理絵子のスケッチ

【理絵子の夜話】禁足の地 -04-

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“応じた示唆”来たのだ。よそのクラスである登与を巻き込んでしまった。
〈そんなことない。そういう思し召しでしょ。協力するよ〉
〈ありがとう〉
 仕方ない。
 さて気がつくとしょんぼりがっかりした目の下クマ男が目の前におる。
「イヤだという女の子に強要するのは感心出来ません。ついでに言っておくとスピリチュアルで本当にやばい奴は本人も気づかないうちに異常な人になり果てます。肝試し程度で何日も徹夜する行為は異常だと私は思いますが?」
「ごめん」
 しょんぼりとうなだれた、小さな声を聞きながら、理絵子は彼に背を向け、教室を出た。
 そこには登与が黒髪なびかせて自分を見ている。彼女の髪の毛は風もないのになびいたり漂ったりするのだが、それはオーラライトの圧力だと思うが、たたずまいが自然すぎるせいか、不自然さに気づく級友は他にいない。
 理絵子は上を指さした。屋上へ行こうという意味。その地は校舎から川に沿って西南西へ2キロ少々。見て見えない距離ではない。
 校内一、二を争う“美少女”が連れだって歩いておるので目立つことこの上ないが、それでも二人は能力の故に一瞬途切れた視線をくぐって3階へ、そして普段は出入り出来ない屋上へ向かう薄暗い階段へ。
 立ち入り禁止の札が下がるプラスチックの鎖をくぐる。舞い立つ埃、おびただしい翅虫の死骸。
「鍵が……」
 掛かっているんじゃないのか。登与の当然の疑問。
「開くから」
 その通り当然、普段は施錠されて出入り不可。が、理絵子はノブを握って、回した。
 ガリガリと金属同士が削れる音を伴ったが、それ以外ドアは無防備なまでに開いた。
「PK?」
「じゃないんだけど、必要なときに開くようになってる。開いたので必要と言うこと」
 PK。念動力を意味するサイコ・キネシス(psychokinesis)の略称。登与は大いに驚いているが、理絵子は超感覚系だけを有している。ただ、必要な場合、施錠されている鍵は開く。
「そういう守護者が付いて下さっているものと」
「ああ」
 納得の意を受け取る。回したドアノブを、少女の非力で腰を落として踏ん張り押すと、ギイ、と錆びた金属音を発し、ドアが開いた。
 わずかに吹く5月の風。
 真昼の陽光とヒバリの鳴き声。
「気持ちいい」
「こりゃ立ち入り禁止にされるわ。サボりたくなるもん」

(つづく)

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【理絵子の夜話】禁足の地 -03-

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 とは言え。
“そっとしておいて”という先人の思いを踏みにじる“肝試し”が横行している昨今である。東京多摩地区から甲州街道に沿っての周辺は、戦国時代を中心に多くの人死にを伴う悲惨な出来事が発生し、応じて鎮魂の場所・モニュメントが点在する。そこへのイタズラ動画をネットで目にする。感覚の故に我がことのように辛いのであるが、出しゃばる権限はないので我慢している。
 それとも手を出した方がいいのか……いや、やり始めたらキリが無い。
 そして、本当に自分が必要なら、応じた示唆がある。思い上がりのようだがそうと納得出来る。この力、そういうためのものだろう。
 翌日の昼休み。
 彼らは“新たな動画”を見せに来た。
「だから興味ないって」
「ちげーよ発見だよ発見。日本にもストーンヘンジってあったんじゃね?」
 ギャーギャーうるさい動画の向こうで、か細いライトが石を映している。
「順番に石を映しただけじゃ判らないよ。それに信濃大町(しなのおおまち)の上原(わっぱら)遺跡とか岩を円形に並べた遺跡は幾らもあるよ」
 あしらった。
 つもりだったが、以降彼らは毎朝動画を撮ってきたと言っては見せに来るようになった。
 徐々に深夜に、徐々に敷地の奥へと撮影時間と場所が変わって行く。
「黒野~」
 いい加減にせんか、と怒鳴ろうとしたが、目の下にクマを作り、瞳が宙を彷徨っているのは明らかに異常である。
 その目を真っ直ぐ見てやろうとするが、相手の視線が定まらない。
 憑依か。否。
 ちょっとした技。
「いてえっ!」
 手指から足へ抜ける電撃のような痛みと、応じた“バチン”という音が頭の中に響いたはずである。
 これで瞳の揺らぎは戻った。
“目が覚めた”。
「あら静電気ごめんなさい。ただね、キミは何の目的か知らんが動画を撮りに行くことそのものが目的になって寝不足で健康を害していると思うのだよ。それに毎朝ただ真っ暗なだけの動画を見せつけられるのも迷惑だ」
〈どうしたの?〉
 登与がテレパシーで訊いてくる。“何らかエスパー噛ました”ことを検知したのである。
〈中毒か依存症みたいになってる。何か現地で影響受けているかも〉
〈それって私たちが行った方がいいってことじゃ……〉
 やれやれ。
 示唆がある。この“テレパス・ショック”は二度目は効かない。
 示唆。ああ、示唆。

