【理絵子の夜話】空き教室の理由 -051-
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その目線に、理絵子はオーバー気味なため息を返した。確かに朝倉は、自身の発作を心配した挙げ句“空き教室”に行き着き、死に至った例があると話した。その点では“空き教室に行くと死ぬ”というだけより、真実に近い伝承。
だがしかし、朝倉が殺したわけではないので、彼の発言は失礼。
「今夜枕元に出てもいい?」
理絵子は表情を変えず、両手を“うらめしや”の形にして彼に言った。
「まじで?まじで?来る?黒野が俺んとこ来る?」
目尻が下がっておふざけモード。教室の氷は一気に溶けた。何も担任の過去を周知させたり、笑いものにする必要はない。
授業が終わって下校する。一旦帰宅し、カーディガンを羽織り、Gパンポケットに携帯を押し込み、再度外出。セーラーをクリーニングに出して向かった先は、土日に断念した二宮あゆみの旧居。
普通なら夜まで待つところだが、担任が“発作”を起こした以上、急いだ方がいいと強く感じる。事の始まり……心霊写真……からの経過をさらうと、担任に対し現出する事象は、明らかに悪い方へと転がっている。
バスと徒歩で跡地に向かう。ちなみに、不意にイメージが飛び込んできた場合に危険なので、こういう時に自転車は使わない。
駐車場にたどり着く。整地され、跡形もないこの場所に、超感覚で拾えるようなものは何もない。そこまでは判っている。
通学路に沿って、中学校へ向けて歩く。帰宅時間中であり、生徒達の存在によって、通学路を比較的正確に辿ることが出来る。
川沿いの松並木。週末はここを少し歩いただけ。
もう少し進んでみる。思春期の男女の通り道であり、いろんな思いが風景と一体化し、十重二十重に織り込まれている。夢や希望、挫折、破れた恋。木陰で誰もいないことを重々確認して、初めての口づけ……。
かと思うと、男の子がずらり並んで川へ向かって“自然トイレ”。男子中学生は時代を問わずバカである。
そこで理絵子は突如現実に引き戻される。すれ違った帰宅途中の生徒が、自分に対して何か言っているのを鼓膜が捉えたのである。
(つづく)
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