焼くやんちゃとみていいだろう。
「じんくん汚い!」
「いい子じゃないともらえないよ!」
「片付けなよそれ」
 彼は慌てた風に飛び散ったパン屑を拾っては食べして〝片付け〟た。
 くれ、とばかり姫子の元に走って来、手を伸ばす。

(つづく)

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