(つづく)

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【理絵子の夜話】禁足の地 -02-

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「ぎゃははシカトされた」
「やべー黒野冷てえのたまんねぇ」
 下品な笑い声複数。
 再度本を開こうとすると、すっと傍らに歩いてくる女子あり。
 その知る4名のウチの一人、名を高千穂登与(たかちほとよ)という。隣のクラス。全校公認の霊能者。わけあって超能力でケンカしたが今は仲良し。醸す雰囲気と美貌の故に天使と呼ばれる。
“禁足の地”に関わる話で来てくれたに相違なかった。
「うっわ登与ちゃんだ」
「何?俺らのクラス天国?」
 文字通り下馬評。流れる黒髪と、深く澄んだ瞳と、纏う静謐。
「いいの?」
「ウワサだけって設定だし」
 この声と同時に。
〈男の子達止めなくていいの?放置しておくと悪化して結局出て行かなくちゃならないことになる気が〉
〈そもそもダメとされてるところに入るなって私がわざわざ注意することじゃないし〉
 やりとりされる“心と心の直接の会話”。要はテレパシーで会話とは別に意思疎通をしている。
 登与の思いは、明らかに禁足地へのイタズラ目的を。超常の力持つ自分たちが対処しないのは問題ではないのか。対し、理絵子の判断は、“侵入禁止”が形而上からの警告であるなら、書いてある通りにすれば良いだけの話という単純なもの。
 “ガチでやばい”禁足地なら、応じた怖いことになるのでは、と登与は懸念している。ヤバさを自分たちが感じ取れない、イコール意図的に隠されているレベルのヤバ差かも知れない。それは判る。だが、だとするならば、自分たちの超感覚センサにそういう示唆すら無いというのはあり得ないと思うのだ。
 最も、常時力が作用しているわけではなく、何らかの“スイッチ”なのかも知れないが。
 その時が来れば判る、という奴だ。
〈放置?〉
〈いけないことなら、御沙汰があるでしょ〉
 応じたら、登与は納得したように背を向けて去った。
 ここまで数秒。会話に重ねてなされたとは誰も気付かない。
「あれ?登与ちゃん行っちゃうの?」
「ここ天国じゃないから」
 登与を追う下卑た視線を理絵子は遮った。
 自分に男子生徒達の目が向く、その間に登与の背中は廊下の向こうに消える。
 そして自分も席を立つ。
「邪魔」

(つづく)

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【理絵子の夜話】禁足の地 -01-

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 理絵子(りえこ)の住む街には立ち入りを制限した“禁足地”が存在する。
 武蔵野の面影を残す広葉樹の丘陵地、および、その周辺をぐるりと囲む草ぼうぼうの湿地帯で、応じて手つかずのままである。甲州街道から脇道へ脇道へ入って行き、最後はけもの道かと思うような細い砂利道の終点にそれは存在する。鳥居がなければ境目が判然としない。
「おい黒野(くろの)」
 ニヤニヤした男子生徒が理絵子を呼んだ。軽薄な男であり、ネット上で“チャラい系”“パリピー”とカテゴライズされる系統。彼女ら中学の制服はセーラー学ランだが、彼らは上着のボタンを全て外し、ワイシャツをスラックスの外に出している。シャツインはダサいから、だそうな。
 やれやれと彼女は読んでいた本を伏せ、席に座ったまま身体の向きを変える。長い髪がさらりと流れて陰りを作り、その奥で黒曜石を蔵した瞳が光を放つ。
 ろくでもねーことだ、と彼女はまず判じた。
「お前文芸部オカルト担当だって?」
「まぁ」
 必要最小限以上のことは言わない。清楚で真面目な学級委員で通っているので、砕けたところを見せる気はない。
「罵倒してくれ」
 男子生徒はそう言って携帯の動画を彼女に見せた。暗闇で男が喋りながら枯れ草をガサガサ踏む音。
「お前ならこれどこか判るよな」
 かの禁足地である。
「宮内庁の土地じゃんよ。不法侵入じゃないの?」
 ありきたりなことを言って軽蔑のまなざしという奴をくれてやる。禁足地よりその“けもの道”を奥へ進むと慎ましい古墳(前方後円墳)があり、応じて宮内庁管轄と言われている次第。ただ、実際は知らない。一方でネットの空撮は拡大不可能なレベルしか無く、戦中戦後に米軍が写した航空写真は一面が霧の中。この辺も“肝試し向き”の因子を与える。
「何か映ってるか?何か感じるか?」
 肝試しで入り込んだに相違なかった。類似の動画はネットで多数目にする。いたずらでも好奇心でもどうでもいいが、経緯と理由に対する敬意を感じない。“そっとしておいて欲しい”という共通の意図が判らぬか。
「別に」
 理絵子はそれだけ言うと身体の向きを戻した。霊能者とウワサされていることは知っている。相手にするだけ馬鹿馬鹿しいという身体アクション回答。
 ただし、本当にそうだと知る者はこの学校に4名だけいる。

(つづく)

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【理絵子の夜話】サイキックアクション -19・終-

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「あー、ザビエルだっけ、ルイス・フロイスだっけ。答えにくい質問をされて困ったとか」
「そう。そもそも平和の概念が違うから、価値観が違うから、お互いになぜその質問が出来るのか、なぜそれが“理想”なのか、根本的にかみ合わない。食べ物一つとっても、神様の思し召し、じゃなくて、自力で捕ってくる物だし、命を等価に扱うしね。“いただきます”は命への贖罪と生産者への感謝だけど、天にまします我らの父よ、は、父そのものへの感謝だしね」
 彼女らは相互に、納得した。
 および、これで決着が付いたわけではなく、人間自体の属性であるなら、今後も攻撃がたびたび来るであろうことも。
 そのために自分たちが集められたのであろうことも。
「自分の子を孕ませて、産んだら殺すって」
「野生では、よくあること。言うこと聞かないと殺すってのも、然り」
 立ち位置と今後を納得する。そして、対処できるであろうことも予感はある。
 問題は。
「手近に他に霊能者っていなかったっけ」
 学校にはいない。が。
 日本全体を考えたならば。
〈そういう情報は、我々が仕入れます〉
 大蜘蛛が応じ、同時に聞こえ来るあちこちからの遠吠え。
「犬は霊が見えるとか」
 古来人間のペットであること、犬神とオオカミと大神。
 全部つながった。
「待ちましょう。向こうから来る」
 理絵子は言った。
 それは、日常に割り込むように、忍び込む形で、挑んでくる。
 その後、警察や消防が“校舎爆発”の地に到着したとき、彼女たちの姿は無かった。
 未使用校舎に天然ガスが充満、それが鑑識の結果であった。

サイキックアクション/終

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【理絵子の夜話】サイキックアクション -18-

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騙されるか、彼は一瞬そう思ったようである。が、神性を備えた異国の娘に抱きしめられて彼は一介の“男”に戻った。
 “憑きもの”が剥がれる。
〈主(あるじ)よ、ここは我が……〉
 声と共に、理絵子の身の中から現れて貫く漆黒の長剣一閃。
 魔剣クリュサオールであった。黒い人型のようなものが中空で串刺しにされている。
〈美砂殿。我が力援用されよ。汝にしか能わぬ〉
 それは、美砂だけが、条件が整った時のみ、可能な力の発露を示した。
 瞬間移動テレポーテーション。但し彼女のそれは所要の目的地に送るものではない。
 時空を越えたいずこかへ投擲する。
 さらば……クリュサオールの感情と共に、パン!という、風船が割れたような破裂音がした。
 腕の中が脱力する。等身大の人形のように、にわかに筋骨が力を失い、グニャグニャになり、どころか皮膚が裂けどろどろとした内容物があふれ出し液化して広がり。
 骨と、“人体の70%は水分”を彷彿させる汚穢な染みの広がった姿に変わった。
 獅子王と、魔剣の意識が追跡できない。
「ゾンビだね」
 美砂が一言。理絵子は思わず我と我が身を見回した。それの残滓が付着してはいないだろうか……気にするなと言う方がムリ。
「整理していいでしょうか」
 登与が言った。

・地球在来種の魔族でもなく、外来のそれでもなく、人類が発達してくる中で獲得した魔性
・宗教や正義の名の下に精神肉体両面から攻撃をしてくる。ターゲットは“日本”

「国家国民?」
「恐らく。人類が獲得した魔性にとって、“和をもって貴しと成す”日本の在り方は気に入らない。征服者というスタンスが得られなくなるし、付随する人間としてのあらゆる快楽を欲しいままにする権力も存在しない」

次回・最終回

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【理絵子の夜話】サイキックアクション -17-

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「違う。こいつは……」
 その生涯を殆ど戦乱の中で過ごし、追って獅子王と呼ばれた男であった。
 むろん英雄である、いわゆる“十字軍”を派遣した側では。
 そこで登与がロザリオを示してみせる。我々は敵対する者ではない。しかし、
〈偽なり異邦人〉
 その反応は彼女らの外見“人種”に起因する情動とすぐに判った。
 アングロサクソンキリスト教徒にあらざれば人にあらず。
 キリスト教原理主義と結びついた人種差別。
「霊をしてなお肌の色を価値と見る哀れで笑止なる者よ、去ね(いね)」
 登与はロザリオを突きつけるようにし、言った。
 対する返事はウォー・クライ。すなわち戦士が挑みかかるときに放つ咆哮。
 獅子王と称された男の手に剣が“沸いた”。
 何か途方も無い力がその剣には宿っている。それは誤謬を誤魔化すための信念を十重二十重にまとった、

 いわば、呪詛の集合体。

 剣が登与へ向け振り下ろされる。だが、彼女は微動だにしなかった。
 ガラスが割れるに似た、あるいは鍛冶の槌が振り下ろされるに似た、鋭い金属音。擬音でガチンとでも書くか。
「邪なる者破れたり」
 それは元々、オカルト雑誌の裏表紙に載っていた“魔力を備えたロザリオ”を買った物と彼女に聞いた。
 それこそ邪な存在であるはずだが、今ここに、3800円のクロームメッキの十字は淡い金色に輝き、邪悪な霊剣を受け止めているのであった。
 果たして驚愕か、獅子王は動作を止めた。
 理絵子に示唆が下る。その刹那に自分のなすべきことは一つ。
 素手で剣をなぎ払う。横から叩けば傷も付かない。勇者の大剣は吹っ飛ばされてガシャンガシャンと二転三転。
 油断というか、意表を突かれたのであろう。小柄な東洋の娘に必殺技を無効化され、縋る術なし。
 次は何をされるのか……そんな目で怯えるような獅子王を、
 理絵子は抱きしめる。
 意図して意表を突くために。
「敵対と戦闘に生きた貴殿を慰謝する者が無いなどあってはならぬこと」
 自分を超能力者と知らぬでも、巫女属性の持ち主だと言うクラスメートは多い。
 その属性こそは、今ここで発揮されるべき。
「愛し愛されることすら政略とされた貴殿の生涯に永久の安らぎを」

(つづく)

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【理絵子の夜話】サイキックアクション -16-

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 念動を駆使したと知る。“煙”が全て凍り付く。
 次いで雨となって降り注ぐ。
「どうやら、あらゆる物事に挑戦が仕込まれるようだね」
 美砂は言った。意識と目線を感じる。闇の中から自分たちを見ている。
 味方もある。
〈そばにいますぜ〉
 とは件の巨大クモである。
「来る」
 気づいた瞬間後ろに刀抱えた男がいる。以下、実際には刹那の認識であるが、そこで判ったことを細かく書くとこう。まず、男は戦国時代に近隣の山城で戦死した武士の地縛であり、敵方血縁者に取り憑かずにおけない。
 その戦は凄絶な殲滅戦で、城に残ったのは女子供ばかりであったが、皆殺しにされたという。
 応じた仕返しを女子供に。
 以上判った瞬間には“女子供”である彼女らに対し、侍の刀が振り下ろされるところであった。
 対する理絵子の反応は。
 真剣白刃取り。
 侍が驚愕で凝固した刹那、美砂が後を受け継ぐ。刀は見えざる力でぐにゃりとなり、反動で侍がよろけ、理絵子が手を離した瞬間に赤熱して溶解する。
 遠方より“槍”が飛来。
 否、フッと中空で姿を消す。次に現れるまでやはり一瞬であったが、その間にこれから起こる出来事を彼女らは察知した。
 登与がロザリオ片手に口走る魔法のフレーズ。
 そして日に向かってかざした手のひらに槍の先端が弾かれて甲高い音を立てる。こちらは弥生時代の縄張り争いであるらしい。
 そんな者が今後も次々沸くのか?
 否、一時的に“そういうもの”を遮蔽しておくシールドが外れただけ。
 なら、直せば良い。ただ、自分たちが維持する次元の存在ではない。
「キリが無い」
 理絵子は印契を切った。のうまくさまんだばさらだんかん。後は超常の皆様に委ねます。
 爆風の如き物が彼女らを中心に生じて吹き広がる。結界が生成され、封印が成された。
「終わった?おうち帰れる?」
 これは美砂の弁。勿論、そうは簡単に問屋は卸さないというニュアンスを含む。
〈何か来ますぜ〉
 クモが言い、巨体を具象化させ、彼女らの傍らに参じた。
「……アレクサンダー」
「まさか」
 それが正なら、アルヴィトが破れたことを示唆するが。

(つづく)

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【理絵子の夜話】サイキックアクション -15-

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「理絵子!」
 アルヴィトが剣を抜き呼ぶ。
「はい!」
「私はこの者に永遠の戦いを挑む。その間に時空の継承を閉じよ。されど我が髪は我が分身としてそなたらに力を与える」
 それは3つの指示と結論を示していた。すなわち相容れぬ価値観は距離を取るより無いのであり、
 アルヴィトはアレクサンダーを異世界へ連れて行こうとしているのであり。
 再びこの戦女と会うことは無い。
「はい!」
 理絵子は応えた。その3つが示すもの“自立せよ”。
「小気味よい。汝らには太陽と月と大地が味方する。以後この“大王”に感化された者が挑んでくるかも知れぬが排除できる。否、排除せよ。征服せんと欲する者を万物を持って排除せよ!」
「お元気で!」
 理絵子はそう応じた。肉の身持たぬ存在に“元気”もへったくれも無いのだが。
「お前もな」
 戦女は大剣構えて強気に笑んで見せ、その剣でアレクサンダーに襲いかかった。
 永遠に戦いを挑み続ければ、アレクサンダーが人間世界、この世に出てくるヒマは無い。
 結果として人間世界に超常の戦いは現出しない。

 示唆一つ。実は聖書に言うハルマゲドンは、遠い過去から永遠の未来まで続くそうした戦いなのではないか。「そのとき、天で戦いが起こった」とは黙示録の一節である。それは永遠の過去の一点であり、天使たちは今もずっと戦っている。

 だから、巨大な超能力で地球生命が脅かされる可能性は低い。
 ただ、そういう“思念”自体は渦巻いていて、人がネガティブな意識を持つと、容易に共振し、通じて“悪意持つ超能力者”は発現しうる。

 自分たちに超能力が備わっているように。それは言わずもがな、自分たちも“戦い続ける”責務を負う。

 錫杖を振るい印契を描き、真言を口にして封印をなす。
「……ドシャコ」
“学校”はにわかに全面がガラスのそれと化し、次いで耳をつんざく音を立てて崩壊を始めた。ガラスの割れるあの音が空間引き裂いて広がり、応じてキラキラとしたガラスの破砕片が煙のように舞い上がる。
 それはそれで危険なのではないか。
 美砂が手のひらを広げた。

(つづく)

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【理絵子の夜話】サイキックアクション -14-

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 魔、である。但し、悪魔のような伝承の存在ではない。
 人間に由来する。人類ホモサピエンスが10万とも20万年とも言われる地球での生存で自ら獲得した“根源情動の人格化”。
 理絵子は、権限を背負って、指さし、命じた。
「名乗れ、征服王」
「我が名はイスカンダール」
 声とともに地震が起きようとする。が、天地の力がそれを制する。
 娘たちは情報を共有する。その者は人間の時の名を“アレキサンダー”と言った。世界史に著名な大王アレキサンダーである。言語間の伝承変化で文字が入れ替わりAliskandarと書かれ、更にアラブ表記の文法からiskandarとなった。現代に使われる人名・都市名であり、著名な映画等でも町の名、星の名として使われる。
 英雄。
「だけど、裏返せば破壊と殺戮の体現者」
 理絵子の知識を美砂がひっくり返した。
 史実は肯定的な書き方であり、彼の名の付いたゲームキャラクタでも戦闘能力は高い。だが、現代に通じる覇権主義の原点という見方も出来る。
 欧米の価値観の原点。それは中南米文化からの黄金の簒奪であり、奴隷商売であり、アヘン戦争、そして今も人種差別に色濃く残る。
 アレクサンダーではなくアラブの伝承名イスカンダールを名乗った理由。
「従うか、死か」
「問うに能わず。去ね(いね)、アレクサンダー」
 理絵子のゼロ回答にアレクサンダーは大地引き裂けと念じたようである。従わぬなら“生きるための場所”を破壊しようとしたようだ。しかしこちらの側には文字通りの“後光”が輝く。
 大地へ掛かる力を大地が拒否する。
 すると……アレクサンダーは、天文学的事象を惹起させようとしたようである。
 だが、天を司る存在がそれを抑える。
 所詮出自は“人”に過ぎぬ。
 そこへ。
 蹄の音高らかに天馬が現れ、長剣携えた金髪が翻る。
 戦女アルヴィト。
「待たせた」
 彼女らに微笑んで見せたその手には。
 椰子の実サイズのスズメバチの巣。
 人としてのアレクサンダーは蜂に刺された後に昏倒して世を去っている。
 果たしてアルヴィトは蜂の巣を放り上げ、二つに切り分ける。
 蜂が雲のように広がってアレクサンダーに襲いかかる。
 それは彼の“トラウマ”形象化と彼女らは気づいた。
 アレクサンダーの意識ベクトルが自分たちの指向を離れる。

(つづく)

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